行政立法とは?委任命令と執行命令の違いを解説します。

更新日:2021年6月3日

天秤

行政活動には、まず、大きく分けて①基準設定作用②執行作用があります。

①はさらに、行政立法と行政計画、②はさらに、行政行為とその他の行政行為(行政契約、行政指導)に分けられます。

今回は、①の中の行政立法について詳しく紹介していきます。

目次

行政立法とは?

「行政立法」とは、行政機関が、法文のような形式で一般的、抽象的な定めをすることをいいます。

憲法第41条では、「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と規定されており、法律は国会が制定することになっています。

しかしながら、法律は、最低限のルールを規定するのみで、細かいルールを定めるものではありません。

それでは、具体的な問題が起こった場合に、国民に混乱が生じてしまうおそれがあるため、このような法律を補足するものとして、政令や省令、府令、規則等が存在します。

例えば、道路交通法について、これは道路交通に関する最低限のルールを定めた法律であり、道路交通法施行令、道路交通法執行規則等でさらに細かいルールを定めています。

このような道路交通法施行令、道路交通法施行規則等が行政立法ということになります。

行政立法の必要性

行政立法が必要とされる理由は、以下の3点が挙げられます。

対象の専門化
状況変化への柔軟性、適応性
中立性確保

まず、①について、法規の定立を全て議会に委ねることになると、専門技術的事項がでてきた場合にも、議会で審議することになり、困難かつ非効率的です。

次に、②について、議会による立法では、状況変化に即時対応して改正することが難しいと考えられています。

最後に、③について、政治的に中立的な立場にある行政機関が規範を定立することが合理的と考えられる場合もあり、また、地方の実情に応じた柔軟な対応をするためには、行政機関が規範を定立した方が合理的と考えられる場合があります。

これらの理由から、法律では一般的、抽象的な根拠や基準を定めることにして、その具体的、実質的な内容は行政立法に委任するという例が増加しました。

行政立法の種類

行政立法の種類には、大別して①法規命令と②行政規則があります。

①法規命令にはさらに、(1)委任命令と(2)執行命令、②行政規則には(1)訓令、(2)通達、(3)告示に分けられます。

それぞれの内容について以下、紹介していきます。

①法規命令

「法規命令」とは、国民の権利義務に直接関わる命令のことをいいます。法規命令には、内閣が制定する政令や、内閣総理大臣が制定する内閣府令、各省大臣が制定する省令、各庁の長官や委員会などが制定する規則等が挙げられます。

(1)委任命令

「委任命令」とは、法律その他上級の法律に基づいて、その委任された事項について定めるもののことをいいます。「受任命令」とも呼ばれています。

既に記載したとおり、憲法では国会が国の唯一の立法機関であるため、国会が制定する法律に、細かいルールを定める場合、委任がなければなりません。その際、法律は、白紙委任をしてはならないとされています。つまり、一般的、抽象的な委任ではなく、個別具体的に委任する必要があります。

また、委任命令によって罰則に関する規定を定めることも可能とされています。

(2)執行命令

「執行命令」とは、憲法、法律その他上級の法令の実施に必要な具体的細目や手続的事項を定めるもののことをいいます。「実施命令」とも呼ばれています。

執行命令は、委任命令と異なり、一般的な発令権限の規定があれば、制定可能とされています。

例えば、宅建業法第3条3項で、「免許の有効期間の満了後、引き続き宅建業を営もうとするものは、免許の更新を受けなければならない。」と規定されており、これに対して執行命令として、宅建業法執行規則第3条で「免許の更新を受けようとするものは、免許の有効期間満了の日の90日前から30日前までの間に、免許申請書を提出しなければならない。」という法令の実施に必要な具体的な事項を定めています。

②行政規則

「行政規則」とは、国民の権利義務に直接関わらない命令のことをいいます。「行政命令」や「行政規程」とも呼ばれています。

行政規則は、国民に対する法的拘束力を持たないため、たとえ行政機関が自ら定めた行政規則に違反したとしても、原則、違法とはなりません。

また、法規の性質を持たないため、法律の委任は不要です。

(1)訓令

「訓令」とは、上級官庁が下級官庁又はその職員に対して発する命令のことをいいます。国家行政組織法第14条2項に規定されています。

訓令の種類には、内閣の訓令、内閣府の訓令、各省の訓令、庁・委員会の訓令等があります。

【国家行政組織法】

第14条2項 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。

(2)通達

「通達」とは、上級官庁が下級官庁に対して発する命令のことをいいます。訓令と通達の内容は同じですが、訓令が書面になったものが通達です。

処分が通達に違反してもその処分は有効と考えられています。

(3)告示

「告示」とは、公示を必要とする行政措置の表現形式のことをいいます。国家行政組織法第14条1項に規定されています。

ちなみに、「公示」とは、一定の事項を周知させるために、一般人が知ることのできる状態に置くことです。

【国家行政組織法】

第14条1項 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。

行政立法と司法審査との関係

行政立法のうち、司法審査の対象となるのは、国民の権利義務に直接影響を及ぼす法規命令と考えられています。

しかしながら、処分の違法性を判断する前提として、行政立法の違法性を判断する等、間接的に審査をする場合(間接審査)、国民の権利義務に直接影響を及ぼさない行政規則の違法性を審査することもあると考えられています。

行政立法に対する司法審査の方法としては、行政立法の効力や違法性を直接審査対象とする場合で、処分性があると判断された場合には、取消訴訟で行政立法を取消し又は無効等確認訴訟で無効の確認が可能です。

行政立法の効力や違法性を直接審査対象とする場合で、処分性がないと判断された場合には、公法上の法律関係に関する確認の訴えにおいて、確認の利益が認められる場合に、行政立法の無効等確認を求めることが可能です。

行政立法の効力や違法性を直接審査対象としない場合(間接審査の場合)には、取消訴訟又は無効等確認訴訟で、行政立法を前提とする処分の違法を理由に、前提となる当該行政立法の違法性等を主張します。

あるいは、公法上の法律関係に関する確認の訴えにおいて、権利義務等の法律問題の前提として行政立法の無効等を主張します。

まとめ

行政立法についてご理解いただけましたでしょうか?

行政書士試験においては、次の事項等を中心におさえていただければと思います。

  • 行政立法には「法規命令」と「行政規則」という2種類がある
  • 「法規命令」は国民の権利義務に直接影響を及ぼすもので、「行政規則」は国民の権利義務に直接影響を及ぼさないものである
  • 「法規命令」は、さらに「委任命令」と「執行命令」に分けられる
  • 「委任命令」は、権利義務の内容を規定するものである
  • 「執行命令」は、権利義務の内容を実現するための手続きを規定するものである
この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
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