行政書士の離婚協議書作成業務とは?わかりやすく解説
更新日:2020年3月26日

「離婚協議書」とは、婚姻関係にある夫婦が離婚する際の合意内容を記載した契約書のことをいいます。
離婚協議書を作成することは法律上義務付けられていませんが、離婚協議書を作成する目的としては、
①契約不履行の防止
②食い違いの防止
③契約不備の防止
といった離婚後のトラブル防止です。離婚協議書があれば、離婚後も離婚時における約束を確認することができ、お互いが安心して過ごすことができます。
離婚協議書は「離婚合意書」や「離婚確認書」とも呼ばれます。
離婚制度の種類について
婚姻関係にある夫婦が離婚する場合には、日本においては、①協議離婚②調停離婚③審判離婚④裁判離婚⑤和解離婚という主に5つの制度があります。それぞれ順番に詳しくみていきましょう。
協議離婚
「協議離婚」とは、夫婦が話し合いにより離婚する制度です。日本においては約9割の夫婦が離婚の際に協議離婚を行っています。
協議離婚においては、当事者夫婦が話し合い、①当事者双方の離婚意思②未成年の子どもがいる場合には親権者の決定の2つがあれば、離婚届に署名押印して役所に提出し、受理されることで離婚が成立するため、費用もほとんどかかりませんが、夫婦間で必要な取り決めがなされていないまま離婚をしてしまうケースがあります。
離婚後は、夫婦は他人となってしまうわけなので、夫婦の財産や慰謝料、子どもがいる場合には養育費の支払い等はきちんと話し合って取り決める必要があります。
調停離婚
「調停離婚」とは、協議離婚で話し合いがまとまらなかった場合に行います。調停離婚は、家庭裁判所の調停により成立するもので、男女1名ずつの調停委員と裁判官で構成された調停委員に夫婦がそれぞれ話をします。
直接の話し合いではお互い感情的になってしまう場合でも、調停離婚は調停委員という第三者を介するため、間接的に話し合いができ、冷静に話し合いができるということや、裁判離婚と比べて費用は安くなりますが、時間がかかることや裁判所が平日のみしか開いていないため、仕事を持つ当事者にとってはスケジュール調整が難しくなります。
調停での話し合いの後、調停が成立すれば離婚届を調停調書謄本とともに、離婚成立後10日以内に役所へ提出して、受理されることで離婚成立となります。
審判離婚
「審判離婚」とは、離婚について当事者双方が合意しているものの、ほんのわずかな離婚条件の違いで最終的な合意ができない場合に行われるものです。家庭裁判所が調停委員の意見を聞き、様々な事情を総合的に考慮して、家庭裁判所が独自の判断(職権)で離婚の決定をします。
審判確定の日から10日以内に申立人が本籍地又は住所地の役所に離婚届、審判書謄本、審判確定証明書を提出し、受理されることで離婚成立となります。家庭裁判所の審判決定に異議がある場合には、審判日から14日以内に異議申し立てを行うことで審判の効力を消滅させることが可能です。
実務においては、調停不成立の場合には、裁判離婚に移行することが多いものの、婚姻費用に関してのみ家庭裁判所に審判してもらうというケースが多いようです。審判離婚についても、調停離婚と同様、費用は裁判離婚より安く済みますが、時間がかかり、スケジュール調整が難しいというデメリットがあります。
裁判離婚
「裁判離婚」とは、調停での話し合いが不成立でも、当事者が離婚したいと思った場合に、家庭裁判所に訴訟を提起し、夫婦がお互いの意見を主張し、裁判所が判決を出すものです。
裁判離婚では、当事者の一方が離婚をしたくないという場合においても民法で規定されている離婚原因にその一方が該当する場合には離婚可能です。
具体的には、民法第770条1項各号に記載されています。
①不貞行為があったとき ②悪意の遺棄があったとき ③配偶者の生死が三年以上不明なとき ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みが無いとき ⑤婚姻を継続し難い重大な事情があるとき |
ただ、他の離婚制度と比べると、多大な費用や時間、労力がかかること、手続きが煩雑であり、裁判が傍聴可能な場合には、不特定多数の人の前でプライベートをさらけ出すことになるため、肉体的にも精神的にも負担となる場合があります。
当事者双方の意見を聞き、裁判官による判決確定後、離婚届と判決書謄本、判決確定証明書を10日以内に役所へ提出し、受理されることで離婚が成立します。
もし、判決に不服がある場合には、判決が出たあと14日以内に、控訴をする必要があります。
和解離婚
「和解離婚」とは、平成16年4月に施行された人事訴訟法改正に伴いできた制度です。裁判離婚の途中で当事者双方が歩み寄り、離婚が合意に至った(和解した)場合をいいます。
和解離婚が成立した場合には、和解調書が作成されます。和解離婚成立後、10日以内に、離婚届と和解調書謄本を役所へ提出し、受理されることで離婚が成立します。
和解離婚は、訴訟を早期に終わらせることができ、戸籍にも「和解によって離婚」と記載されるため、再婚の際等に再婚相手に与える印象が裁判離婚の場合より良くなると思われます(裁判離婚の場合には「裁判によって離婚」と記載されます)。
ただし、和解離婚の場合には、当事者双方が譲歩することになるため、金銭面等で最初に考えていた条件よりも低い条件になる場合があります。
ちなみに、和解離婚と似たような制度で「認諾離婚」という制度もありますが、これは、裁判離婚の最中に、当事者の一方(被告)が他方(原告)の意見を全面的に受け入れることで訴訟が終了する制度のことです。
和解離婚が当事者双方が譲歩することによって成立するものであることに対して、認諾離婚は当事者の一方(被告)が紛争を避ける目的等で譲歩することによって成立するものであるという違いがあります。
離婚協議書作成内容
離婚協議書に記載すべき内容は主に5つあります。①離婚の意思②親権者③子どもの養育費や面会交流④慰謝料や財産分与⑤年金分割についてです。それぞれ具体的に説明します。
①離婚の意思 |
当事者夫婦が離婚に合意しているということ、離婚届の提出日、誰が離婚届を役所へ提出するか等を記載します。 |
②親権者 |
離婚する夫婦の間に未成年の子どもがいる場合には、子どもの名前とその親権者を記載します。場合によっては、「長男」「長女」というように続柄も記載します。 |
③子どもの養育費や面会交流 |
「養育費」とは、子どもを育てるために必要な費用のことで、子どもが自立するまでにかかる全ての費用が含まれます。 養育費を支払うのか否か、支払う場合はその金額、支払い期限、支払い方法、振込手数料がかかる場合には誰が支払うのか等を記載します。金額や期限がわからない場合には、養育費の算定方法を記載しておきます。 「面会交流」とは、離婚をすることにより、親権者でない夫婦の一方が子どもと離れて暮らす際に、子どもと会い、交流することをいいますが、面会交流が可能か否か、可能な場合はその方法、頻度、日時、場所、1回あたりの面会交流時間等を記載します。 |
④慰謝料や財産分与 |
「慰謝料」とは、離婚に伴う精神的苦痛に対して支払われるお金のことです。慰謝料を支払うのか否か、支払う場合にはその金額、期日、支払い方法、振込手数料がかかる場合には、誰が負担するのか等を記載します。 「財産分与」とは、婚姻生活中に生じた夫婦間の財産を分配することをいいます。財産の種類、財産分与の支払い期限、支払い方法等、金銭の場合で振込手数料がかかる場合には、誰が負担するか等を記載します。 |
⑤年金分割 |
「年金分割」とは、夫婦が婚姻中に納付した年金保険料の記録を分割し、その付替の手続きをする制度です。厚生年金(旧共済年金含む)だけが分割対象となります。 年金保険料も夫婦が婚姻中に形成した財産であると考えられていますが、年金は法律で規定されている公的制度であるため、財産分与とは区別されています。当事者夫婦の一方が厚生年金(旧共済年金)の場合には、この年金分割についても記載します。 |
上記①~⑤以外にも、離婚協議書を公正証書にする場合にはその旨、離婚協議書に記載のない事項についてはお互い支払いを請求することができず、支払い義務も生じないことを約束する文言である「清算条項」を記載する場合もあります。
離婚協議書作成業務において行政書士ができること
離婚協議書作成業務に関連して行政書士がお手伝いできることは、離婚協議書を一から作成することや、夫婦間で話し合って決めた内容を書面にまとめること、夫婦で作成した離婚協議書をチェックすることの他、円満離婚や後々のトラブル防止のためのアドバイス、財産分与に関する調査等です。
その他、あとで述べますが、離婚協議書を公正証書にする場合には、公証人との打ち合わせや、公証役場に代理人として出頭することも可能です。
離婚協議書作成の際の注意点
離婚協議書を作成する際の注意点としては、夫婦間で取り決めたことは明確に定めて記載することや、記載漏れや誤りがないように離婚の条件をしっかりと確認しておくこと、法律上無効な事項は定めても無意味であるため定めないようにすること、また、法律の趣旨や公序良俗に反することは定めないようにすること、離婚届提出前に離婚協議書を作成しておくこと等が挙げられます。
離婚届を提出後に離婚協議書を作成する場合には、相手方が話し合いに非協力的になる場合もあるためです。また、当事者双方の署名はできるだけ自筆してもらい、作成年月日と押印も忘れずに記載しておきましょう。
離婚協議書を公正証書にすることとの違いとは?
離婚協議書を作成する際は、公正証書にすることも可能です。通常の契約書の場合だと、金銭の支払い契約がある際に、金銭を支払う側がその支払いを怠ると、金銭の支払いを受ける側は裁判を行い、勝訴判決を経なければ、相手方の財産(給料等)に対して「強制的に差し押さえる!」というような強制執行ができません。
しかしながら、契約書を公正証書にしておけば、裁判を経ずにいきなり強制執行が可能となります。そのため、離婚協議書を公正証書にすることで、例えば養育費の支払いを支払う側が怠った場合に、養育費を受け取る側が裁判を経ることなく相手方の給与を差し押さえる等強制執行をすることが可能になります。
その点で、離婚協議書を公正証書にするメリットがあります。行政書士が代理人として公証役場に出頭する場合には、以下のような書類が必要になります。
- 依頼人の本人確認書類
- 委任状
- 登記事項証明書(不動産の財産分与がある場合)
- 固定資産評価証明書(不動産の財産分与がある場合)
- 年金分割のための情報通知書(年金分割の合意を行う場合)
- 年金手帳のコピー(年金分割の合意を行う場合)
行政書士による離婚協議書作成業務の報酬とは?
行政書士による離婚協議書作成業務の報酬の相場は、日本行政書士会連合会の統計資料によると、平均約50,000円でした。
どのような形で依頼が来るのかピンと来ない方もいるかもしれませんが、具体的には、離婚協議書を作成したいものの、どのような内容にすればよいかがわからないという場合や、離婚後に「言った」、「言わない」等のトラブルを防止したいという場合、調停や裁判になり、時間や労力を費やしたくないということで、行政書士に依頼をする方が増えています。
行政書士の仕事内容の中では、メジャーな業務ではない印象ですが、日本の離婚率は約35%になっており、平成27年度の厚生労働省の調査によると離婚件数は22万件もあったそうです。「熟年離婚」という言葉も出てきているように、熟年での離婚も増えています。
そのため、専門家への離婚に関する相談件数も年々増えており、行政書士による離婚関連の業務も、需要が多くなっているといえます。
まとめ
行政書士による離婚協議書作成業務について説明していきましたが、離婚自体は夫婦間で簡単にできてしまう場合もあるものの、離婚の際の取り決めについては慎重に考える必要があるということがおわかりいただけましたでしょうか。
行政書士は、離婚を考えている夫婦がスムーズかつ円満に離婚ができるようサポートしていくことになります。上述のとおり、現在では若い人だけではなく、「熟年離婚」も増えているため、幅広い世代から相談がくる可能性があります。
そのため、それぞれの年齢や状況に合った離婚協議書や取り決めを提案をしていく必要があります。
離婚後も元夫婦がトラブルにならないように、また、無駄な労力を費やさなくてもよいように、さらに、夫婦間に子どもがいる場合には、子どもの精神面での負担を少しでも軽減するためにも離婚協議書は重要なものであり、その作成を依頼された行政書士は大切な役割を担っているといえます。
北川えり子(きたがわ えりこ)
学びの楽しさをシェアしたい
【出身】東京都
【経歴】拓殖大学外国語学部卒。行政書士、海事代理士、宅建等の資格を保有。
【趣味】旅行、ドライブ
【座右の銘】雲外蒼天
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