輸出入申告官署の自由化とは?対象業務やメリット・デメリットを解説

更新日:2020年8月25日

輸出入申告官署の自由化とは?

輸出入申告官署の自由化は一部の輸出入者しか利用できないと思いがちですが、比較的広い門戸が開かれています。輸出入者、通関業者ともにメリットがあることから、今後も利用が増加することが考えられます。利用可能な業務や実務上の注意点について知っておきましょう。

目次

輸出入申告官署の自由化とは?

輸出入申告官署の自由化とは、貨物が蔵置場所を管轄する税関官署以外の税関官署に輸出入申告ができる制度です。平成29年10月8日に施行されました。

輸出入申告官署の自由化で何が変わる?

輸出入申告官署の自由化以前、輸出入申告は輸出入しようとする貨物が蔵置されている場所を管轄する税関官署にのみ行うことができるとされていました。

しかし、輸出入申告官署の自由化により、日本全国のどこの税関官署にも申告が可能となったのです。もちろん、従来通り貨物が蔵置されている蔵置場を管轄する税関官署に輸出入申告してもかまいません。

つまり輸出入申告できる税関官署が限定されなくなったと理解してください。

輸出入申告官署の自由化の利用対象者

ただし、輸出入申告官署の自由化はすべての輸出入者が対象ではありません。以下のいずれかに該当する場合のみ利用可能です。

  • 輸出入申告をする輸出入者がAEO事業者である
  • 輸出入申告を代行する通関業者がAEO事業者である

AEO事業者に認定されている輸出入者はまだ一定数しかいません。しかし、AEO事業者ではない輸出入者でも、AEO事業者認定を受けている通関業者に依頼すれば輸出入申告官署の自由化を利用できます。そういった意味では門戸は広いといえます。

AEO事業者は税関から認定を受けた事業者であるため、認定を受けた事業者がよりスムーズに通関業務ができるためのサービスの一つと捉えることもできます。

➡通関士の難易度についてはこちら

輸出入申告官署の自由化はすべての業務が対象?

輸出入申告官署の自由化は、すべての通関業務が対象ではありません。該当業務と非該当業務を確認しておきましょう。

輸出入申告官署の自由化対象となる通関手続き

輸出入申告官署の自由化対象となる通関手続きは、以下の通りです。

  1. 輸出申告(積戻し申告及びマニフェスト申告を含む)
  2. 輸入(納税)申告(マニフェスト申告を含む)
  3. 蔵入承認申請(機用品蔵入等承認申請をむ)(IS)、蔵出輸入申告(ISW)
  4. 移入承認申請(IM)、移出輸入申告(IMW)
  5. 総保入承認申請(IA)、総保出輸入申告(IAC)
  6. 展示等申告(IG)
  7. 輸入(引取)申告、特例委託輸入(引取)申告
  8. 輸入(引取・特例)申告、特例委託輸入(引取・特例)申告、蔵出輸入(引取・特例)申告
  9. 特定輸出申告、特定委託輸出申告、特定製造貨物輸出申告
  10. 在日米軍に係る免税物品輸出入申告(税関様式F-1040(USFJ380)で行われる手続)および軍納物品輸出入申告(税関様式F-1050(USFJ381)で行われる手続)
  11. 航空貨物に係るマニフェストによる輸出入申告(ドキュメント申告)
  12. 上記の輸入申告等に係る予備申告
  13. 別送品の輸出申告
  14. 上記1~12の申告などにあわせて行われる手続
    (輸入許可前貨物引取承認申請(BP)、併せ運送、個別納期限延長申請、減免戻し税に係る手続など)

NACCSを使用して行う一般的な輸出入申告や、それに先行する予備申告、特例申告など、ほとんどのものが利用可能です。ただし、ワシントン条約該当貨物及び特定外来生物にかかる貨物の輸出入申告に限っては、対応可能な税関官署が限定されている点に注意しましょう。

輸出入申告官署の自由化対象とならない通関手続き

輸出入申告官署の自由化対象とならない通関手続きも確認しておきましょう。

  1. マニュアルによる輸出入申告(カルネ手帳による輸出入申告を含む)
  2. 申告添付登録(MSX)業務が可能であるにもかかわらず、AEO事業者等の都合により紙申告を行う場合
  3. 窓口電子申告(KIOSK)端末による申告
  4. 輸出貿易管理令に定める武器関連物資等(関税法施行令第59条の8第1号及び第2号)に係る輸出申告
  5. 日米相互防衛援助協定(MDA協定)該当貨物(関税法施行令第59条の8第3号、第59条の21)に係る輸出入申告
  6. AEO輸出入者としての承認を受けていないAEO通関業者の自社申告
  7. 保税運送の申告(併せ運送を除く)および見本の一時持出しの許可申請等の輸出入申告手続以外の手続
  8. 関税暫定措置法第8条(加工再輸入減税制度)に係る関係書類として生地見本を提出して輸出入申告をする場合(自由化申告を行った後、税関の審査により生地見本を提出する場合を除く)
  9. 関税割当証明書について、MSX業務を利用せず、輸入申告の際に書面で提出する場合(関税割当裏落内容仮登録(TQC)業務により登録した場合を除く)

マニュアル申告、つまりNACCSを使用せず、紙ベースで申告する場合や保税申告など輸出入申告以外のものは非該当となる傾向にあります。

輸出入申告官署の自由化のメリットとデメリット

輸出入申告官署の自由化を利用することで得られるメリットとデメリットを説明します。

輸出入申告官署の自由化のメリットとは?

輸出入者、通関業者それぞれが得られるメリットとしては、通関手続きが迅速かつ簡素になることです。

たとえば、輸入者Aは日頃、神戸港を中心に輸出入申告を行っていたとしましょう。事業拡大により、東京、九州、四国などのエンドユーザー向けの貨物を各近郊の港で輸入する場合、従来であればそれぞれ東京、九州、四国向けの貨物が蔵置されている税関官署に申告する必要がありました。

しかし、日頃から輸出入申告をしている神戸港にすべての輸入貨物の申告を一元化することで、審査する税関官署が一元化され、税関の審査実績が増え迅速に輸入許可がスピーディーにもらいやすくなります。

輸出入者にも事務作業が減るというメリットがあります。神戸、東京、九州、四国それぞれの通関業者に通関を依頼するのは手間がかかります。しかし神戸に一本化することですべての通関依頼を従来の神戸港の通関業者にすべて依頼すれば済みます。つまり事務手続きの煩雑さから逃れられます。

通関業者にも営業拡大のチャンスが得られます。輸入者の仕事が神戸、東京、九州、四国と分散されるより、一本化された方が4港すべての仕事を受注することができます。

AEO事業者であることを武器にして、輸出入申告官署の自由化を利用すれば、通関が従来よりスムーズになるといううたい文句で、他社の仕事を取りに行くことも可能です。

輸出入申告官署の自由化にデメリットもある?

輸出入申告官署の自由化を利用することは、輸出入者のデメリットはありません。

輸出入申告を依頼される通関業者にも、表向きは大きなデメリットはありません。しかし、なかには従来分散させていた輸出入申告を行う営業所を統廃合する企業もでてきます。統廃合後、なくなった営業所地区を管轄する税関へ輸出入申告をしたいと輸出入者から依頼されることもあるでしょう。

もし税関検査になった場合、検査立ち合いに出向かなくてはいけないため、タイムロスが生じるというデメリットが考えられます。

輸出入申告官署の自由化の実務上の注意点

輸出入申告官署の自由化を利用して申告する上での実務上の注意点を説明します。

1.税関検査になったときの対応

輸出入申告官署の自由化を利用して輸出入申告した貨物が税関検査になった際も、従来通り検査の立会いが必要です。検査立ち合い要員の確保は以下の3パターンが考えられます。

  1. 輸出入申告を担当した通関士および通関従事者が出向く
  2. 検査場所の近隣にある営業所の通関士および通関従事者に立ち合いを依頼する
  3. 検査場所の近隣にある他社の通関士および通関従事者に立ち合いを依頼する

1ができれば最もスムーズですが、移動時間や立ち合いに要する時間分、拘束時間が増え、他の業務に支障をきたしがちです。そのため、2もしくは3を選択するのが一般的です。

突発的に発生した税関検査立ち合い業務であるため、立ち合い人員の確保や税関検査場所の空き状況にてまどる可能性があります。そのため、申告前に万が一税関検査があった際に立ち合いを依頼したいという交渉をしておくことをおすすめします。

2.輸出入申告官署の自由化選択後の後続手続き

輸出入申告官署の自由化選択後に行う後続手続きも申告した官署で行う必要があります。具体的には以下の手続きが該当します。

  1. 特例申告
  2. BP承認貨物に係る輸入許可(IBP)手続
  3. 本船扱い承認申請、ふ中扱い承認申請
  4. 裏落しに係る手続
  5. 修正申告、更正の請求
  6. 戻し税に係る手続
  7. 輸出許可内容変更申請(「輸出許可後の船名・数量変更」)
  8. 申告撤回及び許可取消
  9. システム申告後に手作業移行したマニュアル申告

これらの手続きも遠方の税関官署に行うことのデメリットや手間などが生じないのかを確認した上で、輸出入申告官署の自由化を選択するようにしましょう。

3.修正申告、更生の請求の取扱い

修正申告、更生の請求は、納税地ごとに行う必要があります。そのため、輸出入申告官署の自由化の利用に関わらず、納税地ごとに行います。

以下で詳しく確認していきましょう。

A申告 申告官署-東京税関本関 納税地-東京都
B申告 申告官署-東京税関本関 納税地-東京都
C申告 申告官署-東京税関本関 納税地-神奈川県
D申告 申告官署-横浜税関本関 納税地-東京都

納税地および申告官署が同じ東京都であるA、Bの申告は一括して修正申告などが可能です。

しかし、C申告は納税地が神奈川県であるため、A、Bとの一括申告はできません。またD申告は申告官署が横浜税関本関であるため、後続する修正申告なども横浜税関本関に対して行う必要があります。

4.輸出入申告書の官署コード入力について

輸出入申告書には、申告を行う宛先の税関官署を入力する欄があります。官署コードは4桁の数字とアルファベットで入力します。

たとえば、東京税関(本関)の通関1部門宛ての場合は、「1A01」となります。誤って1Aと入力すべきところを、Aの隣にあるSに指があたり「1S01」と入力してしまうと、新潟税関支署柏崎出張所へ申告をしてしまいます。申告撤回は手続きが煩雑ですので、注意しましょう。

また、東京など大きな税関官署は通関部門が6つあり、取扱貨物が異なる場合もあります。くれぐれも入力の際は確認が必要です。

まとめ

輸出入申告官署の自由化は、営業拡販の意味合いからも今後利用がさらに増える申告スタイルでしょう。普段利用していない税関官署に申告をするということは、最初は抵抗があるかもしれませんが、慣れると非常に便利な制度でもあります。

注意点を理解した上で、上手に利用するようにしましょう。

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