行政行為とは?下命、許可、免除等細かい用語の違いについてわかりやすく説明します。
更新日:2021年4月8日
「行政行為」とは、行政庁が法律の定めに従って、一方的な判断に基づいて、国民の権利義務その他法的地位を具体的に決定する行為のことをいいます。
行政活動には様々な種類があり、行政契約のように、行政機関が国民と対等な立場で合意をした上で行う活動もある一方で、行政目的達成のために行政機関が国民の意思を無視して、一方的に国民の権利を制限したり、義務を課したりする場合があります。
ちなみに、「行政行為」という用語は、学問上の用語であり、本来は「行政処分」といわれています。
行政行為の意義
判例における行政行為の定義は、「公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうちその行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」とされています(最判昭和39.10.29)。
この定義の中でも言われている①国又は公共団体が行う行為②公権力の行使③国民の権利義務を形成・確定④法律上認められている行為(法行為)という4つのポイントについて、以下、説明していきます。
①国又は公共団体が行う行為
行政行為は国又は公共団体といった行政機関の行為であり、私人や民間企業の行為は含まれません。また、立法機関である国会や司法機関である裁判所の行為も含まれません。
②公権力の行使
公権力の行使とは、相手方との合意によらず、法令の付与した権限によって、行政機関が自分の責任で決定することです。言い換えると、国民の意思に関係なく、権利や義務を一方的に変動させたり、身体や財産に対して一方的に強制を加えたりすることをいいます。
③国民の権利義務を形成・確定
例えば、行政庁が国民に対して違法建築物の除去命令をした場合、国民には作為義務が発生します。また、飲食店等の営業許可をした場合、国民には飲食店を適法に営業する権利が発生します。このような国民の権利義務を形成又は確定するものを行政行為といいます。
④法律上認められている行為(法行為)
行政活動には「法行為」と「事実行為」という2種類があります。「法行為」とは、国民の権利義務に影響を及ぼす行為であり、「事実行為」とは国民の権利義務に影響を及ぼさない行為のことをいいます。行政行為は法行為でなければなりません。
行政行為の種類
行政行為には、大きく分けて①法律行為的行政行為と②準法律行為的行政行為の2種類があります。
①法律行為的行政行為は、意思表示を要素としており、行為者が一定の効果を求めるためにその効果が生じる行為です。
②準法律行為的行政行為は、意思表示以外の精神作用の発現を要素としており、一定の意思表示以外の精神作用の発現があれば、法規の定めた効果が生じる行為です。
つまり、①法律行為的行政行為では、行政庁が「(許可を)与えたい。」というような意思表示をすることによって効果が発生しますが、②準法律行為的行政行為では、行政庁の「(許可を)与えたい。」というような意思表示はなく、法律の定めによって効果が発生します。
法律行為的行政行為
法律行為的行政行為には、「命令的行為」と「形成的行為」があります。
命令的行為
「命令的行為」とは、行政庁が、国民が生まれながらに有する自由を制限して義務を命じたり、逆に義務を免除したりする行為のことです。命令的行為には、①下命・禁止、②許可、③免除の3種類があります。
以下、それぞれの用語について説明していきます。
①下命・禁止 |
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「下命」とは、国民に対して作為を命じる行為のことをいい、「禁止」とは、国民に対して不作為を命じる行為のことをいいます。 具体例:
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②許可 |
すでに法令によって規定されている一般的な禁止を特定の場合に解除して、適法に一定の行為をさせる行為のことをいいます。 具体例:
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③免除 |
法令等によって課されている作為・給付・受忍の義務を特定の場合に解除する行為のことをいいます。 具体例としては:
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形成的行為
「形成的行為」とは、国民が本来有していない特別な権利や法的地位等を与えたり、奪ったりする行為のことです。形成的行為には、①特許、②認可、③代理の3種類があります。
以下、それぞれの用語について説明していきます。
①特許 |
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国民が本来有していない特別な権利や能力を特定の人に設定する行為のことをいいます。 具体例:
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②認可 |
第三者の行為を補充して、その法律上の効果を完成させる行為のことをいいます。 具体例:
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③代理 |
第三者がなすべき行為を行政機関が代わって行った場合、第三者自らが行った場合と同一の効果が生じる行為のことをいいます。 具体例:
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準法律行為的行政行為
準法律行為的行政行為には、①確認、②公証、③通知、④受理の4種類があります。以下、それぞれの用語について説明していきます。
①確認 |
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特定の事実又は法律関係の存否に関して争いがある場合に、公の権威をもってその存否を確認する行為のことをいいます。 具体例:
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②公証 |
特定の事実又は法律関係の存否を公に証明する行為のことをいいます。 具体例:
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③通知 |
特定又は不特定多数の人に対して特定の事項を知らせる行為のことをいいます。 具体例:
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④受理 |
他人の行為を有効な行為として受け付ける行為のことをいいます。 具体例:
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行政行為の成立
行政行為は、行政庁が意思決定をした段階で成立します。その後、到達主義により、相手方に対して告知し、相手方が行政庁の意思決定を了知することで、効力が発生します。
つまり、「到達主義」とは、処分内容が記載された書面が相手方の郵便ポストへ投函されたとき(=書面が相手方にわかる状態になったとき)に処分の効力が発生することをいいます。
まとめると、行政行為の成立から効力発生までの流れとしては、次の通りです。
要件審査→行政庁の意思決定(行政行為の成立)→国民への告知(行政行為の効力発生)
告知の方法には、口頭や文書、公示、交付、証印があります。
行政行為の付款
「行政行為の付款」とは、行政行為の効果を制限したり、特別な義務を課したりするため、主たる意思表示に付加される行政庁の従たる意思表示のことをいいます。具体的には、自動車の運転免許が付与される場合に、運転者に眼鏡の着用を義務付ける場合等が挙げられます。
「運転免許の付与」という主たる意思表示に、「眼鏡の着用」という従たる意思表示が付加されています。また、運転免許に記載される有効期限等も同じです。「運転免許の付与」という主たる意思表示に、「X年Y月Z日まで有効」という従たる意思表示が付加されています。
行政行為の付款の種類には、①条件②期限③負担④取消権の留保(撤回権の留保)⑤法律効果の一部除外という5種類があります。行政行為の付款は、主たる意思表示に付加する従たる意思表示ということで、意思表示を要素とする法律行為的行政行為にのみ付加することができ、意思表示を要素としない準法律行為的行政行為には付加することができません。
また、行政行為の付款は、行政目的と無関係に付けることはできず、必要最小限のものでなければなりません。
行政行為の効力
行政行為の効力は、「行政行為の成立」部分で述べたとおり、相手方が行政庁の意思決定を了知することができる状態になったときに発生します。その種類には、主に以下の5つが挙げられます。
(1)拘束力
行政行為の効力が相手方のみならず、行政行為を行った行政庁をも拘束するとする効力のことをいいます。
(2)公定力
行政行為が、たとえ違法であったとしても、その違法が重大かつ明白で、当該処分を当然無効とする場合を除いては、権限のある行政庁や裁判所によって適法に取り消されない限り有効なものとして扱われるとする効力のことをいいます。
法の理念から考えると、本来、違法な行為は無効ですが、行政行為の場合には、違法な行為を全て無効としてしまうと、円滑な行政運営の実現が阻害され、国民生活に混乱が生じる可能性が高いと考えられています。
そのため、公定力が認められ、違法な行政行為でも当然に無効とはならないとされています。
最判昭和30.12.26の判例においても、「行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全に効力を有する」とされています。
(3)不可争力(形式的確定力)
行政行為に瑕疵があったとしても、一定期間を経過すると、その後、相手方からは、審査請求や取消訴訟を提起して、瑕疵ある行政行為について争うことができなくなる効力のことをいいます。
この効力は、記載のとおり、相手方から争うことはできませんが、行政側の職権で取り消すことは可能です。
不可争力は、時効のようなもので、行政行為が多くの国民に影響を及ぼす行為であるため、長期間不確定な状況が続くと、国民生活に混乱が生じるおそれがあるという理由から認められています。
(4)不可変更力(実質的確定力)
行政行為の中でも、紛争裁断的行為については、たとえ違法な行為であったとしても、一度判断を下した以上は、もはや行政庁自身も取り消すことができないとする効力のことをいいます。
紛争の蒸し返しを防ぐために認められています。紛争裁断的行為とは、審査請求に対する裁決等のことです。
最判昭和29.1.21の判例においても、裁決について、「実質的に見ればその本質は法律上の訴訟を裁判するもの」と述べて、行政機関が前審として裁判を行うことを肯定した上で、「かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り、裁決庁自らにおいて取り消すことはできない。」として不可変更力を認めています。
(5)自力執行力
行政行為により命じられた義務を国民が果たさない場合には、法律に基づき、行政庁が自分の判断で強制的に履行を実現できるとする効力のことをいいます。この効力は、行政目的を迅速に実現するために認められています。
ただし、行政側に大きな権限を認めることになるため、法律に根拠のある場合かつ、下命や禁止のような国民に義務を課す行政行為にのみ認められています。
まとめ
行政行為についてご理解いただけましたでしょうか?
行政行為の種類には、似たような用語でありながら、微妙に意味の違うものが多く、複雑です。特に、「許可」、「特許」、「認可」等は、単語を見ただけではほぼ同じ意味のように思えます。
また、具体例では、用語と分類にずれもあって、なかなか覚えづらいかと思います。
大変かとは思いますが、行政書士試験の行政法においてはよく問われる分野の1つですので、何度も繰り返し読んで覚えていただきたいと思います。
福澤繁樹(ふくざわ しげき)
分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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