地方自治法に規定されている直接請求制度とは?

更新日:2021年7月12日

色々な職業の人が並んでる絵

「直接請求制度」とは、普通地方公共団体の住民が、一定の事項について、直接担当機関に請求できる制度のことをいいます。地方自治は、国政と同じく、間接民主制が採用されていますが、地方自治の本旨は住民自治です。

地方自治法では、地方自治の運営が住民の意思に反して行われたり、住民が疑問を持つような形で行われようとする場合に、住民が直接自己の意思を表示する機会を与えています。

つまり、直接請求制度は、住民が地方自治を考える上で大切な制度とされています

目次

直接請求の種類

直接請求の種類は、主に①条例の制定・改廃請求、②監査請求、③議会の解散請求、④議員や長の解職請求、⑤特定の職員の解職請求という5つの種類があります。

以下、それぞれの内容について紹介していきます。

条例の制定・改廃請求

条例の制定・改廃は、普通地方公共団体において選挙権を有する者が、政令の定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもって、その代表者から当該普通地方公共団体の長に対して請求します。

ただし、地方税の賦課徴収や分担金、使用料および手数料の徴収に関するものについては、請求の対象外とされています。

条例の制定・改廃請求の代表者は、条例の制定又は改廃の請求者の署名簿を市町村の選挙管理委員会に提出して、署名押印した者が、選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めなければなりません。この場合には、当該市町村の選挙管理委員会は、その日から20日以内に審査を行い、署名の効力を決定し、その旨を証明しなければなりません。

また、市町村の選挙管理委員会は、署名簿の署名の証明が終了したときは、その日から7日間、指定した場所において署名簿を関係人の縦覧に供さなければなりません。

条例の制定又は改廃の請求者の署名について、①法令の定める正規の手続によらない署名、②誰が署名したかを確認しづらい署名等は、無効となります。

署名権者や署名運動者に対して暴力や威力、不正な行為によって署名の自由を妨害した者等には、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科されます。

条例の制定・改廃請求がなされたときは、当該普通地方公共団体の長は、直ちに請求の要旨を公表しなければなりません。

そして、普通地方公共団体の長は、請求を受理した日から20日以内に議会を招集し、意見を付けてこれを議会に付議し、その結果を代表者に通知するとともに、公表しなければなりません。

当該普通地方公共団体の議会は、付議された事件の審議を行う場合には、政令で定めるところにより、代表者に意見陳述の機会を与えなければなりません。

監査請求

監査請求は、普通地方公共団体において選挙権を有する者が、政令で定めるところにより、その総数の50分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、当該普通地方公共団体の事務の執行に関し、当該普通地方公共団体の監査委員に対して行うことができます。

監査請求がなされたときは、監査委員は、直ちに当該請求の要旨を公表しなければなりません。監査委員は、請求に関する事項につき監査して、監査結果に関する報告を決定します。

監査の結果に関する報告の決定は、監査委員の合議によります。

その後、代表者に送付し、公表するとともに、これを当該普通地方公共団体の議会及び長並びに関係のある教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会その他法律に基づく委員会又は委員に提出しなければなりません。

ただし、監査の結果に関する報告の決定について、各監査委員の意見が一致しないことによって、合議で決定することができない事項がある場合には、その旨及び当該事項についての各監査委員の意見を代表者に送付し、かつ、公表するとともに、これらを当該普通地方公共団体の議会及び長並びに関係のある教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会若しくは公平委員会、公安委員会、労働委員会、農業委員会その他法律に基づく委員会又は委員に提出しなければなりません。

この監査請求に似た制度として、「住民監査請求」があります。

住民監査請求は、監査対象が財務会計上の違法又は不当な行為に限られていますが、直接請求における監査請求の対象は、事務の執行に関することであれば内容は問いません。

議会の解散請求

普通地方公共団体の議会の解散請求は、当該普通地方公共団体の選挙権を有する者が、政令の定めるところにより、その総数の3分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、当該普通地方公共団体の選挙管理委員会に対して行うことができます。

議会の解散請求の必要署名数には、要件の緩和があり、選挙権を有するものの総数が40万を超え80万以下の場合には、その40万を超える数に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が80万を超える場合には、その80万を超える数に8分の1を乗じて得た数と40万に6分の1を乗じて得た数と40万に3分の1を乗じて得た数とを合算して得た数以上をもって請求可能となります。

よりわかりやすく説明すると、例えば、有権者数が70万人の自治体の場合には、通常の3分の1の要件の場合には、70万×1/3=23万3千人の署名が必要ですが、要件緩和により、(70万-40万)×1/6+40万×1/3=18万3,333人の署名で請求可能となります。

また、例えば、有権者数が90万人の自治体の場合には、通常の3分の1の要件の場合には、90万×1/3=30万人の署名が必要ですが、要件緩和により、(90万-80万)×1/8+40万×1/6+40万×1/3=21万2,499人の署名で請求可能となります。

議会の解散請求がなされたときは、選挙管理委員会は、直ちに請求の要旨を公表して、住民投票を実施しなければなりません。

住民投票の結果、過半数の同意があったときは、解散します。

住民投票の結果が判明した場合は、選挙管理委員会は、直ちに代表者及び当該普通地方公共団体の議会の議長に通知して、公表するとともに、都道府県の場合には都道府県知事に、市町村の場合には市町村長に報告しなければなりません。

投票結果が確定したときも同様です。

そして、普通地方公共団体の議会の解散の請求は、その議会の議員の一般選挙のあった日から一年間および解散投票のあった日から一年間は、することができません。

議員や長の解職請求

議員や長の解職請求は、普通地方公共団体の選挙権を有する者が、政令の定めるところにより、所属の選挙区におけるその総数の3分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対して行うことができます。

議員や長の解職請求においても必要署名数の要件緩和があり、その計算方法は上述した議会の解散請求の場合と同様です。

議員や長の解職請求がなされたときは、選挙管理委員会は、直ちに請求の要旨を関係区域内に公表して、住民投票を実施しなければなりません。

選挙区がない場合には、すべての選挙人による投票を実施します。

住民投票の結果、過半数の同意があったときには、議員や長は失職します。

住民投票の結果が判明した場合は、選挙管理委員会は、直ちに代表者及び当該普通地方公共団体の議会の議長に通知して、公表するとともに、都道府県の場合には都道府県知事に、市町村の場合には市町村長に報告しなければなりません。

投票結果が確定したときも同様です。

そして、普通地方公共団体の議会の議員や長の解職請求は、その就職の日から一年間および解職投票の日から一年間は、することができません。

特定の職員の解職請求

普通地方公共団体の選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の3分の1以上の者の連署をもって、その代表者から、普通地方公共団体の長に対して、副知事、副市町村長、指定都市の総合区長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員の解職請求を行うことができます。

特定の職員の解職請求においても必要署名数の要件緩和があり、その計算方法は上述した議会の解散請求の場合と同様です。

特定の職員の請求がなされたときは、当該普通地方公共団体の長は、直ちに請求の要旨を公表しなければなりません。

そして、当該普通地方公共団体の長は、これを議会に付議し、その結果を代表者および関係者に通知して、これを公表しなければなりません。

議会において、当該普通地方公共団体の議会の議員の3分の2以上の者が出席して、その4分の3以上の者の同意があったときには、当該職員は失職します。

そして、副知事もしくは副市町村長又は指定都市の総合区長の解職請求は、その就職の日から一年間および解職確定の議会の議決の日から一年間は、することができません。

また、選挙管理委員もしくは監査委員又は公安委員会の委員の解職請求は、その就職の日から6ヶ月間および解職確定の議会の議決の日から6ヶ月間は、することができません。

直接請求における注意事項

議会の解散請求や議員および長の解職請求、特定の職員の解職請求には、上述したとおり、請求期間の制限があります。

また、直接請求においては、署名収集の禁止期間があります。衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の議会議員や長の各選挙の際、当該選挙が行われる区域内では一定期間、署名の収集を行うことができません。

例えば、任期満了による選挙の場合には、任期満了の日前60日にあたる日から選挙期日までの間、衆議院の解散による総選挙の場合には、解散の日の翌日から選挙期日までの間、市町村の設置による議会議員又は長の選挙の場合には、市町村が設置された日から選挙期日までの間は署名収集禁止です。

まとめ

直接請求制度は、地方自治の本旨である住民自治を実現する上で大切な制度です。

直接請求の種類と内容については、下記の表のとおりです。

監査請求については、似た制度として住民監査請求があり、住民監査請求は、請求対象が財務会計上の違法又は不当な行為に限定されますが、直接請求における監査請求の対象は、事務の執行に関することであれば内容は問わないという点で異なります。

直接請求の種類と内容の絵
この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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