WTO(世界貿易機関)ってどんな組織?簡単にわかりやすく解説!
更新日:2020年7月30日
「○国がWTOに提訴しました」ニュースで時折耳にします。
WTOとはいったいどのような役割を果たす国際機関なのか?そもそも設立した背景は?WTOの概要と抱える問題点について、簡単にまとめます。
WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)とは?
WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)とは、スイスのジュネーブに本部を置く国際機関で、世界各国が「自由に」モノやサービスなどの貿易ができるようにするために国際的なルールを定め、貿易障壁を削減・撤廃するため加盟国間で貿易交渉を行います。また、通商摩擦が政治問題化することを防ぐため、ルールに基づいた解決を目指す紛争解決手続のシステムを設けています。
WTOの前身はGATT(ガット / The General Agreement on Tariffs and Trade:関税と貿易に関する一般協定)という自由貿易を目的とした国際「協定」です。
第2次世界大戦の引き金のひとつとなった保護主義的なブロック経済に対する反省から、自由貿易実現のため一定のルールを設けようと1948年にGATTが発効しました。このときはまだ国際「機関」ではありません。
その後契機となったのは、1986~93年GATTのウルグアイ・ラウンド*交渉です。
それまでのモノの貿易について展開されていたGATT交渉とは異なり、対象が保険・金融などサービス貿易や知的財産権などの新分野、農作物の自由化にまで及び、交渉が多角化しました。各分野の交渉結果を実施、運営管理する国際機関が必要になり、こうして1995年、正式な国際機関としてWTOが誕生しました。
*ラウンド(Round)
関税の引下げや、輸入制限などの貿易障壁を取り除くことを目的に開催される多国間通商交渉。多くの国々が円卓”round” tableを囲んで協議する場を意味します。
WTO協定
WTO加盟国は現在164の国と地域で構成されています(外務省 2020年7月7日 閲覧)。加盟国となるためには、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(通称:WTO設立協定)と、4つあるうちの附属書1~3を全て一括受諾しなければなりません。
一般的に「WTO協定」と呼ばれるものは、WTO設立協定とその附属書(ANNEX)に含まれている協定の集合体のことを指します。以下はWTO協定の全体像です。
WTO設立協定 附属書1 (1)附属書1A:モノの貿易に関する協定
(2)附属書1B:サービスの貿易に関する協定(GATS:General Agreement on Trade in Services) (3)附属書1C:知的所有権の貿易関連の側面(TRIPS:Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights)に関する協定 |
附属書4については、一括受諾の対象ではなく、WTO加盟国であってもこれらの協定を受諾する義務はありません。任意です。これらの協定は受諾国の間でのみ効力を有します。
*アンチダンピング(不当廉売)
輸出国の商品価格よりも不当に安い価格で商品を輸出すること
*政府調達に関する協定
政府機関や地方自治体がモノやサービスを購入する際、自国企業と外国企業を対等に競争させて調達先を決めるよう、入札手続きなどについてルールを定めた協定。
WTOの基本原則
WTOには主に4つの基本原則があり、貿易障壁の軽減と無差別原則といった考え方が具体化されています。
① 最恵国待遇原則(Most-Favoured-Nation Treatment=MFN原則)
特定の国に、低い関税などの貿易に有利な条件を適用するときは、他のWTO加盟国にも同様の条件を適用すること。どの国と地域もみんな平等です。
ただし、発展途上国を対象とした一般特恵関税制度(GSP)や、EPA相手国を対象とした経済連携協定(EPA)などは、最恵国待遇原則の例外として認められています。
② 内国民待遇原則(National Treatment)
輸入品に内国税や国内法令を適用するときは、同種の国内産品に適用する税や法令よりも不利にならない条件を適用すること。国内産品も外国産品も対等に扱います。
③ 数量制限の一般的廃止の原則
関税などの課徴金以外の禁止や制限によって、数量制限をしないこと。
では、一体どのように国内産業を保護していくのか?④に続きます。
④ 関税にかかる原則
合法的な国内産業保護手段としての関税は認められるが、相互的かつ互恵的に関税減少を図ること。
つまり、差別しない、過度に制限をしない自由貿易の姿を示しています。
WTO紛争処理制度
○国が□□国の◇◇がWTOで禁止されている一方的措置に当たるとして、WTOに提訴しました
時折ニュースで耳にすると思います。
WTO協定の対象となる紛争について、WTOの紛争解決手続きに従わずに一方的な措置を執ることは禁止されています。当事者間の協議やWTOへの申立てを行わずに、一方的に関税を引き上げたり、貿易制限措置を実施したりすることはWTO協定違反になってしまうのです。
WTOに提訴するとは、申立国がWTOに対し、裁判所にあたる小委員会の設置を求め、訴えを起こすことを指します。
このように、WTOのひとつの重要な役割は加盟国・地域同士の貿易紛争を解決することです。以下のような二審制を採用しています。
二国間協議
↓解決しなければ…
小委員会(Panel:パネル)が設置され、パネルにて1審
↓それでも解決しなければ…
上級委員会にて最終審
ここで、クイズです。WTOは「○○の番人」と言われています。さて、何の番人でしょうか。
正解は、
「自由貿易の番人」です。
自由貿易の世界で起こる貿易紛争を解決するための準司法的な制度があるためです。
決められない組織?!WTOの問題点
2001年11月のドーハ閣僚会議でWTO発足後初となるラウンド交渉の開始を宣言しました。開催場所のカタール首都ドーハにちなみ、「ドーハ・ラウンド」と呼ばれます。
ラウンドという表現が先進国主導を印象づけるとの途上国の意向を踏まえ、正式には「ドーハ・開発・アジェンダ」と言います。
鉱工業品(NAMA)・農業・サービス・ルール・貿易円滑化・知的所有権(TRIPs)・開発・貿易と環境、以上8分野の交渉がスタートしましたが、交渉分野によって各国が複雑に対立し、交渉は難航・長期化。2020年現在まで20年近くの時間を要していますが、大きな成果はなく膠着状態が続いています。
WTOが決められない組織になってしまった要因は、164もの多様な国と地域が加盟している上に、すべての加盟国・地域の同意が必要な全会一致原則をとっているためです。新興途上国vs先進国、輸出国vs輸入国などの対立が生じて、意見がまとまらなくなってしまったのです。
ですが、そうこうしている内に、世界を取り巻く環境は激変していきます。技術革新・デジタル取引の拡大をはじめ、新時代に対応した国際ルールを構築していかなければなりません。
WTOでの多国間(マルチ)交渉では成果をあげにくいので、たとえば、後々他のWTO加盟国も参加できることを想定して、プルリ交渉(複数国間・分野別交渉の手法)を積極的に推進したり、2国間以上の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を結んだりする動きがでています。
ただ、WTOの決められない組織である現体制は改善する必要があり、特にWTOに対して不満を抱く米国からプレッシャーを受けて改革を迫られています。
さいごに
「自由貿易の番人」といわれるWTOですが、近年は自由貿易とは逆向する保護主義的な動き、米中貿易摩擦などにより機能不全に陥っています。加盟国の足並みの乱れが2019年末以降、WTOの重要な柱である貿易紛争の処理機能を停止させる事態を招いています。
アメリカがWTOの中国への対応に不満を募らせ、WTOの最高裁に相当する上級委員会のメンバーの補充を拒否したためです。
通常、上級委員会は7名の委員で構成されるはずですが、たったひとりになってしまい機能しなくなりました。加えて、2020年、新型コロナウイルス、COVID-19がパンデミック(世界的大流行)となりました。感染症対策として、世界的に人とモノの往来が大幅に制限され、自由貿易を揺るがしています。
重ねて、WTOのトップであるアゼベド事務局長が任期途中の2020年8月末で退任することを表明し、事務局長選がスタートしました。WTOの転換点かもしれません。
今後、国際情勢とWTOがどうなっていくか、注視していく必要があります。
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