モチベーション理論とは?どんな種類があるの?中小企業診断士解説

黒板

モチベーションとは動機付けのことです。組織を効率的に運営し成果をあげるためには、その構成員が積極的に貢献する行動を引き起こすことが不可欠です。そのため人の心の中でどのように意思決定が行われ、どのように貢献意欲が高まるのかを解明することが重要になります。

これまで様々な理論が展開されてきましたが、いくつか代表的なものを見てみましょう。

目次

マズローの欲求段階説

アメリカの心理学者アブラハム・マズロー(1908年 - 1970年)は、1943年に『人間の動機づけに関する理論』という論文を発表し、その中で人間の持つさまざまな欲求を5段階に階層化しました。そして次の欲求が満たされると、もう一段階上の次元の欲求が現れるという欲求段階説を唱えました。

組織の構成員の欲求を満たしていくためには、人間関係の改善だけではなく、より欲求が高次になるほど、仕事そのものを魅力的にしていく必要がある、と主張しました。

①生理的欲求

生存欲求ともいいます。人間の生存に関わる欲求で、水や食物、睡眠などを欲する本能的な欲求です。

②安全の欲求

危険や恐怖を回避し、安全や安心を求める欲求です。雇用の安定なども含まれます。

③愛情の欲求

社会的欲求とも呼ばれ、社会や集団の中で人々と交流し、かつ認めてもらいたいという欲求です。

④尊厳の欲求

自我の欲求とも呼ばれます。他社より優れていると認識したいなど、人から認められることや尊敬されることを求める欲求です。

生理的欲求から尊厳の欲求までの欲求段階は、「何かが足りない」という欠乏状況を充足させることが行動の動機(モチベーション)になり、これらは「欠乏動機」と呼ばれます。

⑤自己実現の欲求

欠乏動機である4つの欲求が満たされると、自分の能力を活かして何かを達成したい、あるいは潜在能力を発揮したいなど、自己の実現に関する欲求に達します。これは「成長動機」といいます。

自己実現の欲求は、ある程度の満足があっても完全に充足することはなく、無限に成長を求める欲求であるとされています。

マズローの欲求段階説まとめ

マズローの欲求段階説では、低次の欲求がある程度満たされることによって高次の欲求が生じるとされています。また高次の欲求が満たされないからといって低次の欲求をより満たそうとはしない(不可逆的)としているところが特徴です。

マーケティングの分野で、消費者の購買欲求(ニーズ)を分析する等で活用されています。

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マクレガーのX理論・Y理論

アメリカの心理学者、経営学者であるダグラス・マクレガー(1906年 - 1964年)は、1960年に著書『企業の人間的側面』で、2つの人間観をもとに、X理論・Y理論というモチベーション理論を提唱しました。

X理論は伝統的な科学的管理法に基づく人間観をベースにしており、Y理論はマズローの欲求段階説に基づく人間観をベースにしています。

X理論に基づく人間観

  • 本来怠け者であり、できれば仕事はしたくないと考えている。
  • 強制されなければ努力をしない。
  • 高い賃金やよい作業環境に動機づけられて働く。

Y理論に基づく人間観

  • 仕事をしたくない、と考えている訳ではない。
  • 自らが主体的に関与して立案した目標に対しては、献身的に努力する。
  • 自己実現、成長するために働く。

マクレガーのX理論・Y理論まとめ

マクレガーは、X理論に基づく人間観はマズローの欲求5段階の低次の欲求を求めるものであり、命令され、統制されなければ成果を出せない、ということになります。

しかし現代の組織構成員は、そのような低次の欲求を満たしていることが多いので、彼らの欲求を満たしていくためにはY理論に基づくモチベーション管理が必要である、としました。

また、そのような具体的な手法として、目標管理(MBO:Management by Objectives)を推奨しました。目標管理(MBO)は、組織の方針に基づき、それぞれの組織構成員が主体的に目標を設定し、その目標に向かって、自らを律しながら業務を遂行していこうとする制度です。

ハーズバーグの2要因理論

アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグ(1923年 - 2000年)が提唱したもので、1959年『作業動機の心理学』で発表されました。

職務における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなく、職務に満足を感じる要因(動機付け要因)と不満足を感じる要因(衛生要因)は異なり、それぞれが独立して存在するという理論です。

①動機付け要因

職務に対する積極的な態度を引き出すことにつながるものです。例として、達成感、承認、仕事そのもの、責任、成長、昇進などがあります。

②衛生要因

改善すれば構成員の不満を解消することはできるが、積極的な職務態度を引き出すことにはつながらないものです。例として、会社の経営方針、監督者との関係、職場の人間関係、作業条件、給与、雇用の保証などがあります。

職務充実

ハーズバーグは仕事に対するモチベーションを上げるためには、、衛生要因よりも動機付け要因を重視すべきと説きました。その具体的な手法としては、職務充実があります。

「職務充実」とは、例えば、これまで従業員が実施していた作業に加え、その作業に関する計画や統制といった要素を加えることにより、権限と責任を拡大し職務の充実を図るものです。

現在の職務に変化を取り入れるなどして、仕事の範囲を広げる「職務拡大」との違いを押さえておいてください。

マクレランドの三欲求理論

アメリカの心理学者、デイビッド・マクレランド(1917年 - 1998年)が1976年に発表した理論で、従業員には①達成動機、②権力動機、③親和動機の3つの主要な動機が存在するというものです。

①達成動機

より効率的に仕事をしようとする動機(欲求)です。マクレランドによれば、達成動機が強い人は以下のような特徴があるとしています。

  • より良い成績をあげるための努力を惜しまず、何でも自ら行うことを望む。
  • 適度なリスクを取るが、あまりに失敗するリスクが高い状況では動機付けされない。成功の確率が50%程度の時に最も強く動機付けられる。
  • 成果に対して早期のフィードバックを求める。

また、マクレランドは、達成動機の高い人はより良い成績を上げたいという願望の点で、他の動機を持つものと差があることを発見しました。これは後にコンピテンシー理論として大きく発展します。

②権力動機

他人に支配や影響を及ぼす動機(欲求)です。権力動機が強い人は以下のような特徴があるとしています。

  • 責任を与えられることを楽しむ。
  • 他者から働きかけられるよりも、他者をコントロール下におき影響力を行使しようとする。
  • 競争が激しく、地位や身分を重視する状況を好む。
  • 効率的な成果よりも、信望を得たり他者に影響力を行使することにこだわる。

③親和動機

親密関係を維持しようとする動機(欲求)です。親和動機が強い人は以下のような特徴があるとしています。

  • 人の役に立とうと努力する
  • 他者からよく見てもらいたい、好かれたいという願望が強い。
  • 心理的な緊張状況には一人では耐えられなくなる傾向がある。

ブルームの期待理論

マクレガーやマクレランドの理論は、個人を動機付けするのは何か(What)を研究する「内容理論」と呼ばれます。

一方、個人はどのような(How)プロセスで動機づけられるのか研究するのが「仮定理論」で、代表的なものにビクター・H・ブルーム(1932年 -  )が1964年に著書『仕事とモチベーション』で提唱した期待理論があります。ブルームによると、人は心理的にもっとも有利と考えられる行動を選択するとしています。

また、人間のモチベーションは「努力した時の成果が要求水準に達成する見込み(期待値)」と「報酬が自分にとってどれくらい魅力的か、の程度(誘意性)」の両方が必要である、としています。

過去問題

モチベーション理論については、過去このような形で出題されています。

平成29年 第1次試験 企業経営理論 第16問
モチベーション理論に関する記述として、最も適切なものはどれか。

ア A. マズローの欲求段階説は、多様な欲求が同時に満たされることによって、個人のモチベーションが階層的に強まっていくことを提唱した。

イ D. マクレガーの X 理論と Y 理論は、個人は肯定的側面と否定的側面の両面を併せ持つことを示し、状況に応じてモチベーションを刺激する組み合わせを変化させる必要性があることを提唱した。

ウ D. マクレランドの三欲求理論によれば、報酬や社会的な成功よりも個人的な達成感を強く求める人は、自分の能力を超えたチャレンジングな仕事を好み、他者と親和的な関係を結ぶリーダーになろうとする傾向を持つことを提唱した。

エ F. ハーズバーグの二要因理論では、従業員が不満足を知覚する衛生要因と、満足を知覚する動機づけ要因を独立した要因として捉え、必ずしも不満足を解消せずとも、モチベーションを高めることができることを提唱した。

オ V. ブルームの期待理論によれば、モチベーションは将来に対する合理的な計算として捉えられ、特定の努力によって実現される目標の期待値と、目標を実現することによって得られる報酬の期待値の総和として把握できることを提唱した。

正解 エ

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まとめ

ヒトは感情を持つ生き物です。感情を持つということは、やる気が引き出されれば、能力を最大限に発揮しますが、反対にやる気を失えば、能力を発揮できないということです。

このため組織は最大の資産である「ヒト」を最大限に活用するために、モチベーション管理を行うことが重要になるのです。

二次試験でも、事例の企業で「社員モチベーション管理ができているか」に着目することは重要です。しっかり学習して理解しておきましょう。

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