経験記憶は暗記した内容を定着させるために有効

「知識記憶」と「経験記憶」の違い

記憶の種類は「知識記憶」と「方法記憶」だけではありません。もう一つ、大切なものに「経験記憶」があります。
あなたが、小学校入学前の記憶の中で、最もよく覚えていることは何でしょうか?ほとんどの人は、自分が実際に体験した、生々しい記憶の一つをあげることと思います。

親から聞いただけの話や、テレビで観ただけの話をよく覚えているという人は少ないのではないでしょうか。
これが「知識記憶」と「経験記憶」の違いです。

私たちは、単なる「知識」よりも、実際の「経験」のほうを強く印象に残し、いつまでも覚えている傾向があります。
波乱万丈の冒険小説のあらすじよりも、それほど珍しくもない自分の日常生活のほうが、よく記憶に残っているのはそのためです。
これを試験勉強に応用するのであれば、次のようになります。

経験記憶を試験勉強に応用する

勉強をするときに、その内容をただの試験範囲と考えることなく、実際に自分の人生に起きることだと想像してみましょう。
たとえば、建築基準法によれば、建築物の敷地は道路に2m以上接していなければならないとなっています。いわゆる接道義務です。もし道路に接している部分が2mなかったとしたら、その敷地に家を建てることはできません。すでに建っている家は見逃してもらえますが、建て直しや新築ができない土地となっています。

これだけであれば単なる「知識記憶」にしかなりませんが、具体的にイメージしてみましょう。あなたの近所に、狭い通路を通らなければ家屋に辿りつけない、いわゆる袋地の家はないでしょうか?
その家はおそらく再建築不可の家で、古くなっても建てなおすことができませんし、車が入らないから駐車場もありません。

また、なかなか買い手が見つからないから売ることもできません。その家が、あなたの親戚の家、もしくは知り合いの家であるとイメージしてみてください。さまざまな問題が浮かんでくるはずです。
このように、思考によって疑似体験をすることで、「知識記憶」を、疑似的に「経験記憶」に近づけることができます。

日常の会話が経験になる

また、学んだことを他人に話して聞かせることも、「知識」を「経験」に変える方法の一つです。
聞き手が熱心で、会話が盛り上がったり、議論になって白熱したりすればするほど、「知識」ではなく「経験」として記憶に残ることになるでしょう。
たとえば、私は次のような会話を友人としたことをよく覚えています。

「契約って言葉、なんだかものものしいと思うでしょ?」
「うん」
「でも、私たちも日常的に契約しているんだよ。たとえば、毎日のスーパーマーケットでの買い物も、売買契約を結んでいることになるんだって」
「えっ、そうなの? でも契約書とかないじゃない?」
「口頭での約束でも契約は成立するからね。普通は契約書なんていらないんだ」
「へーえ。じゃあ、契約って約束ってことなんだね」
「でも、不動産契約には契約書が必須となっています。なぜでしょう?」
「うーん、やっぱり高額の契約は口約束だけでは心配だから」
「そのとおり! 消費者を守るために、口頭での説明と契約書が法律で義務付けられているのです」

他人に話すこと(アウトプット)が、記憶の定着に効果的だと言われているのは、繰り返すことによる学習効果と、実際の体験による「経験記憶」の強化の両方の意味があります。

そのほか問題演習も、アウトプットと「経験記憶」、「方法記憶」の相乗効果を見込める良い方法です。実際に考えながら問題を解き、どこで間違えたかを確認しながら修正していく作業は、単なる知識ではなく、自分自身の体験的記憶になるからです。

試験勉強は問題演習を中心に行えという格言もあるくらいです。
問題演習については「試験勉強のメインパートは問題演習である」で詳しく扱っています。