証券外務員になったら自分の株取引はできなくなる?条文が禁止しているのは「知ってしまった銘柄」だけ

証券会社や銀行への就職が視野に入ってくると、「入ったら自分の株は売買できなくなる」という話が耳に入ります。すでに口座を持っている方には、受験を決める前に確かめておきたいところでしょう。ところが調べても「証券会社の社員は株を買えない」という説明ばかりで、何がどこまで制限されるのか、その根拠がどこに書いてあるのかが出てきません。
この記事は、金融商品取引法の条文から整理します。第166条を読むと、禁止の条件は職業ではなく、会社関係者に当たること、各号に定める知り方で重要事実を知ったこと、まだ公表されていないこと、の3つだと分かります。証券会社で働く人がどの号で該当するのか、違反したときに何が起きるのかまで見ていきます。なお、協会の自主規制規則と所属先の社内規程については、中身に踏み込まず確認先を示します。
なお、本記事は証券外務員ナビの一部です。仕事の内容やキャリアの全体像から確認したい方は、まずこちらのページをご覧ください。
先に答え|資格を理由に売買を禁じる条文はない
禁止されるのは、知ってしまった銘柄だけ
証券外務員の資格を取ったこと自体を理由に、自分の株取引を禁じる条文はありません。
インサイダー取引を禁じている金融商品取引法第166条第1項は、禁止の相手をこう書いています。「次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実を当該各号に定めるところにより知つたもの」。資格の有無も、勤務先の業種も、条件として置かれていません。
そのうえで禁止されているのは「当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け(略)又はデリバティブ取引(略)をしてはならない」という形です。条文はこれらをまとめて「売買等」と呼んでいます。対象になるのは、その重要事実に関わる会社の銘柄です。持っている銘柄が全部止まるわけでも、株式投資そのものができなくなるわけでもありません。
条件がつくのは、あなたが知ってしまった銘柄について、それが公表されるまでの間です。

ただし、証券会社の従業員には別のものが上に乗る
一方で、「法令だけを見れば自由」とも言えません。
協会員(証券会社等)の従業員については、日本証券業協会の自主規制規則が置かれており、さらに所属先の社内規程があります。法令の上に、この2つが乗る形です。
この記事は、条文で確認できた法令の側を説明します。残る2つについては、規則の名称と確認先までを示します。禁止される取引の範囲や届出の要否は、所属先の規程と規則本文で確認する話になるためです。
「できる」「できない」を一般論で決めず、どこを見れば決まるのかまでを持ち帰っていただく、というのがこの記事の立場です。
条文が見ているのは職業ではない|禁止が働く3つの条件
条件その1|その会社の「会社関係者」に当たるか
最初の条件は、情報の出どころである上場会社等の「会社関係者」に当たるかどうかです。
第166条第1項は会社関係者を号に分けて定義しており、号ごとに「どう知ったとき」がセットで書かれています。どの号にも当たらなければ、第1項の禁止は働きません。
たとえば第1号は「当該上場会社等(略)の役員(略)、代理人、使用人その他の従業者」で、知り方は「その者の職務に関し知つたとき」です。ここに入るのは、その上場会社で働いている人です。
まず見るのは、誰の会社の情報なのかと、自分がその会社とどういう関係にあるかです。
条件その2|「各号に定めるところにより」知ったか
2つ目の条件は、その号に書かれた経路で知ったかどうかです。
条文は号ごとに知り方を限定しています。会社関係者に当たる人であっても、その号に書かれた経路で知った場合と、それ以外の場面でたまたま知った場合とを、条文は書き分けています。
第1号なら「その者の職務に関し」、後で見る第4号なら「当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し」です。
どう知ったかまでが、条件に含まれています。
条件その3|まだ公表されていないか
3つ目は、その重要事実がまだ公表されていないことです。
条文は「公表がされた後でなければ(略)売買等をしてはならない」という形で、公表を境に線を引いています。公表された後は、この禁止は働きません。
何が「重要事実」に当たるかも第2項に並んでいます。募集、資本金の額の減少、剰余金の配当、合併、会社の分割、事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け、解散、新製品又は新技術の企業化などです。そして第4号に「前三号に掲げる事実を除き、当該上場会社等の運営、業務又は財産に関する重要な事実であつて投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすもの」という受け皿が置かれています。
第2項第4号があるため、並んでいる項目に該当しなくても、投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事実であれば対象になり得ます。「一覧に載っていないから大丈夫」という読み方はできない作りになっています。
証券会社で働く人はどの号で該当するのか
効いてくるのは第4号|契約を締結している者・交渉している者
証券会社で働く人が会社関係者になる典型は、第1号ではなく第4号です。
第4号は「当該上場会社等と契約を締結している者又は締結の交渉をしている者(その者が法人であるときはその役員等を、その者が法人以外の者であるときはその代理人又は使用人を含む。)であつて、当該上場会社等の役員等以外のもの」を挙げ、知り方を「当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知つたとき」としています。
自分が勤めているのは証券会社であって、情報の出どころである上場会社の従業員ではありません。それでも、その上場会社と契約を締結している(あるいは交渉している)法人の役員等として、契約の締結・交渉・履行に関して重要事実を知れば、第4号の会社関係者になります。
該当の起点になるのは、取引先の会社の情報です。

自分が直接知らなくても該当する|第5号と第3項
自分が担当していなくても、会社の中で情報が動けば条件が揃うことがあります。
第5号は、第4号に掲げる者であって法人であるものの役員等のうち「その者が役員等である当該法人の他の役員等が(略)当該上場会社等に係る業務等に関する重要事実を知つた場合におけるその者に限る」として、知り方を「その者の職務に関し知つたとき」としています。
さらに第3項は、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者と、「職務上当該伝達を受けた者が所属する法人の他の役員等であつて、その者の職務に関し当該業務等に関する重要事実を知つたもの」も、同じ禁止の対象にしています。
隣の部署が交渉の中で知った重要事実を、職務に関して自分も知った、という形で条件が揃います。
立場を離れても1年間は続く
会社関係者でなくなっても、すぐに外れるわけではありません。
第1項の後段が「当該各号に掲げる会社関係者でなくなつた後一年以内のものについても、同様とする」と定めているためです。
異動や退職で立場が変わっても、その立場にいたときに知った未公表の重要事実については、1年以内は同じ禁止が働きます。「辞めたから関係ない」という線は、条文の側に引かれていません。
自分が売買しなくても違反になる|伝えること・勧めること
第167条の2|伝達と推奨そのものが禁止されている
自分が売買しなくても、人に伝えたり勧めたりすることが禁止されています。
第167条の2第1項は、会社関係者が「他人に対し、当該業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて、当該業務等に関する重要事実を伝達し、又は当該売買等をすることを勧めてはならない」と定めています。
利益を得させる目的、あるいは損失を回避させる目的があれば、家族や友人に「あの会社の株は今のうちに」と伝えることも射程に入ります。
「自分は買っていない」は、この条文の前では答えになりません。
伝えられた側も禁止の対象になる
そして、伝えられた側にも禁止が働きます。
第166条第3項が、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者を、同じ禁止の対象にしているためです。
ここから分かるのは、この規制が証券会社の従業員だけを見ているものではないということです。一般の投資家も、伝達を受けた時点で第3項の側に入ります。
規制は職業に付いているのではなく、情報とその知り方に付いています。
違反したときに起きること|刑事罰と、課徴金の算定基準
刑事罰|5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金
違反には刑事罰が定められています。
第197条の2は「次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五年以下の拘禁刑若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定め、その第13号で第166条第1項・第3項、第167条第1項・第3項の違反を挙げています。
併科と書かれているので、拘禁刑と罰金の両方が科されることもあります。
社内の処分とは別に、法令の側に刑事罰が置かれている、という構造です。
課徴金は「儲かった額」では計算されない
もうひとつ、課徴金があります。こちらは額の決め方に特徴があります。
第175条第1項第2号は、買付け等をした場合の額を、「業務等に関する重要事実の公表がされた後二週間における最も高い価格に当該有価証券の買付け等の数量を乗じて得た額」から「当該有価証券の買付け等をした価格にその数量を乗じて得た額」を控除した額としています。売付けの場合(第1号)は、公表後2週間の最も低い価格が基準になります。
算定の基礎は、公表後2週間の値動きから決まります。実際にいくらで売ったのか、そもそも売ったのかどうかは、この式には出てきません。

個別のケースが違反に当たるかどうかの判定は行いません。当てはめは、条文と実際の取引の中身を突き合わせる作業になるためです。ここで示しているのは、条文が置いている条件と、その帰結の枠組みまでです。
法令は全員が対象|証券会社の従業員だけに乗るもの
法令の側は、職業を問わずかかっている
ここまで見てきた第166条・第167条の2は、証券会社の従業員に固有のものではありません。
条文が置いている条件は「会社関係者であること」と「その知り方」であって、勤務先の業種で区切られていないからです。伝達を受けた者を対象にする第3項も同じです。
上場会社で働く人も、取引先として関わる人も、伝達を受けた一般の投資家も、同じ条文の中に置かれています。
協会員の従業員には、自主規制規則と社内規程が上に乗る
そのうえで、協会員(証券会社等)の従業員には、法令の上にもう2つ、決まりが乗ります。
日本証券業協会には、従業員を対象とした自主規制規則として「協会員の従業員に関する規則」と「協会員の従業員における上場会社等の特定有価証券等に係る売買等に関する規則」が置かれています。さらに、協会員はそれぞれ社内規程を定めています。
本記事は、この2つの規則と社内規程の中身には踏み込みません。禁止される取引の範囲、届出や事前承認の要否は、規則本文と所属先の社内規程で直接確認していただく必要があるためです。一般的な説明を自分の状況に当てはめると、判断がずれます。

入社してから最初に当たる先
実務では、自分で線を引く前に確認する相手がいます。
協会員は、法人関係情報の管理態勢として、不公正取引が行われないよう社内規則を定めなければならないとされており、社内には管理の担当が置かれています。
体験講義でも、事務ミスをしてしまった際には、まず内部管理責任者へ報告し、指示を仰いだうえでお客様への対応を行う、という順序が示されています。自分の取引についても、順序は同じです。
自分で調べて決めるより先に、所属先の規程と管理部門で確認する。ここが実務の入口になります。
受験・合格の段階では、あなたの取引に何も起きない
外務員登録は、就職したあとに会社が行う
試験に合格した段階では、あなたの取引に何も起きません。
外務員登録は、合格して金融機関に就職したあとに受けるもので、登録を受けて初めて外務員として仕事ができます。日本証券業協会も、外務員資格を持っているだけでは外務員として活動することはできない、としています。
先に挙げた3つのうち、自主規制規則と社内規程は、協会員の役職員という立場に付くものです。学習中・受験中の人はその立場にありません。
制約は資格に付くのではなく、立場に付きます。
資格と登録の関係、登録した後に続く更新研修については合格したあとの手続き(外務員登録の流れと更新研修)と証券外務員資格に有効期限はあるかで扱っています。
この線引きは、試験範囲そのものにある
学ぶのは「顧客の内部者性を会社が管理する」側から
ここまでの論点は、外務員試験の出題範囲にそのまま入っています。
協会員が守るべき規則の中に、内部者取引を防ぐための実務の仕組みが置かれているためです。
たとえば内部者登録カードは、上場会社等の役員等である顧客について備え付けるものです。上場会社等の特定有価証券等の売買を初めて行う顧客から、上場会社等の役員等にあたるかどうかの届出を求め、その届出に基づいて備え付けます。記載するのは、氏名又は名称、住所又は所在地及び連絡先、生年月日、会社名、役職名及び所属部署、上場会社等の役員等に該当することとなる上場会社等の名称及び銘柄コードです。
会社が管理しているのは、顧客の側の内部者性です。立場と情報に条件が付くという構造が、ここでも同じ形で出てきます。
顧客の取引と自己の計算による取引は峻別される
会社の中でも、顧客の取引と自分の計算による取引は分けて管理されます。
顧客の注文に係る取引の適正な管理として、顧客の注文に係る取引と自己の計算による取引とを峻別し、伝票を速やかに作成のうえ整理・保存することが求められているためです。
顧客のための取引と自分のための取引を分ける発想は、外務員登録が「その金融商品取引業者等のために」行う行為に付くという第64条第1項の限定とも重なります。
入社前に学ぶ内容が、そのまま入社後の線引きの理解になります。
この範囲は体験講義で実際に確かめられます。協会員が守るべき規則②で内部者登録カードと取引の適正な管理を、金融商品取引業と外務員制度で外務員の法的地位を扱っています。
この記事のまとめ
よくある質問
条文の側からは、そうはなりません。第166条第1項が禁じているのは、会社関係者が各号に定める知り方で知った未公表の重要事実に関わる銘柄の売買等です。
ただし、所属先の社内規程と日本証券業協会の自主規制規則に別の定めがあり、その内容は本記事では扱っていません。所属先の規程と、コンプライアンスまたは内部管理の担当にご確認ください。
本記事では扱っていません。条文が対象としているのは「当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等」ですが、個別の商品や取引の形がどう当てはまるかの判定は行わないためです(条文と実際の取引の中身を突き合わせる作業になります)。所属先の規程と関係する法令でご確認ください。
その考え方は条文と噛み合いません。第167条の2第1項は、他人に利益を得させ、又は他人の損失の発生を回避させる目的での重要事実の伝達と、売買等の推奨そのものを禁止しています。そして第166条第3項は、伝達を受けた側も禁止の対象にしています。
立場が生じていないため、条文の側では何も起きません。外務員登録は合格して金融機関に就職したあとに受けるもので、登録を受けて初めて外務員として仕事ができます。資格と登録の関係は合格したあとの手続き(外務員登録の流れと更新研修)で扱っています。
いいえ。第166条第3項は、会社関係者から重要事実の伝達を受けた者も禁止の対象にしています。一般の投資家も、伝達を受けた時点でこの条文の側に入ります。

号ごとに「誰が」と「どう知ったとき」が対になっている構造は、試験でもそのまま問われます。覚え方は、号と知り方を対にして押さえることです。そうしておくと、初めて見る選択肢でも、どの号の話なのかを起点に判断できます。