M&Aアドバイザーと証券外務員|資格の要否は職名ではなく「行う行為」で決まる

「M&Aアドバイザーに証券外務員は要るのか」を調べても答えが出てこないのは、探し方の問題ではありません。外務員という言葉を、法律が職名ではなく行為の列挙で定義しているからです。名前と名前は突き合わせられません。
この記事では、条文が何をどう定義しているのかを確かめたうえで、問いを答えの出る形に立て直します。そのうえで、資格の要否とは切り離して検討できる知識の側について、出題範囲から言えるところまでを整理します。
なお、本記事は「証券外務員ナビ」の一部です。仕事の内容やキャリアの全体像から確認したい方は、まずこちらのページをご覧ください。
外務員は「職名」ではなく「行為」で定義されている
条文は、名前を問わないと明示している
外務員かどうかは、その人が何と呼ばれているかでは決まりません。条文がそう書いています。
金融商品取引法第64条第1項が、名称を問わないと明示しています。
同項は「金融商品取引業者等は、勧誘員、販売員、外交員その他いかなる名称を有する者であるかを問わず、その役員又は使用人のうち、その金融商品取引業者等のために次に掲げる行為を行う者(以下「外務員」という。)の氏名、生年月日その他内閣府令で定める事項につき、内閣府令で定める場所に備える外務員登録原簿(以下「登録原簿」という。)に登録を受けなければならない。」としています。勧誘員、販売員、外交員と職名を並べたうえで、それらを問わないと断っています。
定義に使われているのは名前ではなく、そのあとに続く「次に掲げる行為を行う者」の部分です。
「職務」という言葉も、行為の集合を指している
条文が言う「外務員の職務」も、業務の内容やポジションの名前ではありません。列挙された行為のことです。
同条第2項が、そのように定義しています。
第2項は「金融商品取引業者等は、前項の規定により当該金融商品取引業者等が登録を受けた者以外の者に外務員の職務(同項各号に掲げる行為をいう。以下同じ。)を行わせてはならない。」としています。括弧の中で「同項各号に掲げる行為をいう」と言い切っています。列挙されている側には、たとえば「売買又はその媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)若しくは代理の申込みの勧誘」といった行為が並びます。
登録が要るかどうかは、その人にどの行為をさせるかで決まる構造になっています。
列挙されているのは3つの号
では、その列挙には何が並んでいるのか。第64条第1項は、3つの号に分けています。
一号が有価証券に係る行為、二号がそれとは別に掲げる行為、三号が政令で定める行為です。
一号と二号は、それぞれイとロに分かれます。イは第二条第八項の号を参照する形なので、そちらを追わないと全体は読めません。一方でロの側は、条文だけで読めます。一号ロに並ぶのは「売買又はその媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)若しくは代理の申込みの勧誘」「市場デリバティブ取引若しくは外国市場デリバティブ取引又はその媒介、取次ぎ(有価証券等清算取次ぎを除く。)若しくは代理の申込みの勧誘」「市場デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引の委託の勧誘」の3つ。二号ロは「店頭デリバティブ取引等の申込みの勧誘」です。
並んでいるのは、勧誘・媒介・取次ぎ・代理という、取引への関与のしかたです。自分の仕事を「誰のために、どの取引に、どう関与するのか」の形で言葉にできれば、条文のどこを見ればよいかが決まります。

では「M&Aアドバイザー」はどこに着地するのか|IFAと比べてみる
制度に着地する職名と、しない職名がある
職名がすべて制度と無関係だ、というわけではありません。制度に着地する職名もあります。
IFAがその例です。この呼び名は、法律が定める登録の区分に対応しています。
金融商品取引法第66条は、銀行や協同組織金融機関などを除く者について「内閣総理大臣の登録を受けて、金融商品仲介業を行うことができる。」と定めています。IFAという呼び名は、この登録の区分に対応しています。だからIFAを検討するときは、まず登録の話から確認を始められますし、登録を受けているかどうかを外から確かめることもできます。
一方、この記事で確認した範囲では、「M&Aアドバイザー」に対応する登録の区分は見当たりませんでした。外務員資格試験の側にも、この名前の試験はありません。試験の分かれ方に職名や顧客の区分が置かれていないことは、プライベートバンカーという職名の扱いでも同じ形で確かめています。
同じ職名でも、入口として使える名前と、使えない名前があります。「調べても出てこない」という感覚は、後者を入口にしたところから来ています。

「対応する区分が存在しない」と言い切っているわけではありません。この記事で確認したのは証券外務員に関わる制度の範囲で、その中に見当たらなかった、ということです。
だから「この仕事に要りますか」には答えが返らない
ここまでを合わせると、「M&Aアドバイザーに証券外務員は要りますか」という問いに制度の側から答えが返らない理由が見えてきます。
問いが職名を主語にしているのに対し、条文は行為を主語にしているからです。
条文の形に合わせて問いを書き直すと、「その仕事は、金融商品取引業者等のために、条文が列挙した行為を行うものか」になります。同じことを聞いているようで、答えを持っている相手が変わります。前者に答えられる人はどこにもいませんが、後者に答えられるのは、その仕事の中身を知っている側です。
問いの立て方を変えると、確認先が決まります。資格そのものの位置づけは証券外務員という資格の全体像、IFAについてはIFAという働き方で扱っています。
だから問いは2つに分かれる|「登録が要るか」と「知識が効くか」
性質の違う2つが混ざっている
「M&Aの仕事に証券外務員は関係するのか」という問いには、性質の違うものが混ざっています。
「その仕事をするのに登録が要るか」と「その仕事で学んだ知識が効くか」では、決まり方がまったく違います。
前者は法令と所属先で決まります。条文の列挙に当たるかどうかの話で、自分の努力では動きません。後者は出題範囲と業務の中身の重なりの話ですから、条文とは無関係に検討できます。
混ぜたまま調べると、片方が分からないだけで全部が止まります。
この記事で確認できたことと、できていないこと
分けたうえで、この記事の到達点をはっきりさせておきます。
どこから先が確認できていないかを示さないと、判断を誤らせてしまいます。
確認できたのは、登録の要否が何によって決まるかという構造です。確認できていないのは、M&Aに関わる個別の業務が、条文の列挙に当たるかどうかです。後者は法令と各社の業務の中身を突き合わせる話で、この記事では扱いません。一方の知識の側には、出題範囲という確かめられる材料があります。こちらはこのあと具体的に見ていきます。
要否が確定しないうちでも、知識の側は先に検討できます。

知識の側|出題範囲のどこが、企業を見る話と地続きか
関連科目に、企業そのものを扱う2科目がある
出題範囲の中に、企業そのものを扱う科目があります。
二種の出題範囲は3分野14科目で構成されていて、その【関連科目】に株式会社法概論と財務諸表と企業分析が含まれるためです。
株式会社法概論は、会社という器の仕組み、つまり株式や機関の設計を扱います。財務諸表と企業分析は、その会社を数字の側から読む科目です。M&Aの話に出てくる「会社を買う」「株式を取得する」という言い方は、この2つが扱う対象と地続きです。
制度の話とは別に、扱う対象が重なっている部分なら具体的に指せます。
商品業務の側は「取引の言葉」として効く
【商品業務】の株式業務も、無関係ではありません。
株式がどう売買され、どういう規律のもとで扱われるかを扱う科目だからです。
会話に出てくる用語の輪郭が掴めている状態と、そうでない状態では、同じ説明を聞いたときの理解の深さが変わります。ただしこれは、共通の語彙が増えるという意味であって、業務がそのまま行えるようになるという意味ではありません。
効くとすれば、言葉が通じる範囲としてです。
試験で問われる形と、業務で使う形は違う
ここで一度、期待の水準を下げておきます。
試験は限られた時間で正誤を判定する形式で、実務の判断とは形が違います。
出題は〇✕方式と五肢選択方式で、正誤を選ぶ形をしています。3分野14科目を見ても、企業価値の評価そのものを主題にした科目は置かれていません。評価の手法は、この記事でも扱いません。
出題範囲から言えるのは、扱う対象が重なっているところまでです。
科目ごとの中身と配点は証券外務員試験の試験科目と配点、学習の当て方は科目別の勉強法と計算問題の型で分解しています。
確認する順番|行為の言葉に置き換えてから、募集要項と規程に当たる
3つの順番で確認する
ここまでを、実際に動かせる順番にします。
問いを立て直したあとなら、確認先は具体的に決まります。
まず、その仕事の中身を行為の言葉に置き換えて把握します。何を、誰のために行うのかです。次に、募集要項に外務員登録や資格の種別についての記載があるかを見ます。記載があれば、その仕事は条文の列挙に当たると所属先が判断している、ということです。記載がなければ、選考の過程で確認します。在職中に社内での異動を考えているなら、所属先の規程やコンプライアンスの担当部署が確認先になります。
いずれも、検索結果ではなく、その仕事を持っている側に聞く形です。
募集要項が答えるのは、種別と、所属先が変わるかどうか
「M&Aに関わるなら一種が要るのか」も、同じ形の問いです。
一種と二種を分けているのは行える職務の範囲で、区切りは扱える商品の側にあります。職名からは決まらないので、指定があるかどうかは募集要項を見ることになります。種別の違いと選び方は一種と二種の違いと選び方で分解しています。
もう一つ、募集要項の側から決まるのが所属先です。この仕事に近づくときに動くのはたいてい所属先で、そこが変わると資格は残りますが登録は残りません。進路の分かれ道は証券外務員からのキャリアパス、資格と登録の扱いの違いは資格の登録と有効期限にあります。求人票そのものの読み方は資格を活かせる仕事と求人の読み方です。
書かれていないことを、書かれているように扱わない
調べていて出典が示されていない記述に当たったら、そこで止めてください。
この記事でも、年収や案件の件数、市場の規模には触れていません。出典を確かめられる公的な統計に当たれないためです。同じ理由で、どの会社が有利かという話も扱いません。
①その仕事で行うことを、行為の言葉に置き換える(何を、誰のために行うのか)→②募集要項に外務員登録や種別の記載があるかを見る→③記載がなければ選考の過程で確認する(在職中の異動なら所属先の規程・コンプライアンス担当)。出典の示されていない年収や件数は、この3つのどこにも使いません。
要否が決まらないうちでも、知識の側は先に進められる
受ける時期は、就業の状態から切り離せる
登録の要否が確定していなくても、受験の時期は自分で決められます。
「外務員等資格試験に関する規則」第4条が一種・二種の受験について定める要件は2点だけで、所属先の有無は出てきません。協会も、証券業務に従事する方に限らず金融に関心のある全ての方に受験いただけるとしています。試験はCBT方式で、土日・祝日・年末年始を除き通年で実施されます。
2つに分けた問いのうち、知識の側は先に動かせるということです。
学習量の見積もりは幅で持っておく
どのくらいかかるかは、幅で見ておくのが実際的です。前提知識によって、必要な時間が変わります。
フォーサイトが示す標準学習期間と学習時間の目安は、二種が1〜2ヵ月で50〜80時間、一種が1〜3ヵ月で80〜100時間です。迷っている段階でも、この幅なら予定に置けます。
未経験から進むときの順番は未経験から証券外務員へ転職するときの順番、働きながらの学習は働きながら目指すときの勉強法にまとめています。
この記事のまとめ
「M&Aアドバイザーに証券外務員は要るのか」は、制度の側が応答しない形の問いでした。答えを持っている場所が分かれば、確認は進められます。
よくある質問
この記事では、必要とも不要とも書いていません。外務員登録が要るかどうかは職名では決まらず、金融商品取引法第64条が列挙する行為をその仕事が含むかどうかで決まるためです。
個別の業務が列挙に当たるかは、募集要項の記載と、所属先や応募先への確認で分かります。
証券外務員の側にはありません。「外務員等資格試験に関する規則」第3条が定める試験は6種類で、その中にこの名前はありません。
証券外務員以外の分野については、この記事では確認していません。
IFAという呼び名は、金融商品取引法第66条が定める金融商品仲介業の登録の区分に対応しています。そのため、登録の有無から確認を始められます。
一方、この記事で確認した範囲では、M&Aアドバイザーに対応する登録の区分は見当たりませんでした。
その仕事に一種の指定があるかどうかで決まります。一種と二種を分けているのは行える職務の範囲で、二種は信用取引やデリバティブ取引についての外務員の職務を行うことができません。
募集要項に指定があればそこで決まり、なければ選考の過程で確認するほうが早く済みます。
出題範囲に置かれているのは、財務諸表と企業分析、株式会社法概論といった科目です。3分野14科目の中に、企業価値の評価そのものを主題にした科目は置かれていません。
ただし、個々の出題項目までは本記事で確認していません。評価の手法はこの記事では扱っていないため、学習の範囲は科目名から見当をつけてください。

職名から資格を逆に引こうとすると、どうしても手が止まってしまいます。順番を入れ替えて、その仕事で何を行うのかを先に言葉にしてみてください。誰のために、どの取引に、どう関わるのか。ここが書けると、条文のどこを見ればよいのかが決まります。教材で扱う法令や商品の知識は、この言い換えをするための道具でもあります。進路がまだ固まっていない段階でも、学習を先に進めておく意味はここにあります。