発展途上国から輸入する貨物に適用される「特恵関税制度」を正しく理解しよう

特恵関税制度

中国をはじめとした数か国が、特恵関税の除外対象国となるという話題が2019年にニュースになったことを、記憶している方も多いと思います。これによって、今まで特恵関税によって無税(あるいは超低額の関税)で輸入されていた物品に対して、高率の関税が付加されるというものです。

私たち日本人は、生活する上で多くのモノを輸入・輸出に依存しています。その中で「今まで安く輸入出来ていたものが高くなる」のは、消費者はもちろん、関係する企業等にとっても死活問題になりかねません。

今回は、このように発展途上国等から輸入する貨物に適用される特恵関税制度について、各種要件や具体的な税率など深く掘り下げていきたいと思います。

目次

特恵関税制度とは

発展途上国の貿易や開発等の機会を促進すると同時に、近年の国際化から生じる新しい問題を解決するために設立された「国際連合貿易開発会議」(通称UNCTAD)。発展途上国の経済開発の促進と格差是正を基本方針とし、現在194ヶ国が加盟しています。

このUNCTADにおける合意に基づき、先進諸国が開発途上国からの輸入に対して、一方的に関税上の特別措置(つまり無税や限りなく低率の減税にすること)を適用し、開発途上国の経済成長を促すことを目的とした制度が、特恵関税制度です。

特恵関税の適用要件

この特恵関税制度の主体は先進諸国のため、原則は「輸入」に対してのみ適用されます。つまり、開発途上国のモノや資源を無税(あるいは低率関税)で輸入することで、開発途上国の発展に寄与しようとする狙いがあります。

ただし、開発途上国がこの恩恵を被るためには、以下の要件をすべて満たしていなければなりません。

①特恵受益国または特恵受益地域の原産品を輸入
②特恵関税の対象物品
③特恵関税の適用が停止されていない
④原産地証明書の提出
⑤本邦向けに直接運送

上記5つの要件を満たしている物品であれば、特恵関税が適用されます。例えば国際郵便により輸入する物品や、本邦に入国する者が携帯しているもの、あるいは別送品なども該当することになります。

特恵関税の指定要件

現在における特恵受益国または特恵受益地域の一覧は、以下の通りとなります。
http://www.customs.go.jp/tetsuzuki/c-answer/imtsukan/1504_jr.htm

これらの国や地域は、以下の条件を満たしていることが求められます。

特恵受益国、特恵受益地域

特恵受益国として指定されるためには、「経済が発展途上にあること」、「特恵関税の供与を受けることを切に希望していること」、そして「特恵関税の供与することが適当であると認められること」の3つが要件となります。

特別特恵受益国

特別特恵受益国とは、特恵受益国等のうち、国際連合の決議により、後発開発途上国とされている国を指します。つまりイメージとしては、特恵受益国の中でも特に経済開発が遅れている国と捉えることが出来るでしょう。

その上で、上記と同様、「特恵関税の供与することが適当であると認められること」が要件となります。

特恵関税の適用税率

国家試験では計算問題までは出てきませんが、少なくとも特恵関税の税率に関しては覚えておく必要があります。特恵受益国(又は特恵受益地域)と比較し特別特恵受益国はその性質から、税率がより優遇されています。

特恵受益国(又は特恵受益地域)においては、農水産品に関してはおおむね5%~10%の低関税となります。また鉱工業産品に関しては、特恵関税例外品目(石油や革製品、生糸など)を除く品目が全て無税となります。

一方で特別特恵受益国の場合は、LDC例外品目(魚、のり、スキー靴など)を除く貨物に関しては全て無税とされています。

重要となる「原産地」について

先に述べてきたように、特恵関税の要件は、特恵受益国等を原産地とする物品に対してのみ適用されます。そのため、この原産地の認定に当たっては、以下のような基準が設けられています。

①完全生産品

一つの国(又は地域)の中で完全に生産されたかどうかが重要となり、具体的には各種条件を踏まえた物品が「完全生産品」とされます。

この「各種条件」に関しては、以下のページで詳しく触れていますので併せて参考にしてみてください。
https://www.foresight.jp/tsukanshi/column/wholly-obtained

②変更を加えた上での加工品

一方で、この完全生産品とは言えない品物(非原産国産品)に関しても、特恵関税の要件に当てはまる場合があります。完全生産品以外の物品に関しては、これに実質的な変更を加える加工又は製造により生産された物品の場合においては、その加工又は製造を行った国を原産地とすることが出来ます。

この場合における「実質的な変更」とは、原則として、特恵関税の適用を受けようとする物品が属する関税率表の番号が、その原材料の分類される番号と異なる場合を言います。この基準を「関税分類変更基準」と言いますので、ぜひ覚えておきたい用語です。

③自国関与物品

自国関与物品とは、特恵受益国等において、日本から輸出された原材料の全部または一部を使用して生産された物品のことを指します。原材料が日本のもののため本来は特恵関税の恩恵を受けることが出来ませんが、例外的にこのような物品については、その特恵受益国において生産されたものとして扱われます。

④東南アジア諸国での生産品

また、日本とは非常に関係の深い東南アジア諸国(具体的にはインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの5ヶ国)に対してはより大きな経済支援の一環として、累積原産品の特例扱いが設けられています。

これら5ヶ国のうちの1つの国から日本へ輸出された物品で、その生産が「5ヶ国の中で2つ以上の国」を通じて行われた場合に関しては、それらの関係国を1つの国とみなして、特恵関税の要件を満たしたこととするという扱いです。

この場合における物品の原産地は、「本邦へ輸出する国」とされています。

「直接輸送」の考え方

また既述の通り、特恵関税の要件の一つに「直接輸送」という概念があります。

これは原産地である特恵受益国等から、それ以外の地域を経由することなく直接日本へ運送されることを意味しますが、この原則が当てはまらない場合もあるので注意が必要です。

例外の代表的な事例としては、特恵受益国等を原産とする物品において、本邦へ輸送される途中に非原産国において運送上の理由で積み替えや一次蔵置以外の措置がされなかった場合が挙げられます。

つまり逆に考えると、「運送上の理由で積み替えや一次蔵置以外の措置がされた場合」(例えば簡単な加工や品質検査、小分け作業等)は、直接運送の要件に該当しなくなり、よって特恵関税は適用されません。

必要となる原産地証明書とは

もう少し、特恵関税の要件の一つに関して深く掘り下げてみましょう。

特恵関税の適用を受けようとする場合には、「原産地証明書」を税関長に提出しなければなりません。この原産地証明書は、輸入申告の日において、発給から1年以上を経過したものの場合、その効力を有しません。

一方でこの原産地証明書が不要のケースも珍しくありませんので、その例外事例も覚えておくことが重要になります。

①災害その他やむを得ない理由により原産地証明書を提出することが出来ないことについて、税関長の承認を受けた場合(2月以内の提出猶予が認められる)
②税関長が、その物品に関して、その原産地が明らかであると認めた場合
③課税価格の総額が20万円以下の物品
④特例申告貨物である物品

尚、この原産地証明に関してはサイト内の別の記事で詳しく触れております。原産地規則の内容や原産地基準の基本的な考え方をより深く理解するためにも、併せて参考にしていただければ幸いです。
https://www.foresight.jp/tsukanshi/column/rules-of-origin/

まとめ

特恵関税の本質は、特恵受益国等のモノや資源を無税(あるいは低率関税)で輸入することで、それらの国の経済的な発展に寄与しようとすることに他なりません。

翻って例えば、特恵関税の適用により輸入が莫大に増加することで日本の産業に影響を及ぼし、結果として自国の産業を緊急に保護する必要になってしまったら本末転倒ですよね。そのような場合は当該国を指定し、特恵関税の適用を停止することが出来ます。

特恵関税制度はこのように、関係する2国間においてはメリットだけでなく、デメリットも孕んでいるという点は無視できないポイントです。

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