通関士が代行する不服申立てとは?手続きの手順や注意点を解説!
更新日:2020年7月21日
不服申立てはどのような事案に対して行うことができるのでしょうか?輸出入者からの相談が比較的多い不服申立てに該当する事案や手続きの流れを整理しておきましょう。またおさえておきたい注意点についても解説します。
通関士が代行する不服申立てとは?
不服申立てとは、関税法およびその他関税に関する法律のもと、税関長が行った処分などにより権利や利益が侵害された人を救済するための制度です。不服申立ての代理行為は通関業法第2条第1号に記載されている通関業務に含まれるため、通関士が輸出入者らに代わって行います。
➡通関士についてはこちら不服申立てができる事案とできない事案
前述した通り、不服申立ては関税法その他の関税に関する法律の規定による税関長の処分へ不服がある場合に行います。しかし、税関長の処分と一言でいっても、不服申立てができる事案とできない事案があります。
不服申立てができる4つの事案
不服申立て対象となる「税関長の処分」には以下の4つが含まれます。
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税関長が税関の名においてする処分
具体例は以下の通りです。- 課税標準または税額などに関する更正もしくは決定
- 加算税の賦課決定
- 更正の請求に対し一部を認める旨の更正、または更正をすべき理由がないことの通知
- 納税の告知
- 国税(関税)の滞納処分など
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収容および留置
収容とは以下の貨物に対して行われる行為です。- 指定保税地域に搬入後1ヶ月を経過した貨物
- 保税蔵置場などに搬入した後3ヶ月が経過した貨物
- 旅客もしくは乗組員の携帯品のうち、輸出または輸入の許可がなされないもの
- 原産地を偽ったもしくは誤認させるおそれのある表示がある貨物
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関税の賦課もしくは徴収または滞納処分
具体例は以下をご確認ください。- 輸入割当が必要な貨物など輸入制限がある貨物を没収しない場合の関税の徴収
(関税法第118条第5項の規定) - 留置物件もしくは差押物件に対する関税の徴収
(関税法第134条第4項および第6項の規定)
- 輸入割当が必要な貨物など輸入制限がある貨物を没収しない場合の関税の徴収
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児童ポルノ、公安また風俗を害すべき書籍などに該当する旨の通知
輸出してはいけない、もしくは輸入してはいけない貨物として規定されている「児童ポルノ」に抵触するおそれがある貨物などに該当する旨の通知を指します。
税関長の処分は税関長の名のもと税関職員が行います。そのため、税関職員が行った処分も税関長の処分に該当する点に注意しましょう。
不服申立てができない事案
たとえ税関長が行った処分であっても、関税法(犯則事件の調査および処分)の規定にかかる処分に対しては、不服申立てはできません。これは犯則事件の調査および処分に該当する事案は、税関長の管轄ではなく司法処分に相応するためです。
不服申立て手続と不服申立てができる期限
不服申立て手続には以下の3パターンがあります。
- 再調査の請求を行い、その決定に従う
- 再調査の請求を行い、その決定に納得がいかず、審査請求を行う
- 最初から審査請求を行う
なお、最初に再調査の請求を行った場合は、それに対する決定を待って、必要があれば審査請求を行います。決定を待たずして審査請求を行うことはできません。
ただし再調査の請求を行った日の翌日から起算して3ヶ月を経過しても、税関長が決定を行わない場合は、決定を待たずして審査請求が可能です。
では、再調査の請求および審査請求における手続きの概要と、不服申立てができる期限を確認しておきましょう。
1.再調査の請求
不服申立て手続の第一段階目は、税関長に対して行う「再調査の請求」です。
「再調査の請求」ができる期限は、税関長による処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内と定められています。処分があった日ではなく、処分があったことを知った日である点に注意が必要です。
なお、処分があった日の翌日から1年を経過した場合は、「再調査の請求」の権利は喪失します。ただし正当な理由がある場合は、再調査の請求ができることもあります。
再調査の請求は、既定の税関様式C7000号「再調査の請求書」を管轄の税関官署に所属する税関長あてに提出することで行います。記載方法などについては、税関のホームページ(https://www.customs.go.jp/kaisei/youshiki/form_C/C7000k.pdf)で紹介されています。
2.審査請求
不服申立て手続の第二段階目は、財務大臣に対して行う「審査請求」です。
「審査請求」ができる期限は、手続きのパターンにより違います。以下をご確認ください。
2.再調査の請求を行い、その決定に納得がいかず、審査請求を行う場合
→再調査の請求に対する決定があったことを知った日の翌日から起算して1ヶ月以内
※期限を超過することに正当な理由がある場合は除く
ただし、上記の再調査の請求に対する決定があったことを知った日から、1年を超過すると、審査請求を行う権利が消失します。
3.最初から審査請求を行う
→税関長による処分があったことを知った日の翌日から起算して3ヶ月以内
審査請求のみを単独で行う場合は、請求期限である3ヶ月を超過すると請求する権利が失われます。
不服申立て手続の流れ
では不服申立て手続の具体的な流れを、再調査の請求と審査請求に分けて説明しましょう。
1.再調査の請求の流れ
再調査の請求に対して、税関長は以下の3つの判断を下します。
- 却下
→再調査の請求期限が超過している場合および不適法と判断した場合 - 棄却
→再調査の請求に対する理由が認められない場合 - 容認
→再調査の請求に対する理由が相当であると認める場合
2.審査請求の流れ
財務大臣は審査請求に対し、以下の順番で手続きを進めます。
- 審理員による審理
→審理後は、審理員意見書が提出される - 関税等不服審査会への諮問
→審理員意見書などの書面をもとに審理を行い、財務大臣に通知する - 財務大臣による裁決
→関税等不服審査会により通知された答申をもとに最終の採決を行う
採決は、審査請求が不適法と判断する「却下」と、適法と判断する「容認」があります。
不服申立て時に知っておきたいこと
通関士が不服申立てを行う際や、輸出入者から質問された際に知っておきたい3つのポイントをご紹介します。
関税等不服審査会への諮問とは?
関税等不服審査会への諮問とは、財務大臣への審査請求があった場合、以下の場合を除き必ず行われる手続きです。より専門的な判断を行うための手続きで、以下の2つの会があります。
- 関税・知的財産分科会
→関税の確定や徴収に関する処分、滞納処分に関する判断を行う
→知的財産侵害物品(特許権、意匠権などを侵害する物品)に係る認定通知の判断を行う - 輸入映画部会
→公安や風俗を害する物品などに該当するかどうかを判断する
関税等不服審査会への諮問は、基本的にすべての審査請求に対して行われますが、以下の場合は行われません。
- 審査請求を行った申請人が希望しない場合
- 審査請求自体が不適当なものである場合
不服申立てと訴訟
税関長に対する再調査の請求および財務大臣に対する審査請求を経ることなく、訴訟をすることも可能です。ただし今後も通関手続きを行う輸出入者である場合、処分を決定した税関長を飛ばしていきなり訴訟をするケースは少ないのが実情です。
また以下の場合は、税関の管轄内の事案であることから不服申立てを行わずに、訴訟に持ち込むことはできません。
- 関税の確定あるいは徴収に関する処分または、滞納処分の取消しの訴え
- 輸出してはならない貨物(関税法69条の2第3項に規定)もしくは輸入してはならない貨物(関税法第69条の11第3項に規定)に関する以下の通知に対する取消しの訴え
→税関長が、児童ポルノに該当すると認めるのに相当の理由がある貨物として、輸出者に対して行った通知を取り消すこと
→税関長が、公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品または、児童ポルノに該当すると認めるのに相当の理由がある貨物として、輸入者に対して行った通知を取消すこと
2に関しては、法に抵触することに対する確かな証拠があることから、訴訟を行うまでもないと判断されることが、訴訟が認められない理由です。
異議申立てとの違い
不服申立ては、平成28年4月1日の行政不服審査法(平成26年法律第68号)の施法改正により変わった制度です。それまでは異議申立書の提出をもって税関長に異議申立てが行われていました。
そのため、平成28年3月31日までに行われた処分についての不服申立手続に関しては、法改正前の手続きをとる必要があります。
まとめ
不服申立ては輸出入者の権利を守るために通関士が代行する大切な手続きの一つです。そのため、輸出入者から税関長の決定に対して納得がいかないと不服申立てを行いたいと相談されることもよくあります。
手順を踏んで行うことはもちろん、今後の輸出入手続きに支障をきたさないためにも、輸出入者および税関との打ち合わせは中立の立場で行うことが大切です。また請求期限などもしっかりと覚えておくようにしましょう。
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