中小企業診断士講座の講師ブログ

中小企業診断士 R1 経済学・経済政策 第5問設問1(乗数効果) その1

みなさんこんにちは。
フォーサイト中小企業診断士講座、講師の小嶋です。

R1 経済学・経済政策 第5問設問1に、以下のような問題があります。

下図は、開放経済における生産物市場の均衡を表す45度線図である。直線D は総需要線であり、総需要D は以下によって表される。

D=C+I+G+X-M
C=C₀+c(Y-T)
M=mY

(D:総需要、C:消費、C₀:基礎消費、c:限界消費性向(0<c < 1)、Y:所得、T:租税、I:投資、、G :政府支出、X :輸出、M :輸入、m :限界輸入性向(c >m ))
(一部略)

(中略)

乗数効果を小さくするものとして、最も適切なものの組み合わせを下記の解答群から選べ。
a 限界消費性向の上昇
b 限界消費性向の低下
c 限界輸入性向の上昇
d 限界輸入性向の低下

(問題ここまで)

まず前提として、ここでいう乗数効果とは、「政府支出や投資の1単位の変動に対して、GDPがその何倍も変動する効果」を指します。
乗数効果が発生する理由は、例えば「投資が1増加することにより、新しい消費が発生し、新しい消費の発生が新しい所得につながり、さらに新しい投資が・・・という循環が発生する」ため、当初の投資が1だったとしても、その経済全体に波及する効果は1よりも大きくなるためです。

基本として覚えておくべき公式としては、限界消費性向(国民所得の増加分の何割が消費に向かうかを示す値、0<c<1)をcとする場合、
投資乗数=1/(1-c)
政府支出乗数=1/(1-c)
租税乗数=c/(1-c)
となります。
ここから以下の二点が導かれます。

① 限界消費性向が大きくなると乗数効果が大きくなる

限界消費性向が大きくなると、乗数の分母が小さくなり、結果として乗数の値が大きくなります。(c=0.5ならば投資乗数は2、c=0.8ならば投資乗数は5になります)これは投資等の増加に伴って発生する消費の規模が大きくなるため、同じ1単位の投資であっても、それが経済全体を活性化する効果が強まるためです。

② 租税乗数は投資乗数や、政府支出乗数よりも小さくなる

投資乗数や政府支出乗数と租税乗数では分母は同じですが、分子に違いがあります。cは1よりも小さな値であるため、租税乗数は必ず政府支出乗数よりも小さくなります。このことは均衡予算に基づいた政府支出は(増税によって賄った収入で政府支出を行う)国民所得の増加につながることを示しています。
ここまでの内容は必ず理解し,覚えておく必要のあるものであり、この時点でaが誤りであり、bが正解であることが判断できます。(ここまでが第1ステップです。診断士経済学の乗数理論に関しては、ここまでで7割は解けます)

cとdの正誤判断については少しハードルが上がります。ただし、限界輸入性向を知らずとも問題文から判断することが可能です。問題文に輸入:M=mYとあり、限界輸入性向mは、「国民所得の増加分のうち、輸入に向けられる割合」と判断することができます。

ここで前述の乗数効果が発生する背景として、例えば投資は「国内消費の増加」につながり、それが「国内事業者所得の増加」につながることで、さらに「国内消費の増加」につながり・・・となる、ということでした。
限界輸入性向が増加した場合、国民所得の増加に伴い発生する国内需要が、輸入に奪われる割合が大きくなり、「国内事業者所得の増加」が小さくなります。つまり、「所得の増加分のうち輸入に回る割合」を示す限界輸入性向が増加することは、国内消費の増加幅を小さくすることで、乗数効果を小さくすると判断できます。

以上を踏まえて、乗数効果を小さくするのはb、cと分かります。
(ここまでが第2ステップであり、理解できれば応用の幅が広がります。)

次回で第3ステップに触れていきます。