1. 健康保険における報酬と賞与の定義
健康保険では、雇用保険などとは異なり、実際に受ける報酬額をそのまま計算に使用するのではなく「標準報酬」という仕組みを用います。具体的には「標準報酬月額」と「標準賞与額」の2種類があり、これらを算定する基礎となるのが「報酬」と「賞与」です。
健康保険法における「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対価として受けるすべてのものを指します。ただし、以下のものは報酬から除外されます。
- 臨時に受けるもの
- 3ヶ月を超える期間ごとに受けるもの
「臨時に受けるもの」とは、被保険者が常態として受ける報酬以外のものをいいます。また「3ヶ月を超える期間ごとに受けるもの」は、年間を通じて支給回数が3回以下のものを指し、これがいわゆる「ボーナス(賞与)」に該当します。

報酬に含まれる判断基準と具体例
報酬と賞与の区別は、名称ではなく「支給回数」が重要です。例えば、3ヶ月ごとに支給されるボーナスの場合、年間の支給回数は4回となります。この場合、3ヶ月を超える期間ごとに受けるものには該当しないため、名称がボーナスであっても「報酬」に含まれます。
具体的には、以下のいずれかに該当する場合、名称が賞与であっても報酬として扱われます。
- 給与規定や賃金協約などの諸規定により、年間を通じて4回以上の支給が客観的に定められている場合
- 7月1日前の1年間を通じて、実際に4回以上の支給が行われている場合
なお、支給回数が変更になった際の取り扱いについては注意が必要です。次回の「定時決定」または「随時改定(7月、8月、9月)」による標準報酬月額が適用されるまでは、それまでの取り扱いを踏襲し、適用開始のタイミングで変更することになります。

休職手当や見舞金の取り扱い
被保険者が傷病による休職期間中に、就業規則や労働協約に基づいて支給される「休職手当」は、支払いが休職中であっても報酬に含まれます。また、労働協約により傷病手当金の待機期間(3日間)に対して支給される手当も同様に報酬とみなされます。
さらに、事業主が報酬と傷病手当金との差額を「見舞金」として支給する場合も、名目がどうあれ雇用関係に基づいて病気中の報酬の一部を支給し生活を保障する趣旨であれば、報酬に含まれると判断されます。
退職金の前払いと通勤手当
近年見られる、在職時に退職金相当額の全部または一部を給与や賞与に上乗せして前払いするケースについてもルールがあります。これは労働の対価としての性格が明確であり、被保険者の通常の生計に充てられる計上的な収入としての意義を有するため、原則として「報酬」または「賞与」に該当します。
また、6ヶ月ごとにまとめて支給される「通勤手当」も注意が必要です。通勤手当は「3ヶ月を超える期間ごとに受けるもの」とはみなされず、月額に換算した上で報酬に含めることになっています。
2. 報酬・賞与に含まれないものの具体例
一方で、労働の対価とはみなされず、報酬や賞与に含まれないものもあります。
- 解雇予告手当: 解雇のための手続き上の支払いであり、労働の対価ではないため含まれません。
- 退職金: 退職を事由に支払われるもので、退職時に支払われるものや、事業主の都合等により一時金として支払われるものは該当しません。
- 恩恵的な給付: 病気見舞金や結婚祝金など、事業主が恩恵的に支給するものは労働の対価ではないため除外されます。
- 実費弁償: 出張費や赴任費など、被保険者が立て替えた実費の払い戻しは労働の対価ではないため含まれません。
在宅勤務に関連する費用の判断
在宅勤務における費用の取り扱いについても通達があります。労働契約上、労務提供地が自宅とされており、業務命令により一時的に出社する際の移動費用を事業主が負担する場合、これは原則として「実費弁償」にあたるため、報酬や賞与には該当しません。
ただし、事務用品の購入費用などを会社が仮払いし、実際の購入額が仮払い額を下回ったにもかかわらず、その超過分を被保険者が会社に返還しなかった場合、その超過分は実費ではないため報酬または賞与に該当することになります。

3.現物給与の価額算定
報酬や賞与の全部または一部が、通貨(現金)以外のもので支払われる「現物給与」の場合、その価額は「その地方の時価」に基づいて厚生労働大臣が定めます。健康保険組合の場合は、規約で別段の定めをすることも可能です。
住宅の貸与や食事の支給において被保険者の負担分がある場合は、標準価額から負担分を控除した額が報酬となります。ただし、以下の場合は現物給与がないものとして扱われます。
- 食事の支給: 徴収金額が標準価額の3分の2以上である場合
- 住宅の貸与: 徴収金額が標準価額を超える場合
勤務地による適用単価の原則
現物給与の価額を適用する際は、被保険者が常時勤務する場所が所在する都道府県の単価を適用するのが原則です。
- 派遣労働者: 給与を支払う「派遣元(派遣事業所)」が所在する都道府県の価額を適用します。
- 在籍出向・在宅勤務: 適用事業所と勤務地の都道府県が異なる場合、勤務地ではなく報酬を支払う「事業所」が所在する都道府県の価額を適用します。
- 特定が困難な職種: トラックの運転手や船員など、勤務地の特定が困難な場合も、事業所が所在する都道府県の価額を適用します。

4. 標準報酬月額と等級表の仕組み
被保険者一人一人の実際の報酬額は千差万別です。これらをそのまま保険料計算に使用すると事務処理が非常に煩雑になるため、事務の便宜を図るために「標準報酬月額等級表」を用います。
被保険者の報酬を一定の範囲ごとに区分し、当てはめた仮の報酬を「標準報酬月額」と呼びます。現在の制度では、以下のようになっています。
- 等級数: 全50等級
- 下限: 第1級(5万8千円)
- 上限: 第50級(139万円)
この上限と下限の数字は、試験対策として「ごや(58)いらねえでもサンキュー(39)」という語呂合わせで覚えるのが効率的です。

等級区分の改定ルール
標準報酬月額の等級区分は、社会情勢に合わせて改定されることがあります。毎年3月31日時点で、最高等級(第50級)に該当する被保険者数が、全被保険者総数の1.5%を超えている状態が継続すると認められる場合、その年の9月1日から政令によって最高等級の上にさらに等級を加えることができます。
ただし、改定後の最高等級に該当する者の割合が0.5%を下回ってはいけないという下限のルールも存在します。この改定時期が9月1日となっているのは、後に学習する「定時決定」による新ランクの適用開始時期に合わせているためです。なお、この改定の立案を行う際、厚生労働大臣は「社会保障審議会」の意見を聴かなければなりません。

5.まとめ
本記事では、健康保険法における標準報酬の基礎について解説しました。報酬とは労働の対価として受けるすべてのものを指し、支給回数や実態によって賞与と区別されます。また、現物給与の計算や都道府県ごとの適用単価、そして事務の効率化のための等級表の仕組みなど、非常に合理的なシステムが構築されていることがわかります。
標準報酬月額は、第1級(5万8千円)から第50級(139万円)までの区分があり、これに基づき保険料や給付額が決まります。今回学んだ定義やルールは、今後の定時決定や随時改定を理解するための土台となる非常に重要な部分です。しっかりと復習して、実務や試験に活かしていきましょう。


