1. 雇用保険の「適用事業」とは何か
雇用保険法が適用される事業のことを「適用事業」と呼びます。原則として、労働者が雇用される事業はすべて適用事業となります。この適用事業には、法律上当然に保険関係が成立する「強制適用事業」と、特定の条件を満たした上で認可を受ける「暫定任意適用事業」の2種類が存在します。
事業の定義については、労働基準法などと同様の考え方を用います。本店、支店、工場、鉱山、事務所といった個々の場所ごとに、1つの経営組織として独立性を持った形態を「事業」として扱います。なお、保険関係の成立や消滅に関する詳細なルールについては、雇用保険法ではなく「労働保険徴収法」の定めるところに従うことになっています。

部門によって適用区分が異なる場合の取り扱い
一つの事業主が、適用事業に該当する部門と、暫定任意適用事業に該当する部門を同時に経営(兼営)している場合の取り扱いについては、行政通達によって明確に定められています。
まず、それぞれの部門が独立した事業として認められる場合には、適用事業に該当する部門のみが適用事業として扱われます。一方で、それぞれの部門に独立性が認められず、一方が他方の一部門に過ぎない場合には、その「主たる業務」がどちらであるかによって判断されます。主たる業務が適用部門であるならば、その事業主が行う事業全体が適用事業となります。
2. 法律上の主体となる「事業主」の定義
雇用保険における「事業主」とは、その事業についての法律上の権利義務の主体となる者を指します。雇用関係においては、雇用契約の一方の当事者となる存在です。
事業主の形態は、個人である「自然人」だけでなく、「法人」であっても構いません。また、法人格を持たない「社団」や「財団」であっても、事業主になることができます。重要な点として、法人や法人格のない社団・財団が事業主である場合、その団体そのものが事業主となります。法人の代表者個人が事業主になるわけではなく、あくまで「株式会社〇〇」といった組織体が事業主としての責任を負うことになります。
3.暫定任意適用事業の範囲と条件
特定の小規模な農林水産業などについては、当分の間、当然には適用事業とならず、厚生労働大臣の認可を受けることで適用を受けることができる「暫定任意適用事業」とされています。これに該当するためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
- 個人経営であること: 国、都道府県、市町村、その他の公的機関や、法人である事業主以外の、個人が経営する事業を指します。
- 農林、畜産、水産の事業であること: ただし、船員法上の船員が雇用される事業は除外されます。
- 常時5人未満の労働者を雇用する事業であること: 労働者の数が年間を通じて5人未満であることを指します。

労働者数のカウント方法
暫定任意適用事業の条件にある「常時5人」という基準は、1つの事業において雇用する労働者数が年間を通じて5人以上であることを意味します。
この人数を計算する際には、雇用保険法の適用を受けない労働者も含めてカウントします。したがって、適用を受けない労働者を含めて5人以上になれば、その時点で強制適用事業となります。ただし、雇用保険法の適用を受けない労働者「のみ」を雇用している場合には、そもそも適用事業とはみなされません。この点については、労働保険徴収法の学習範囲とも密接に関係しています。
4. 事業所に関する各種届出手続き
事業主が事業所を設置、または廃止した際には、適切な届け出を行う義務があります。
事業所を設置・廃止した日の翌日から起算して「10日以内」に、所定の事項を記載した届出書と必要書類を、その事業所の所在地を管轄する「公共職業安定所(ハローワーク)」の長に提出しなければなりません。
ワンストップによる届け出の特例
事務負担を軽減するため、他の機関を経由して届け出を行うことができる「ワンストップ」の仕組みが用意されています。具体的には、年金事務所を経由して書類を提出したり、特定の条件を満たす場合には労働基準監督署長を経由したりすることが可能です。これにより、複数の窓口に足を運ぶ手間を省くことができます。
事業所が分割された場合の対応
既存の事業所が分割された場合、分割された2つの事業所のうち「主たる事業所」は分割前の事業所と同一のものとして取り扱われます。そのため、主たる事業所については改めて設置の届け出を出す必要はありません。届け出が必要なのは、新しく設けられた「従たる事業所(新しくできた小さい方の事業所)」のみとなります。
5. 事業主情報の変更と代理人の選任
事業主の氏名、住所、事業所の名称、所在地、または事業の種類に変更が生じた場合も、届け出が必要です。これらの変更があった場合も、変更のあった日の翌日から起算して10日以内に、管轄の公共職業安定所の長に届出書を提出しなければなりません。
代理人による手続き
事業主はあらかじめ「代理人」を選任しておくことで、本来事業主が行うべき被保険者に関する届け出などの事務を、その代理人に行わせることができます。代理人を選任、または解任した際には、所定の届出書を管轄の公共職業安定所の長に提出する必要があります。
6. 書類の保管義務と保管期間
事業主および労働保険事務組合には、雇用保険に関する書類を一定期間保管する義務が課せられています。保管期間は書類の種類によって異なります。
- 原則:2年間保管
雇用保険に関する一般的な書類は、その完結の日から2年間保管しなければなりません(ただし、雇用保険二事業や徴収法に関する書類は除きます)。 - 例外:4年間保管
「被保険者に関する書類」については、より重要度が高いため、例外的に4年間の保管が義務付けられています。

7.まとめ
今回の講義では、雇用保険の適用範囲となる「適用事業」の定義から、設置・変更時の具体的な届け出手続き、そして書類の保管義務までを学習しました。
特に重要なポイントは、強制適用と暫定任意適用の違い、そして各種届け出の期限が原則として「翌日から10日以内」であるという点です。また、被保険者に関する書類の保管期間が「4年間」という例外的な期間設定になっていることも試験で問われやすい箇所です。
雇用保険法は手続きに関する規定が多く、数字や期限を正確に覚えることが合格への近道となります。フォーサイトの基礎講座では、このように複雑な法律用語や規定を整理して、一歩ずつ着実に理解を深めていくことができます。今回の内容を土台にして、引き続き学習を進めていきましょう。


