司法書士試験はどのくらい難しい?その難易度を徹底検証
司法書士試験は難関試験
司法書士試験は難易度が高く、合格率も非常に低い試験として知られています。司法書士は法律の専門家ですので、出題範囲は法律分野に限られますが、その範囲が広く、しかも深く理解していないと試験に合格できません。
あくまでもイメージですが、弁護士などになるための司法試験ほど難しくはないものの、税理士試験や社会保険労務士試験、弁理士試験とは遜色ない難易度というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?
司法書士試験の受験科目は、憲法・法律関連から11の科目が出題されます。司法試験の難易度を考える場合、この受験科目の多さや、出題問題の難易度、さらに合格判定の厳しさを考えるのが一般的です。 しかし、出題範囲の広さや、出題される問題の難易度に関しては、どの程度難しいかを判断する場合、どうしても個人差が出てしまいます。この記事ではこうした個人差があまり生じない部分で、司法書士試験が難しいということを客観的に判断できる要素をいくつかまとめていきます。
まずは問題の難易度などとは別に考えられる、司法書士試験の難易度を判断できる要素に関してまとめていきましょう。
試験時間が非常にシビア
入学試験にしても、資格取得試験にしても、受験の際に重要になるのが、試験中の集中力です。どれだけ集中して問題にあたることができるかは、合否を考えた場合非常に重要なポイントといえるでしょう。
しかしいくら鍛えても人間の集中力にはある程度の限界があります。あまり長時間の試験では集中力が持続せず、試験時間の後半になるとケアレスミスが頻発するようなケースも考えられます。
司法書士試験は一次試験の筆記試験と、二次試験の口述試験によって合格者が選ばれます。問題は一次試験の筆記試験。筆記試験は1日で終了しますが、その試験時間がシビアな試験となっています。
司法書士試験の筆記試験は午前と午後に分かれており、午前の試験が択一式35問を120分で解答します。午後の試験は択一式35問と記述式2問を180分で解答することになります。
1日でトータル5時間の試験を受けるだけでも体力的に大変ですが、午後の試験は3時間でも足りないほどのボリュームです。いかに択一問題を効率的に回答し、記述式を解く時間を確保できるかどうかにかかっています。
突破が難しい合格基準点
司法書士試験には合格点のほかに合格基準点が設けられています。合格点は総得点に対して設定されますが、合格基準点は試験の分野ごとに設定され、この合格基準点を必ずクリアしていないと、いくら総得点で合格点をクリアしていても合格はできません。
合格基準点は3つの分野に分けて設定されます。
- 午前の試験(択一式35問・105点満点)
- 午後の試験(択一式35問・105点満点)
- 午後の試験(記述式2問・70点満点)
参考までに、令和2年度(2020年度)の司法書士試験における合格基準点をご紹介しましょう。
- 午前の試験(択一式35問・105点満点) → 75点(正答率:71.4%)
- 午後の試験(択一式35問・105点満点) → 72点(正答率:68.6%)
- 午後の試験(記述式2問・70点満点) → 32点(正答率:45.7%)
記述式試験の合格基準点のみ低いように思えますが、記述式試験は設問における法解釈や対応をひとつ間違えると、出題全問が不正解になってしまう試験です。その点を考慮すると、この合格基準点も決して低いものとはいえません。
令和2年度に関しては、おおよそ7割程度の正答率で合格基準点はクリアということになりますが、この基準点は毎年変更されています。
その年の受験者全員の正答率から合格基準点が設定されるため、全体を平均的に70%応えられれば合格基準点をクリアできるとも限りません。
また、この点数はあくまでも足切りの参考とする基準点であり、合格判別を行うボーダーラインはさらに高いところに設定されますのでご注意ください。
相対評価で合格者数が限定的
司法書士試験の合格ラインは毎年変動する相対評価が採用されています。資格試験の合格判定方法は、この相対評価か絶対評価があります。
絶対評価は合格点があらかじめ決められており、その合格点をクリアすれば何人でも合格者が出る試験です。主に受験者の能力測定をするような資格試験で多く採用されている方式で、有名なところではファイナンシャルプランナー試験や日商簿記の試験などがあります。
取得した時点で独占業務を持つような国家資格の試験では絶対評価はあまり採用されていません。有名な資格では行政書士試験が絶対評価の試験ですが、それ以外の国家試験の評価方法は、ほぼ相対評価となります。
相対評価の試験は、事前に合格点が決められておらず、受験者のテストの成績によって合格点が算出されます。
そのため受験者全体のレベルが高ければ合格点は高くなり、逆であれば低くなります。相対評価の場合、事前に決められているのは合格者の人数であり、合格点はその人数に合わせて上下することになります。
事前に勉強することを思うと、あらかじめ合格点が決まっており、そこを目標に勉強する方が、気分的には楽です。しかし、合格点が決まっていない相対評価のテストは、いくら勉強をしてもし過ぎるということはありません。
すべての受験者がそのつもりで準備してきますので、必然的に合格難易度は高くなります。
司法試験の難易度を偏差値で表す
勉強の難易度を表現するには、偏差値で表現するのが分かりやすいかと思います。高校受験でも大学受験でもこの偏差値を基準に、志望校などを検討してきたかと思いますので、見慣れているでしょう。
司法書士試験の難易度は、偏差値ではどの程度になるでしょう。
正確な偏差値は計測不能
しかし正確な偏差値を算出するには、受験者全員の得点が分からないと計算ができません。ネット上では司法書士試験の難易度を偏差値で表現しているサイトもありますが、多くの場合、その偏差値は想定される偏差値になります。
多くの資格試験情報サイトで想定されている司法書士試験の偏差値が「75~78」といったところ。高校や大学の受験で見た偏差値を思い出すと、超難関と呼ばれる学校の偏差値と同等ということになります。
この想定が果たしてどの程度正しいのか、実際に法務省が公表している数値などを参照し、簡単に検証していきたいと思います。
高得点獲得者を基準とした偏差値
法務省のHPには、令和2年度の司法書士試験(筆記試験)における得点分布が発表されています。筆記試験において146点以上を獲得した人数は1,952名。受験者全体(11,494名)の上位約17%です。
しかしこの人数でも合格基準点をクリアしているわけではありません。令和2年度の合格基準点の合計は179点。詳細は発表されていませんが、クリア者は最大でも999名です(午後の部記述式試験の基準点クリア者が999名のため)。
この試験成績上位者1,952名の成績から、総得点の合格点をクリアした方の偏差値を算出してみました。
偏差値の計算方法に関しては、ほかのサイトに詳細を譲りますが、計算してみると合格するために必要な偏差値は53.67ということになりました。
ここで注意したいのが、この53.67という数字。単純な偏差値ではなく、司法書士試験に合格するために勉強をしてきた1万人以上の中の、得点上位者と言える上位約17%の中での53.67です。単純に偏差値53というわけではありません。
実際の偏差値に換算すると?
この成績上位者の中で偏差値53.67という偏差値をマークするには、実際どの程度の偏差値が必要なのかを想定してみましょう。
ず、司法書士試験を受験する方のほとんどが、司法書士試験のための勉強をしてきた方と想定します。ここでは受験者全員の偏差値平均が60程度であると考えます。
偏差値60の1万人が受験し、そのうち上位約17%にあたる2,000人弱の偏差値は、おそらく70以上でしょう。つまり上の項で紹介した偏差値53.67は、偏差値70以上の方ばかりの中でマークすべき偏差値ということになります。
ご存じの通り、偏差値とは50が平均点です。全員の偏差値が70の中で、真ん中である偏差値50をマークするには、おそらく偏差値75程度の知力が必要となります。そして合格するために必要な偏差値が53.67となると、合格した方の偏差値は77~78といったあたりになるのではないでしょうか?
多くのサイトが司法書士試験の偏差値は75~78と想定していますが、この想定はおそらく大きく間違ってはいません。つまり、超難関の高校や大学に入る程度の偏差値がないと、司法書士試験には合格できないということになります。
司法試験の難易度を行政書士試験と比較
司法書士の業務の中心は、法務局や裁判所などに提出する書類の作成や、法務局で行う登記の代行などになります。この業務と似た業務内容になるのが行政書士です。
行政書士も書類作成が業務の中心です。行政書士が作成する書類は、市区町村役場など官公署に提出する書類の作成となり、ここが司法書士との違いです。
司法書士試験も行政書士試験も、学歴や性別などの受験資格がない点も共通点ですし、どちらも法律知識を問う問題が出題されるのも共通しています。
では司法書士試験と行政書士試験の難易度の違いはどの程度なのか、検証していきましょう。
受験科目を比較
出題科目 | 出題方法 | |
---|---|---|
行政書士試験 | 【法令等】 基礎法学 憲法 民法 行政法 商法 【一般知識等】 情報通信・個人情報保護 文章理解 |
択一式 多岐選択式 記述式 |
行政書士の試験も法律分野からの出題が中心となりますが、法律分野からの出題は5科目。11科目出題される司法書士試験と比較すると、対策はしやすいといえるでしょう。
さらに行政書士試験の出題傾向を見ると、法令問題の約7割が民法と行政法から出題されるため、出題範囲を幅広く平均的に勉強する必要がある司法書士試験と比較すると、やはり対策はしやすくなります。
合格率を比較
令和2年度試験 | 司法書士試験 | 行政書士試験 |
---|---|---|
受験者数 | 11,494人 | 41,681人 |
合格者数 | 595人 | 4,470人 |
合格率 | 5.2% | 10.7% |
令和2年(2020年)の試験結果を見ると、行政書士の合格率は司法書士試験の約2倍。この数字を見るだけでも司法書士試験の難易度の高さが分かるかと思います。
さらに注目したいのが受験者数です。受験者数は行政書士試験が4倍近くも多くなっています。受験者数が多いということは、それだけ受験準備が完了した方が多いということ。
つまり受験者数が多い試験というのは、それだけ受験に対する敷居が低いということを示しています。
行政書士試験と比較しても、司法書士試験の難易度が相当高いということが分かるでしょう。
司法試験の難易度を宅建士試験と比較
司法書士の業務の中心は、法務局へ行う登記の代行です。そんな登記の代行の中でも多いのが、不動産に関する登記の代行です。不動産の売買や遺産相続などで、不動産登記の変更が必要になった場合、その登記の代行を行うのが司法書士ということになります。
不動産の登記変更の際、活躍する資格となると宅地建物取引士の資格があります。宅地建物取引士の独占業務には、不動産取引の場で重要事項説明を行うという業務があります。
宅地建物取引士の業務の後に、司法書士が登記を代行するという形は非常に多くなります。そんな宅地建物取引士の試験と難易度を比較してみましょう。
受験科目を比較
出題科目 | 出題方法 | |
---|---|---|
宅地建物取引士試験 | 宅建業法 民法 借地借家法 不動産登記法 国土利用計画法 都市計画法 建築基準法 農地法 税制 |
四肢択一式 |
また、宅地建物取引士の試験は全問四肢択一式の出題になります。記述式の出題や二次試験で口述試験も行われる司法書士試験と比べれば、出題レベルは低くなります。
合格率を比較
令和2年度試験 | 司法書士試験 | 宅地建物取引士試験 |
---|---|---|
受験者数 | 11,494人 | 204,250人 |
合格者数 | 595人 | 34,338人 |
合格率 | 5.2% | 16.8% |
※宅地建物取引士試験は令和2年10月実施・12月実施分の合算
宅地建物取引士不動産業界で働く多くの方にとって、必須ともいえる資格になります。賃貸物件を紹介する不動産仲介業、不動産の売買を生業とする不動産売買業などの営業職は、取得を会社から推奨される資格です。
それだけに受験者数も非常に多く、司法書士試験の20倍近い受験者数になっています。合格率も2020年は3倍以上の合格率となっています。
宅地建物取引士の試験と比較すると、司法書士試験は非常に難しく、選ばれた方しか合格できない試験と考えていいでしょう。
まとめ
司法書士試験の難易度を一言で表せば「難関試験である」という言葉に尽きます。司法書士試験を目指し、十分に勉強してきた受験者たちの中でも、合格できるのは1割にも満たないほどの難しさです。
多くの方は司法書士試験に合格するために、数年間の準備期間を用意し、何度か受験を続けながら自身の弱点を知り、そこを補強しながら最終的に合格をしています。
司法書士試験が難関である理由はいくつかあります。憲法知識から民法、登記関連の法律など広範囲にわたる受験科目がまず考えられます。しかも、合格基準点が存在するため、試験範囲に得手不得手があると合格は難しくなります。
準備段階で大変なのが、合格判断が相対評価であるという点です。相対評価は受験者の上位数%が合格するという評価方法のため、目安となる合格点がありません。つまりどれだけ勉強してもしすぎるということはなく、ゴールのないマラソンを強いられているような感覚になります。
司法書士試験に合格するためには70台後半の偏差値が求められるのは、実際に計算しても間違いないでしょう。かつて学校の勉強でここまでの偏差値を記録したことがない方には合格は難しい試験なのでしょうか?
学校の受験勉強との大きな違いは、司法書士試験の問題は法律問題に限られるということです。学校の入試で言えば、数学や英語は無視して、国語の勉強だけを続け、国語の偏差値だけを上げればいいということになります。
確かに簡単ではありませんが、不可能でもありません。そんな難しい課題をクリアするためには、独学や予備校通学よりも通信講座がおすすめです。
予備校は決められたカリキュラム通りに学ぶことになりますが、そのペースについていけなくなった時点で勉強を積み重ねていくことが難しくなります。独学はマイペースを守れるものの、自分の弱点を把握するのが難しいという問題があります。
通信講座はマイペースで勉強をしながら、自身の弱点を指摘してもらえますので、こうした難関試験には非常に強い勉強方法といえます。
通信講座を上手に利用して、効率よく勉強するようにしましょう。