不動産を相続する場合にやるべき手続きを解説!

亡くなった方が実家の権利を持っていた、土地を持っていた場合、その不動産は相続人に相続されることになります。しかし、遺産相続をする経験は、一般的にはさほど多くはありません。経験がなければ知識が足りず、大きなトラブルが発生してしまったり、余計な費用を支払うことになったりしかねません。まずは遺産相続の基本的な流れや、やるべき手続きについて知っておきましょう。

不動産の遺産相続の流れ

遺産の相続に関しては、遺族の一部が管理しきれるものではありません。多くの遺族や親族、そして法定相続人の意見をひとつに取りまとめ、最終的に全員が納得するように決定しなければいけません。

まずは遺産相続の一般的な流れについて、順を追って解説していきましょう。

遺言書の有無を確認

遺産の相続に関しては、民法において相続する人、および割合が定められています。しかしある意味その民法よりも大きな影響力を持つのが故人の遺言です。遺産相続の話し合いにおいては、何より遺言の有無を確認するのが最初に行うことといえるでしょう。

遺言に関しては、自宅に保管してあるケースもあれば、弁護士などに預けられている場合もありますので、心当たりがある場所はすべて当たっておきましょう。

ちなみに、遺言が公正証書になっていない場合、勝手に開けてしまうと法令違反となり、罰金刑に処される可能性があります。公正証書になっていない場合は、必ず管轄の家庭裁判所に持ち込み、裁判所で開封してもらうようにしましょう。

法定相続人を確認する

遺言書の有無を確認したら、続いて法定相続人の確認です。法定相続人には順位がつけられており、その順位を守る必要があります。

順位 具体例
(常に権利あり) 配偶者 妻・夫
※事実婚・内縁は認められず法令婚をしている妻・夫
第1位 直系卑属
※養子縁組をしている子を含む
第2位 直系尊属
※義理の両親を含む
第3位 兄弟姉妹 兄弟姉妹のみ
※義理の兄弟姉妹を含む

まず配偶者に関しては、故人が亡くなった時点で存在していれば必ず法定相続人になります。配偶者以外の法定相続人に関しては、より順位の高い法定相続人がいれば、それ以下の順位の方に相続権はありません。

具体的言えば、故人にお子さんがいれば、故人の両親、兄弟姉妹には相続権は発生しませんし、故人に子がなく、親が一人健在の場合、親に相続権が発生し、兄弟姉妹には相続権が発生しません。

法定相続人を語る場合には、「代襲相続」という言葉も知っておく必要があります。これは、法定相続人に代わって遺産を相続する相続人ということになります。例えば子が先に亡くなっていた場合、その子の子ども、つまり故人にとっての孫が、子の代襲相続人となります。同様に両親の代襲相続人は曾祖父母ですし、兄弟姉妹の代襲相続人は甥姪ということになります。

また、故人が再婚しており、前妻との間に子がある場合は、前妻の子も第1位の法定相続人となるなど、家族構成のケースにより法定相続人はいろいろと変わりますので、正式に把握したい場合は、法律の専門家である弁護士などに間に入ってもらうといいでしょう。

遺産分割協議を行う

法定相続人が判明したら、法定相続人全員で遺産分割協議を行います。この際まずは遺産となる財産をすべて確認集計しておきましょう。集計した遺産は、遺言書がない限り法定相続人の間で定められた割合で分割することになります。

以下、一般的な分割割合を示しておきますので参考にしてください。

法定相続人 配偶者の贈与分 第1位の贈与分 第2位の贈与分 第3位の贈与分
配偶者のみ 100% × × ×
配偶者と第1位 1/2 1/2 × ×
配偶者と第2位 2/3 不在 1/3 ×
配偶者と第3位 3/4 不在 不在 1/4
配偶者ナシ第1位以下アリ 不在 100% × ×

配偶者がいる場合は、配偶者は必ず法定相続人となり、第1位以下の存在によりその割合が変化します。配偶者がいない場合は、順位が高い法定相続人が全額贈与される形になります。親と兄弟姉妹が存命の場合は親に100%贈与されます。

また、第1位である子が2人以上いる場合は、子の贈与分を人数で均等割りすることになります。配偶者と子2人が法定相続人となる場合は、配偶者が1/2、子が1/4ずつということになります。

遺産総額と法定相続人が決定したら、分割協議と同時に相続税の有無を確認しておきましょう。相続税には控除額が設けられており、法定相続人の人数によって控除額も変動します。

相続税控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数

法定相続人が1人なら3,600万円、5人であれば5,400万円分が遺産総額から控除されます。この控除額以下であれば、相続税は発生しません。

法定相続人と協議を行い、どの遺産を誰が相続するかなど、分割について全員が納得したら分割協議書を作成しておきましょう。

必要書類を集める

遺産相続の分割協議を対面で行えるのであれば、その場に必要書類を持ってきてもらうようにするといいでしょう。対面では難しく、電話などで協議を行った場合は、後日必要書類を郵送してもらうようにしてください。遺産相続において必要となる書類は以下の通りです。

必要書類 入手場所
法定相続人全員の戸籍謄本 法定相続人の本籍地の役所窓口(故人が亡くなった以降に取得したもの)
法定相続人全員の印鑑証明書 法定相続人の居住地の役所窓口
故人の原戸籍(出生時から死亡時まで一連の戸籍謄本) 故人の本籍地の役所窓口
故人の住民票除票 故人の居住地の役所窓口

法定相続人には、印鑑証明書と戸籍謄本を用意してもらいます。同時に故人の全戸籍が掲載されている戸籍謄本が必要となりますが、これは本籍地の役場で「原戸籍」を希望すれば発行してもらえます。ただし、原戸籍の取り寄せには数日から1週間ほど時間がかかりますので覚えておきましょう。

最後に住民票の除票ですが、これは故人が最終的に居住していた市区町村の役場窓口で発行してもらえます。

相続財産が不動産の場合、これらの書類に加えて不動産関連の書類も必要になります。不動産関連書類は以下の通りです。

  • 不動産の登記事項証明書
  • 不動産を相続する相続人の住民票
  • 不動産の固定資産評価書

登記事項証明書はいわゆる権利書と呼ばれるものです。権利書と、その不動産を相続する方全員の住民票が必要になります。不動産を複数人に相続する場合の方法は後に詳しく解説します。

最後に固定資産評価書に関してですが、これはその不動産がある市区町村の役場窓口で発行してもらうことができます。

必不動産の登記変更を行う

書類の用意ができたら不動産の登記変更を行います。登記変更に関しては、個人でも行うことは可能ですが、手続きが煩雑なため、専門家に代行してもらうのが確実です。不動産の登記変更に関しては、司法書士が代行可能ですので、手数料は必要になりますが依頼するのが確実でしょう。

これで不動産の遺産相続に関する手続きは完了です。もちろんこの後に遺産相続に関する相続税の計算や納付などもありますので、これで相続に関する手続きがすべて完了するというわけではありません。納税に関してはここでは省きますが、税理士、弁護士、司法書士など専門家に相談して手続きを進めるようにしましょう。

不動産相続の方法

では、不動産がひとつで、相続人が複数いる場合の不動産相続の方法について解説していきましょう。ひとつの不動産を複数人で相続するには4つの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。それぞれの方法について解説していきましょう。

現物分割

相続する不動産が土地のみで、建造物がない場合などに多く用いられるのが現物分割です。相続する土地は、法定相続人の分割割合に合わせて分割し、それぞれ相続するという方法になります。

メリットは分割することで所有権が明確になり、相続トラブルに発展しにくいということが挙げられます。反対にデメリットとしては、土地が細分化されますので、土地として活用しづらくなるという点があります。山林のような巨大な土地であれば大きな問題にはなりませんが、住宅1戸が建つサイズの土地を4人で分割した場合、1人分の土地では住宅も建てられず、販売も難しくなります。

さらに分割することで小規模住宅用地の特例を受けられなくなり、固定資産税が高額になるケースもあります。

山林や農地など、比較的広大な土地を相続する場合に利用しやすい方法といえるでしょう。

代償分割

土地だけではなく、建物があるような場合に用いられることが多いのが代償分割です。これは土地の権利は1人に相続し、相続した方がほかの法定相続人に、相続分に当たる代価を支払う方法です。

仮に3,000万円の土地・建物を、配偶者と子2人で相続するケースで考えます。配偶者がこの土地と建物を相続する代わりに、子2人に750万円ずつ現金で支払うことで、配偶者が1/2、子がそれぞれ1/4ずつ相続した形にする方法です。

メリットとしては面倒な土地の分筆手続きが不要になり、分割が難しい建物の分割も明確にできること、不動産よりも現金で相続したいという希望がある方の希望に添えることなどが挙げられます。

デメリットは、その後その土地建物の評価額が上がった際に、現金で相続を受けた方から不満が出やすいことや、不動産を代表して相続する方に資金力が必要になる点でしょう。

換価分割

こちらも建物込みの相続の場合に選択されやすい方法になります。この方法では相続する不動産を売却し、その売却で得た現金を、法定相続割合に合わせて分割する方法です。

不動産という現物を売って現金化することで、相続の分割が非常に明確になるので、トラブルが起こりにくいメリットが考えられます。

デメリットとしては不動産の売却に手間と時間と費用がかかることがまず考えられます。さらに不動産売却にあたっても、相続権を持つ相続人全員が納得する金額でないと売却できなかったり、その不動産に住み続けたいという相続人がいた場合、成立しないということも考えられます。

換価分割をする場合は、事前に売却金額や居住希望など入念な話し合いが必要となります。

共有

最後に不動産を共有するという選択です。その不動産を共同名義で共有することで、遺産相続におけるトラブルが発生しにくいのがメリットです。

デメリットとしては、その不動産を売る、賃貸に出す、建て直すなどの場合、共同名義人全員の承諾を取る必要があるということで、活用がしにくくなります。

不動産を残し、だれかがそこに住み続ける場合などに有効な方法といえるでしょう。

配偶者居住権とは?

不動産の遺産相続に関しては、「配偶者居住権」という特例があります。故人が亡くなることで、その配偶者が住む場所を失うなど不利益を被らないように設定された制度になります。

仮に故人の遺産総額が4,000万円で、居住していた不動産のみだったとします。子の遺産の相続人が、配偶者と故人の兄弟姉妹2人だった場合、配偶者の相続分は3,000万円、兄弟姉妹の2人はそれぞれ500万円ずつとなります。

このケースで配偶者が遺された不動産に住み続けたいと思った場合、配偶者は代償分割を選択し、兄弟姉妹に500万円すつ渡す必要があります。配偶者は遺産として現金を一切相続できない上に1,000万円を支払えないと、住み続けることもできないという事態になってしまいます。

こういったことが起こらないように定められたのが配偶者居住権です。上記のケースで配偶者所有権を主張した場合、住んでいる不動産は共有とし、3,000万円分の権利を配偶者が、500万円分の所有権を兄弟姉妹の2人が所有しながら、配偶者はその不動産に住み続けることができるようになります。

遺された配偶者の社会生活に配慮した制度ですが、当然ながらメリットとデメリットはありますので確認しておきましょう。

配偶者居住権のメリット

一番大きなメリットは、配偶者が依然と変わらない環境で生活を続けることができるという点でしょう。しかもそれに伴う出費も抑えることができますので、安心して暮らすことが可能です。

さらにほかの法定相続人に関しても、相続に関してマイナスとなることはありません。法定相続人全員が納得して入れば、もっとも平和的な相続方法となるでしょう。

配偶者居住権のデメリット

配偶者所有権を設定した場合のデメリットとしては、その不動産の価値が大きく下がることが挙げられます。配偶者所有権は、所有者にかかわらず、配偶者は住み続けることができます。そのため容易に売ったり賃貸に出したりができないため、不動産としての活用の幅が狭くなり、評価額も落ちてしまいます。

もちろん配偶者所有権に関しては、居住している配偶者と、その不動産の所有権を持つ権利者の双方が納得すれば、所有権を解除することは可能です。ただし、どちらかの反対があれば当然解除できません。

もうひとつのデメリットは、子の不動産の所有権を持つ方は、自分が自由に活用できない不動産に関する固定資産税を納付する義務が生じます。所有権が子どもなどの場合は、親が住む不動産ですから、それでも大きな不満はないかもしれませんが、故人の兄弟姉妹などが所有している場合は、トラブルに発展する可能性も考えられます。

不動産相続は専門家を交えて

不動産相続に関しては、1人で相続するのであれば大きな問題はありませんが、複数人の法定相続人がいる場合、いろいろな相続の形が考えられます。そしてどの形で相続するにしても、メリット・デメリットがありますので、法定相続人同士でしっかりと話し合い、のちにトラブルにならないようにするのが重要です。

相続の話し合いの場には、法の専門家である弁護士などに同席してもらい、全員が納得できるようにするのがおすすめになります。不動産相続に関しては、話し合いと同時に書類集めも非常に手間のかかる作業になります。しっかりとした話し合いと同時に、集める書類に不足がないように注意しましょう。

不動産の相続がある場合は、話し合いと書類集めに集中し、その後の手続きなどは専門家に依頼することで、大きなトラブルなく相続が完了します。大切な方が亡くなった直後に行う必要があり、精神的にも大変な作業になりますので、頼れる部分はどんどん専門家に頼るようにしましょう。