簿記講座の講師ブログ

サスティナビリティ報告基準の設定が本格化

 皆さん、こんにちは!
 簿記講座担当の小野です。
 まだまだ寒い日が続きます。皆さん体調管理には十分気をつけて!

 昨年11月にも少し話題にしたサスティナビリティ報告基準ですが、いよいよ本格的に設定作業が始まりそうです。

 現在、国際標準化機構(ISO)、世界経済フォーラム(WEF)、包摂的資本主義連合(CIC)、米国会計基準審議会(FASB)、英国財務報告評議会(FRC)などから、それぞれサスティナビリティに関する報告基準(ガイドライン)が公表されており、企業が任意で報告しています。
 一方で、気候変動や人権に関しては、企業の任意ではなく強制的な報告を求める時代になってきたため(国連のSDG’sなど)、サスティナビリティに関連する事項のうち、企業が必ず報告しなければならない項目を国際機関(ISSB)が決定しようとしています。

 ISSBは国際会計基準を設定しているIASBの下部組織であり、「利害関係者へ提供する情報」という視点でサスティナビリティ情報を公表しようとしています。つまり、投資家だけではなく、従業員や社会全体も、投資家と同じ利害関係者であり同格であるという前提で、報告の基準を決めようとしているのです。企業は投資家からお金を、従業員から労働力を、社会(自然)から土地・空気・水を得ながら活動をしています。ですから、投資家・従業員・社会すべてが同格の利害関係者であると考え始めているのです(これをステークホルダー資本主義と呼んだりもします)。

 ここで注目すべきは、「企業が投資家(株主)のものだから投資家へ情報を提供すべき」という考え方から、「企業は社会全体のものだから、社会前提へ情報を提供すべき」という考え方に変遷していることです。これからの企業は、投資家へより多くの富(利益)を配分するだけではなく、投資家と同格の従業員に対して、「企業が従業員(人的資本)へどのような貢献をしているか」ということを説明する必要が、また、投資家と同格の社会(自然環境)に対して、「企業が社会(自然資本)へどのように貢献をしているか」ということを説明する必要が出てくるわけです。

 ISSBは、その報告内容を6月までに決めようとしています。候補としては、「生物多様性」、「人的資本」、「人権」が挙げられているようです。どんな情報が報告されるようになるかによって、企業の事業のやり方が大きく変わるでしょう。人的資本への貢献が低い(要するにブラック企業)場合、人的資本への企業の取り組みに関する情報が拡充されると、事業で稼いだ利益を人的資本へ配分しなければならないようになり、その結果、投資家へ配分される利益が減ります(一時的に株価が下がるかもしれません)。
 そうすると投資家は事業のやり方について様々な意見を言い出すでしょう。今まで配分されていた利益を減らされるのですから、短期的には文句を言いたくなります。長期的には従業員に優しい会社の事業が伸びて利益も増えるかもしれませんが、そんなに長く株式を所有しない投資家は、今、稼いで配当を払え!と考えるかもしれませんから。

 そうやってあちこちの利害を調整しながら経営を進めていかなければならない時代になってきたわけですが、ISSBの要求は、従業員である私にとってみれば、望ましい要求ですね。企業に負担をかけ過ぎない程度に、圧力をかけて欲しいかな…。