1. 労働基準法における「賃金」の定義とは
労働基準法における賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を指します。ここで重要なのは、名目ではなく「労働の見返り(対償)」であるかどうかという点です。
賃金に該当するかどうかの判断基準は以下の通りです。
- 賃金となるもの: 労働の対償として支払われるものすべてが含まれます。あらかじめ労働協約や就業規則等で支給条件が明確に定められており、使用者に支払い義務があるものは賃金となります。
- 賃金とならないもの: 労働の対償ではないものが該当します。
- 任意的・恩恵的に支払われるもの(結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金など)。
- 福利厚生施設とみなされるもの(住宅の貸与など)。
- 企業設備の一環であるもの(制服、作業用品代、出張旅費など)。
- 義務的に支払われる「休業補償」(法定額を超える部分を含め、全額が休業補償として扱われます)。
2. 賃金の具体的な取り扱いと該非判定の事例
実務上、賃金に該当するか迷いやすい項目について、具体的な取り扱いを見ていきましょう。
- 所得税・社会保険料の肩代わり: 使用者が労働者の負担すべき所得税や社会保険料を代わって負担する場合、労働者は本来の義務を免れる利益を得るため、その負担部分は賃金となります。
- 通勤定期券: 労働協約に基づき通勤手当の代わりに支給される通勤定期券は、労働の対償として賃金に該当します。
- 住宅の貸与: 原則は福利厚生ですが、住宅の貸与を受けない者に対して定額の住宅手当が支給されている場合、バランスを考慮して住宅の貸与による利益も賃金とされます。
- ストックオプション(新株予約権): 利益の発生時期や額が労働者の判断に委ねられているため、労働の対償とは認められず、賃金には該当しません。
- チップ: 客から直接受けるものは使用者からの支払いではないため賃金ではありません。ただし、使用者が一度集めて全額を均等配分するような場合は賃金とされることがあります。
- 解雇予告手当: 解雇手続きとして義務付けられたものであり、労働の対償ではないため賃金には該当しません。
- 食事の供与: 代金徴収の有無にかかわらず、一定の条件を満たす限りは原則として福利厚生として扱われます。
3. 平均賃金の定義と算定すべき事由の発生日
平均賃金は、解雇予告手当や休業手当、災害補償などの算定基礎となるもので、労働者の通常の生活水準を保障するために算出されます。
原則的な計算式は以下の通りです。
平均賃金 =

「算定すべき事由の発生した日」は、各ケースで次のように定められています。
- 解雇予告手当: 労働者に解雇の予告をした日。
- 休業手当: 休業日(2日以上の場合はその最初の日)。
- 年次有給休暇中の賃金: 休暇を与えた日(2日以上の場合は最初の日)。
- 災害補償: 事故発生の日、または疾病の発生が確定した日。
- 減給の制裁の制限: 制裁の意思表示が相手方に到達した日。
4. 平均賃金の算定期間におけるルールと特例
平均賃金の計算には、期間の数え方に関する詳細なルールがあります。
- 起算のタイミング: 条文では「以前3ヶ月」とされていますが、事由発生当日は労働時間が短く賃金が低くなる可能性があるため、原則として「発生日の前日から遡る」ことになります。当日は含みません。
- 賃金締切日がある場合: 直前の賃金締切日から起算します。例えば月末締めの職場で6月5日に事由が発生した場合、5月31日から遡った3ヶ月間で計算します。基本給と手当で締切日が異なる場合は、それぞれの締切日ごとに算定します。
- 雇入れ後3ヶ月未満: 雇入れ後の期間と賃金総額で計算します。
- 勤務の2日目の事故: 午後10時に始業し、翌午前2時に怪我をしたような場合、始業時刻の属する日を事由発生日として取り扱います。

5. 算定の基礎から控除される期間と賃金
平均賃金の計算において、分母の「日数」と分子の「賃金総額」から控除しなければならない特定の期間があります。これは、労働者の責任ではない理由で低賃金となった期間を除き、平均賃金が不当に下がるのを防ぐためです。
控除対象となる期間は以下の通りです。
- 業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間
- 産前産後の休業期間
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
- 育児休業および介護休業期間
- 試みの使用期間(試用期間)
- 正当な労働争議(ストライキ等)による休業期間
また、分子の賃金総額からのみ控除するものとして、「臨時に支払われた賃金」や「3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)」があります。なお、6ヶ月通勤定期券は各月分の前払いと認められるため、算定基礎に含まれます。

6.日給制・出来高払制における「最低保障」
賃金形態が日給や時間給、出来高払制の場合、休日や欠勤が多いと原則の計算式(総日数で割る方法)では金額が極端に低くなることがあります。これを回避するため、以下の「最低保障額」との比較を行います。

この式では分母を「総日数」ではなく、実際に「労働した日数」にすることで、1日あたりの単価を適正に保ちます。原則の式で出した額と最低保障の額を比較し、高い方の金額を平均賃金として採用します。月給制と日給制が併用されている場合は、月給分(総日数で算出)と日給分(労働日数で算出)を合算して計算します。
7.特殊なケースにおける例外的な算定方法
標準的な算定が困難なケースについては、以下の特例が設けられています。
- 試みの使用期間中の事由: 試用期間中に事故が起きた場合などは、その期間の日数と賃金で算定します。
- 算定期間がすべて控除期間の場合: 3ヶ月間すべてが休業などで控除されるケースは、都道府県労働局長の定めるところによります。
- 雇入れ当日の事由: 採用されたその日に事由が発生した場合も、都道府県労働局長の定めに従います。
- 日々雇い入れられる者: 日雇い労働者の平均賃金については、その事業や職業に応じて厚生労働大臣が定める金額を用います。
まとめ
労働基準法における「賃金」の定義と、その計算基礎となる「平均賃金」について解説しました。賃金は単なる名目ではなく、労働の対償であるかどうかが判断のポイントとなります。また、平均賃金の算定は、原則の数式、事由発生日の特定、控除期間の除外、最低保障の確認というステップを正確に踏む必要があります。特に試験では、算定事由発生日当日の扱いや締切日の特例、賞与の除外ルールなどが細かく問われます。それぞれの数式のイメージをしっかりと持ち、どのようなケースでどのルールが適用されるのかを整理しておくことが、社労士試験攻略の鍵となります。


