大企業と中小企業

「大企業」と「中小企業」。よく聞く言葉ですが、その違いを明確に説明できる人は多くないのではないでしょうか。不動産業界にももちろん大企業と中小企業は存在します。この記事では、不動産業界における大企業と中小企業の分類や、売買契約をする場合、就職する場合にどちらがおすすめかについてまとめていきます。

大企業と中小企業の分け方

大企業と中小企業は何となく分かれているわけではなく、中小企業庁の定める「中小企業基本法」に定められた基準によって明確に分かれています。大企業と中小企業を区別するものは、資本金と従業員数。この2つの条件で境界線を作り、両者を分けています。

また、資本金と従業員数の数値は、業種によって違いがあります。その違いを表にまとめてみましょう。

業種 資本金 従業員数
製造業・建設業・運輸業
その他の業種
3億円以上 300人以上
卸売業 1億円以上 100人以上
サービス業 5,000万円以上 100人以上
小売業 5,000万円以上 50人以上

資本金と従業員数の両方の条件を満たすと大企業となります。どちらか一方でも下回る、もしくは両方下回る場合は中小企業となります。

日本にある法人の大部分は中小企業となり、大企業は一部の企業に限られます。またこの表の「建設業」は不動産業ではなく、ゼネコンなど建設専門の業種を指します。

不動産業界はサービス業

一般的に不動産業と呼ばれるのは、細かく分けると「不動産売買業」、「不動産賃貸業」、「不動産仲介業」などに分類されます。これらの業種は「サービス業」に分類されますので、不動産業の大企業は資本金5,000万円以上かつ従業員数100人以上ということになります。

不動産業界には多数の中小企業が

不動産業界は特に中小企業が多い業界になります。これは不動産業を開業するには、宅地建物取引士という国家資格を持った人を雇う必要があります。この宅地建物取引士は1人いればいいというものではなく、その企業で働く人の5人に1人が持っている必要があります。

宅地建物取引士の資格は、さほど難しい資格ではありませんが、かといって簡単に取得できるものでもありません。また、宅地建物取引士は個人開業も可能なため、小さな不動産業者が多数誕生するのです。

さらに不動産業は一度軌道に乗ると、なかなか倒産することが少ない業種のため廃業する業者も少なく、中小企業サイズの会社が多数存在しています。

反面、血縁関係者に業務を引き継いで引退するといっても、その血縁者が宅地建物取引士の資格を持っていないと業務を継承できないというケースもあります。結果として業績は良くても、経営者の高齢化、死亡などの原因で廃業するという、高収益廃業の多い業界でもあります。

売買契約をするならどちらがお得?

大企業と中小企業の違いを解説してきましたが、不動産業界で働く予定がない方にとってはさほど気になる話ではないかもしれません。むしろ気になるのは「大企業と中小企業のどちらに相談すればいい?」という顧客の立場からの疑問ではないでしょうか。そのあたりについて解説していきましょう。

大企業に申し込むメリット

大企業に不動産の売買、もちくは賃貸などを相談した場合のメリットが考えてみましょう。

まず大きいのは不動産売買にしても賃貸にしても、取扱件数が多いということです。日本中に支店を持っていたり、従業員数が多いこともあり、企業のサイズが大きいほど物件の情報も多く所有していることになります。

物件情報が多いということは、自分の探している物件を持っていたり、自分の物件を預けてもすぐに買い手を見つけてくれたりと、大きなメリットが考えられます。

そして大企業ならではなのが、広告宣伝を大々的に行うことです。土地や建物を売りたい、賃貸の仲介をしてほしいという方には自分の物件を幅広く宣伝してくれるのは大きな魅力です。

最後に利便性です。企業として規模が大きくなるほど、日本中に支店や窓口があるため、どこに住んでいてもとりあえず相談をするには非常に利便性が高いといえます。

大企業に申し込むデメリット

大企業に相談するデメリットも少なからず存在します。買い手や売り手、貸し手や借り手など多くの顧客を持つ大企業は、自社の売り上げを上げるために仲介手数料を求める傾向にあります。

これは特に不動産仲介業を行っている企業に多いのですが、自社の顧客同士の取引を成立させれば、売り手側からも買い手側からも同時に手数料を受け取ることができるため、顧客同士のマッチングにこだわるわけです。

もちろんそれでも取引相手が見つかればいいのですが、見つかったとしても売り上げの一部は仲介手数料として不動産仲介業に入るため、結果売ったものの儲けが予想より少ないということになりかねません。

ちなみに不動産売買時の仲介手数料は、上限が法令で定められており、「売買価格×3%+6万円+消費税」(売買価格400万円以上の場合)となっています。もし1,000万円の土地の売買契約を仲介してもらった場合、39万6000円が手数料の上限です。これを高いと考えるか、安いと考えるかはその方次第ですが、それだけ手数料を払わなければいけないということはやはりデメリットでしょう。

またこちらは一般論ですが、基本的に相談を行っても対応はドライなものになりがちです。大企業は従業員個人個人が多くの案件を抱えていますので、必要以上に親身に相談に乗ってくれるケースは稀と考えた方がいいでしょう。

中小企業に申し込むメリット

一方中小企業に相談するメリットはどうでしょうか。中小企業は街の不動産屋さんも含まれますが、そういった地域に根付いた不動産店をイメージしてもらうといいでしょう。

まず何よりその地元の情報に強いというメリットがあります。上でも触れた通り、不動産業は一度軌道に乗ると、なかなか倒産しにくい業種です。そのため長年同じ地で営業していることが多く、その土地のことに詳しい、そしてその土地の有権者とも親しいケースが少なくありません。

その土地特有の情報というのはなかなか大企業にはつかめないものも多く、その点では非常に頼りになるといえます。

さらに大企業のように多くの顧客を持っていることはあまりありません。そのため顧客一人ひとりに対する対応がきめ細やかなケースが多くなります。中小企業にとっては1件の土地売買が、会社の売り上げの中でも大きな比重を占めることとなり、顧客を大切に扱うのは当たり前の業界だからです。

最後に大企業がこだわる傾向にある同時仲介ですが、中小企業にとっては契約をまとめる方が優先度が高いためにそこまでこだわることはありませんし、その手数料を上限設定ではなく多少値引きしてくれることも珍しくはありません。

中小企業に申し込むデメリット

中小企業に相談するデメリットは、つまり大企業とは反対ということになります。広告宣伝の力が弱く集客力がないことや、そもそもの取扱件数が少なく自分にマッチする情報が得られないという点が挙げられます。

また支店を持つ中小企業も限られていますので、顧客や土地売買情報が限られた地域のものだけとなるケースも少なくありません。

大企業の方が強い物件とは?

では実際に不動産売買や賃貸契約を相談する場合、どのような物件が大企業に向いていると考えられるでしょうか。

まず、当然のことながら大都市圏の物件は大企業の方が強い傾向にあります。都市圏の物件は単価が高いため、大企業も力を入れて情報を確保しています。都市圏の物件探し、また都市圏の不動産販売は大企業に依頼すべきところでしょう。

また、その都市圏の通勤圏となる住宅地も大企業の得意な分野です。いわゆるベッドタウンといわれるような街は、大企業もしっかりと情報網を張り巡らしています。

中小企業の方が強い物件とは?

中小企業の方が強い地域というのはあるのでしょうか。考えられるのは、大企業の支店があまりない郊外の土地や物件は、その土地で長く営業をしている中小企業を探すのがおすすめです。

郊外の土地や物件となると、大企業の強みである情報量が生かせず、また広告宣伝もその地域に限ればいいと割り切れば、大企業のメリットはどんどん薄くなります。こうした土地や物件こそ、地元の中小企業に相談するべきでしょう。

就職するならどちらがお得?

ここまでは顧客の目線で解説してきましたが、では実際に働くのであればどちらがおすすめでしょうか。双方のメリットやデメリットを確認しておきましょう。

大企業に就職するメリット

大企業に就職するメリットは、将来的にも安定した収入を期待できるということ。同時に定期的な昇給も大企業の方が期待できるでしょう。

給料ですが、基本的に大企業の方がベースが高い傾向にあります。一か月単位で比較すると大きな差ではありませんが、10年20年勤めると考えると大きな差になります。

最後に福利厚生といった、就業環境面も大企業の方がよい傾向です。長く働く以上、福利厚生の充実は非常に大きなポイントとなります。

大企業に就職するデメリット

大企業に就職するデメリットもまとめておきます。まずは従業員数の多さからくる問題です。ひとつは人間関係。多くの人間が働く環境ですので、人間的に相性の悪い人とも一緒に働く必要があります。

また従業員数が多く、部署や支店が多いと、希望通りの部署や支店で働けない可能性も考えられます。営業職を希望して就職したものの総務部に配属をされてしまった、しかも希望している支店ではなく、縁もゆかりもない地方の支店に勤務することになったとなると、人生設計としては大誤算です。

そして何より出世をするのが難しいという点も挙げられるでしょう。従業員数が多いということは、必然的にライバルも多いということになります。

中小企業に就職するメリット

中小企業に就職するメリットは、まず様々な業務を経験できるということ。大企業は部署ごとに分業制で業務を行いますが、従業員数の少ない中小企業では、部署は決まっていても、自分の部署の仕事だけしていればいいとはなかなかいきません。ある意味仕事は大変ですが、それだけ経験値を稼げるという点では大きなメリットです。

従業員数が少ないというのもメリットとなり、まずは人間関係を構築するのが難しくないという点が考えられます。さらに出世競争も厳しくないことが多く、自分の趣味の時間や、家族のために時間を取りやすいということが考えられます。

中小企業に就職するデメリット

中小企業に就職するデメリットは、やはり大企業の逆です。給与面で大企業よりやや低い傾向があり、福利厚生の面でも劣る場合が多々あります。

そして大きな問題が、業績が良くても突然会社が廃業をする可能性があるということでしょう。最初に触れた通り、中小の不動産業の場合、業績が良くても廃業をするケースが珍しくありません。これは就職をするにあたってデメリットといえるでしょう。

こんな人には大企業がおすすめ

大企業がおすすめの方は、やはり収入面で安定した収入を目指したい方でしょう。この点では大企業に大きなアドバンテージがあります。ただしある程度コミュニケーション能力があり、人間関係の構築が得意な方は大企業の方が楽しく仕事をできるでしょう。

こんな人には中小企業がおすすめ

例えば自分が生まれ育った土地で、その土地に根差した仕事をしたいという方は、地元の中小企業に就職するのがおすすめです。できれば支社などもあまりなく、転勤の可能性があまりないような会社を選びましょう。

中小企業で自分の時間が取れるようであれば、その時間を利用して資格取得なども目指せます。例えば自身で宅地建物取引士の資格を取得し、将来独立を考えている方も中小企業の方がいいかもしれません。

まとめ

不動産業界にも大企業と中小企業があります。その違いは業務内容ではなく、単純に資本金と従業員の数です。

大企業は顧客や情報量が多く、不動産の売買や賃貸契約などで早めに結果を求めたい方にはおすすめです。ただし手数料の分、多少割高な取引になる可能性があるのでご注意ください。

中小企業は顧客や情報量、広告展開能力に限界があるものの、親身な対応で顧客の利益を最大限に考えてくれます。ただし契約の成立までにはある程度時間がかかることが多いため、時間に余裕がある方はこちらがいいでしょう。

就職する場合は、双方メリット・デメリットがありますので、自身の希望に合った就職先を見つけるのが最適解でしょう。