関税の目的は国内産業の保護!支払い方法や計算方法を解説
更新日:2020年4月16日
外国と貿易取引をするにあたって、切っても切れないのが関税です。関税の基礎知識、支払い方法や計算方法を含めて解説します。
また、通常、輸入貨物には関税以外に消費税、地方消費税も同時に課せられます。今回は輸入貨物に課せられる関税に着目して説明しますので、消費税、地方消費税も支払う必要があるということだけ知っておいてください。
「関税」とは?
関税とは税金の一種で、貨物が国境を越えて動く際に発生します。一般的には「外国から輸入される貨物」に対して課させる税金で、税関により徴収されます。厳密にいうと、税関は財務省管轄の行政機関であるため、徴収した関税は国の財源となります。
関税を理解するためには、税関の業務を知るとより分かりやすいでしょう。
税関は、次の2つの業務を行っています。
- 税金の徴収
- 通関手続き
「税金の徴収」とは、輸入される貨物に対して課せられる、関税や消費税といった税金を徴収する業務です。
「通関手続き」とは、輸出入する貨物に対する輸出入申告が適正であるかを審査し、許可を与える業務です。
つまり関税とは、輸入国でその貨物の通関手続き(関税の計算を含む)が完了した後、貨物引き取り前に税関に支払う税金です。関税が必要な輸入貨物は、関税が支払われないと国内流通できません。この大原則を踏まえた上で、関税が発生する理由と発生するタイミングについて詳しくみていきましょう。
輸入貨物に関税が課せられる理由
輸入貨物に関税が課せられる理由は、以下の2つです。
- 財政収入の目的(財政関税)
- 国内産業の保護(保護関税)
かつては、関税も国の財政収入として大きなウエイトを占めていました。しかし最近では、国内産業を保護する意味合いが強くなっています。
輸入貨物に関税を課すことで、その分輸入コストが高くなり、販売価格に影響します。結果、同じ商品でも、国産品に対する競争力を低下させることができ、国内の産業を守ることができるのです。
実際、逆委託加工貿易*1が盛んになったことで、国産品は高いというイメージが作られました。これは、労働賃金が安い外国で製造した方が、外国からの輸送費や関税などがかかったとしても、国産品よりも安い価格で店頭に並べることができるためです。
消費者が価格だけで比較し、国産品が売れなくなると国内産業に大打撃となることから、輸入貨物には関税が課されるのです。
*1 日本から提供した材料を使用し、海外の工場で加工した商品を、日本に輸入する貿易形態
関税が発生するタイミング
関税が発生するタイミングは、保税地域から引き取られるときです。
輸入貨物は、物理的に日本に到着した段階では、まだ外国貨物のままです。外国貨物とは、外国から日本に到着した貨物で、かつ輸入許可がなされていない貨物を指します。通関手続きと関税の支払いが行われるまでは、保税地域に蔵置されることとなります。ちなみに保税地域の保税とは、関税の支払いを留保されている状態を指します。
保税地域から引き取るために必要なのが通関手続きと、それにともなう関税の支払いです。通関手続きが完了し、関税や消費税などが支払われた後に、輸入許可書が発行され、保税地域から貨物が引き取れるようになります。
➡通関士についてはこちら関税は必ず必要?税率は?
次に、「輸入貨物に関税は必ず必要なのか?」「そして税率はどのように決められているのか?」について説明します。
輸入する商品には有税品と無税品がある
輸入する商品には、関税が課せられる有税品と、関税が課せられない無税品の2種類があります。
現状、有税品が約65%、無税品は約35%であり、関税が課せられる商品の方が多くなっています。無税品に該当する場合は、関税の支払いは不要ですが、冒頭で触れた消費税、地方消費税は発生することがあります。無税品に該当するのは、鉄鉱石、羊毛、綿花、写真用フィルム、ゴムタイヤ、機械類などです。
関税は日本国内および海外情勢に影響を受けるため、急激に輸入量が増えることで緊急関税制度*2が発令され、無税品が有税品になることもあります。また、日米貿易協定などの自由貿易協定の締結により、輸入する国によって有税品でも無税品となるケースも増えています。
課税価格によっては免税適用
有税品であっても、関税を計算する基礎となる課税価格によって、免税適用となるケースもあります。免税適用されると、本来発生する関税を支払うことなく、通関手続きのみで貨物を保税地域から引き取ることが可能となります。
免税となる金額のボーダーラインは「課税価格の合計額が1万円以下」であることです。この場合、関税はもちろん消費税、地方消費税も免税となります。ただし、革製のカバン、ハンドバッグなど商品によっては、免税とならないものもあるので注意が必要です。
また、課税価格の合計額が1万円以下の物品の免税適用とは別に 一定の条件を満たすことで関税が免税や減税、あるいは一旦納めた関税が戻ってくる制度もあります。
たとえば、関税定率法14条*3に規定される無条件免税に含まれる「再輸入品」は、以下の規定を満たせば、関税の支払いが免除されます。
- 日本から輸出された貨物であること
- 日本からの輸出された性質、形状のまま輸入されること
輸出者が注文された商品と違ったものを輸出し、返品された場合などが、これにあたります。実務上、輸入者は減免戻し税制度を知らないことも多いため、適用できることを輸入者に説明し、税関に減免戻し税制度適用をしてもらえるように打診するのも通関士の仕事です。
*3 関税定率法14条に規定される無条件免税に含まれる「再輸入品」(税関ホームページ)
税率は「実行関税率表」で確認
輸入する貨物の税率が何%になるのかは、輸入統計品目表(実行関税率表)で確認します。実行関税率表は、第21部第97類と細かく分けられており、分厚い電話帳のような冊子とインターネット上で閲覧できるWebタリフの2つがあります。
実務上、通関士も税関職員も、実行関税率表を「タリフ」と呼ぶことが良くあります。タリフとは英語で関税を意味するTariffのことです。
実行関税率表は、法改正のタイミングで年1回(1月1日)輸入統計品目表の改正が行われ、新しいタリフが発行されます。また関税率の見直しは、公共機関の会計年度が替わる4月1日にも改正が行われます。そのため、年度が変わるタイミングで税率の適用間違いというケアレスミスに注意が必要です。
輸入する貨物が実行関税率表のどれにあたるのかを判断するのは非常に難しく、タリフだけでなく、関税率表解説・分類例規や過去の事例を確認する必要があります。
特に分類が難しいとされる衣類例にあげると、判断するには以下の情報が必要です。
- 男性用か、女性用か、男女兼用か
- 大人用か、乳幼児用か
- 衣類の分類(トレーナー、Tシャツ、ブラウス、パンツ、肌着など)
- 生地の種類や織り方、編み方など
- 素材の材質と比率
- プリントの有無
- 刺繍の有無、大きさなど
輸入者からのインボイス、商品の仕様書などを元に、どの統計品目番号に該当し、税率は何%かを、タリフを見ながら審査するのも、通関士の仕事です。また税関と意見が食い違った際に、関税率表解説・分類例規や過去の事例をもとに交渉も行います。
関税の支払いについて
続いては、関税支払いの例外的措置、関税の支払い方法、立て替えなどについて解説します。
関税支払いの例外的措置
輸入貨物が有税品の場合、通関手続きによって決められた関税を支払うことで輸入許可書が発行されるのは、前述した通りです。輸入許可がなされていることの確認が取れないと、保税地域から荷物を引き取ることができません。
実務上、システムに参加している保税地域であれば、パソコン上で輸入許可貨物かどうかを調べることができます。しかしシステムに参加していない保税地域の場合、輸入許可書のコピーを持参し、輸入許可書に該当する貨物だと確認を受けて。引き取るケースもあります。
しかし特例輸入者制度*4が適用できる場合は、輸入申告と納税(関税の支払い)を分けて行うため、輸入許可後納税前に、貨物を引き取ることができます。関税の支払いは、期日までに納税申告を行い、支払うこととなります。
関税の支払い方法は?
関税の支払いは、かつては口座引き落としや電子納付がなく、直接納付に出向くしかありませんでした。直接、金融機関へ行って関税を納付し、納付後は支払い済みの納付書を税関に持ち込んで輸入許可を受けます。そのため、時間帯によっては、輸入許可のタイミングが翌日にずれ込むこともよくありました。
しかし、通関手続きのスピード化が推進され、最近では直接納付に出向く以外の支払い方法も選択できるようになりました。
- リアルタイム口座から引き落とし ※関税支払い用に登録が必要
- 電子納付 ※インターネットバンキングなどの利用
- 関税等の納期限延長制度の利用
関税等の納期限延長制度のみ、関税の支払い前に輸入許可がおります。この制度は、前述の特例輸入者制度とは異なり、事前に担保を提出しておけば誰でも、輸入許可日の翌日から3ヶ月以内の納期限延長が可能となります。
関税の立て替えとは?
関税は輸入者が支払いますが、輸入者がリアルタイム口座を持っていない場合で輸入貨物の引き取りが急ぐ場合などに、通関業者が立て替えることがあります。
実務的には、通関業者が税関に登録しているリアルタイム口座から引き落とすケースがほとんどです。ただし、通関業者の規模によっては1日に何千万という関税を立て替える必要が生じます。
また立て替えた関税を輸入者から回収しないままに、輸入貨物が引き取られてしまうと、輸入者がそのまま逃げてしまうというケースもゼロではありません。
そのため、通関業者の関税立て替えは基本推奨されておらず、立て替えたとしても、貨物引き取り前に振り込みなどの方法で回収するのが原則です。
関税の計算方法と為替レート
ここからは、関税の計算方法と輸入申告時に使用される為替レートについてご紹介します。
関税の計算方法は?
輸入貨物にかかる関税、消費税のうち、関税の計算式は以下の通りです。
※課税標準は1,000円未満切り捨て
※関税額は100円未満切り捨て
CIF価格が関税率を計算する元となる価格であり、課税標準と呼ばれるものです。CIF価格には以下のものが含まれます。
- 輸出者からの卸売価格 ※インボイス額が基本
- 日本までの輸送運賃
- 日本までの保険料 ※付保されている場合のみ
これ以外に、輸入するためにかかった費用(加算要素)が加算され課税標準となります。輸入するためにかかった費用とは、ブランドのライセンス使用料や輸入に関する仲介手数料など、輸入貨物の「現実支払価格」に加算すべき費用等*5として決められています。
*5 輸入貨物の「現実支払価格」に加算すべき費用等(税関ホームページ)
では、CIF価格570,300円、加算要素なし、関税率7.4%の場合の計算をしてみましょう。
支払い関税額 = 4,200円
輸入申告時に使用される為替レート
インボイス価格はドルなど外貨で記載されていることがほとんどです。そこで、外貨を日本円に換算するために外国為替相場が決められています。これは、日々の為替レートではなく、輸入申告の日の属する週の前々週の、実勢外国為替相場の当該週間の平均値が使用されます。
為替レートは上がったり下がったりするため、輸入申告を行うタイミングによって、課税標準が変わり、関税が安くなったり、高くなったりします。そのため、あまり急ぎでない輸入貨物の場合は、輸入者から輸入申告を行う週を指定されることもあります。
課税標準USD10,500.00、加算要素なし、関税率7.4%の場合を、「1ドル=110.18円の場合」と「1ドル=108.59円の場合」を例にあげてご紹介します。
課税標準1,156,890円(USD10,500.00×110.18円)
1,156,000円(課税標準) × 0.074(関税率) = 85,554円
支払い関税額 = 85,500円
課税標準1,140,195円(USD10,500.00×108.59円)
1,140,000円(課税標準) × 0.074(関税率) = 84,360円
支払い関税額 = 84,300円
今回の場合、関税額の差は1,200円程度ですが、取引額が倍になれば12,000円と差が開いてきます。
まとめ
関税は国内産業を保護するために大切な役割を担っています。計算自体は、計算式さえ知っていれば可能です。その一方で、課税標準に加えるべき費用かどうかの判断や関税率の判断は、専門知識を持った通関士が得意とするところです。
慣れないうちは難しく感じがちですが、さまざまなケースの輸入案件を取り扱うことで、スムーズに計算ができるようになります。
通関士を目指す方、通関業務に従事する方は、関税の基礎知識を頭に入れておくことが大切です。