貿易に係る海上保険ってなに?貿易保険とは何が違うの?

ペンで紙を指さす
目次

海上保険とは?

海上保険こと「貨物海上保険」とは、貿易取引に係る貨物が船舶や航空機などで輸送されている間の不測の事故により被った損害をカバーする保険のことです。

保険期間について、一般的に、

貨物が船積地にある輸出者の倉庫や工場において輸送手段への積込みのため最初に動かされたとき~
通常の輸送過程を経て仕向地の倉庫において荷卸しが完了したとき


までの、すべての輸送区間が補償の対象です。

海上保険の申し込みをする輸出者や輸入者は、海上保険を扱う保険会社に保険の申し込みを行い、保険料を支払います。この保険料は、保険会社が1回の事故につき損害のてん補として支払う最高限度の金額、つまり、保険金額を基に算出されます。

保険金額(Amount Insured)は、
基本的には*インコタームズ条件のCIF価格またはCIP価格に基づき、
保険金額 = CIF価格 × 110%
です。

CIF価格100%ではなく、一体なぜ10%加算される? 疑問に思いますよね。これは、輸入者の希望利益10%を加算した金額と定められているためです。この希望利益とは、貨物が無事到着して、輸入者がその貨物を売ることにより当然得られたであろう利益のことです。

*インコタームズ(INCOTERMS: International Commercial Terms)
輸出者と輸入者間の①費用負担の範囲と②貨物の危険負担の範囲を示した貿易条件のこと。例)FOB, C&F, CIF。CIPも。

*CIF価格
Cost(仕入価格など) + Insurance Premium(保険料) + Freight(運賃) のこと。

*CIP価格
CIPはCarriage and Insurance Paid Toの略で、輸送費・保険料込条件を指します。コンテナ船輸送時に用いられ、在来船でいうところのCIFにあたります。

保険料(Insurance Premium)の計算方法は、
海上保険料 = 保険金額 × 保険料率

つまり、契約で特に定めのない限り、
保険料 = (CIF価格 × 110% ) × 保険料率(%) となります。

この保険料率(Rate of Insurance Premium)は、積載する船舶の規格や、航路、貨物の性質・状態・荷姿*、保険条件など、さまざまな要因を踏まえた上で、各保険会社が自由に設定できます。

*荷姿(にすがた)
梱包された荷物の外見のことを指します。Carton, Case, Piece, set,マルチに使えるPackageなどさまざまです。

海上保険を保険会社に申し込みすると保険証券(Insurance Policy)と一緒に、Debit Noteと呼ばれる保険料請求書が発行されます。Debit Noteは、税関に輸入申告を行う際に保険料の証明書類としても用いられます。輸入時に税関に申告する価格はCIF価格(運賃・保険料込み)なので、FOB(運賃と保険料含まず)など保険料が含まれない条件の場合、保険料の金額を明らかにする必要があるためです。

➡通関士の仕事内容の詳細はこちら

輸出者vs輸入者 保険手配・保険求償を行うのはどっち?

まずは、海上保険に関わる登場人物にフォーカスしてみます。

保険に関わるのは、
保険会社と保険契約を締結し、保険料を支払う義務を負う「保険契約者(Applicant)」、
貨物が輸送中の危険により損害を受け、経済的な損失を被る「被保険者(Insured)」、
保険契約を引き受ける保険会社が「保険者(Insurer / Assurer)」 です。

輸出者or輸入者のうち、どちらが保険の手配をするのか?については、インコタームズに注目です。

保険を含まないFOB,CFRの場合は輸入者が、保険を含むCIF,CIPの場合は輸出者が保険を手配します。

いつ保険を手配するのか?保険申込みに必要な情報、たとえば本船名などが確定していなくても予定の状態で申込むことができます。また、船積みごとの個別ではなく、一定期間中に輸送される貨物についてまとめて保険を申込むこともできます。

輸送中の事故により貨物が損傷を受けたときに、保険金の請求(Claim:クレーム)すなわち保険求償の手続きを行う被保険者についても、インコタームズに注目です。

売手(輸出地)の工場などで引渡しされるEXW、前述のFOB,C&F,CIFなどでは輸入者が、輸入者様様?!売手による至れり尽くせり条件であるDAPやDDPのような「D」からはじまる貿易条件の場合は輸出者が、保険会社に保険金の請求を行います。

主な保険条件

保険条件の話に入る前に、まずは損害の種類について簡単に。

  • 船舶と積載貨物の「共同海損」:General Average
  • 個々の貨物に生じた「単独海損」:Particular Average
    -全損:Total Loss
    -分損:Partial Lossがあります。

全損は船の沈没、座礁、衝突、火災などによって、貨物全体に損害を受けることです。分損は、貨物の一部に損害を受けることです。

保険条件は、保険でカバーしている範囲に応じて主に3パターンに分かれます。

  1. A/R(All Risks)≒*ICC(A) …全危険担保
    全損、
    沈没・座礁・衝突・火災など 特定事故に起因する特定分損、
    高潮・津波・洪水などによる分損
    盗難・破損、雨漏れなど 不可危険 に対応。
  2. WA(With Average)≒ICC(B) …分損担保
    全損、
    沈没・座礁・衝突・火災などによる特定分損、
    高潮・津波・洪水などによる分損 に対応。
  3. FPA(Free from Particular Average)≒ICC(C) …分損不担保
    全損、
    沈没・座礁・衝突・火災などによる特定分損 に対応。

つまり、海上保険によってカバーされる対象範囲は、
A/R > WA > FPA となります。

全損とインパクト系の特定分損まででいいのか?水系、ダメージ系までカバーされたほうがいいのか?というイメージでしょうか。てん補される範囲が広いほど、保険料も高くなります。

また、War Risk(戦争危険)とS.R.C.C(Strike, Riot, Civil Commotions)すなわちストライキ・暴動などのリスクは保険の対象外のため、これらは別途特約として追加することになります。

*ICC(Institute Cargo Clauses)
協会貨物約款(やっかん)。Clauseとは契約の条項を意味します。ロンドン保険業者協会が制定し、定型化された保険の契約条項のこと。A/R, WA, FPAは”旧”ICCの基本条件で、ICC(A),ICC(B),ICC(C)は”新”ICCによるものです。新旧ICCでカバーされなくなったもの、新たにカバーされるものがあり、若干の違いがあります。

ところで、以前、通関業者に勤めていたとき、スリランカ向け輸出中古車の船積み手続きの一環として、海上保険の申し込み業務を行っていました。スリランカ向けは銀行を介したL/C(信用状)決済が主だったので、取引条件がCIFの場合、L/Cの通り保険を掛ける必要があり、荷主(輸出者)の代行をしていました。

その時ICC(A)やICC(C)といった新ICCによる保険条件やその他細かい条件の付け足しなどをしていました。しかし、実情として新ICCはL/Cで特に要求されている場合などを除いて日本ではあまり使われておらず、主に旧ICCによる契約条件が使われているそうです。

海上保険と貿易保険って何が違うの?

貿易業界で保険といえば、海上保険以外に貿易保険というものがあります。

海上保険は輸送途中で輸出貨物自体が損害(破損、水群れ、盗難)を受けたことによる損失をカバーする貨物保険ですが、貿易保険はモノの保険ではなく、貿易取引や投融資の保険です。

海上保険と貿易保険は全くの別物なのです。

ここで「貿易保険」について簡単に。

貿易保険とは、日本企業が行う海外取引の輸出不能や代金回収不能をカバーする保険です。

海外取引には、為替取引の制限・禁止、輸入制限・禁止、戦争や内乱、革命、制裁的な高関税、テロ行為、自然災害などの「カントリーリスク(非常危険)」や、取引先の破産、不払いといった「取引先のリスク(信用危険)」が付き物です。

これらの事態発生により被る損失をカバーするのが「貿易保険」です。

貿易保険法なる法律に基づき、対外取引において通常の保険では救済されない危険を保険します。日本政府が100%出資する株式会社 日本貿易保険(NEXI: Nippon Export and Investment Insurance)がこの保険引受けを行っており、保険料率は取引相手の国のカントリーリスクに応じたランクと海外取引先の格付けによって適用されます。

民間企業にも同様の貿易保険がありますが、国家的な貿易・投資政策の手段としても用いられるため、民間では十分に対応しきれません。そのため、世界的にも政府が保険者になる、もしくは政府機関が運営に関わるのが一般的です。

このように、貨物の保険「海上保険」と取引の保険「貿易保険」は異なるものですので、区別しておきましょう。

なおCIFなど保険料込みの貿易条件における「保険料」は、貨物に係るお金ですので、貿易保険ではなく、「海上保険」の保険料のことを指します。

まとめ

  • 「海上保険」は輸送途中の貨物のための保険。一方、「貿易保険」は海外取引のための保険。
  • 保険金額 = CIF価格 × 110% ※輸入者の希望利益10%が加算されます。
  • 保険料 = (CIF価格 × 110% ) × 保険料率(%)
  • 保険会社に保険の申し込みするのは?保険金の請求を行うのは? 輸出者 or 輸入者のうちどちらになるか? については、インコタームズ(貿易条件)により変わります。
  • 保険でカバーされる範囲について
    A/R(ICC(A)相当)> WA(ICC(B)相当)> FPA(ICC(C)相当)
    A/Rは補填される範囲が一番広い条件ですが、War Risk(戦争危険)、ストライキなどS.R.C.Cの危険に対しては補填されません。

    ただし、これらは保険会社との契約内容や、輸出者と輸入者間の取引条件などによっては当てはまらない場合もあります。一般的なケースとして捉えていただければと思います。
通関士コラム一覧へ戻る