通関士実務に役立つ!「輸出禁制品」を詳しくご紹介

輸出禁制品

日本は島国のため、近隣諸国に比べ輸出入に依存する割合がどうしても高くなります。一方で規制等を設けずに何でも認めてしまうと、日本国の主権に大きな脅威を与えかねません。それは輸入だけではなく、輸出にも当てはまります。日本の貴重な資源など「モノ」だけに限らず、技術や固有の権利、さらには悪害を及ぼす薬物などは、厳しく規制対象とされているのです。

今回は外国貿易の正常な維持や発展、公共の福祉の増進の目的で設定されている「輸出禁制品」に関して、具体的な品目等をご紹介していきたいと思います。

目次

輸出禁制品の考え方

我が国では、関税法第69条にて、輸出が禁止されている商品等がはっきりと明記されています。この品を「輸出禁制品」と言いますが、違反すると、「10年以下の懲役もしくは3,000万円以下の罰金または併科」と厳しく規制されています。

ただし、禁止されている品目と「規制」されている品目に関しては、区別して考える必要があります。「輸出禁制品」はどんな理由があれ輸出できないのに対し、「輸出規制品」は法令等により、 輸出の許可や承認等を受けて、検査完了の旨を税関に証明してできれば、輸出することができます。

輸出禁制品とは

さて、それでは実際に関税法第69条では具体的にどのような品目が、輸出禁制品として規制がされているのでしょうか。輸出禁制品は法律上、当然に輸出することが出来ないものであるため、税関長による輸出不許可の行政処分がなくても、例外なく輸出することが出来ません。

①麻薬や覚せい剤など

具体的には、麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚せい剤(原料も含む)が当てはまります。

②知的財産権侵害物品

具体的には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権または育成者権を侵害する物品が該当します。これらの権利を総称して知的財産権と言い、この知的財産権を侵害する物品は知的財産権侵害物品と呼ばれます。

③不正競争防止法の侵害物品

不正競争防止法第2条1項1号から3号、そして10号、11号に掲げる行為を組成する物品を指します。具体的には周知表示の混同を恣起する商品、著名表示を冒用する商品、形態模倣品、アクセスコントロール等回避機器が当てはまります。

④児童ポルノ

児童ポルノ禁止法に基づいて指定される児童ポルノも当てはまります。提供目的だけでなく単純所持についても規制がされています。

輸出規制となっている商品とは

一方で、先に紹介した通り「禁止はされていないけど規制はされている」品目との区別も大切になってきます。

この輸出規制品の代表例としては、①爆発物や武器となるもの(ナイフやアーミーグッズ、スコープなど)、②植物や生物(昆虫、ダニや鳥類の卵、ソーセージやハムなどの動物の肉など)などは代表的な例として、私たちの身近な生活でも体感することが出来るのではないでしょうか。

輸出禁制品の扱いについて

前述したような輸出禁制品が発見された場合、税関長は、大きく2つの対応をすることとなります。

没収や破棄

前述の①~③、つまり、「麻薬や覚せい剤など」、「知的財産権侵害物品」、「不正競争防止法の侵害物品」が輸出されようとした場合、税関長は没収して破棄をすることが出来ます。尚、この没収・破棄の行為は社会公共の利益を確保という当然の行為を行うことから、裁判所の判決を必要としません。

通知

一方で前述の④、つまり「児童ポルノ」が輸出されようとした場合は、税関長は、その貨物を輸出しようとする者に対し、「輸出してはダメな貨物ですよ」という旨の通知をするに留まります。

これは、児童ポルノに関しては我が国の憲法上保障されている「思想・表現の自由」という基本的人権の問題にもかかわる可能性があることから、税関では、「輸出は許可しません」という立場を取るのみに留まり、その処理は輸出者の自由意思に委ねることとしているためです。つまり、没収や破棄ではなく、返却するというイメージです。

認定手続き

ただし、前述の②と③、つまり「知的財産権侵害物品」と「不正競争防止法の侵害物品」に関して、100%そのような物品であるという確信がないときは(いわゆる嫌疑物品の場合)、税関長は、この貨物が輸出禁制品に当たるかどうかを認定するための手続きを取らなければなりません。これを認定手続きと言います。

この場合、税関長は、その貨物の特許権者等の権利所持者、そしてその貨物を輸出しようとする者に対し、「認定手続きを取るという宣言と、輸出禁制品か否かについて、証拠を集めて意見を述べることが出来る」という通知を行わなければなりません。

輸出差止申立制度とは

一方で、この認定手続きと混同されがちな概念として、輸出差止申立制度というのもあります。

輸出差止申立制度とは、前述の②と③、つまり「知的財産権侵害物品」と「不正競争防止法の侵害物品」に関して、特許権者等が税関長に対し、その侵害の事実を認めるために証拠を出したり、認定手続きを申し立てることが出来る制度を言います。

認定手続き 「知的財産権侵害物品」と「不正競争防止法の侵害物品」に関して、100%そのような物品であるという確信がないときに(いわゆる嫌疑物品の場合)、税関長が行う、この貨物が輸出禁制品に当たるかどうかを認定するための手続きのこと
輸出差止申立制度 「知的財産権侵害物品」と「不正競争防止法の侵害物品」に関して、特許権者等が税関長に対し、その侵害の事実を認めるために証拠を出したり、認定手続きを申し立てることが出来る制度

この認定手続きと輸出差止申立制度の関係を理解しておくことは大切です。

例えば、ある企業の標登録を持つ商品が、その企業に無断で輸出されようとしている場合を想定しましょう。その企業にとっての著作権や特許権は、経営の基盤に係る大きな財産ですよね。この財産が無断で海外へ輸出されるとなると、企業としては何らかの手立てを打つ必要が出てきます。

この時点で、商標権者(つまり企業)が税関長に対し、「無断で輸出されようとしている!証拠もあるし、認定手続きを行ってほしい」と申し出る行為を輸出差止申立制度といい、それを受けて税関長が、実際にこの貨物が輸出禁制品にあたるかどうかを調べる作業を認定手続きと言います。

つまり、前者は主体が「商標権者」なのに対し、後者は「税関長」となります。

輸出差止の申し立てがあった場合、税関長は、専門委員に対し、意見を求める権利を有します。ただし、申し立ては何でもかんでも受理されるわけでは当然なく、その申し立てに関する侵害の事実を認めるに足りる証拠がないときは、申し立てを却下することもできます。

まとめ

輸出禁制品の対応に関しては、万が一誤解や誤認があった際の認定手続や、基本的人権を尊重する機会を輸出者に与えることで、ダブルでチェックする機能が備わっています。

ですが基本的には、輸出禁止品に関する規定は厳しく規制されているということが出来ます。例えば、実際に輸出禁制品が輸出されてしまうと滅却処分され、もちろん返金はされません。故意が認められる場合は、会社および担当者が、一定期間の輸出禁止処分を受けるなど、最悪の場合は法律で処罰されることも考えられます。

国家試験の対策として正しく知識を理解するのはもちろん、その後通関士として活躍するに当たっては、何よりコンプライアンスを遵守し、健全な貿易業務に携わって頂きたいものです。

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