意外と知らない司法書士の仕事内容と魅力や将来性について解説

目次

司法書士とは?

司法書士は国家資格のひとつであり、司法に関する書類の作成や登記の代理を行うことを生業とする士業になります。

国家資格における士業のうち、業務上必要な場合に限り、委任状などを持っていれば住民票などの請求ができるものを「八士業」といい、司法書士も八士業のひとつとなります(ほかに弁護士、弁理士、税理士、行政書士、社会保険労務士、土地家屋調査士、海事代理士がある)。

日本司法書士会のHPには、「司法書士倫理」が掲載されています。この倫理の冒頭にある言葉を借りれば、「司法書士の使命は、国民の権利の擁護と公正な社会の実現にある」ということになります。

確かにこれが正しい表現かと思いますが、これだけでは具体的な業務内容がわかりませんので、詳しく解説していきましょう。

司法書士の独占業務

司法書士には、司法書士の資格を持つものしか行えない「独占業務」があります。まずはこの独占業務をまとめておきましょう。

  • 登記又は供託に関する手続についての代理
  • 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類の作成
  • 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続の代理
  • 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類の作成
  • 上記に関する事務に関し相談に応ずること
  • 作成された書類の法務局・裁判所等関係各所への提出代行

登記の代理に関しては幅広い意味での登記があります。不動産登記や法人登記など、登記にかんする手続きを代理で行えるのは司法書士のみということになります。

弁護士との違い

同じ法律関係の業務を行う弁護士と司法書士の業務の違いをまとめておきましょう。弁護士は法律に関する相談を受け、裁判には代理人として出廷することができます。

もちろん司法書士も自身の分野に関する法律の相談に乗ることはできますが、なんでも相談に乗ることができるわけではありません。

法務局や裁判所、検察庁に提出する書類の作成が可能といっても、依頼人の代理として法廷に出廷できるわけではありません。

ただし、司法書士の中でも「認定司法書士」の資格を持っていると一部裁判に代理人として出廷することができます。司法書士が代理人を務めることができるのは、「債権額が140万円以下の簡易裁判」のみですが、この条件に当てはまる案件であれば、弁護士同様、依頼者の相談に乗り、法廷に出廷することが可能です。

行政書士との違い

公的機関に提出する書類の作成を主な業務とする点では、行政書士とも近い業務ということになります。

行政書士と司法書士の違いは、作成する書類の提出先です。市区町村役場など、官公署に提出する書類に関しては行政書士が、法務局や裁判所、検察庁などに提出する書類に関しては司法書士が作成することになっています。

司法書士になるには?

司法書士として仕事をするためには、まずは資格を取得する必要があります。司法書士資格を取得する方法は2つ。国家試験に合格するか、実務経験から資格を得るかです。

いずれかの方法で司法書士となる資格を得たら、管轄の司法書士会に登録を行うことで、司法書士としての業務を行うことが可能です。

司法書士試験に合格する

司法書士となるもっともポピュラーな方法が、国家試験でもある司法書士試験に合格することです。

司法書士試験は毎年7月に一次試験が行われ、10月に二次試験が行われます。一次試験が筆記試験、二次試験は口述試験となり、この双方に合格することで司法書士資格を得ることになります。

一次試験時間割 出題科目 出題方式 出題数合計
午前の部
憲法 多肢択一式 3問 多肢択一式 35問
民法 多肢択一式 20問
刑法 多肢択一式 3問
商法(含・会社法) 多肢択一式 9問
午後の部
(180分間)
民事訴訟法 多肢択一式 5問 多肢択一式 35問
民事保全法 多肢択一式 1問
民事執行法 多肢択一式 1問
司法書士法 多肢択一式 1問
供託法 多肢択一式 3問
不動産登記法 多肢択一式 16問
記述式 1問
商業登記法 多肢択一式 8問
記述式 1問

一次試験の筆記試験は上記の通り、11の科目を5時間の試験で解答していきます。筆記試験の配点は3つに分けられています。

科目 配点
午前の部 択一式試験 105点
午後の部 択一式試験 105点
午後の部 記述式試験 70点

合計280点満点の試験となりますが、科目ごとに合格基準点が設けられており、この合格基準点をすべてクリアしないと、総得点で合格ラインを超えていても足切りにあい合格することはできません。

すべての科目を平均的に学び、確実に得点する必要があります。

実務経験による認可

一定以上の実務経験があれば、口述式の試験のみで司法書士資格を得ることも可能です。以下、定められている実務経験を挙げていきましょう。

  • 裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官又は検察事務官として登記、供託若しくは訴訟の事務又はこれらの事務に準ずる法律的事務に従事した者であって、これらの事務に関し自己の責任において判断する地位に通算して10年以上あった者
  • 簡易裁判所判事又は副検事としてその職務に従事した期間が通算して5年以上の者

かなり限られた実務経験ですが、これらの経験があれば筆記試験なしで司法書士資格を得ることが可能となります。

司法書士の仕事内容

ここからは具体例とともに司法書士の仕事内容に関して、改めてまとめていきましょう。司法書士の業務は大きく分けて3つ。書類作成と代理・代行とコンサルティングです。それぞれの業務を確認していきましょう。

書類作成業務

司法書士の独占業務となっている書類の作成は、裁判所や法務局、検察庁などに提出する書類の作成になります。

その中でもっとも多いと言われているのが、法務局への提出書類。特に登記に関する書類の作成がメインとなります。

登記にはいろいろな種類があり、不動産登記、商業登記、法人登記、船舶登記、債権譲渡登記、動産譲渡登記が主な種類です。中でも司法書士の業務として多いのが、不動産登記と法人登記となります。

不動産登記は不動産の売買が成り立った場合など、登記の名義変更が必要になり、そのための書類作成が司法書士の業務です。また、遺産相続などで不動産の権利が移譲される場合なども司法書士の仕事となります。

法人登記は新たに会社を立ち上げる際などに必要となる登記。この時の書類作成も司法書士の業務です。

代理・代行業務

司法書士の業務は書類作成だけではありません。作成した書類を裁判所や法務局、検察庁に提出する手続きの代行も司法書士の業務となります。

ここでもやはり多いのは法務局への登記の代行でしょう。つまり不動産売買や遺産相続などで不動産の権利が替わる場合は、司法書士に書類作成と登記代行をまとめて依頼するのが一般的です。また新規に法人を立ち上げる場合も、司法書士事務所に依頼して法人登記を行うのが一般的です。

もちろん登記に関しては当事者が行うのが基本ですが、不動産売買や遺産相続、さらに新規法人の立ち上げなどのタイミングは、当事者の方が一番忙しいタイミングでもあります。その中で時間を作って法務局に行き、慣れない登記手続きを行うのは大きな負担となります。そこで多くの方が司法書士に代理を依頼するということになります。

司法書士の業務においてももっとも多い業務がこの登記に関する業務といわれています。

相談・コンサルティング業務

書類作成や代行業務以外に司法書士が行う業務としては、各種法律問題に関する相談を受けたり、コンサルティングを行う業務があります。

管財人や管理人などの地位につき、他社の行う事業経営や財産管理に関する相談や補助を行うなども業務になりますが、もっと分かりやすい例を挙げれば遺言書の作成や遺言の証人といった業務でしょう。

遺言書を公正証書として遺す場合、立ち合い証人が必要となりますが、司法書士はこの証人として認められている資格になります。また、遺言を執行する方の財産管理を行うなども業務としてできますので、親族が亡くなられた場合なども司法書士の業務は数多くあるということになります。

認定司法書士とは?

司法書士の中には「認定司法書士」と呼ばれる資格を持つ方もいます。これは特別な研修を受けた司法書士のことで、認定司法書士となると、さらに業務の幅が広がります。

認定司法書士について簡単にまとめておきましょう。

特別研修と認定考査

認定司法書士となるには、司法書士試験に合格するなど、司法書士の資格を持った状態で、特別な研修を受ける必要があります。

一般的に司法書士試験に合格した後、司法書士として働くには、司法書士会の行う研修を受ける必要がありますが、この必須の研修とは別に、認定司法書士になるための特別研修があり、この研修を受ける必要があります。

研修受講後、司法書士会の行う認定考査を受け、この考査に合格すると認定司法書士となることができます。認定考査の合格率は以下の通りになっています。

年度 受験者数 合格者数 合格率
2012年 1,259名 829名 65.8%
2013年 1,196名 830名 69.4%
2014年 1,062名 741名 69.8%
2015年 987名 649名 65.8%
2016年 940名 556名 59.1%
2017年 915名 526名 57.5%
2018年 874 377名 43.1%
2019年 936名 746名 79.7%
2020年 625名 494名 79.0%

合格率にかなり差がありますが、受験者は全員司法書士試験に合格し、特別研修を受けた方です。そう考えるとそこまで簡単な試験ではないことがわかるでしょう。

近年受験者数が減少傾向にあるのは、多くの司法書士がすでに認定司法書士になっているから。認定司法書士が誕生したのが平成15年(2003年)です。この年以前に司法書士資格を取得した方は、平成15年以降に認定考査を受けており、制度開始当初は多くの受験者がいました。

平成15年の受験者数が3,788名(合格者2,989名)、平成16年は7,842名(合格者5,755名)が受験しています。

近年では新たに司法書士資格を取得した方が中心となっているため、受験者数は減少傾向。特に2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり受験者数が大きく落ちています。

認定司法書士にできる業務

認定司法書士となると業務の幅が広がると書きましたが、主に裁判関係の業務が一気に増えることになります。具体的にできるようになる業務を一覧にしてご紹介しましょう。

  • 簡易裁判所における民事訴訟手続の代理
  • 訴え提起前の和解(即決和解)手続の代理
  • 支払督促手続の代理
  • 証拠保全手続の代理
  • 民事保全手続の代理
  • 民事調停手続の代理
  • 少額訴訟債権執行手続の代理
  • 裁判外の和解について代理する業務
  • ADR(裁判外紛争解決手続)の代理
  • 仲裁手続の代理
  • 民事紛争の相談
  • 筆界特定手続について代理をする業務

この中で特に特徴的で分かりやすいのが「簡易裁判所における民事訴訟の代理」でしょう。裁判にはいろいろなケースがありますが、簡易裁判とよばれる少額訴訟に限られた形式の裁判があります。

債権額が140万円以下の案件のみを取り扱うのが簡易裁判となりますが、認定司法書士となると、この裁判に代理人として出廷することが可能です。

基本的に裁判に代理人として出廷できるのは弁護士ですが、認定司法書士は少額訴訟に限り、この弁護士の業務を行うことができるようになります。

もちろん裁判への出廷だけではなく、少額訴訟に関する法律相談、裁判外での和解交渉の代理、少額訴訟の執行手続きの代理など、少額訴訟に関してはすべての業務を認定司法書士が行うことができるようになります。

司法書士の仕事の魅力

司法書士の仕事は、最初にご紹介した通り、「司法書士の使命は、国民の権利の擁護と公正な社会の実現にある」と定められています。司法書士の実際の業務、そして司法書士倫理の最初に規定されているこの言葉を考えると、司法書士の仕事の全容が見えてきます。

司法書士に相談に来る依頼者の多くは、自身の知識や経験では解決できない大きな問題を抱えており、司法書士を頼ってきているケースがほとんどです。

こういった依頼者の要望に応え、持っている法知識を使用して問題を解決することが司法書士の業務となります。目の前で困っている方に対し、最適な方法を提示しその問題を解決することができるのは仕事として大きな魅力といえるでしょう。

ただし、こういった感謝をされるような結果を導き出すのは簡単ではありません。司法書士の元に持ち込まれる案件に関して言えば、まったく同じ状況の案件というのはほぼありません。案件ごとにかかわる人やおかれた状況が違いますので、すべての案件に同じ対応というわけにはいきません。

たびたび改正、改定される法律に関する正しい知識を常に持ち続け、最適な方法を見つけ出す必要があります。単純な不動産登記の代理といっても、ひとつでも間違えれば、依頼者の財産に大きな問題を生じさせかねません。

ひとつひとつの案件は厳しいもののそれだけやりがいのある業務が多く、それだけにやり遂げた時の達成感、充実感は非常に大きい魅力的な仕事といえるでしょう。

司法書士の将来性

司法書士という仕事に関して、将来性を悲観する見方があるのは事実です。その大きな理由としては、まず司法書士の人数が増加傾向にあるということ、そして世界的に進むデジタル化の流れです。

司法書士に定年はありません。資格を持つ方個人が望めば、何歳になっても業務を行うことは可能です。毎年司法書士試験が行われ、一定数の司法書士が誕生しており、司法書士として登録している人数は増加の傾向にあります。さらに世界的に進むデジタル化が、司法書士の将来性が悲観的であるという根拠です。

しかし、司法書士の業務をしっかりと把握すれば、将来性がないというのは極論であり、そんなことはないということが分かるはず。そんな司法書士の将来性について考えてみたいと思います。

AI技術の進化で仕事がなくなる?

人工知能AIの研究は進み、多くの分野にAI技術が採用されるようになっています。AI技術がさらに進化すれば、例えば不動産登記や法人登記といった、形の決まった業務はAI技術に置き換えられる可能性は考えられます。

しかし、ことはそう簡単に進まないでしょう。確かにAI技術の進化は目覚ましいものがありますが、その分安全性という点では進化していないというのが現状です。

法人登記や不動産登記は、登記を行う方の財産にかかわる非常に重要な業務となります。この業務を安全性に不安が残るAI技術に任せることができる方がどの程度いるでしょう?AI技術が進化するということは、それと並行してAI技術を悪用する技術も進化し続けるということ。ここが大きな問題でしょう。

司法書士が自身の手で書類を作成し、その内容を登記する依頼者としっかり確認しながら進める方が依頼者の安心という点では非常に大きいでしょう。

仮に登記自体がデジタル方式となっても、その登記を行うのは当事者、もしくは代理が可能な司法書士ということになり、司法書士の業務が減ることはほぼないと考えていいのではないでしょうか。

司法書士の仕事がなくならない理由

さらに司法書士の業務は、AIなどが代行できる比較的単純なものばかりではありません。上でも少し紹介しましたが、司法書士事務所に持ち込まれる案件にはいろいろなケースがあります。

案件ごとに状況やかかわる権利関係が複雑なケースが多く、こういったケースに対処できるのはやはり司法書士ということになります。

さらに司法書士の業務のひとつである、コンサルティングや相談に関しては、まずAIで置き換えることができない業務です。

司法書士の業務は専門性が高く、同じ案件がいくつも存在しないものですので、仕事が減る、なくなるということはまず考えなくていいかと思います。むしろ、多様化が叫ばれる現代の日本を考えれば、今後司法書士が扱う業務も多様化していく可能性が高く、より優秀な司法書士が多く求められる社会となっていくでしょう。

これから司法書士を目指すのであれば

これから司法書士を目指すという方に、アドバイスをするとすれば、今後重要になるのは「専門知識の強化」です。司法書士の人数が増加傾向にあるのは上でも説明した通りであり、その中で業務を行うには、司法書士にも個性が必要になります。その個性が専門知識ということになります。

司法書士として業務を行うにあたって、「この分野であれば他よりも詳しい」というストロングポイントがあれば、より業務が行いやすくなります。

司法書士を目指す方の多くは、学生や無職の方ではなく、何かしらの仕事をしながら取得する方が中心です。今就いている仕事に関する知識を深めるのもいいですし、自分が好きな分野、興味のある分野に特化するのもいいでしょう。

また、実際に司法書士となり、司法書士事務所などで働く中で興味を持つ業務が出れば、その業務に特化するのもいいでしょう。

いずれにせよ、ほかの司法書士とは違う、自身が得意な専門分野を持つことが、より司法書士として活躍する近道となるでしょう。

まとめ

司法書士は法律の専門家であり、試験の難易度も高い難関資格です。業務の中心は法務局、裁判所、検察庁に提出する書類の作成、および申請の代行を行うこと。特に法務局で行う不動産登記や法人登記など、登記の代理申請が中心であることが多いようです。

さらに特別研修を受け、認定司法書士となれば、簡易裁判所で行われる少額訴訟に関する相談やアドバイス、代理出廷など、弁護士同様の仕事も可能になります。

AI技術の進化で、司法書士の仕事が減少していくという見方もありますが、司法書士の取り扱う案件は個別に状況が違うものが多く、一概にAI技術で置き換えられるものではありません。

司法書士は将来的にも有望な資格であり、これから目指すという方にもおすすめの資格となります。これから司法書士を目指す方は、自身の得意分野を持つといいでしょう。司法書士の人数が増えていることは事実であり、ライバルとの違いをしっかりと持つことが司法書士として成功するコツのひとつになります。

得意な分野を見つけたら、その分野に関する法律知識をしっかりと身に着け、どのような要望にも対応できるようにしましょう。また、分野ではなく得意な業務に特化するのもおすすめ。

登記代行に特化する、遺言書の作成、執行の財産管理などに特化するなどもひとつの方法です。自身で司法書士として独立開業する前に、司法書士事務所などに就職しいろいろな業務に携わることで、得意な業務ができるかもしれません。

とはいえ得意分野を持つかどうかはまず司法書士資格を取得してから、まずは難関試験である司法書士試験に合格することを目指しましょう。