簿記講座の講師ブログ

米中貿易戦争の今

皆さん、こんにちは!
簿記講座担当の小野です。
はやく暖かくならないかなぁ。
 
昨年の春、突如始まった、アメリカと中国の貿易戦争。
最初は、トランプさんの暴走を止めて自由貿易を守らないと世界経済が崩壊する!
と心配されましたが、貿易戦争が始まっておよそ1年経った今、
どんな状況になっているのでしょう?

現状を見ると、 アメリカ・中国双方に、
そしてアメリカ・中国と貿易をしている世界各国に悪い影響が出始めているようです。
中でも、中国への悪影響は相当きつそうで、
中国政府は様々な対策を打ちまくっている状況みたいですし、
中国と貿易をしている企業も様々な対策をしなければならない状況のようです。
 
中国では、2018年の夏~秋以降、IT機器、工作機械、自動車など主要な輸出品の生産が
10%ずつ減っている状況で、特にハイテク機器を
アメリカへ輸出できない(関税がかかる)ことが直撃しています。
そこで起きるのが中国国内の工場の稼働停止。
例えば、IT機器製造のホンハイ(シャープを買収したあの会社)の中国の工場では
5万人規模のリストラがすでに行われていたりします。
リストラが起きると、お給料をもらえなくなる人・減らされる人が出てきて、
個人消費が減ってしましますね。
その結果、中国の小売業の売上高は、4月ごろは7%くらいの伸びだったが、
11月の伸びはゼロとなってしまいました。
そのため、中国企業と取引する世界の企業に悪影響が出始めています。
日本企業も例外ではなく、例えば日本電産は
売り上げが年初の予想よりも1,500億円減りそうとの試算を表明しました。

もちろん、中国政府も手をこまねいているわけではなく、
40兆円の景気対策を実施するなど、様々な対策を実施しています。
世界の株価が1/3になり、世界中で景気が一気に悪くなった
リーマンショックの時の景気対策が60兆円くらいだったことを考えると、
40兆円の経済対策というのはかなり大規模です。
しかも、実施することが確定した分だけで40兆円であり、
今後の状況をみて上積みもあり得ますから、かなり大規模な対策ですね。

一方、アメリカも一時的に悪影響を受けています。
例えば、中国でのアップル製品の売れ行きが激減し、
IT機器関連企業(マイクロンやTIなど)の業績も悪化するなどです。
ただ、関税掛け合い合戦と同時に行われている知財保護戦略を併せて考えてみると、
アメリカへの悪影響は一時的かつ軽微なのかもしれません。
知財保護戦略とは、「中国製造2025」
(中国のハイテク産業を発展させるための中国政府の取組)を機能させないよう、
例えば、外国企業が中国で製造するときの技術移転をやめさせろ、
知的財産を盗んだら制裁を科す、安全保障のため中国のIT機器はアメリカに入れない、
といった圧力をかける戦略です。
現在、アメリカ企業が持っている資産の25%は知的財産などの権利で、
工場・設備などを超えました。
アメリカ経済は、権利を使って独占的に稼ぐ・権利使用料をもらって稼ぐ
という経済に変化しつつあるんです。
貿易戦争+知財保護戦略によって、次のような動きになります。
古い産業(鉄鋼などの製造業)を関税でがっちり保護し、
自国内で需要と供給がマッチングし、
自国内で産業を完結させることができるようになり、
それによって雇用も安定するし、トランプ大統領の主な支持層もつなぎとめられます。
一方、新しい産業は、利益を生み出す権利を保護する仕組みを作ったうえで、
外に出して稼がせます。次世代の産業では、世界の覇権を維持するわけです。

このように、国内・国外で戦略を使い分け、
アメリカの利益が最大になる戦略を
可能にするためのツールが貿易戦争なのかもしれません。
経営者としてはさすがと言わざるを得ないトランプ大統領なのかもしれません。
ただし、相手はプライド高き中国。
追い詰めすぎると大変なことになりかねません。
今の対中政策の責任者は、
1980年代に日本をコテンパンに追い詰めたライトハイザー氏です。
1980年代、(防衛の問題などもあり)日本はアメリカのいうことを受け入れましたが、
中国はアメリカのいうことを素直に聞き入れることはないでしょう。
追い詰めすぎて、中国の逃げ道をなくしてしまうと、
中国がどんな反撃に出るかちょっと怖いですね。

2国の動きをしっかり観察していかなければなりません。