バーゼル条約ってなに? 脱プラスチックのトレンドとの関連は?!

バーゼル条約ってなに

バーゼル条約とは?バーゼル法によって規制を受ける廃棄物にはどのようなものがあるのか?輸出入する場合に必要な手続きは?最新の改正情報とその背景は?バーゼル条約について押さえておきたい基本情報をまとめました。

目次

バーゼル条約とは?

バーゼル条約とは、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約(英語:Basel Convention on the Control of Transboundary Movements of Hazardous Wastes and their Disposal)」という国際条約です。一言でいえば、有害廃棄物を途上国に持ち込むな!条約です。
1970年代より有害廃棄物が法規制の厳しい先進国から規制の緩い国へ、廃棄物の処理費用が安い途上国へと持ち込まれ、それらが放置され環境汚染の問題が生じるようになりました。1992年、人への健康被害と地球環境の破壊を防止する目的で、バーゼル条約が発効されました。翌1993年に日本はバーゼル条約に加盟しました。2018年5月末現在186か国が加盟しています(経済産業省)。

廃棄物などの輸出入に係る規制について、国際的な枠組みはバーゼル条約だけではありません。「回収作業が行われる廃棄物の越境移動の規制 に関するOECD理事会決定」(以下、OECD理事会決定)の存在も忘れてはいけません。
これらバーゼル条約とOECD理事会決定の機能は重複する部分もありますが、規制対象物の範囲や、輸出入にあたっての手続き等に多少の違いがあります。バーゼル条約締約国間ではバーゼルの規制が適用され、OECD加盟国間や2国間協定のある場合はそれに基づく規制が適用されます。それ以外については以下の表をご覧ください。

*OECD(経済協力開発機構) 経済成長・開発・貿易への貢献を目的とする国際機関

対象国 適用規制
バーゼル条約
締約国
OECD加盟国
韓国、英国、フランス、ドイツ、オーストラリア、カナダ、他
OECD理事会決定
OECD非加盟国
中国、フィリピン、マレーシア他
バーゼル条約
バーゼル条約
非締約国
OECD加盟国
米国
OECD理事会決定
OECD非加盟国 なし(バーゼル規制対象物は輸出入不可)

経済産業省HPより

日本では、バーゼル条約とOECD理事会決定のふたつの取り決めに対応するため、「特害廃棄物等の輸出入などの規制に関する法律(バーゼル法)」と「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」というふたつの国内法を制定しました。
両者の違いについて、バーゼル法は廃棄物の“有毒性”により規制対象を判断しますが、産業廃棄物法ではその廃棄物に価値があるかどうかが判断基準になっています。純粋に環境に重きをおいたバーゼル条約と、経済的な価値観が入ったOECD理事会決定といったイメージでしょうか。

バーゼル条約規制対象物はどんなもの?

バーゼル法に基づき規制される具体的なものなどについて、経済産業省のホームページに記載があったものを紹介します。

◇原則、規制対象

  • バーゼル条約附属書Ⅰかつ附属書Ⅲに該当するもので、具体的には附属書Ⅷに該当するものが対象。
  • バーゼル法では、特定有害廃棄物等省令別表第4~6に該当するものが対象。
    鉛蓄電池
    廃油
    シュレッダーダスト
    医薬品、医療廃棄物

◇原則、規制対象外

  • バーゼル条約附属書Ⅸに該当するもの
  • バーゼル法では、特定有害廃棄物等省令別表第2または3に該当するもの
    鉄くず(スチールスクラップ)
    廃プラスチック(燃えにくいポリ塩化ビニルであるPVCを除く)
    紙くず
    繊維くず
    ゴムくず

条約の附属書は物品名などがリスト化されたもので、バーゼル条約においてはI~IX(9)までの附属書があります。附属書を実際にみてみると、○○化合物やら色々と記されており、根っからの文系である筆者にはさっぱり何のことだかわからない品名が満載でした。仮に廃棄物らしき貨物があったとしても一体どの附属書の何に該当するのか?絶望的に分からないと思います。

そのような人のために、経済産業省と環境省は輸出入したい貨物がバーゼル法の規制対象に該当するか否か該非(がいひ)判定し相談者に助言や回答を行う「事前相談」を行っています。環境省については廃棄物処理法についての判断もします。

では、実際にはどのようなものが取引されているのでしょうか。環境省のホームページに経済産業省と共に集計した平成30年バーゼル法の施行状況についてデータがでていました。

◇輸出(2018年)

主な輸出先:韓国、ベルギー
主な品目:鉛スクラップ(鉛蓄電池)、石炭灰、錫鉛くず
輸出の目的:金属回収など再利用 

◇輸入(2017年)

主な輸入元:台湾、フィリピン、タイ
主な品目:電子部品スクラップ、金電池スクラップ、属含有スラッジ
目的:金属回収など再生利用

ところで、「バーゼル条約」と聞くと、あの時のことを思い出します。 筆者がかつて通関業者の営業担当として勤務していた頃のことです。

荷主より中古車のインナーカーゴ(車内積載物)として中古のバッテリーを入れて輸出したいとの要望を受けました。しかし、社内通関士より中古のバッテリーはバーゼルの規制対象ではないか?と指摘があり、荷主さんに規制の対象かどうかを経済産業省に確認するよう依頼することになりました。税関に輸出申告をする前に通関士から指摘されたのでその時は難を逃れましたが、もしインボイス上のバッテリーの記載がスルーされ、申告した後に税関から問い合わせを受けていたら…輸入地でトラブルになっていたら…考えるだけでぞっとします。

規制対象物品を輸出入するにはどんな手続きは必要?

バーゼル条約とOECD理事会決定に対応するバーゼル法と廃棄物処理法。いずれかの法律においても、規制対象となる物を輸出入する場合には、外国為替及び外国貿易法(外為法/がいためほう)における経済産業大臣の輸出の承認や輸入の承認を受けなければなりません。

さらに、関税法第70条(証明と確認)より、他法令の規定(ここでは外為法)により輸出入に関して承認などを必要とする貨物については、関税法における輸出入の申告の際に当該承認などを受けている旨を税関に証明しなければなりません。税関はこの証明がされない貨物について輸出入の許可をしません。

またバーゼル条約で規制するものを輸出入する際は事前通告制度をとっています。各国で規制対象物の解釈に差があるので、あらかじめ相手国の同意をもらっておく必要があります。この解釈の差によって貨物が返送すなわちシップバックされる事例も起きているようです。

◇バーゼル法に規定する「特定有害廃棄物等」の輸出

「特定有害廃棄物等」および廃棄物は外為法上の輸出承認を必要とするものとして輸出貿易管理令の別表第2に掲げられています。

必要な手続きとして、

  • 輸出先である相手国の書面による同意
  • バーゼル法に基づく環境大臣の確認
  • 外為法に基づく経済産業大臣の承認 が挙げられます。

廃棄物が適正に扱われるように輸出移動書類の携帯の義務付けなどもされています。

◇バーゼル法に規定する「特定有害廃棄物等」の輸入

「特定有害廃棄物等」および廃棄物は外為法上の輸入承認を必要とするものとして輸入貿易管理令第3条に基づく輸入公表第2の2号第2に記載があります。輸入目的などによっては該当しないものもありますが…。

必要な手続きとして、

  • あらかじめ輸入の相手国(輸出国)から書面による通告を受ける
  • 外為法に基づく経済産業大臣の承認 が挙げられます。

実際に貨物を運搬する際には輸入移動書類を携帯しなければなりません。また、処分を行ったときは、経済産業大臣、環境大臣、輸出者及び輸入の相手国(輸出国)といった関係各所に報告する必要があります。

ちなみに、バーゼル法ではなく「廃棄物処理法」に規定する「廃棄物」を輸出する場合は、環境大臣の確認と、外為法に基づく経済産業大臣の承認が必要です。輸入の場合は、環境大臣による許可と、外為法に基づく経済産業大臣の承認を要します。

中国の廃プラスチック輸入禁止措置とCOP14 改正点

2015年にプラスチック製のストローが鼻に刺さったウミガメを救出する動画が話題になりました。多くの人々が海洋ごみの問題を深刻に受け止めるきっかけとなりました。 その後大手コーヒーチェーンがプラスチック製ストローを廃止すると発表するなど世界的に脱プラスチックへの機運が高まっています。
プラスチックは自然には分解されません。川などに捨てられたゴミが海へと流れ出し、目に見えるゴミは勿論のこと、細かくなったマイクロプラスチックが海洋生態系に悪影響を及ぼしています。日本でもプラスチック製のレジ袋が問題視され大きくニュースに取り上げられました。

そのような流れのなかで、中国が2018年末をもって使用済み廃プラスチック(廃プラ)の輸入を禁止する措置をとりました。今まで中国は資源として大量の廃プラを受け入れてきましたが、完全シャットアウトしたのです。行き場を失った廃プラは代替地である東南アジアへと向かいましたが、そこでも輸入規制が敷かれました。書類上はリサイクル可能とされているにも関わらず、実際のところリサイクル不可能な廃プラがいっぱいに詰め込まれたコンテナがシップバックつまり送り返される事態も発生しました。

2019年、バーゼル条約締約国会議(COP14)にて「リサイクルに適さない汚れたプラスチックごみ」をバーゼル条約の規制対象とする改正案が採択されました。2021年の発効以降に廃プラを輸出する場合、輸出相手国(受け入れ国)の同意が必要になります。輸出禁止になったわけではありませんが、今後さらに規制が進み、廃プラの貿易取引量が減少すること必至です。各国が国内で処理できるように体制を整えていくことになるでしょう。

バーゼル条約が通関士試験と絡む部分

通関士試験では外為法上の輸出承認や輸入承認などを受ける必要があるか、ないか?を問うものが出題されています。数は少ないですが、バーゼル条約に関連して特定有害廃棄物等に係る貨物について輸出承認が必要なケースか否かを問う問題が過去に出されています。

さいごに

最近、4歳の娘がみていた幼児向けアニメーション動画に気になるものがありました。

胃の中がプラスチック製のレジ袋でいっぱいになったクジラ、ペットボトルに首を突っ込み取れなくなったカモメ、ビニールで首が締まったアシカ、ビニールがノドに詰まったカメ…といったかわいい海の動物たちが悶え苦しみ、パンダ扮するうみのおいしゃさんが助けていく歌です。
日本語ではありましたが、あまりに描写が直接的であり日本的ではなかったので調べてみたところ、中国企業が制作したコンテンツで英語・韓国語など8か国語展開をしているものでした。世界の多くの子供たちが目にしているのかもしれません。

このように海洋ごみなど環境についての問題提起が未就学児の教育分野にも及んでいます。先進国だけでなく途上国においても今後より一層環境への意識が高まり、廃棄物の移動を規制するバーゼル条約の存在意義も大きくなっていくのではないでしょうか。

◇参考

廃棄物等の輸出入管理の概要 ~輸出入をお考えの方に
環境省 環境再生・資源循環局 廃棄物規制課/経済産業省 産業技術環境局 資源循環経済課(2018年8月)

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