関係性マーケティング(リレーションシップマーケティング)とは? 中小企業診断士解説

関係性マーケティング

関係性マーケティング(リレーションシップマーケティング)とは、企業と顧客との間に築かれる、顧客との継続的・長期的な取引関係の構築と維持を目指して展開されるマーケティングです。1980年代にアメリカのマーケティング学者レナード・ベリーによって提唱され、1990年代に発展しています。

新しい顧客の獲得や一回の売上よりも、一人の顧客と継続的・長期的な関係を築くことで、関係が継続している間に得られる利益の合計=顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)の最大化を目指すのが特徴です。

目次

関係性マーケティング発展の背景

この関係性マーケティングは何故、発展してきたのでしょうか。その背景としては以下のようなものがあげられます。

市場の成熟化

市場の成熟化による競争激化により、新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持に比べ5倍かかるとも言われています。そのため、既存顧客の維持を重視していくことの方が効率的であると考えられました。

優良顧客に対する差別化の認識向上

パレートの法則(20%の顧客で80%の売上高を構成している)などから、一部の優良顧客が企業の利益の大部分に貢献していることが明確に認識されるようになり、企業にとって優良顧客との関係維持が大きな課題となりました。

製品ライフサイクルの短縮化

製品ライフサイクルの短縮化により、これまで以上に商品やブランドスイッチがおこりやすくなっています。そのため、自社ユーザーのロイヤルティーを高めるための施策が求められました。

サービスの拡大

商品に付随するメンテナンスサービスや、あるいはサービスそのものが商品の場合は、顧客との友好な関係がそのサービスの品質に大きな影響を与えるようになりました。

顧客関係性管理(CRM)

顧客関係性管理(CRM:Customer Relationship Management)とは、顧客との関係性を適切に管理することによって、長期的に顧客との良好な関係を築くことを目的としています。そのためには、顧客情報を収集し、データベース化することによって、顧客の取引情報などを時系列に管理することが重要になります。データベース化された顧客情報から顧客の嗜好・ニーズを的確に捉え、効果的な対応を行うことによって顧客のロイヤルティーを高めることができます。

顧客関係性管理(CRM)の手段としては、層別対応と個別対応があります。

層別対応

層別対応とは、顧客をランク分けし、ランクごとに対応を変えるというものです。代表的な手法としては、RFM分析やFSPがあります。

RFM分析

RFM分析は、POSシステムの顧客の購買実績データをもとに、Recency(最終購入日)、Frequency(購買頻度)、Monetary(購買金額)の観点から分析し、リピーターとなる優良顧客を見極める手法です。

Recency(最終購入日)
最近購入した日をベースにした指標で、購入日が最近であればあるほど自社に対して優良顧客となり、ここ最近全く購入していない顧客は優先順位が下がります。

Frequency(購買頻度)
購入回数が多いほど自社にとって優良顧客であると判断します。購入回数が少なければ優先順位が下がります。

Monetary(購買金額)
これまでにいくら使ってくれたかという指標です。金額が大きければ大きいほど優良顧客です。金額が小さい顧客の優先順位は下がります。

FSP

FSP(Freqent Shoppers Program)とは、RFM分析により判別された優良顧客に対して、その顧客の購入金額等に応じてインセンティブを与えるものです。優良顧客ほどサービスを強化する差別化の仕組みであり、顧客の育成を図ることができます。飲食店などのポイントカードや航空会社のマイレージサービスなどが該当します。

個別対応(ワントゥワンマーケティング)

個別対応(ワントゥワンマーケティング)とは、市場を顧客の集合体として捉えるマスマーケティングや、顧客を層別に分けて捉えるターゲットマーケティングと異なり、個々の顧客に応じたマーケティングを展開するものです。

企業は顧客との対話により収集した個々の情報をもとにマーケティング活動を展開し、顧客はあたかも企業が自分自身のために個別対応しているかのように感じます。

ワントゥワンマーケティングでは、市場シェアよりも、顧客シェアあるいは顧客生涯価値(LTV)を重視し、マスカスタマイゼーションを実現していきます。

顧客シェア

それぞれの顧客が特定分野の商品を購入する中で、自社製品を購入した割合を、顧客シェアといいます。

顧客生涯価値(LTV:Life Time Value)

一人の顧客が、特定の製品分野の中で、生涯にわたりある企業からどのくらい購入するのか、その企業からみた総収入を顧客生涯価値といいます。

マスカスタマイゼーション

マス・カスタマイゼーションは、大量生産(マスプロダクション)のメリットと、顧客に対する個別対応(カスタマイズ)のメリットを一定程度両立できるビジネスモデルです。

例えば、DELLは、CPUやハードディスクなどパソコンの主要部品ごとに数パターンの選択肢を用意しておき、エンドユーザー自身が仕様を選び、受注してから完成品を組み立てるという方法を取り入れています。

データーベースマーケティング

データーベースマーケティングとは、顧客の属性や購買履歴をデータベースに記録して区分し、それぞれの顧客に合ったサービスを提供するマーケティング手法です。

データベースマーケティングの主な目的は、新しい顧客の獲得よりも、過去に商品を購入していった既存の顧客を継続的に管理し、顧客あたりの購入額を増やすことにあります。

例えば、Amazonで買い物をすると、購入履歴から、おすすめ商品が表示されますといったことが挙げられます。このような仕組みは現在、多くのECサイトで活用されています。

データベースマーケティングは先に解説したCRMと顧客のデータを用いるという点で似ています。違いは、CRMが顧客情報をもとに顧客満足度を向上させる手法であるのに対し、データベースマーケティングは、そのデータベースを用いてターゲット顧客にアプローチするマーケティング手法であるという事です。

過去問題

プロモーションミックスについては、過去このような形で出題されています。

平成28年 第1次試験 企業経営理論 第28問

売り手とその顧客との関係性に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア 航空会社やホテル、スーパーやドラッグストアなどにおける CRM プログラム導入事例に触発された大規模飲料メーカー A 社は、一般的に低コストでできる仕組みであるため、最終消費者を対象とした顧客関係管理システムを導入した。

イ 地域スーパーの経営者 B 氏は、ロイヤルティ・カードを通じて収集した顧客の購買データを見て驚いた。既存顧客の下位割は、特売商品ばかり購入しており、損失をもたらしているのだ。この種の顧客はとくに、ミルクスキマーと呼ばれる。

ウ ファストフードチェーンの C 社は、ID-POS の導入にあたって、「リレーションシップ・マーケティングは、顧客との関係性を深め、継続・拡大する考え方だから、個々の顧客を特定するための有用なデータを集めていく必要がある」という発想を持っていた。

エ 訪問販売による小売業者 D 社は、ここ数年、既存顧客の高齢化とともに顧客数の減少に悩まされている。そこで、一般的に既存顧客の維持よりも費用がかからないことから、新規顧客の獲得にシフトしていく意思決定を行った。

正解:ウ

まとめ

関係性マーケティングについて解説してきました。顧客との関係を重視するという考え方は実は古くからあり、例えば、江戸時代における三井越後屋の商法や、近江商人の三方良し行商などにもみられます。

近年、インターネットやSNSなど情報通信技術の飛躍的な浸透により、ますます関係性マーケティングの重要性が高まり、その巧拙が事業の成果を左右すると言っても過言ではなくなっています。デジタル化が進んでも、根本的にやはり人と人との関係を抜きにして、事業は行うことができないのですね。

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