通関士も知っておきたい!事後調査の目的と対応方法とは?

右手でルーペ持って左手で電卓打ってる人

通関士が輸出入者から相談を受けるのは、日頃の通関業務についてだけではありません。税関が輸出入者に事後調査の連絡をした際、どういう対応をすればいいのか?などの相談を受けることが良くあります。

事後調査の目的を理解し、適切なアドバイスができるように事後調査の概要と具体的な事例を分かりやすく解説します。

目次

通関士が相談を受けることが多い事後調査とは?

事後調査とは、税関長による輸出入許可がすでに終わった貨物の取引に関する調査です。税関には様々な部門があります。日頃の輸出申告の審査などを行う「業務部」、船舶の監視取締りや税関検査、保税地域などの許可などを取り扱う「監視部」、そして事後調査などを専門的に扱う「調査部」に分かれています。

事後調査では、調査部の事後調査専門の税関職員が個別に輸出入者の会社などを訪問する形で行われるのが特徴です。

事後調査の目的と必要書類

一度輸出入許可を出しているにも関わらず、なぜ再度事後調査に入り、調べる必要があるのか?と疑問に感じる方もいるかもしれません。事後調査をする権利は、関税法第105条第1項第6号に「税関職員の権限」における「質問検査権」として規定されています。そのため、輸出入者は税関による事後調査を拒否することはできません。

ちなみに、NACCSを使用した輸出入申告を行うと、区分1~3までの3つの判定が行われます。区分1(簡易審査扱い)となった場合は、税関の審査は全くなく即許可となるため、実質的に税関の審査や検査は皆無となります。こういった理由から、審査ができていないものをしっかり調査したいという意向もあると考えられます。

では、事後調査にはどのような目的があるのかを以下で確認しましょう。

輸出に関する事後調査

輸出に関する事後調査の目的は、適正かつ迅速な輸出通関を実現することです。これは輸出者自身も感じていることだろうと思います。しかし、通関業者や通関士などと違って、輸出者は関税法など貿易取引に関するすべての法律を理解しているわけではありません。

そのため、知識がないがために、故意でなくとも関税法等関係諸法令に違反していることもあります。

そこで、輸出に関する事後調査では輸出申告が関税法等関係諸法令に沿った申告となっているかどうかを判断します。そして、万が一不適切な申告を行っていた場合は、以下の2点を指導します。

  • 適切な申告を行うための指導
  • 企業における適正な輸出管理体制および通関処理体制の構築の促進

簡単にいうと、間違っている箇所を指摘し、どのようにするべきかという正しい進め方を指導し、かつ、それを実践するために社内体制を整備するように指導を行います。

輸入に関する事後調査

輸入に関する事後調査の目的は、「輸入貨物に対して適正な課税を確保する」ことです。具体的には、課税価格は正しいのか?関税率は正しいのか?などが調査されます。

輸出に関する事後調査と同様に、関税法等関係諸法令に沿った申告になっているかを調べた上で、不適切な申告を行っていた場合は、以下の2点を指導します。

  • 修正申告など是正させる
  • 適切な申告指導

輸出に関する事後調査と同様に、正しい輸入申告が行えるように社内体制の整備を行うこともあります。

事後調査で税関に求められる書類とは?

事後調査の際には税関より、輸出入に関する以下の書類などを提出するように求められます。具体例をご確認ください。

  • 輸出入許可書
  • 輸出入に関する契約書
  • インボイス
  • 原産地証明書
  • 会計帳票
  • 決裁書類
  • 発注書類
  • その他文書(メール等含む)
  • 海外への送金明細
  • 運賃明細書
  • 保険料明細

輸出入の取引形態が分かるもの、そしてお金の流れが分かるものを包括的に見ていきます。

また、輸出入に関する書類は、一定期間保管する義務があります。これらを保存していないと、指導対象となります。輸出入ごとに保管義務がある書類と保存義務期間をご紹介します。

輸出 輸入
帳簿 輸出許可の日の翌日から5年 輸入許可の日の翌日から7年
書類(インボイスなど) 輸出許可の日の翌日から5年 輸入許可の日の翌日から5年
電子取引の取引情報にかかる電磁的記録の保存 輸出許可の日の翌日から5年 輸入許可の日の翌日から5年

輸出入ともに、基本的に許可の日の翌日から5年が保存義務期間です。輸入の帳簿のみ許可の日の翌日から7年と長いので注意が必要です。

ちなみに、書類の保存義務は5~7年ですが、事後調査時には過去3年程度の書類の提示を求められるのが一般的です。

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事後調査でよくある疑問点

事後調査を輸出入者が受ける際に知っておきたい疑問点をまとめて解説します。輸出入者から通関士が相談を受けることも多い内容なので、知識として知っておくことをおすすめします。

1.事後調査はいきなりあるの?

事後調査は基本的にはアポなしで行われることはありません。ただし、違法な行為をしている情報を税関が事前に掴んでいる場合はアポなしで来社する可能性もあります。これは、書類の隠蔽や偽造などをさせないためです。

一般的には約1ヶ月前に連絡があります。事後調査の通知は電話やファックスなどで行われます。税関が具体的な日時を指定してきますが、やむを得ない事情がある場合などは、協議の上、変更も可能です。

2.事後調査の頻度は?

事後調査の頻度は3~5年の間に1度が一般的です。前回の事後調査時に指摘が多かった輸出入者や、輸出入量が激増した輸出入者ほど頻度が多くなりがちです。

前述した通り、輸出入者の書類保存義務が最低5年なので、それを超えることはあまりありません。ただし、すべての輸出入者に必ず事後調査が入るとは限りません。物量が少ない、頻度が少ない輸出入者の場合は、入らないこともあります。

なかには事後調査に入った輸出入者の取引先や関係会社にも調査が及ぶこともあります。

3.事後調査の日数は?

事後調査の日数は輸出入者によって異なります。2~3日程度で終わることもあれば、商社などの場合は5日程度かかることもあります。

また、場合によっては複数回に分けて行うケースもあり、調査の進み具合にも左右されます。

4.事後調査前に準備すべきことは?

事後調査前に準備すべきことは、前述した「事後調査で税関に求められる書類」を整理しておくことです。保存義務は捨てていなければいいということではなく、きっちり時系列や取引先ごとになど区分してファイリングするなどしておくことを指します。

書類が整理できていないと、税関職員の事後調査にも時間がかかってしまい、日数が長引きます。また整理ができていないだらしない輸出入者だという印象を与え、指導が厳しくなる可能性もありますので、注意しましょう。

5.事後調査の立会いは通関士がする?

事後調査の立会いをするのは基本的に、輸出入取引をしている会社の社員が行います。

貿易実務なども社長自身が行っている会社であれば、社長自身が立ち会うでしょう。一方、中小企業の場合は貿易担当部署の部課長とお金の流れが分かる経理担当者などが行います。

商社などの場合は、まれに通関士などが依頼を受け、立ち会うこともあります。ただし、事後調査の立会いに関しては通関士や通関業者の仕事ではないため、あくまでサービスとして行われるものです。

通関士や通関業者が立ち会わない場合、輸出入申告について税関からの指摘があった際、不明点があれば、輸出入者から問い合わせが入ることがあります。これに回答するのは通関士や通関従事者の業務範囲だといえるでしょう。

事後調査後の修正申告

事後調査後に発生する可能性の高い修正申告について解説します。

事後調査後の修正申告は必須?

事後調査後に税関職員から指導のある修正申告は、基本的に必須と捉えておきましょう。修正申告は勧奨であるため、行うかどうかは任意ですが、今後の輸出入審査に影響することも考えられますので、応じるのが無難です。

また、事後調査にはお土産が必要という表現もされますが、何らかの指摘事項や追徴を行うことで税関職員も成果を出したことを上に証明したいと考えるもの。そういった観点から考えても、素直に従っておくことをおすすめします。

ただし、指摘内容にどうしても納得がいかない場合は、不服申し立てを行うことは可能です。

修正申告には加算税が発生する?

事後調査で指摘される修正申告では、以下のような加算税が発生するケースが良くあります。

ただし、隠蔽や書類の改ざんを行うなど明らかに意図的で悪質なケースは、さらに40%の重加算税が科せられる点に注意しましょう。場合によっては、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金も科せられることがあります。

  • 過少申告加算税 10%
  • 無申告加算税 15%

ただし、過去5年以内に無申告加算税もしくは重加算税を同一の税目で徴収されている場合は、さらに加算税10%がプラスされます。前回の指摘事項が改善されていないということは、故意に行っていると捉えられるためです。具体的な税率は以下をご確認ください。

  • 無申告加算税 25%(15%+10%)
  • 重加算税(過少申告) 45%(35%+10%)
  • 重加算税(無申告) 50%(40%+10%)

事後調査で指摘が多い事例とは?

事後調査で税関職員から指摘が多い事例を2点確認しましょう。

事後調査で見つかるアンダーバリュー

1つ目は、「アンダーバリュー(Under Value)」です。

アンダーバリューとは、実際に輸出者に支払った額よりも低い価格を課税価格として輸入申告をしているケースです。実際は10,000,00USDで支払いをしているにも関わらず、8,000,00USDで支払ったと見せかけるインボイスを偽造し、差額の2,000,00USDにかかる、関税や消費税などを浮かせようとするものです。

これらは故意に安いインボイスを作成するケースもあれば、知識がないがために、アンダーバリューになっていることに気付かないケースもあります。具体例をご紹介します。

(例)
T シャツ 4,000枚をUSD10,000,00で仕入れたが、そのうち800枚は前回輸入時に不良品であったものの代替品であった場合。支払額は代替品の価格を除くUSD 8,000.00。

<誤ったインボイスへの記載>
実際に支払ったUSD 8,000.00を今回輸入した代替品800枚を含む4,000枚で割り、単価を導き出している。

→課税価格  CIF KOBE   USD 8,000.00

<正しいインボイスへの記載>
正しい単価を記載し、前回の不良品の値引きに関しても記載することで、実際の支払い価格とも一致し、インボイスとしても正しい形となる。

→課税価格  CIF KOBE   USD 10,000.00
※800枚は代替品であったとしても、物が輸入されているので、申告が必要

事後調査で税関が過去の書類を確認した際に、同じ商品で単価が異なることを不審に思い、指摘が入り、発覚することがよくあります。

評価申告漏れの指摘も多い

2つ目は、「評価申告漏れの指摘」です。

課税価格がインボイスに記載されている以外にあるにも関わらず、評価加算していないケースが良くあります。具体例を確認しましょう。

逆委託加工貿易でよくみられるのが、無償提供した材料費の評価加算漏れです。

(例)
日本の輸入者Aは、材料をすべて無償で中国に提供し、それを使用して中国の輸出者Bの工場で加工をさせ、完成した衣類を輸入している。

<誤った課税価格>
以下の合計額

  • インボイス額(加工賃)
  • 運賃
  • 保険料

<正しい課税価格>
以下の合計額

  • インボイス額(加工賃)
  • 運賃
  • 保険料
  • 無償提供した材料代

逆委託加工貿易において材料を無償提供した場合、輸出者からのインボイスには加工賃のみが記載されています。そのため、日本から無償提供した材料代も加えないと正しい課税価格となりません。

まとめ

事後調査が入ると大抵の場合、修正申告を含め税関からの指導が入るものです。

修正申告を代行することはもちろん、輸出入者が不安なく事後調査を受けられるようにアドバイスをすることも通関士も大切な仕事です。

また事後調査で税関から指摘を受けることで、輸出入者の通関業務に対する知識も増えるため、より通関をスムーズに進めるために協力を仰ぐチャンスでもあります。基本的事項をしっかりおさえておきましょう。

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