執行不停止の原則とは?行政不服審査法と行政事件訴訟法との違いも解説します!

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「執行不停止の原則」とは、行政不服審査法及び行政事件訴訟法で規定されている原則であり、行政庁が行った処分の効力は、審査請求や取消訴訟を提起したとしても、有効のままであるという原則です。

審査請求や取消訴訟が提起された段階で処分の執行等を停止していると、行政目的の達成が遅れることや申立ての濫用のおそれがあることを理由として、この原則が採用されています。

行政不服審査法における執行不停止の原則と行政事件訴訟法における執行不停止の原則は、同じような制度ですが、異なる部分もあるため、以下、それぞれの法律における執行不停止の原則について説明していきます。

目次

行政不服審査法における執行不停止の原則

行政不服審査法における「執行不停止の原則」の規定は、第25条1項及び第61条にあります。審査請求、再調査の請求は、処分の効力、処分の執行、又は手続きの続行を妨げないとしています。

例えば、行政庁が飲食店を営業する国民Aに対して営業停止処分を出し、これを不服としたAが審査請求をした場合、この営業停止処分という効力は、審査請求の裁決が出るまで維持されます。もし、行政庁の処分に対して、審査請求の裁決が出るまで執行停止されるとすれば、とりあえず審査請求しておけば少しでも長く営業を続けられると思う人も出てくるかもしれません。

そのように、申立ての濫用がなされるおそれがあることから行政不服審査法では、執行不停止を原則としています。

(執行停止)

第二十五条 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。

(審査請求に関する規定の準用)

第六十一条 ・・・第二十五条(第三項を除く。)・・・の規定は、再調査の請求について準用する。

執行停止の場合

「執行不停止の原則」というくらいですので、もちろん例外もあります。行政不服審査法における執行不停止の例外、つまり執行停止の場合には、(1)任意的執行停止と(2)必要的執行停止の2種類があります。

(1) 任意的執行停止

①審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁である場合

処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立て又は職権で、処分の効力の停止、処分の執行又は手続きの続行の全部又は一部の停止とその他の措置をすることができます。ここでいう「その他の措置」とは、例えば、免職処分を停職処分に変更する等といった措置のことです。

②審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合(=審査庁が第三者機関である場合)

処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聞いた上で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止をすることができます。

①の場合とは異なるポイントとして、職権ではできないことと、「その他の措置」をすることはできないことが挙げられます。

(2) 必要的執行停止

審査請求人の申立てがあった場合に、処分、処分の執行又は手続きの続行により生じる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければなりません。ただし、①公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は②本案について理由がないとみえるときについては、執行停止しないとしています。

②の本案について理由がないとみえるときとは、処分に対する審査請求人の主張が認められる見込みがないときのことをいいます。

また、審査庁は、重大な損害を生じるか否かを判断する際、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容、性質をも勘案するものとしています。

執行停止の取消し

執行不停止の原則の例外の例外もあります。執行停止の取消しです。

執行停止が行われた後、執行停止が公共の福祉に重大な影響を及ぼすことが明らかとなったとき、その他事情が変更したときには、審査庁は、執行停止を取り消すことができます。

例えば、行政庁が、違法建築物を所有するBに対して除去命令を出して、これを不服としたBが執行停止の申立てを行いました。しかし、違法建築物が今にも倒壊してしまうという状況で、近隣住民や通行人に被害が及ぶことが明らかな場合には、執行停止の取消しが可能です。

その他

行政不服審査法第25条6項では、「処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。」と規定されています。

執行停止は、処分の効力を停止させるという強力な措置であるため、他に方法がないときに使用するべき(=補充的に使用するべき)という趣旨の規定です。この規定は「補充性の原則」とも呼ばれています。

そして、執行停止の申立てがあった場合や審理員から執行停止をすべき旨の意見書が提出された場合には、審査庁は、速やかに執行停止をするかどうかを決定しなければなりません。これは、第25条7項に規定がありますが、審理員にも執行停止についての意見書を提出することが認められています。

ただし、執行停止の権限は審査庁にあるため、審査庁は、執行停止をすべき旨の意見書の内容に拘束されません。

行政事件訴訟法における執行不停止の原則

行政事件訴訟法における「執行不停止の原則」の規定は、第25条1項にあります。処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行、又は手続きの続行を妨げないとしています。

執行停止の場合

行政事件訴訟法の場合にも、執行不停止の原則の例外があります。

①処分の取り消しの訴えの提起があること
②処分、処分の執行又は手続きの続行により生じる重大な損害を避けるために緊急の必要があること

①②の要件をどちらも満たした場合には、裁判所は申立てにより、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続きの続行の全部又は一部の停止をすることが可能です。行政不服審査法の(1)任意的執行停止の場合とは異なり、原告による申立てが必要で、裁判所の職権ではできません。

また、上記①②の要件を満たす場合であっても、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときには、執行停止をすることができません。

そして、執行停止の決定は、口頭弁論を経ずにすることが可能です。ただし、あらかじめ当事者の意見を聴かなければなりません。

執行停止の申立てに対する決定には、即時抗告をすることも可能です。「即時抗告」とは、通常の抗告と違い、一定の不変期間内に提起することが必要とされる抗告のことで、特に迅速な確定が求められる決定について、法が明示している場合にだけ認められている不服申し立て方法のことをいいます。

執行停止の決定の効力は、第三者に対しても効力を有します。また、執行停止の決定は、その事件について、当事者である行政庁その他の関係行政庁を拘束します。

執行停止の取消し

執行停止の決定が確定した後であっても、①執行停止の理由が消滅したとき、②その他事情が変更したとき、③内閣総理大臣の異議があったときには、裁判所は、執行者側(=行政庁)の申立てにより、決定をもって執行停止の決定を取り消すことが可能です。

内閣総理大臣の異議

執行停止の申立てがあった場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対して異議を述べることが可能です。執行停止の決定後でも異議を述べることが可能です。

なお、異議を述べる場合には、内閣総理大臣は、理由を附さなければならず、この理由においては、処分の効力存続・処分執行・手続続行をしなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとされています。

執行停止の決定後に異議を述べる場合には、執行停止の決定をした裁判所に対して述べなければなりません。ただし、その決定に対する抗告が抗告裁判所に係属している場合には、抗告裁判所に対して述べなければなりません。

内閣総理大臣の異議は、やむを得ない場合でなければ述べることができず、また、異議を述べた場合には、次の常会で国会に報告をしなければなりません。内閣総理大臣の異議の制度は、行政権が司法権に介入するイレギュラーな制度であるため、限定的に使用するべきという考え方からこの規定が存在しているといえます。

内閣総理大臣による異議があった場合には、裁判所は執行停止をすることができず、また、既に執行停止の決定をしている場合には、裁判所が取り消さなければなりません。

その他

執行停止又はその決定の取消しを申し立てる管轄裁判所は、本案の継続する裁判所です。また、裁判所は、行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲を超えたり、裁量権の濫用があった場合に限って、処分を取り消すことが可能です。

行政不服審査法と行政事件訴訟法における執行不停止の原則の違いまとめ

行政不服審査法 行政事件訴訟法
原則 執行不停止 執行不停止
例外 ・任意的執行停止
・必要的執行停止
緊急の必要性かつ執行停止が公共の福祉を害しない等の要件を満たした場合、裁判所の執行停止の決定により執行停止
例外の例外 公共の福祉に重大な影響を及ぼすときその他事情が変わったときに審査庁による執行停止の取消し 執行停止の決定が確定した後に、その理由が消滅し、その他事情が変更したときに裁判所による執行停止取消しの決定
特殊制度 なし 内閣総理大臣の異議

まとめ

行政不服審査法と行政事件訴訟法における執行不停止の原則についてご理解いただけましたでしょうか?

行政書士試験においては、行政不服審査法における執行不停止の原則の例外には、任意的執行停止と必要的執行停止があるということや執行停止の取消し要件、補充性の原則について、行政事件訴訟法における執行不停止の原則の例外要件及び執行停止の取消し要件、内閣総理大臣の異議について覚えていただきたいと思います。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
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