中小企業診断士講座の講師ブログ

中小企業診断士 H25年 財務・会計 第7問(生産量と売上原価)

みなさんこんにちは。
フォーサイト中小企業診断士講座、講師の小嶋です。

H25年 財務・会計 第7問に、以下のような問題があります。

損益計算書上の利益が増加することに関する説明として、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。

(この問題は実質的に、以下の2肢のうちいずれが正しいかを選ぶ問題となっています。)
b 生産量が減少し、その他の条件に変化がないとすれば、利益が増加する。
c 生産量が増加し、その他の条件に変化がないとすれば、利益が増加する。

結論として、正しいのは「c」です。
ここでcが正解となる理由についてですが、「生産量の増加は売上の増加につながるため」ではありません。cの文章の中には「その他の条件に変化がないとすれば」とあります。
つまり生産量が増加しても、売上は変わらないこととなり、むしろ生産にともないたくさんの経費がかかるために、cが間違いであり、bの方が正解に見えなくもありません。

cが正解になるのは、以下の会計上のルールが関わっています。
① 生産量が増加するほど、製品一つあたりに分配される固定費が小さくなり、製品一つあたりの原価が下がる。
② 生産して販売されなかった分は、棚卸資産として次期に繰り越され、その生産にかかった費用は次期以降のものとなる(販売時、廃棄時等に計上されます)。

例えば固定費1億円として製品を100個作り、100個全て販売する場合、製品1つあたりに100万円の固定費がかかったこととなり、100万円×100個=1億円が、全て当期の原価に算入されます。
一方で固定費1億円として製品を1,000個作り、100個だけ販売する場合、製品一つあたりの固定費は作った1,000個の製品に1億円が均等に配分され、10万円となります。この時に当期の費用に計上されるのは、当期に販売した製品の原価分だけになるために、10万円×100個=1,000万円が当期の原価に算入されます。生産数量以外の条件が変わっていないとするならば、後者の例では販売にともなって発生する固定費部分の費用が10分の1となり、利益が大幅に増加することとなります。

通常の感覚では、1,000個作って100個しか売れない後者の例よりも、100個作って100個販売する前者の例の方が健全な状況です。
ただし、この問題を会計上のルールにそのまま当てはめて考えた場合、bではなくcが正解になります。

では、今回売れなかった900個について、いつまで経っても売れずに廃棄する、となった場合、販売時に計上されるはずだった固定費の9,000万円分は特別損失という形で、売上を伴わない費用として計上されてしまうこととなるために、将来に大きなリスクを残すこととなります。

余談ですが、短期安全性分析に「流動比率」と「当座比率」があります。どちらも流動資産と流動負債の比率を考えて、短期に支払いの発生する流動負債を、支払能力である流動資産がカバーしているかどうかを考えるものですが、この2つの違いは、「流動資産に棚卸資産を含めるかどうか」です。棚卸資産は当たり前に発生するものですが、過大になっている棚卸資産は、「現金化できない」という大きなリスクを含んでいる可能性があります。
そして流動比率は、棚卸資産を現金と同一に考えることになり、そのリスクを一切考慮しないことになります。ここで棚卸資産を流動資産から控除して、流動負債と比較する「当座比率」が大きな意味を持つことになります。
貸借対照表を見るときの一つの着眼点として、「棚卸資産が肥大化していないかどうか」という視点は、リスクを考える上で重要です。