行政組織における重要ワード!行政主体と行政機関について解説します。

更新日:2021年5月10日

文部科学省

「行政法」という特定の法律は実際には存在しません。行政に関する法律全てを総称して「行政法」と呼びます。

その「行政法」には、一般的に、①行政組織法、②行政作用法、③行政救済法の3つの分類があり、①行政組織法が今回紹介する行政組織に関する法律です。

行政組織は主に「行政主体」と「行政機関」から成り立っています。

目次

行政主体とは?

「行政主体」とは、行政を行う権利と義務を持ち、自己の名と責任で行政を行う団体のことをいいます。代表的な行政主体は、国及び地方公共団体であり、その他、独立行政法人や特殊法人等が挙げられます。

「国」とは、一般的な定義では、国民、領土、政府のことを指しますが、行政主体における「国」は、主に政府のことをいいます。

地方公共団体

「地方公共団体」とは、一定の地域と住民から成り立ち、自治権に基づいて公の行政を行うことを目的とする団体のことをいいます。

例えば、都道府県や市町村のことをいいます。

独立行政法人

「独立行政法人」とは、独立行政法人法第2条1項に定義があります。

国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効果的かつ効率的に行わせるため、中期目標管理法人、国立研究開発法人又は行政執行法人として、独立行政法人法及び個別法の定めるところにより設立される法人のことをいいます。

具体的には、国立科学博物館や統計センター、国立公文書館等が挙げられます。

特殊法人

「特殊法人」とは、政府が必要とする事業を代わりに行う法人のことをいいます。

政府が必要な事業を行う場合、その事務の性質が企業的経営になじむものであり、これを通常の行政機関に担当させても、各種の制度上の制約から能率的な経営を期待できない場合等に、特別な法律により独立の法人を設けて、自主的な経営を行わせようとするものです。

独立行政法人と混同されがちですが、特殊法人は国からの保護が充実していることが特徴です。場合によっては、税金の免除、政府の財政投融資等により資金調達が可能です。

具体的には、日本私立学校振興・共済事業団、日本放送協会(NHK)、日本中央競馬会等が挙げられます。

その他

その他の行政主体として、認可法人や公共組合、指定法人等も挙げられます。

認可法人」とは、民間が発起人となって設立される法人ですが、設立にあたっては、特別法に基づき、大臣の許可が必要な法人のことをいいます。
例えば、日本銀行や日本赤十字社、預金保険機構等が挙げられます。

公共組合」とは、公共の利益を得る目的で、特定の行政事務を行う公法上の法人のことをいいます。目的の公共性から、法律により、組合の設立や解散に関する国の関与、組合員の強制加入、特別の権利、国による監督制度等があります。
例えば、健康保険組合、国民健康保険組合、農業共済組合等が挙げられます。

指定法人」とは、法令等に基づいて、国の指定、認定、登録等を受けて法令等で定められた特定の事務や事業を実施する法人のことをいいます。
例えば、日本容器包装リサイクル協会、家電製品協会指定法人業務センター、広域臨海環境整備センター等が挙げられます。

行政機関とは?

「行政機関」とは、行政権の行使に関わる国及び地方の機関のことをいいます。行政機関の種類を以下詳しく解説していきます。

行政庁

「行政庁」とは、行政主体の法律上の意思決定をし、外部に表示する権限を持つ機関のことをいいます。注意すべきは、国の行政機関における1府12省庁の「庁」の1つではないということです。

各省大臣、地方公共団体の長、警察署長、税務署長等の自然人1人で構成される独任制の行政庁と、内閣や公正取引委員会等の自然人複数人で構成される合議制の行政庁の2種類があります。

諮問機関

「諮問機関」とは、行政庁の諮問に応じ、又は自ら進んで意見を陳述することを主な任務とする機関のことをいいます。

法制審議会、社会保障制度審議会、中央教育審議会等各種審議会が例として挙げられます。

諮問機関の答申は、法律的には行政庁を拘束しません。ただし、諮問機関の答申を経ることが要求されているにもかかわらず、行政庁が怠った場合には、特段の事情がない限り、手続上の瑕疵に当たるとして、当該行政庁の決定は違法となります。

参与機関

「参与機関」とは、行政庁の意思決定に参与し、行政庁の意思決定を拘束する議決を行う機関のことをいいます。

電波監理審議会、検察官適格審査会等が例として挙げられます。

諮問機関と異なり、参与機関の議決は、行政庁を拘束します。参与機関の議決を経ることを要求されているにもかかわらず、行政庁が怠った場合にも、行政庁の決定は無効となります。

監督機関

「監査機関」とは、行政機関の事務や会計処理を検査し、その適否を監査する機関です。

国の会計監査をする会計検査院、地方公共団体の財務に関する事務の執行や経営に係る事業管理を監査する監査委員等が例として挙げられます。

執行機関

「執行機関」とは、行政目的を実現するために、行政庁の命令を受けて、私人の身体や財産に対して実力行使をする機関のことをいいます。国民に行政上の義務を強制的に履行させたり、違法な状況を排除するために、即時強制を行ったりします。

警察官や消防官、自衛官等が例として挙げられます。

補助機関

「補助機関」とは、その他の行政機関の職務遂行を補助する機関のことをいいます。事務次官や副知事、副市町村長、行政機関に勤務する一般職員等が例として挙げられます。

国の行政機関

国の行政機関は、省、委員会及び庁のことをいいます。それらの設置及び廃止は、法律の定めるところによるとされ(国家行政組織法第3条2項)、省は、内閣の統轄の基に行政事務をつかさどる機関として置かれるものとし、委員会及び庁は、省に、その外局として置かれるものとされています(同法第3条3項)。

内閣は、憲法上の機関として行政権を担当し、行政権のトップとして国家行政組織を統括します。内閣総理大臣と14人以内の国務大臣から構成される合議機関です。内閣府は、「内閣府設置法」に基づいて規律され、それ以外は「国家行政組織法」に基づいて規律されています。

2001年1月に、中央省庁は、1府22省庁から、1府12省庁に再編されました。

【省・委員会・庁】(2020年1月時点)
委員会
内閣府 公正取引委員会
国家公安委員会
個人情報保護委員会
カジノ管理委員会
宮内庁
警察庁
金融庁
消費者庁
総務省 公害等調整委員会 消防庁
法務省 公安審査委員会 出入国在留管理庁
公安調査庁
外務省
財務省 国税庁
文部科学省 スポーツ庁
文化庁
厚生労働省 中央労働委員会
農林水産省 林野庁
水産庁
経済産業省 資源エネルギー庁
特許庁
中小企業庁
国土交通省 運輸安全委員会 観光庁
気象庁
海上保安庁
環境省 原子力規制委員会
防衛省 防衛装備庁

その他、国の行政機関において、人事院や会計検査院等も挙げられますが、人事院は、国家公務員の人事管理の公正中立と統一を確保し、労働基本権の制約の代償機能を果たすため、人事院規則の制定改廃や不利益処分の審査の判定、給与に関する勧告等を行う行政機関のことをいいます。

人事院は、国家公務員法に基づいて規律されています。

会計検査院は、国や政府関係機関の決算、独立行政法人等の会計、国が財政援助する地方公共団体の会計等の検査を行い、決算検査報告を作成することを主な任務としている行政機関のことをいいます。会計検査院は、会計検査院法に基づいて規律されています。

行政機関の権限

行政庁は、法令等に定められた権限を自ら行使することが原則となっていますが、例外として、下級行政機関や補助機関に、その権限を行わせることもあります。これを「権限の代行」といいます。

権限の代行には①権限の委任、②権限の代理、③専決の3つの種類がありますので、以下、それぞれについて具体的に解説していきます。

権限の委任

「権限の委任」とは、権限を持つ行政庁が、その権限の一部を他の行政機関に委任することをいいます。委任された権限は、受任機関に移転することになり、受任機関は、自己の名と責任において権限行使を行います。

受任機関が委任機関の下級行政機関である場合には、委任機関が委任後も、その権限行使について受任機関を指揮監督することが可能です。

一方で、受任機関が委任機関と上下関係にない場合には、原則として、委任機関が受任機関を指揮監督することができません。また、権限の委任には、法律の根拠がなければなりません。その理由は、法律とは異なる権限配分を、行政庁の一存で定められてしまうと、国民はいずれの行政機関を相手に手続き等を行うのかわからなくなってしまうからです。

さらに、権限の委任においては、権限の主要部分や権限の全てを委任することもできません。

権限の代理

「権限の代理」とは、行政庁の権限の全部又は一部を他の者に代理公使させますが、その効果が本来の行政庁の行為として発生することをいいます。権限の所在自体は、委任機関から移動しないことが特徴です。

権限の代理には、さらに、(1)授権代理と(2)法定代理に分類されます。

(1)授権代理

本来の行政庁が自らその権限の一部を、他の行政機関に代理公使させることを定める場合のことをいいます。この場合、代理する機関は、本来の行政庁の名前で行使し、その効果も、本来の行政庁に帰属します。

授権代理は、法律に根拠がなくても行うことができます。理由は、委任の場合と違って、権限の帰属そのものは移動しないためです。

ただ、一般的には必要やむを得ない場合に限り、権限の一部についてのみ、認められています。

(2)法定代理

行政庁が事故等で欠けた場合等に、法律の定めに従って、他の行政機関が、本来の行政庁の権限の全てを行う場合をいいます。法律によって、あらかじめ代理関係の発生が規定されている点が特徴です。

法律の定めに従うため、当然、法律の根拠は必要です。

法定代理には、法定事実の発生により、直ちに代理関係が発生するとする「狭義の法定代理」と、法定事実の発生により、一定の者による代理権の指定によって代理権が発生する「指定代理」があります。

専決

「専決」とは、内部的委任とも呼ばれています。外部に関する関係では、本来の行政庁の名前で権限行使を行いますが、実際には、行政庁の補助機関等が事務処理の決定等を行っている場合のことをいいます。

狭義の意味では、緊急を要する案件の決定を委ねる場合を特に「代決」といい、専決と区別しています。専決は、外部的には本来の行政庁の名前で行われるため、法律の根拠は必要ありません。

【権限の代行まとめ】
種類 権限の委任 授権代理(※1) 法定代理(※1) 専決
法律の根拠 必要 不要 必要 不要
権限の移動 あり なし なし
効果の帰属先 受任機関 本来権限を有する行政機関 本来権限を有する行政機関
相手方への表示 受任機関が自己の名で 代理人である旨の顕名が必要 本来権限を有する行政機関
指揮監督 委任機関が受任機関の
上級行政機関の場合、
指揮監督権あり。(※2)
本来権限を有する行政機関の指揮監督権あり

※1:権限の代理
※2:それ以外の場合には、指揮監督権なし

まとめ

行政組織は、様々な機関から成り立っており、それぞれが細かい役割、権限を持っていることをご理解いただけましたでしょうか?

今回のポイントとしては、行政主体のうちの独立行政法人と特殊法人との違いや、行政機関のうち、諮問機関の意見は行政庁を拘束しませんが、参与機関の意見は行政庁を拘束するということ、行政機関の権限には3種類あり、権限の委任及び権限の代理の中の法定代理は法律の根拠が必要で、権限の代理の中の授権代理及び専決には法律の根拠が不要であるということです。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
フォーサイト講師ブログ

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