旅行業務取扱管理者講座の講師ブログ

世界遺産のはなし(3)ヤバい世界遺産

●世界遺産の登録後は?
世界遺産に登録されたからといって、その栄誉が永遠に続くものではありません。登録物件の管理保全は、基本的には登録国が責任を負わなければなりません。よほどの場合は、世界遺産委員会が補助を行うことがありますが、これは稀なことです。

世界遺産を保有することになった国は、自国の努力により、その遺産を保護し、修復する義務があります。これが大変なので、登録物件が多い国は金持ちの国がほとんどです。また、世界遺産を持つ国はもちろん、持たない締約国であっても、国際的な援助と教育活動の強化が義務付けられています。登録後は、保全状況について定期的に調査が行われます。

保全調査の結果、その遺跡が重大な危機にさらされていると判断された場合には、「危機にさらされている世界遺産(危機遺産)リスト」に記載されます。また、環境の変化や天災、戦乱等によって遺産の持つ価値が失われたと確認された場合には、世界遺産リストから除外される可能性もあります。遺産の保護・管理が不十分又はずさんであると認められた場合も同様です。開発途上国ではこの義務が負担となって、あえて登録申請を行わないこともあるようです。
世界遺産を持つことも、しんどいものですね。

●危機にさらされている世界遺産
危機遺産は、その物件特有の材質、構造上の理由による崩壊の危機、自然要因による絶滅あるいは荒廃の危機、又は市街化や戦争等の人為的な危機に直面している物件であり、2022年の登録時点では文化遺産39件、自然遺産16件の合計55か所を数えています。
アフリカ諸国、中東諸国などの貧困国や政情不安な国が多く、特に内乱の続くシリア、コンゴ、リビアなどは多くの危機遺産を抱えています。また、米国、オーストリアなどの先進国にも存在します。戦禍の続くウクライナでも、オデーサ歴史地区が新たに追加されました。
幸い、わが国には、危機遺産に該当する物件はありません。

【主な危機遺産】
・エルサレムの旧市街とその城壁群(ヨルダンによる申請)
 理由:周辺情勢の不安定さ
・バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺物群(アフガニスタン)
 理由:タリバンによる石像爆破
・エバーグレーズ国立公園(アメリカ)
 理由:水生生物の生態系の悪化
・ウイーン歴史地区(オーストリア)
 理由:都市開発によって景観が損なわれるおそれ
・オデーサ歴史地区
 理由:ロシアによる軍事進攻
…などなど、さまざまな事情がうかがわれます。状況が変わらなければ、登録が抹消される可能性もあります。

●取り消された世界遺産
せっかく世界遺産に登録された物件でも、その後の価値の見直しにより、登録から除外されたものがあります。2023年現在、以下の3件の登録が抹消されています。

・アラビアオリックスの保護区(オマーン・2007年登録抹消)
 理由:地下資源開発優先のため保護区を大幅に削減したことによる
・ドレスデン・エルベ渓谷(ドイツ・2009年登録抹消)
 理由:架橋計画により景観が損なわれたため
・海商都市リバプール(英国・2021年登録抹消)
 理由:都市環境破壊
文化大国の英国やドイツでも、このようなことが起きるのですね。

次回は、世界遺産の仲間たちについてお話します。