行政書士講座の講師ブログ

平和条約による在外資産喪失

皆さん、こんにちは!
フォーサイト専任講師・行政書士の福澤繁樹です。

学習の進み具合は、いかがですか?
順調な方は、その調子をキープしていきましょう。
今ひとつ調子が上がらないという方は、ぜひ生活習慣を見直して、
勉強時間を確保しましょう。

今回は、判例紹介です。
これは第二次世界大戦の後に、日本が連合国と平和条約を結ぶ際、その平和条約の中に、「国外にあった日本国民の資産については、連合国が、差し押え、留置し、清算し、その他何らかの方法で処分する権利を有する。」という条項があり、これにより実際に、自分の国外資産を喪失した者が、そもそも自分の財産の喪失は、国の戦争損害の賠償を肩代わりしたものだとして、日本国に対して賠償請求をしたというものです。
この判例は、憲法29条3項関係の判例となります。最高裁は、以下のように述べて、憲法判断に踏む込まずに、請求を棄却しました。

すなわち、先の平和条約の条項は、そもそも「わが国は、敗戦に伴い、ポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印し、連合国の占領管理に服することとなり、わが国の主権は、不可避的に連合軍総司令部の完全な支配の下におかれざるを得なかつた。(中略)、同条約は、当時未だ連合軍総司令部の完全な支配下にあつて、わが国の主権が回復されるかどうかが正に同条約の成否にかかつていたという特殊異例の状態のもとに締結されたものであり、同条約の内容についても、日本国政府は、連合国政府と実質的に対等の立場において自由に折衝し、連合国政府の要求をむげに拒否することができるような立場にはなかつたのみならず、右のような敗戦国の立場上、平和条約の締結にあたつて、やむを得ない場合には憲法の枠外で問題の解決を図ることも避けがたいところであつたのである。在外資産の賠償への充当ということも、このような経緯で締結された平和条約の一条項に基づくものにほかならないのである。」

さらに、「同条約中の右条項のごときは、上述の経緯に基づき不可避的に承認ぜざるを得なかつたところであつて、その結果として上告人らが被つた在外資産の喪失による損害も、敗戦という事実に基づいて生じた一種の戦争損害とみるほかはないのである。
これを要するに、このような戦争損害は、他の種々の戦争損害と同様、多かれ少なかれ、国民のひとしく堪え忍ばなければならないやむを得ない犠牲なのであつて、その補償のごときは、さきに説示したように、憲法二九条山三項の全く予想しないところで、同条項の適用の余地のない問題といわなければならない。」とし、

「これら在外資産の喪失による損害に対し、国が、政策的に何らかの配慮をするかどうかは別問題として、憲法二九条三項を適用してその補償を求める所論主張は、その前提を欠くに帰するものであつて、所論の憲法二九条三項の意義・性質等について判断するまでもなく、本件上告は排斥を免れない。」としました。

今回は、このへんで。