旅行業務取扱管理者講座の講師ブログ

世界遺産のはなし(1)世界遺産とは

今月は、ご存じ「世界遺産」をテーマに取り上げてみます。
もはや試験でも大々定番、絶対に欠かすことができない知識です。「世界遺産はどれか」というストレートな問題だけではなく、さまざまな形で出題される設問の中に、多くの世界遺産登録地が含まれています。

個別の登録物件は、テキストや問題集でも、WEBでも調べられますので、今回は「世界遺産の背景知識」をお話しようかと思います。
世界遺産は、数が多くて覚えるのも大変ですが、どれも世界第一級の文化財であり、景勝地です。ぜひ楽しみながら学習してください。

●世界遺産条約
世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)は、今を去ること約50年前の1972年に、ユネスコ(UNESCO)総会で採択された国際条約です。
2018年1月時点の世界遺産登録件数は、文化遺産が900件、自然遺産が218件、複合遺産が39件で、合計1,157件(167か国)です。ちなみに条約締約国は194か国ですので、条約締約国でありながら世界遺産が1件もない国は27か国あります。

●世界遺産登録への道
【世界遺産委員会】
世界遺産への登録は、年1回開催される「世界遺産委員会」によって決まります。世界遺産委員会はユネスコに属する組織で、締約国から選ばれた委員で構成されます。登録に値する物件があっても、委員会が自ら指定することはなく、締約国が登録したい物件を推薦しなければなりません。それも、ただ推薦するだけではだめで、世界遺産委員会の諮問機関の精緻で厳しい調査と評価を受けて、はじめて登録の可否が決定されます。毎年、登録の却下や審議延長となる物件も数多くあります。最近では、わが国が登録を目指す「佐渡金山」が、推薦書類不備のために差し戻されました。

なお、2020年はコロナ禍のため第44回世界遺産委員会が延期になり、新規登録件数はゼロでした。翌2021年はオンライン開催となり、前年の推薦物件も含めて2年分が審議されました。また、2022年はウクライナ戦争勃発により開催国のロシアが辞退し、実施も順延され、本年の1月にサウジアラビアで開催されています。また、今年は9月にも世界遺産委員会が予定されています。
混沌とした世界情勢のあおりを受け、世界遺産も揺れ動いています。

【登録までの流れ】
登録物件の推薦は、個人や団体ではできません。わが国の場合は、文化遺産は文化庁、自然遺産は環境省が中心となって推薦物件を決定し、日本ユネスコ国内委員会が窓口となって推薦を行います。推薦物件は、文化財保護法、自然公園法又は自然環境保全法に基づき、確実に保護されている物件のみが対象となります。

たとえば、正倉院は皇室財産のため国宝ではありませんでしたが、世界遺産に登録するため、1997年に国宝に指定され、翌年、世界遺産に登録されました。また、奄美群島や沖縄諸島の一部も事前に国立公園に指定されています。

世界遺産の登録まで、以下の手順をたどります。
① 世界遺産条約の締結国となる
② 国内の世界遺産候補地を世界遺産委員会に推薦する
該当物件を推薦する遺産リスト(暫定リスト)を提出します。
③ 暫定リストの中から推薦された物件を、以下の諮問機関が調査・評価する
・文化遺産→ICOMOS(国際記念物遺跡会議)
・自然遺産→IUCN(国際自然保護連合)
調査には、ICCROM(文化財の保存及び修復の研究のための国際センター)も協力します。
④ 登録基準の1つ以上を満たせば、世界遺産に登録される

日本の場合、かつては多くの世界遺産が「一発合格」でしたが、佐渡金山、中尊寺や富士山などのように、初回では登録が認められずに再チャレンジした例や推薦を辞退した例もあり、審査はなかなか厳しいものです。

次回は、日本の世界遺産についてお話します。