個人と法人

不動産業を開業する場合、法人で開業する形と個人で開業する形のどちらかを選ぶことになります。個人と法人でどのような違いがあるのか?どちらが得なのか?メリットやデメリットなどについて詳しく確認しておきましょう。

個人でも法人でも業務内容は同じ

不動産業を開業する場合、個人事業主として開業する方法と、法人として登記し開業する方法の2つがあります。開業を考えている方は、どちらで開業するかを選ぶことになりますが、個人でも法人でも行う業務に違いはありません。

個人の不動産業ならできて法人の不動産業にはできないことはありませんし、その逆も然りです。行う業務が同じであれば、どちらで開業しても差はないように感じるかもしれませんが、個人と法人では大きく違う部分があります。

もっとも大きく違うのは税制面です。個人開業と法人開業のメリットやデメリットについて、次から詳しく確認していきます。

個人で開業した場合のメリットは?

個人事業主として不動産業を開業する場合のメリットはどのようなものがあるのか、ひとつひとつ確認していきましょう。

開業時にかかる費用が安くなる

開業時点での一番大きな違いは、開業資金です。法人として開業する場合、まずは会社を設立し、その後開業の申請(宅建業免許の取得)をする形になります。単純に考えても会社を設立するための費用分、個人事業主は費用を抑えることができるわけです。

不動産業の開業資金は、事務所費用や設備投資費などのほかに、「宅建協会」や「全日本不動産協会」への加入金など、多額の資金が必要となります。少しでも開業資金を減らしたい場合、個人事業主としての開業の方がメリットがあります。

開業時の手間を軽減できる

個人事業主として開業する場合は、事務所所在地の管轄税務署に開業届を提出すれば開業自体は可能となります。一方法人としての開業を目指す場合は、まず会社を設立し、その後宅建免許の取得申請が必要です。

他にも従業員のための社会保険への加入なども必要となりますので、開業前にやらなければいけないことが非常に多くなります。

法人としての開業は手間ももちろん時間もかかるため、個人の方がスピーディーに開業できます。

個人の収入が大きくなる

開業時以外のメリットを考えると、売り上げが直接自身の収入に反映できるというメリットがあります。不動産業を開業して売り上げから事務所の家賃、必要経費、従業員の給料を差し引いた分は、すべて自身の収入となります。

法人化した場合、当然売り上げは会社の売り上げであり、大きく伸ばしても個人が受け取れるのは定められた報酬のみです。

個人の収入に直結する個人事業主になれば、仕事に対してもモチベーションも高くなり、結果良い業績が残せるかもしれません。

個人で開業した場合のデメリット

開業時点での手間も資金も低く抑えることができ、しかも利益が出ればその利益が自身の収入に直結する個人事業主ですが、当然のことながらデメリットも存在します。

金融機関などからの融資が不利になる

不動産業を開業したからと言って、最初から資金が豊富で経営に不安が一切ないなどという状況はまず考えられません。開業した店を順調に経営していくには、ある程度資金の融資が必要となるでしょう。

融資が必要な場合は、銀行や信用金庫などの金融機関を頼ることになりますが、融資を申し込んだ場合、やはり個人事業主では信用度が低くなるのは否めません。同じ営業期間で、同じような売り上げを上げている不動産業者であれば、個人よりも法人の方が信用度は高くなります。

同様に社会的信用度という点では、仕事上の取引や契約の際も大きく影響します。運転資金が潤沢に用意できるような状況以外では、開業してから苦労することが増えるかもしれません。

倒産した場合個人資産も債務対象に

開業した不動産業が、残念ながら負債を抱えて倒産してしまった場合、個人事業主は大きな痛手を負います。個人事業主の場合は、個人の資産も負債の弁済に充てなければいけないからです。

個人事業主は売り上げが上がれば収入に直結する反面、売り上げが落ち込み、倒産となった場合時は自身の資産も返済に充てる必要があるのです。

一方法人の場合、負債が出て倒産しても、負債を持つのは会社であり、個人ではありません。つまり個人の資産には影響が出ないことになります。開業前に倒産のことを考えるのも嫌なものですが、リスクという点では個人の方が大きいといえるでしょう。

法人で開業した場合のメリットは?

開業するまでの手間が多かったり、多額の開業資金が必要となる法人での開業ですが、もちろんメリットもあります。そんなメリットをいくつか紹介しましょう。

社会的信用を得やすい

社会的信用については、個人事業主よりも法人の方が高くなります。金融機関からの信用に関してももちろんですが、他にも社会的信用が大きく影響するのが、業務上の契約や取引においてです。

不動産業は取り扱う商品(物件など)が高額です。取り扱う商品が高額になると、業務上の取引においても相手の社会的信用が大きく影響します。

個人事業主より法人の方が社会的信用は高く、業務上もスムーズに話を進めやすいというメリットがあります。

税金対策を行いやすい

法人で事業を行うと、税制面でいくつか税金対策を行うことが可能です。一例を挙げると、「欠損金の繰越控除」があります。この制度を簡単に説明すると、その年出た赤字を翌年以降にも繰り越せるということ。赤字を繰り越せる期間が、法人の場合9年間、対して個人事業主の場合は3年間になります。

法人は一度赤字を出したら、翌年以降9年間にわたり黒字分にこの赤字の残額を充てられるのです。その結果売り上げが低く抑えられることで税金対策になります。個人事業主と比較すると、かなり有利な条件になります。

他にも詳細が省きますが、「給与所得控除」、「所得の分散が可能」、「配偶者控除が可能」、「退職金や役員社宅、経営者の生命保険が必要経費にできる」、「相続税対策ができる」など、多くの税金対策が考えられるでしょう。

売り上げが上がると税制面で有利になる

不動産の売り上げが一定以上のラインを超えると、納税額の面でも個人と法人で差が出ます。境界線となるのが売り上げ1,000万円。個人事業主の場合、不動産の売り上げが1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。

事業が大きくなればなるほど、納付すべき消費税も上がりますので、法人の方が税金面でのメリットが大きくなります。

法人で開業した場合のデメリット

法人で開業する場合のデメリットですが、主に開業時の負担程度でさほど多くはありません。

開業資金がかかる

法人で不動産業を開業する場合、個人事業主と比較して、手続きの手間や多くの開業資金が必要となることは上でも説明した通りです。

特に大変なのが、「会社を設立してから」という部分。不動産店を法人として開業するには、事務所の登録が必須となります。事務所を借りるとなると、事務所を借りる時点で会社名義で借りる必要があります。

つまり会社を設立してから事務所を借り、その後免許の申請ということになり、会社の設立から免許の認可まで2カ月ほどかかることも珍しくありません。この間は無収入なので、その間の生活費も開業資金として用意する必要があります。

法人として開業することを目指す場合、開業時にある程度資金が用意できない場合は厳しくなります。

副業で家賃収入を得る場合も法人化がベスト?

ここまで不動産店を開業する前提で解説をしてきましたが、店を開業する以外のケースでも個人か法人かで考えるべきケースがあります。それが家賃収入など、不動産の副収入があるケースです。

サラリーマンや自営業の方で、不動産を所有してその物件を貸すことで家賃収入を得ている方がいらっしゃるかと思います。こういった不動産収入がある方は、「不動産賃貸業」という事業主なのです。

多くの方は個人事業主として確定申告をしていらっしゃるかと思いますが、副業の家賃収入がある場合は個人と法人どちらがいいのでしょう?

このケースでは、状況により判断する必要があります。ポイントは「社会的信用度」と「業務拡大」です。

例えば親から相続した不動産を所有しており、その不動産の家賃収入のみという場合で、それ以上不動産で手を広げる意思がない場合。この場合は収入が1,000万円を超えないのであれば個人事業主の方が有利な部分が多くなります。

同じく相続した物件があり、今後も不動産関係の事業を拡大する意思がある場合は、法人の方が有利になります。不動産事業を拡大するとなると、多額の資金が必要となります。多くの場合は金融機関を利用し、ローンを組むことになりますが、この時個人事業主より法人の方が社会的信用度が高くなるのは上で説明した通りです。

不動産の家賃収入はあくまでも副収入であり、今後拡大していく意思がない場合は個人事業主でも大きなマイナスはありません。しかし、今後不動産事業を拡大したい場合は、法人の方が経営には有利になります。

ご自身がどちらのタイプかをじっくりと考え、ご自身のスタイルに近い形で事業を展開するようにしましょう。

まとめ

不動産業を開業するにあたって、個人で開業するか、法人で開業するのがいいのかは、判断に悩むところではあります。個人事業主の方が開業しやすく、また売り上げが上がった時のリターンも大きくなります。

しかし長期的な視野で考えたとき、資金調達や外部との契約、交渉などの場においては法人であるほうが有利に話を進めることが可能です。また、事業規模が大きくなった場合、税制面でも法人の方が有利となるため、長期的視野で考えれば法人での開業の方が有利といえます。

個人で開業し、事業が波に乗ってから法人成りする方法もありますが、あまりおすすめできる方法ではありません。

個人事業主が法人成りする場合、宅建業免許をそのままスライドさせて利用することはできません。つまり、個人として不動産業を経営しながら、法人としての開業と同様の手続きを行う必要があります。

個人で開業し、途中から法人成りする場合、個人としての開業と法人としての開業を両方行う必要があると考えていただければ大きく間違っていません。また不動産を所有している場合は、その名義を会社名義にする必要があったりと、さらなる手間もかかります。

ここまで手間をかけるのであれば、開業時に法人として開業した方が結果的に費用も節約できますし、経営もスムーズに行えるはずです。

開業前に資金や税制についてしっかり調べ、ご自身にあった方法で開業するようにしましょう。