ライベートバンカーとは?証券外務員の資格・登録に顧客層の区分はない

窓の外に街並みが見える金融機関のオフィス。机の上にノートパソコンと書類、資料がまとめて置かれている

「プライベートバンカー」で検索すると、担当する顧客の資産額、年収、認定資格の名前が並びます。数字はどれも具体的なのに、その値がどこから来たのかは書かれていません。資格の要件を探しても見つからないのは、探し方の問題ではなく、外務員の制度の側にこの呼び名が置かれていないからです。

この記事では、外務員の制度が何を区切っていて何を区切っていないのかを先に確定させ、そのうえで自分の側で確かめられる範囲だけを扱います。根拠は日本証券業協会が公表している記述と、外務員試験の出題科目に限りました。資産額の定義・年収・関連資格の認定要件は本文に書きません。書かない理由も示すので、ほかの情報を読むときの物差しとして使えます。

なお、本記事は証券外務員ナビの一部です。仕事の内容やキャリアの全体像から確認したい方は、まずこちらのページをご覧ください。

もくじ

「プライベートバンカー」は、外務員の資格・登録の側にない呼び名

制度が置いているのは、試験の種類と資格の種別だけ

「プライベートバンカーになるための資格要件」を制度の側に探しても、答えは出てきません。外務員の制度に、この呼び名に対応する区分が置かれていないからです。

日本証券業協会が実施している外務員等の資格試験は6種類あります。その分かれ方は、一種・二種・内部管理責任者という区分と、会員・特別会員という所属先の区分の組み合わせです。顧客の資産規模で分かれている試験も、担当する顧客の層で分かれている試験もありません。

内訳は、一種外務員資格試験、二種外務員資格試験、会員内部管理責任者資格試験、特別会員一種外務員資格試験、特別会員二種外務員資格試験、特別会員内部管理責任者資格試験です。「特別会員」は所属先の区分を指しており、顧客の区分ではありません。

このうち、名称に「特別会員」が付く3つと会員内部管理責任者の試験は、所属先が受けさせる必要があると認めた人が対象です。何も付かない一種と二種には所属の条件がなく、一般の方も受けられます。

一般の方が受けるのは一種外務員資格試験と二種外務員資格試験の2つで、申込みの段階で「誰を担当するか」を申告する欄はありません。合格したあとに受ける外務員登録も、所属先が本人を外務員として登録するもので、職名で登録するわけではありません。

つまり「プライベートバンカー」は、所属先が業務の呼び名として使っている職名です。制度の側に対応物が無い以上、そこに要件は存在しません。資格そのものの成り立ちは証券外務員という資格の全体像で整理しています。

同じことは、ほかの職名でも起きます。M&Aアドバイザーという呼び名については、外務員が法律上どう定義されているかという側からM&Aアドバイザーと証券外務員の関係で確かめています。

参考:日本証券業協会「外務員等資格試験に関する規則」

外務員の制度が区切っているものと区切っていないものの対照図。制度の側には試験の種類と資格の種別と登録の有無があり、顧客層・担当資産額・職名・報酬・役職には目盛りが置かれていない

この記事で扱わないこと、その理由

資産額の定義、年収や報酬の水準、この呼び名を冠した資格の認定要件。この3つは本記事では扱いません。

いずれも出典を示せる一次情報がなければ書けない事項で、検索して出てくる数字にはどの会社の、いつの、誰についての話なのかが書かれていないことがあります。出どころの分からない数字を業界の姿として受け取ると、判断がずれます。

たとえば「純金融資産が一定額以上の顧客を担当する」という説明は、その会社の社内の呼び方かもしれませんし、書き手が別の統計から借りてきた区分かもしれません。同じ言葉でも、指しているものが違う可能性があります。

この記事が根拠にしているもの

日本証券業協会が公表している外務員資格の種類と職務の範囲、外務員資格試験の出題科目、そして金融商品取引法の登録に関する条文。本文の断定はこの範囲に収めています。確かめられないものは、確かめられないと書きます。

資格が区切っているのは、顧客層ではなく扱える商品の種類

協会が示している区切りは、商品の側にある

外務員の資格が区切っているのは、扱える商品の種類です。

協会は「外務員」のページで、種別ごとに行える職務の範囲を示しています。二種外務員資格については「現物株式などの外務員の職務を行うことができますが、信用取引、デリバティブ取引などリスクの高い商品についての外務員の職務を行うことができません」と説明し、一種外務員資格については「二種外務員資格で行うことのできる外務員の職務に加え、信用取引、デリバティブ取引を含めたすべての有価証券に係る外務員の職務を行うことができます」としています。

どちらの説明にも、顧客の側の条件は出てきません。富裕層と呼ばれる方を担当していても、はじめて口座を開いた方を担当していても、外務員としての職務の範囲は同じ目盛りで決まります。

参考:日本証券業協会「外務員」

顧客層・担当・報酬を決めているのは所属先

では誰が顧客層を決めているのかというと、所属先の会社です。

担当する顧客層、扱う商品の中での担当、役職、報酬。この4つには法令にも協会の規則にも定めが置かれておらず、会社ごとの規程に委ねられています。同じ一種外務員でも、配属によって担当は変わります。制度の側からは、その違いが見えません。

外務員登録の側も同じです。登録に現れるのは、どの種別の資格を持つ誰が、どの会社に所属しているかまでで、その人がどの顧客を担当しているかは記録されません。制度が把握しているのは、扱える商品の範囲と所属先という2つの情報だと考えると分かりやすくなります。

確かめる先は、いま所属しているなら所属先の規程、これから移るなら募集要項です。この分かれ方そのものは証券外務員からのキャリアパスで扱っています。

この領域で種別が効くのは、二種の職務の範囲外にある商品

提案の幅を広げるなら、目盛りは商品の側にしかない

「もっと幅広い提案ができる仕事に就きたい」という動機で資格を考えているなら、自分で動かせる目盛りは種別です。

制度が区切っているのが商品の種類である以上、外務員としてできることを増やす方向は、扱える商品を増やす方向に限られます。協会は信用取引とデリバティブ取引を名指しで二種の職務の範囲外としており、提案の中にこれらが入るなら、二種のままではその職務を行えません。協会は一種を二種外務員資格の上級資格に位置付けています。

種別は、憧れの職名に近づくために選ぶものではなく、行える職務の範囲を広げるために選ぶものです。

試験の側の差は1科目、ただし深さが変わる

一種と二種の出題科目の差は、商品業務の「デリバティブ取引」1科目です。一種の出題範囲は、二種と同じ3分野14科目にこの1科目が加わった15科目になります。

ただし同じ科目でも問われ方が違い、二種は基礎的知識、一種は実務的、専門的知識が問われます。二種の側にも、職務の範囲外である信用取引およびデリバティブ取引の基礎的知識を「株式業務」「債券業務」など関連する科目に含めて出題するという注記が付いています。範囲を足すというより、深さを足す作業に近いところがあります。

順序は自由、ただし指定は仕事の側から来る

受験資格に年齢・学歴・実務経験の要件は設けられておらず、取得の順序に関する要件もありません。二種から順に受けることも、最初から一種を受けることもできます。

ただし、まったく制限がないわけではありません。不合格だった場合は30日の待機期間が置かれ、その間は協会が実施するすべての試験を受けられません。先に一種を受けて届かなかったときに、二種へ切り替えて受け直すこともできないということです。

一方で、募集要項に種別の指定が書かれていることがあります。その指定は資格の優劣を表したものではなく、その仕事で行う職務の範囲から来ていると考えて読めます。指定が無いときに推測で決めず、応募先に確認しておくと後戻りが減ります。

科目ごとの配点は証券外務員試験の出題科目と配点、種別の決め方は一種と二種の選び方に書いています。

語られる話題のうち、外務員試験に載っているのはどこまでか

出題科目の一覧に当ててみる

この領域で語られる話題のうち、外務員試験の出題科目に載っているものと載っていないものは、科目の一覧に当てれば自分で分けられます。二種の出題範囲は3分野14科目で、科目名が公表されているからです。

有価証券の売買や勧誘に関わる話題は、科目に載っています。株式業務、債券業務、投資信託及び投資法人に関する業務が商品そのものを扱い、証券税制が税、財務諸表と企業分析が会計、経済・金融・財政の常識が経済、セールス業務が顧客への説明にそれぞれ接しています。ここまでは、外務員の学習で土台ができる範囲です。

参考:日本証券業協会「外務員資格試験」

科目名に無い話題のほうが、判断には効く

一方で、この領域の説明によく出てくる話題のうち、科目の一覧に名前が無いものがあります。

相続や贈与の設計、信託、不動産、保険、事業承継。これらは3分野14科目のどの科目名にも現れません。外務員試験は有価証券に係る職務のための試験で、出題範囲もその輪郭で引かれています。「証券税制」は税に接する科目ですが、証券の税制です。

証券外務員二種の3分野14科目に、富裕層向けの業務で語られる話題を当てた図。株式業務・債券業務・投資信託・証券税制・財務諸表と企業分析・経済金融財政の常識・セールス業務は接している一方、相続や贈与・信託・不動産・保険・事業承継には該当する科目がない

この見分けは、情報を読むときの道具になります。ある説明の中心が科目名に無い話題で占められているなら、それは外務員の資格で確かめられる範囲とは別の話をしています。資格の勉強を始めるかどうかの判断に、その説明をそのまま持ち込まない。逆に、科目に載っている話題であれば、自分が何を学んだのかを人に説明するときの材料になります。

2つの意味を混ぜない

科目名に無いということは、外務員試験ではその範囲を確かめていないということです。その業務が世の中に存在しないという意味でも、扱ってはいけないという意味でもありません。この2つを混ぜると、資格の位置づけを見誤ります。

試験範囲の外にある話題は、外務員の側から埋めようとしない

確かめ先は、問いの種類ごとに違う

科目名に無い話題を、外務員の教材や合格した人の説明で埋めようとしないでください。当て先が違います。

問いには、制度に答えがあるもの、会社にしか答えがないもの、自分で決められるものがあり、当て先はそれぞれ別の場所にあります。資格の種別で何が行えるかは協会が公表しています。担当する顧客層や報酬は、所属先の規程と募集要項に書かれています。別の分野の資格の要件は、その資格を実施している団体の情報です。本記事がそれらの要件を書かないのも、同じ理由によります。

制度に答えがある問いなら、当て先ははっきりしています。資格の種類と職務の範囲、そして更新研修のような登録後の義務は日本証券業協会が公表しており、登録そのものの根拠は金融商品取引法にあります。どちらも一次の情報にたどり着けるので、人づての要約で済ませる必要がありません。

「プライベートバンカーになるには」という問いを3つに分けた図。制度に答えがある問いは日本証券業協会、会社にしか答えがない問いは所属先の規程と募集要項、自分で決められる問いは受ける種別と時期

この記事が数字を書かない理由も、同じ物差しで読める

本記事にそうした数字が出てこないのは、情報が少ないからではありません。出どころを示せない数字を書くと、読んだ人の計画がその数字に引きずられます。

ほかの記事を読むときも、同じ物差しが使えます。数字が出てきたら、それが誰の公表した値なのか、いつの値なのかを探してみてください。書かれていなければ、判断の材料からいったん外します。確かめられる材料だけで組み立てたほうが、結果として早く決まります。

求人票に書かれた条件の読み方は証券外務員資格を活かせる仕事と求人の読み方、別の分野の資格を検討するときの確認項目は次に狙う資格の考え方にまとめました。

いま確かめられること、いま動かせること

受験の側には、経験も所属も要らない

3つに分けた問いのうち、いま自分の意思だけで動かせるのは受ける種別と受ける時期です。

受験資格に年齢・学歴・実務経験の要件はなく、協会も証券業務に従事する方に限らず受験できるとしています。業界の外にいる段階でも、資格の側は進められます。

ただし資格と登録は別のもので、協会は「外務員資格を持っているだけでは、外務員として活動することはできません。」としています。登録を受けるのは所属先の金融商品取引業者等であって、本人が単独で申請するものではありません。順番としては、動かせる資格の側を先に動かし、所属の話はそのあとになります。

参考:e-Gov法令検索「金融商品取引法」

学習量の見積もりと、種別の決め方

提案の幅を商品の側から広げるつもりなら、一種まで見ておくことになります。信用取引とデリバティブ取引が二種の職務の範囲外に置かれているからです。

フォーサイトが示す標準学習期間と学習時間の目安は、二種が1〜2ヵ月で50〜80時間、一種が1〜3ヵ月で80〜100時間です。二種から順に受ける進め方と、一種と二種をまとめて対策する進め方があり、フォーサイトの講座も「二種スピード合格講座」と「一種+二種スピード合格講座」の2コースに分かれています(いずれも2027年試験対策。デジタルプラン(一種+二種)/(二種)もあります)。

決めるのは職名ではなく種別です。費用と教材の中身は証券外務員講座の受講料でご確認ください。

この記事のまとめ

外務員等の資格試験は6種類で、分かれ方は種別と所属先の区分。顧客の資産規模や顧客層で分かれている試験はない
協会が示す職務の範囲は商品の側の目盛り。二種は現物株式など、一種は信用取引・デリバティブ取引を含むすべての有価証券に係る職務
担当する顧客層・役職・報酬には法令にも協会の規則にも定めが無く、所属先の規程と募集要項で決まる
この領域で語られる話題のうち、相続や贈与の設計・信託・不動産・保険・事業承継は3分野14科目の科目名に無い
いま自分の意思だけで動かせるのは、受ける種別と受ける時期
この記事のまとめ
この記事のまとめ

よくある質問

プライベートバンカーになるには、どの資格が必要ですか?

外務員の制度の側にこの呼び名に対応する区分が置かれていないため、「この資格を取れば就ける」という要件は存在しません。有価証券の売買や勧誘に係る職務を行うには外務員登録が必要で、登録を受けるのは所属先の金融商品取引業者等です。担当する顧客層は所属先の規程で決まります。

証券外務員の資格は、富裕層向けの業務でも使えますか?

外務員としての職務の範囲は、顧客ではなく扱える商品の種類で決まります。協会は二種外務員資格について「現物株式などの外務員の職務を行うことができますが、信用取引、デリバティブ取引などリスクの高い商品についての外務員の職務を行うことができません」とし、一種外務員資格については信用取引、デリバティブ取引を含めたすべての有価証券に係る外務員の職務を行うことができるとしています。

一種と二種のどちらを取るべきですか?

提案する商品に信用取引やデリバティブ取引が入るなら、二種の職務の範囲外になります。所属先や応募先が求める種別を先に確かめたうえで決めるのが確実です。判断の材料は一種と二種の選び方にまとめています。

相続や不動産の知識は、証券外務員の勉強で身につきますか?

3分野14科目の科目名に相続・信託・不動産・保険・事業承継は含まれていません。「証券税制」は税に接する科目ですが、証券の税制です。別の分野については、その資格や制度を実施している団体の情報で確かめてください。

未経験でも受験できますか?

受験資格に年齢・学歴・実務経験の要件はなく、協会も証券業務に従事する方に限らず受験できるとしています。ただし資格と登録は別のもので、外務員として活動するには所属先を通じた登録が必要です。

この記事の監修は伊藤 亮太 講師(いとう りょうた)
伊藤亮太講師
仕事に活かすためには丸暗記ではダメ
出身
岐阜県大垣市
趣味
旅行、御朱印巡り
尊敬する人
福沢諭吉
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