デリバティブ(金融派生商品)とは?
更新日:2020年12月1日
輸出入取引を行う際、円で支払う契約や円で受け取る契約(円建て契約)をしていない場合は、外貨の決済時に為替変動の影響を受けることになります。決済時の為替レートが当初の予定より円高になると、支払う側は予定より少なくて済み、為替差益が発生します。
一方で、受け取る側からすると、予定より少ない額しか受け取れなくなり、為替差損が発生します。こうした為替リスクを回避することをリスクヘッジといい、リスクヘッジのために、為替先物予約やオプション取引を行います。これらをデリバティブと言います。
為替先物予約
為替先物予約とは、将来の通貨間取引における売買額と為替レートを、あらかじめ金融機関と取り決めておく取引です。将来時点における外国為替相場の状況によらず、予約した条件で外国通貨の受け渡しが履行されますので、その後の外国為替相場の変動の影響を受けなくてすむようになります。そのため、為替変動による価格変動を回避(為替リスクヘッジ)できるという効果があります。
ただし、為替予約を一度締結すると、その後の為替相場の変動いかんにかかわらず、予約した為替レートで売買しなければなりません。そのため、将来相場が自社に有利に変動した場合は、機会利益を喪失することになります。
外貨(ドル)買い予約
輸入企業がドルで取引を行う場合、ドル高・円安になると損失が発生しますが、為替予約をしておくことで、為替変動による損失を低減できます。
外貨(ドル)売り予約
輸出企業がドルで取引を行う場合、ドル安・円高になると損失が発生しますが、為替予約をしておくことで、為替変動による損失を補填できます。
オプション取引
オプション取引とは「所定の期日に、原資産(株や通貨など)をあらかじめ定められた価格で買う(または売る)ことができる権利」を売買する取引のことです。オプション取引では、売り手と買い手がいます。買い手がオプションを手に入れるためには、売り手に対し、オプション料(プレミアム)を支払います。
為替先物予約では、取引の実行が約束されているのに対し、オプション取引では、権利を行使するかどうかを選択することができます。買い手にとって不利益となるような相場の変動があった場合は、買い手は権利を行使しないことができます。
コールオプション
権利行使価格で原資産を買うことができる権利です。コールオプションの購入者は、満期日の原資産価格が権利行使価格を上回ったときに権利行使をします。満期日の原資産価格が権利行使価格を下回る場合、権利行使をしないことができます。この場合、オプションプレミアムの損失だけで済みます。コールオプションの購入は輸入業者のリスクヘッジ手段に利用されます。
(ドルコールオプション)
権利行使価格100円、オプション料1万円、対象資産1万ドル
プットオプション
権利行使価格で原資産を売ることができる権利です。プットオプションの購入者は、満期日の原資産価格が権利行使価格を下回ったときに権利行使をします。満期日の原資産価格が権利行使価格を上回る場合、権利行使をしないことができます。この場合、オプションプレミアムの損失だけで済みます。プットオプションの購入は輸出業者のリスクヘッジ手段に利用されます。
(ドルプットオプション)
権利行使価格100円、オプション料1万円、対象資産1万ドル
権利行使の方法
権利行使には、満期日にのみ権利が行使できるヨーロピアンタイプ、期間中いつでも権利が行使できるアメリカンタイプがあります。
スワップ取引
スワップとは交換という意味です。金利スワップと通貨スワップがあります。
金利スワップ
同一の通貨の中で異なる金利を交換する契約です。利息の交換が行われるだけで、元本の交換はしません。一般的に固定金利と変動金利を交換する取引で、主に金利変動リスクのヘッジを目的に用いられます。
(例)A会社は銀行αから固定金利で借入をしていますが、今後、変動金利が下降すると予想し、変動金利での支払いを希望しています。
一方、B会社は銀行βから変動金利で借入をしていますが、金利変動リスクをヘッジしたいと考え、固定金利での支払いを希望しています。
そこで、A会社とB会社は、契約を結び、互いの金利部分の支払いを交換することにしました。これが金利スワップです。
通貨スワップ
異なる通貨間の債権または債務の交換契約です。金利スワップと異なり、通貨スワップでは開始時と終了時に元本交換を行います。
過去問題
デリバティブについては、過去このような形で出題されています。
平成25年 第1次試験 財務・会計 第22問
輸入業を営む A 社は、3か月後にドル建てで商品の仕入代金を支払う予定である。A 社が為替リスクをヘッジするときの取引として、最も適切なものはどれか。
ア ドル売りの為替予約を行う。
イ ドル買いの為替予約を行う。
ウ ドル建ての借入を行い、為替の直物レートで円を買う。
エ ドルの3か月物コール・オプションを売る。
正解:イ
まとめ
為替先物予約、オプション取引、スワップ取引について解説しました。3つのデリバティブのポイントを押さえておいてください。特にオプション取引では、プット/コールの売り買いのグラフのどれが、どれを表しているかを尋ねる問題がよく出題されます。数多くの問題を経験して、慣れておくことが近道です。
小嶋聖司(こじま せいじ)
中小企業診断士の学習は楽しい
【出身】千葉県
【経歴】千葉大学法政経学部卒 中小企業診断士
【趣味】読書・サッカー
【座右の銘】和して同ぜず
●フォーサイト講師ブログ