コンカレントエンジニアリングとは? わかりやすく解説

更新日:2020年11月24日

握手している二人

コンカレントとは同時並行のことです。
コンカレントエンジニアリング(CE:Concurrent Engineering)は、製品設計と製造、販売などの統合化、同時進行化を行うための方法で、1980年代、自動車産業業界で提唱されました。競争の激化で製品開発スピードの向上が求められる現在、国内外、様々な産業において有効な手法として導入・活用されています。

目次

通常の開発との違い

通常の製品開発工程はウォーターフォール(water fall=滝)型開発と呼ばれています。上流から下流へ順番に工程が流れるように進む手法で、後発の部門は原則上流からの成果物を待つスタイルです。

これに対しコンカレントエンジニアリングでは、各部門で情報を共有し、設計・調達・生産などを並行的に行います。JISでは「製品のライフサイクル全体を考慮して、これに関連する工程の統合化を行い、相互に情報交換することによって、同時、並行的に産業活動を実施する技術」と定義されています。

つまり製品開発過程の初期の段階から設計・調達・生産など企業の商品製造関連部門が集まりコミュニケーションを図るため、お互いのミスコミュニケ―ションによるロスを避けられ、コスト削減や商品開発期間の短縮につながるのです。

コンカレントエンジニアリング実現の背景

コンカレントエンジニアリングの誕生に大きな影響を与えたのは、CAD、CAM、CAEを駆使したPDMの登場です。

CAD(コンピュータ支援設計)

CAD(Computer Aided Design) は製品の設計や図面の作成をコンピュータ上で実施する技術です。JISでは「製品の形状、その他の属性データからなるモデルを、コンピュータの内部に作成し解析・処理することによって進める技術」と定義されています。

CADのメリットとして、設計費に関わる費用の低減、設計期間の短縮、製品性能及び製品品質の向上が図れるということがあげられます。また当初は2次元でしたが、現在は3次元の設計が主流になっており、実物体に近いイメージで顧客の要望をより考慮しやすくなっています。

ワイヤーフレームモデル

3次元の立体の針金構造のような、点と線で表現したモデルで、面や形状の中身といった概念はありません。データ量が少ないので、高速に表示ができます。

サーフィスモデル

立体を面データで表現したモデルで、中身が空の風船のイメージです。ワイヤーフレームモデルの点と線の情報に加え、曲線の情報を持っています。

ソリッドモデル

見た目はサーフィスモデルと変わりませんが、幾何情報、位相情報などの内部構造を持ち、重心の計算などもできます。粘土細工のようなイメージで、3次元を完全に再現できるモデルです。

CAM(コンピュータ支援生産)

CAM(Computer Aided Manufacturing)は、コンピュータを用いて生産工程を制御するものです。JISでは「コンピュータの内部に実現されたモデルに基づいて、生産に必要な各種情報を生成すること、及びそれに基づいて進める生産の形式」と定義されています。

現在では、CADで作成したデータをCAMに取り込み、そのデータにて自動加工機を制御するなど一貫支援が行われています。これはCAD/CAMという用語で呼ばれます。

CAE(コンピュータ支援解析システム)

CAE(Computer Aided Engineering)は、コンピュータによる数値解析やシミュレーションを行い、製品品質や製造工程などを解析・評価するものです。JISでは「製品を製造するために必要な情報をコンピュータを用いて統合的に処理し、製品品質、製造工程などを解析評価するシステム」と定義されています。

PDM(製品情報管理システム)

PDM(Product Data Management)とは、CAD、CAM、CAEを駆使して、製品情報と開発プロセスを一元的に管理するシステムです。JISでは「生産活動を行うための情報を、データベースを使用して統合的に管理すること」と定義しています。

PDMは、図面の管理や開発プロセス管理、部品票の管理、設計情報の変更履歴管理などの機能を持っています。これらの情報を複数部門や複数企業で共有することも可能になるため、コンカレントエンジニアリングを推進するのに不可欠な存在です。

コンカレントエンジニアリング実現の要件

コンカレントエンジニアリングの実現にあたっては、以下のような要件を満たすことが求められます。

  • 設計者に多方面の知識やスキル
    コンカレントエンジニアリングでは、大きな手戻りを排除し、開発時間と費用の浪費を防ぐために、上流工程で下流工程のことも考慮して設計を行います。下流工程を考慮して設計情報をつくりこむということは、作業が設計現場に集約されることになり、設計者に製造の下流に至るまでの知識やスキルが要求されることになります。
  • 部門間連携
    また、下流工程の持つ知見を上流工程にフィードバックすることも必要です。そのため、いかに円滑に部門間の連携、コミュニケーションを図る仕組みを作れるかも重要なポイントとなります。

過去問題

コンカレントエンジニアリングについては、過去このような形で出題されています。

平成27年 第1次試験 運営管理 第7問
コンカレントエンジニアリングに関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 企業の目標の達成を阻害する制約条件を発見し、それに対処するためのシステ
  ムの改善を図った。
イ 資材供給から生産、流通、販売に至る物またはサービスの供給連鎖をネットワ
  ークで統合化し、情報を共有することによって経営業務全体のスピードおよび効
  率を高めた。
ウ 製品の企画段階から設計、生産、販売までの過程を統合化し、リードタイムの
  短縮を実現した。
エ 製品のライフサイクルの中で使用される製品に関する種々のデータを互いに関
  連付けて、一元的な管理を行った。

正解 ウ

まとめ

まとめますと、コンカレント・エンジニアリングとは、業務を同時進行させることで、開発期間や納期の短縮など効率化を進める手法です。

コンカレント・エンジニアリングでは、設計から製造までを統合する情報システムとして、例えばCAD・CAMシステムなどを導入します。また、コンカレント・エンジニアリングの実施には、設計部門、調達部門、製造部門、サービス部門、マーケティング部門など部門間連携が重要で、特に上流工程にあたる設計部門に多方面の知識やスキルが必要です。

今後、技術の進歩や製造手法の改良に伴い、ますますコンカレントエンジニアリングの重要性は増すと言われ、産業力回復の手段として期待が集まっています。

この記事の監修者は
小嶋聖司(こじま せいじ)

中小企業診断士の学習は楽しい
【出身】千葉県
【経歴】千葉大学法政経学部卒 中小企業診断士
【趣味】読書・サッカー
【座右の銘】和して同ぜず
フォーサイト講師ブログ

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