ATAカルネとは?

ATAカルネとは?
目次

ATAカルネとは?

ATAカルネとは、世界の主要国との間に結ばれている「物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約)」に基づく国際的制度による通関用書類のことです。A.T.Aとは、フランス語”A”dmission “T”emporaire、英語”T”emporary “A”dmission より、一時輸入を意味する頭文字の組み合わせです。カルネとは、フランス語Carnet=手帳 を意味します。

職業用具、商品見本、展示会への出品物などの物品を仕事のために外国へ一時的に持ち込む場合、外国の税関に対して免税扱いの一時輸入通関手続きが手軽にできるようになります。

たとえば、もし、仕事のために物品が 日本→A国→B国→日本 と巡る場合、日本での輸出通関・A国での輸入通関・A国での輸出通関・B国での輸入通関・B国での輸出通関・日本での輸入通関 計6回もの手続きを経ることになり、その都度通関書類を作成する必要があります。

しかし、日本でATAカルネを発給しておけば、1通のカルネが通関手続きの異なる数か国の税関で使用できる輸出入申告書になります。各税関でその通関手帳を提示し、通関の許可を受けるとカルネに税関のスタンプが押されます。

また、通常、貨物を一時的に持ち込む場合、輸入税*の支払いまでは求められないとしても、税関から輸入税相当額の担保金を提供するように指示されることがあります。しかし、ATAカルネを利用すると、カルネが支払保証書の役割も果たしますので、外国への輸入税の支払いや保証金の提供が不要になります。

*輸入税
関税その他輸入に際して納付すべきすべての租税をいい、輸入物品に課される内国税と消費税を含みます。

ATAカルネを利用する場合、貨物を一時輸入しようとする国がATA条約に加盟している必要があります。

ATA条約は、物品の一時免税輸入のために共通の手続きを採用することが、国際的な商業活動および文化活動に著しい利益を与え、また締約国の関税制度の一層高度の調和および統一を確保することになるとして、協定されました。

加盟国は、2019年10月時点で、アジア、太平洋、北米、中南米、欧州、中東、アフリカより101か国です。そのうちの6か国はATA条約には締約していますが、日本との間では未発効です。中国も加盟していますが、香港とマカオのみが条約の対象であり、中国のその他の地域では適用されていません(外務省)。

ATAカルネの仕組み

日本でATAカルネの発給を行っているのは、財務大臣の認可を受けた、一般社団法人「日本商事仲裁協会(JCAA:The Japan Commercial Arbitration Association)」です。一時輸入や保税運送*がされる物品に係る輸入税の保証団体です。

発給に関しては東京と大阪にあるJCAAの協会事務所に問い合わせをすることになります。

*保税運送
関税などの徴収を留保した状態、つまり輸入許可前に外国貨物のまま国内の運送を行うことです。日本の場合、税関の承認を受けた上で、保税地域間の運送が可能です。

協会にATAカルネの申請を行い、協会が内容を審査した上で発給されます。発給手数料のほかに担保の提供または担保措置料の支払いが必要です。もし、一時輸入した貨物が盗難、損壊、譲渡などの理由で期限内に再輸出されず、外国で輸入税などが課された場合は、その国のカルネ保証団体を通じて日本の協会が代わりに輸入税などの支払いをしてくれます。

カルネの発給を受けた人は現地の税関から直接輸入税などの支払いを請求されることがなくなり、代払いしてもらった自国の保証団体である協会に対して支払いをすれば済むことになります。

これが、ATAカルネが支払保証書としての機能を果たせる仕組みです。

なお、物品の再輸入を終えた使用済み、または有効期限の満了したカルネは、速やかに協会に返納します。協会がカルネの使用に伴う義務が完全に履行されたことを確認した後に提供していた担保は返還されます。

ATAカルネの利用のポイント

ATAカルネのポイントをまとめます。

  • 機能
    税関に提出する通関書類 兼 輸入税の担保書類
  • 対象国
    持ち込もうとする国がATA条約に加盟していること
  • 有効期限
    ATAカルネの有効期限は、条約に定めるところにより、発給日から最長1年間です。有効期限の延長は条約により認められていません。なので、有効期限までに外国から貨物を再輸出する必要があります。最終的に物品が自国に戻ってくる輸入時は期限が切れていてもokです。
  • 利用できる物品
    主に、商品見本、職業用具、展示用物品など
    ただし、国によっては利用できない物品もあります。
  • 利用者の義務
    ATAカルネの有効期限内に持ち込んだ物品を持ち出すこと。
    つまり、要 再輸出です。
  • 法令の規定により、通関に際して事前に他省庁の許可や承認が必要な物品は、通関手帳に加え、その法令の規定に基づく許可書や承認書の添付が必要です。

カルネ通関の流れ

誰が通関手続きを行うか?
携帯品であれば、「カルネ使用者」が出入国の際に、
別送品であれば、「通関業者」が 税関にATAカルネを提示することで通関手続きを行います。

◇カルネ使用者による通関手続き
携帯する商品見本などをATAカルネにより通関する場合、旅具通関扱いとなり、簡易な手続きを受けられます。

◇通関業者による通関手続き
通常、日本で通関業者が税関に対し輸出入の通関手続きを行う場合、NACCS(ナックス)と呼ばれるオンラインシステムを使用します。しかし、2019年現在、NACCSにはATAカルネ通関に係る業務はありません。ATAカルネに所定事項を記入し、蔵置場所を管轄する税関の通関部門へカルネ手帳自体を提出することになります。

ただ、現在NACCSにATAカルネ通関の業務を新設することなどが検討されています。ATAカルネの原本を税関に提示するステップは避けられませんが、近い将来NACCS上で通常の貨物と一緒にデータ管理できる日が来るかもしれません。

そのようなわけで現状、カルネはNACCSでの申告ができないので、輸出入申告書の代わりにATAカルネを税関に提示し、税関が輸出入許可のスタンプをしたカルネが輸出入許可書として交付されることになります。

自動車用のカルネがある?!

以前通関業者にて営業をしていた頃、カルネの原本を数回拝見する機会がありました。来日されていた外国人の方が本国に帰るのに輸出する自家用車とカーレース用に輸出する自動車だったと思います。

商業見本展示用、カーレース用、テスト用などの自動車の輸出入通関を行うのにATAカルネが利用されているようですが、ATAカルネとは別に自家用自動車の通関手帳(カルネ)という自動車に特化したカルネの制度もあるようです。

ATAカルネと自家用自動車の通関手帳(カルネ)の違いを簡単に。

ATAカルネ 自動車通関手帳(カルネ)
基づく条約 物品の一時輸入のための通関手帳に関する通関条約(ATA条約) 自家用自動車の一時輸入に関する通関条約
有効期限 1年以内 1年以内
利用できる物品
  • 商品見本
  • 職業用具
  • 展示用物品
    など
  • 車両(自動車・原動機付自転車)
  • 車両の部分品や付属品など
    ※旅行目的ok
利用者の義務 外国に持ち込んだ物品は、ATAカルネの有効期間内に必ず持ち出す 車両を自動車通関手帳の有効期間内に必ず持ち出す
カルネ発給元 一般社団法人「日本商事仲裁協会」 社団法人 日本自動車連盟(Japan Automobile Federation:JAF)

いずれも国際条約に基づき、カルネの担保のもと免税扱いによる通関手続きが簡単にできる特徴があります。

まとめ

  • ATAカルネは、職業用具、商品見本、展示会への出品物などの物品を仕事のために外国へ一時的に持ち込む場合、一時免税輸入の手続きを容易にする制度。
  • ATAカルネ(通関手帳)は、通関書類と輸入税などの支払保証書の機能を兼ね備えている。

さいごに、通関業者目線として、輸入者からカルネを送ってもらえば、免税の根拠が明確なので、その点カルネの利点だと思いました。

以前、海外の駐在員の方が日本に戻る際に現地で使用していた自動車を輸入する手続きを担当したことがあったのですが…。免税の根拠が、引越し貨物or出戻り貨物なのか?で少々面倒なやり取りがありました。前者では用途外使用をしない旨の誓約書をもらう必要があり、手続きの必要書類に違いがあったためです。

カルネはその点、カルネが全てを物語りますので、どの法的根拠を持って免税なのか?明確です。輸入者と通関業者の意思疎通が容易になります。

実際に、初対面のフィンランド人の方からカルネ通関の依頼を受けて対応をしたことがありましたが、カルネのおかげで容易に手続きを進めることができました。

通関の専門的知識のない方が言葉や文化の壁がある外国の税関や業者を相手に、輸出入手続きを行うのは大変かもしれません。担保を要求されてしまうなど異国の地で予期せぬ事態に見舞われてしまう恐れもあります。そのようなとき、通関書類 兼 輸入税などの支払保証書の機能を兼ね備えたカルネはとても便利です。

輸入者はもちろんのこと、税関や通関業者にとってもメリットがあります。

せっかくの便利な制度なので、ATAカルネをうまく活用していきましょう。

➡通関士の試験内容はこちら
通関士コラム一覧へ戻る