行政裁量とは?重要判例とともに解説します!

更新日:2021年6月3日

「行政裁量」とは、法律が行政機関に独自の判断余地を与えて、一定の行政活動に自由を認めていることをいいます。行政裁量は、行政行為のみならず、行政立法、行政契約、行政計画等様々な場面で問題になります。

そして、行政庁の裁量に委ねられた行為のことを「裁量行為」といいます。

これに対して、行政活動の内容があらかじめ裁量の余地なく、一義的に決定されていることを「羈束行為」といいます。

目次

行政裁量の意義

法律による行政の原理を徹底する場合には、すべての行為は羈束行為であることが望ましいと考えられていますが、もし、全く行政活動に自由な裁量が認められないとすると、硬直的な対応しかできない可能性があり、現実性に欠けることから、行政裁量が認められています。

行政裁量の司法審査

法律が一定の裁量を認めているため、裁量権の範囲内の行為であれば、法律の解釈や適用の問題は生じないとされています。そのため、行政裁量に対する司法審査は、「裁量権の逸脱」又は「裁量権の濫用」がある場合に限られています。

「裁量権の逸脱」とは、与えられた権限を越えることであり、「裁量権の濫用」とは、与えられた権限の範囲内ではあるものの、妥当性に欠けることをいいます。

要件裁量と効果裁量

ある行政行為について、行政庁に裁量の余地が認められている場合、この裁量行為は、次の2段階に生じます。

①法定の要件が充足されているかの認定段階

②行政行為を行うか否か、行うとしてどのような行為を行うかの段階

①の段階における裁量を「要件裁量」、②の段階における裁量を「効果裁量」といいます。

要件裁量

「要件裁量」とは、すなわち、法律の要件に当てはまるかどうかについて裁量がある場合のことをいいます。

例えば、国家公務員法に、「職員について、勤務実績が良くない場合やその官職に必要な適格性を欠く場合には、人事院規則の規定に基づき、その意に反して、降任又は免職することができる」旨の規定がありますが、前半の、「勤務実績が良くない場合やその官職に必要な適格性を欠く場合」という部分が法律要件であり、この「勤務実績が良くない場合」や「官職に必要な適格性を欠く場合」とは、具体的にどのような場合であるかの認定について、裁量が認められています。

効果裁量

「効果裁量」とは、すなわち、法律要件を満たしたことが前提で、法律の効果について裁量がある場合のことをいいます。

先程の国家公務員法の例では、後半の、「その意に反して、降任又は免職することができる」という部分が法律効果であり、降任又は免職かどちらにするかを選択できます。

また、降任又は免職を行うことは義務ではないため、これらを行っても良いし、行わなくても良いという選択もできます。

つまり、どのような処分を下すかの認定について、裁量が認められています。

自由裁量と羈束裁量

行政庁に裁量が認められた場合、その裁量行為にはさらに「自由裁量」と「羈束裁量」の2種類に分けられます。

自由裁量

「自由裁量」とは、行政権に与えられた裁量権の趣旨を純粋に行政権に委ねられたものと解釈して、この自由裁量に属する場合には行政庁の判断を尊重し、原則として司法審査は及ばないと考えます。

自由裁量は、「便宜裁量」とも呼ばれています。

羈束裁量

「羈束裁量」とは、行政権の裁量を全くの自由裁量ではなくて、法律が予定している基準がある裁量であると考え、その法律が予定している基準に抵触するような裁量には司法審査が及ぶと考えます。

羈束裁量は、「法規裁量」とも呼ばれています。

行政裁量に関する重要判例

マクリーン事件(最判昭和53年10月4日)

【事案】

外国籍を有するXは、日本に入国し、出入国管理令等に基づく在留資格により、在留期間を1年とする許可を得て日本に上陸しました。

その後、Xは、1年間の在留期間の更新を申請しましたが、法務大臣Yは、出国準備期間として120日間の在留期間更新を許可するとの処分を行いました。

Xは、Yに対して、再度1年間の在留期間の更新を申請したところ、Yは、更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして、不許可処分を行ったため、Xは、不許可処分の取消訴訟を提起しました。

【争点】

①出入国管理令に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当な理由があるかどうかの判断と法務大臣の裁量権との関係とは?

②出入国管理令に基づく法務大臣の在留期間の更新を認めるに足りる相当な理由があるかどうかの判断に対する裁判所の司法審査はどのようなものか?

【理由および結論】

①出入国管理令は、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留状況、在留の必要性や相当性等を審査させ、在留の拒否を決定させようとしており、また、在留期間の更新事由が概括的に規定され、その判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨である。

そのため、出入国管理令の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲は広汎なものである。

②裁判所は、法務大臣の判断が、法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等によりその判断がまったく事実の基礎を欠くかどうか、または事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により、その判断が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、その判断に裁量権の逸脱又は濫用があったものとして、違法であるとすることができる。

結論として、この判例ではYの判断に裁量権の逸脱又は濫用があったとはいえない(=違法性はない)として、Xの請求は認められませんでした。

学校施設の目的外使用不許可処分(最判平成18年2月7日)

【事案】

広島県教職員組合Xが、毎年開催している県教育研究集会の会場として、呉市立中学校Aの学校施設の使用を申し出たところ、呉市立教育委員会Bは、右翼団体による妨害活動のおそれ等を理由に、不許可処分としました。

そのため、Xは、他の公共施設を会場として、集会を開催することにしました。

Xは、呉市立教育委員会Bによって不当に学校施設の使用を拒否されたとして呉市を相手として国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

公立中学校の目的外使用の許否の判断は、どのような場合に違法となるか?

【理由および結論】

学校施設は、本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限している。

そのため、学校施設の目的外使用を許可するか否かの判断は、原則として、管理者の権限に委ねられている。

したがって、裁量権の行使が逸脱又は濫用にあたるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、または社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる。

結論として、この判例では、教育委員会の判断に裁量権の濫用があった(=違法性がある)としてXの請求が認められました。

小田急高架訴訟事件(最判平成18年11月2日)

【事案】

建設大臣(現国土交通大臣)は、平成6年、東京都に対して小田急小田原線のある区間を高架式により連続立体交差化する内容の都市計画事業認可と、同区間に沿って付属街路を設置することを内容とする計画事業認可を行いました。

同区間の沿線住民Xらは、事業方式について優れた代替案である地下式を理由なく不採用とし、その結果、Xらに甚大な被害を与える高架式で同事業を実施しようとする点で、事業の前提となる都市計画決定の事業方式の選定には違法がある等と主張して、建設大臣の事業承継者である関東地方整備局長Yに対して2つの認可の取消訴訟を提起しました。

【争点】

①都市計画決定における行政庁の裁量の範囲はどのように解釈するか?

②行政庁の判断が裁量権の逸脱又は濫用として無効となるのはどのような場合か?

【理由及び結論】

①都市計画法では、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしている。

このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。

そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広汎な裁量に委ねられているというべきである。

②都市施設の設置に関する決定については、決定する行政庁の広汎な裁量に委ねられており、裁判所が都市施設に関する都市計画決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により、重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により、その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法となる。

結論として、この判例では、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がなかった(=違法性はない)として、Xの請求は認められませんでした。

余目町個室付浴場事件(最判昭和53年5月26日)

【事案】

有限会社Xは、個室付浴場を営業するため、山形県余目町の土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認申請をし、建築確認を得た上で、建物を完成させました。

また、Xは、個室付浴場の営業許可も得ていました。

しかしながら、当該個室付浴場の建築に対して周辺住民から反対運動が起こったため、余目町及び山形県Yは、風俗営業等取締法の「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場の営業を禁止する」という規定に違反するよう、Xの個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園に認可を与えました。

Xは、個室付浴場を開業することができなくなりましたが、この風営法に反してXは営業を開始し、業務停止処分を受けました。

そこで、Xは、処分取消訴訟を提起し、その後、訴訟継続中に営業停止処分期間が経過したため、Yを被告とする国家賠償請求訴訟に変更しました。

【争点】

個室付浴場の開業を阻止するために、県知事が行った児童遊園設置認可処分は、国家賠償法上違法となるか?

【理由および結論】

本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操を豊かにすることを目的とする施設であるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿ってなされるべきものであって、個室付浴場営業の規制を主な動機、目的として行った認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

結論として、この判例では、山形県Yの判断に裁量権の濫用があった(=違法性がある)としてXの請求が認められました。

神戸税関事件(最判昭和52年12月20日)

【事案】

神戸税関職員かつ全国税関労働組合神戸支部の役員であるXらは、同僚職員に対する懲戒処分について抗議活動、勤務時間に食い込んでの職場集会の続行、職員増員要求・超過勤務命令撤回運動等の組合活動で指導的役割を果たしていました。

神戸税関長Yは、Xらの行為が国家公務員法の定める職務命令遵守義務や争議行為等の禁止等に違反するとして、懲戒処分を行いました。

これに対して、Xらは、第一次請求として処分無効確認請求、第二次請求として取消訴訟を提起しました。

【争点】

懲戒権者の裁量権の行使としてなされた公務員に対する懲戒処分について、裁判所はどのような方法でその適否を判断すべきか?

【理由および結論】

国家公務員法は、懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分をすべきかどうか、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかについて具体的な基準を設けていないため、懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、いかなる処分を選択すべきかは、懲戒権者の裁量に委ねられている。

そして、懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合でない限り、違法とはならない。

そのため、裁判所が処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか、又は、いかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と当該処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法となる。

結論として、この判例では、神戸税関長Yによる懲戒処分に、裁量権の範囲の逸脱又は濫用がなかった(=違法性はない)として、Xらの請求は認められませんでした。

まとめ

行政裁量について、ご理解いただけましたでしょうか?

行政書士試験においては、裁量行為と羈束行為、要件裁量と効果裁量、自由裁量(便宜裁量)と羈束裁量(法規裁量)のそれぞれの意味や、行政裁量と司法審査の関係、つまり、行政庁の判断が、裁量権の範囲の逸脱又は濫用にあたる場合には、裁判所により違法と判断されること等を中心に覚えていただければと思います。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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