海外取引において必要不可欠な「外国為替相場」を正しく理解しよう

海外取引において必要不可欠な「外国為替相場」を正しく理解しよう

海外での貿易取引に当たっては、当然ながら各国間の通貨交換比率が重要になってきます。この交換比率のことを「外国為替相場」と言いますが、これは貿易の分野に限らず、私たちの身近なところでも肌で感じることが出来ます。

例えば海外旅行を計画している人にとって、円高と円安ではどちらがお得感が増すでしょうか。

例えば1ドル100円の比率で100ドルのホテルに泊まる場合、日本円で換算したら1泊10,000円の宿泊費になりますが、1ドル110円で円安が進行していた場合、1泊11,000円の宿泊費となり割高感が強くなります。

今回は貿易に限らず私たちの身近な生活の中でも頻繁に登場する外国為替相場について、そのための法律である外為法や、この相場を左右する重要なファクターである「外国為替市場」についても触れつつ、話を進めていきたいと思います。

目次

外国為替及び外国貿易法(通称:外為法)とは

自国・外国間の相互取引を大きな仕事とする通関士の立場としては、外為法の目的と意義を理解することは極めて重要になってきます。

正式名称は「外国為替及び外国貿易法」と言いますが、この法律は、外国為替・外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、これらに対し必要最小限の管理や調整を加えることにより、対外取引の正常な発展や日本・諸外国の平和や安全を維持し、かつ国際収支の均衡や通貨の安定を図ることを目的として制定されました(外為法第1条)。

少なくとも日本は、輸入と同様に輸出に関しても積極的に奨励する立場を崩していません。つまり外為法における上記の目的に合う限りの最小限度の制限を加えるという趣旨で、本条が制定されていると言うことができます。

外国為替相場とは

外為法はいわば諸外国との取引を行う上での「理念」のような大きなものであるのに対し、外国為替相場とは、もう少しミクロな存在の、通関士にとっては日常的に頭に入れておかなければならない概念と言うことが出来るかもしれません。

外国為替相場とは、異なる通貨間の交換比率を言います。この交換比率である相場は、外国為替市場での当該通貨間の需要と供給のバランスにより変動します。例えばドルが欲しい人が多数いて、ドルを売りたい人が少数しかいない場合には、ドルが品薄になり値上がりすることになります。

円高と円安の話を海外旅行の例を取って冒頭でご紹介しましたが、これを日本の貿易市場に当てはめて考えてみましょう。日本の中では、代金を受領する輸出者は、入ってくる円貨額が増える「円安」の方が有利になり、逆に、代金を支払う輸入者は、「円高」の方が少ない円貨額を支払えばいいことになるので、円高の方が有利に働きます。

外国為替市場のしくみ

外国為替市場における当該通貨間の需要と供給のバランスにより変動する外国為替相場ですが、それでは、外国為替市場とはどのような仕組みになっているのでしょうか。

通関士や貿易実務検定の国家資格を目指す人の中には誤解している方も一部いらっしゃるかもしれませんが、外国為替市場とは、証券取引所のような特定の場所を指すのではなく、コンピュータや電話回線で繋がれたネットワーク全般を表します。

このネットワークに参加しているのは銀行や為替ブローカーなどであり、このネットワーク間で通貨を売ったり買ったりということが行われています。

銀行と為替ブローカーとの間のネットワークのことを「インターバンク」と言い、そこで行われる取引のことを「インターバンク取引」と言います。通関士の国家試験対策としてはぜひチェックしておきたいワードです。

為替変動リスクと先物相場

このインターバンクでの取引は、当該通貨間の需要と供給のバランスによって相場が変動するということは既に述べた通りです。

翻ってこれを、輸出入を担う者に当てはめてみると、この変動する相場をそのまま適用してしまうと一方に不利益(あるいは利益)が被る者が現れるだけでなく、業務的にも非常に煩雑な要素が絡んでくることは想像に難くないでしょう。

そこで、貿易市場では、基本的に、大幅な変動が生じない限りはその日1日ごとの固定の通貨交換比率を決めた上で、輸出入の取引を行っています。この相場のことを「対顧客相場」と言います。

対顧客相場は当日朝の東京外国為替市場における銀行間取引相場を参考に、アメリカドルの場合は朝10時ころに決定されています。

為替変動リスクと先物相場

対顧客相場があるとはいえ、短期かつ少額の取引の場合はまだしも、大きな取引となると、外国為替相場は常に変動するため、輸出入者にとっては採算が確定しにくいという問題点があります。このリスクを「為替変動リスク」と言いますが、輸出入者はこの問題点をどのように解決しているのでしょうか。

直物相場と先物相場

為替変動リスクを回避するためには、今現在の相場である「直物相場(じきものそうば)」と、将来の相場である「先物相場(さきものそうば)」を明確に使い分ける必要があります。

別名「spot」とも呼ばれる直物相場とは、外貨の売買契約の成立の際に、その対価の受け渡しが行われる取引に適用される相場のことを指します。

一方で「forward」と形容される先物相場とは、外貨の売買契約は成立するものの、実際の資金の受け渡しは契約上決められた将来の一時点、あるいは一定期間の間に行われる取引に適用される相場を指します。

貿易とは他国との商売ですので、その中には多くのリスクが発生することになります。その中でも特に、この為替相場変動のリスクは直接、収支に影響してくる要因でもあるため、決して無視はできない問題です。

この「spot」と「forward」については、これらのリスクを軽減する一つの大きな回避策になり得ます。

海外の相手と輸出入の取引契約を完了すると考えなければならないのが、契約から、決済の間の外国為替相場の変動を見越して、即時交換レートの「直物相場」にするのか、あるいは将来の決済時期でのレートを予約して事前に銀行と契約する「先物相場」にするのかという点です。

現実的には、先物相場を適用することで有利な場合もありますし、逆に見込み違いということになって利益を享受できないという不利な場合も発生し得ます。

実際の輸出入取引と相場

外国為替を利用した輸出入取引では、円貨と外貨の交換が生じるため、変動する相場の影響を常に受けることになります。

もし相場が変動して不利な条件となり、予定していた採算を割ってしまった場合、その商取引はもちろん、大きな取引の場合は最悪、会社の業績に大きな影響を及ぼしかねません。

そこでこれらの為替変動リスクを回避し、採算を確定させるために、輸出入者は「先物予約」を行います。先物予約とは、将来、外貨の受け渡しをするときを予想して、その時の相場を予め予約しておくことです。

つまり、実際に外貨を受け渡す日の相場に関係なく、先物予約をしていた日の相場が適用されることになるので、輸出入者双方にとって金額の見込みが明確に立つというメリットがあります。予め採算を検討できるという点から、先物予約は輸出入取引の実際の現場で広く使われている手法です。

輸出入取引における相場の種類

貿易事務検定では対顧客相場表の見方まで出題される可能性がありますが、通関士の試験では、少なくとも相場の種類に関しては理解を深めておくことが重要です。

輸出入取引においてはいろいろな場面で相場を使って、円貨と外貨を交換する機会が出てきます。その際に適用される相場には様々な種類があり、そのケースによって使い分けられています。

先に述べた直物相場と先物相場以外にも、少なくとも以下の相場の種類に関しては、試験対策として抑えておくにこしたことはありません。

対顧客相場表での表記 名称 内容
TT 電信相場 銀行が資金移動の指図を電信で送る場合の相場。銀行に資金の立替が発生しない場合に適用されます。
TTS 電信売相場 取引の資金移動の指図を電信で送るときの相場。対顧客仲値に銀行の利益として、1円の手数料が加えられています。つまり、通貨の交換比率である相場に予め銀行の利益を盛り込んだものです。
TTB 電信買相場 TTSと同様、銀行が顧客から電信為替を買うときに適用される相場。対顧客仲値に1円の銀行手数料を差し引いたもの。
Acceptance Rate 一覧払輸入手形決済相場 TTSの売相場とは異なり、輸入信用状に基づく一覧払手形の決済に用いられる相場。銀行に何の立替も発生しないTTSと違い、銀行に手形の期間に相当する資金の立替期間があることから、その間の利息が予め相場に盛り込まれています。
A/S 一覧払輸出手形買相場 Acceptance Rateと同様、買相場における、銀行における手形の期間に相当する立替期間の利息を盛り込んだ相場。
Usance Buying Rate 期限付手形買相場 銀行が輸出者から信用状付きの期限付手形を買い取った場合の相場。手形の期間に応じて相場は異なります。

まとめ

外国為替相場に関してはその少しの差で、輸出入を担う双方にとって致命的なダメージを受けることになりかねません。税関のホームページに輸入申告の日の属する週の前々週の、実勢外国為替相場の当該週間の平均値が掲載されていることからも、そのことが伺い知れます。
https://www.customs.go.jp/tetsuzuki/kawase/index.htm

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