行政法の基礎知識!公物とは?

更新日:2021年5月7日

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「公物」とは、国又は地方公共団体等の行政主体により、直接、公の目的に供用される有体物のことをいいます。「公の営造物」と同義です。

有体物を指すため、空気や電波等は含まれません。また、美術や音楽、発明といった人間の精神的な創造物である無体財産権も含まれません。

公物は、その所有権が国又は地方公共団体に帰属しているか否かを問いません。つまり、例えば所有権は民間企業でも、国や地方公共団体が公の目的で供用している場合には、「公物」になります。

目次

公物の種類

公物の種類には、主に「利用目的による分類」と「成立過程による分類」があります。

利用目的による分類

利用目的による分類では、①公共用物と②公用物に分けられます。

①公共用物

公共用物とは、一般公衆の使用に供することを目的としており、一般の国民や住民の利用に供用される物のことをいいます。例えば、道路や河川、公園、緑地等のことです。

②公用物

公用物とは、行政目的を遂行するための手段として、行政主体そのものが利用する物のことをいいます。例えば、官公庁舎のことです。

成立過程による分類

成立過程による分類では、①自然公物、②人工公物、③予定公物に分けられます。

①自然公物

自然公物とは、自然の状態で既に公の用に供することのできる実体を備えている物のことをいいます。例えば、河川や海浜等のことです。

②人工公物

人工公物とは、行政主体が人工的に作り、公の用に供する旨の意思表示をすること(=公用開始行為)によって初めて公物となる物のことをいいます。例えば、道路や公園等のことです。

③予定公物

予定公物とは、将来、公用又は公共用に供されることが決定しているものの、まだその状態に達していない物のことをいいます。例えば、河川予定地や道路予定地等のことです。予定公物は、公物に準じた取扱いを受けます。

公物の時効取得

公物をめぐっては、しばしば時効取得の対象となるのかが問題となってきましたが、判例によると、一定の要件を満たせば時効取得が可能とされています。

例えば、公物の売渡処分が無効であることを知らないで占有した者に対して、特別の事情がない限り、時効取得を認めた例(最判昭和41年9月30日)や、公物のままでは民法上の時効取得の対象とはならないものの、長年の間、事実上公の目的に使用されず、黙示の公用廃止があったとみられる場合には、行政庁による明確な公用廃止の意思表示がなくても時効取得可能とされた例(最判昭和51年12月24日)等が挙げられます。

公物の成立要件

公物の成立要件について、まず、公共用物では、①その物が一般公衆の利用に供し得べき形態を備えていること、②行政主体による公の目的に供するという意思表示(=公用開始行為)が存在することが必要です。

次に、公用物では、行政主体が一定の設備を備え、事実上その物の使用を開始することで成立し、公用開始行為は不要と考えられています。

公物の消滅要件

公物の消滅要件について、まず、公共用物では、①物の形態が永久的に変化して、その原状回復が不能である場合、又は、②行政主体による公共用物を消滅させる旨の意思表示(=公用廃止行為)があった場合に消滅します。

次に、公用物では、行政主体が事実上、物の使用を中止することによって、公物としての性質を失う場合に消滅します。

公用廃止行為は不要と考えられています。

公物の使用関係

次に、公物の使用関係についてみていきます。

公共用物

(1)自由使用(一般使用)

他人の使用を妨げない限度で公物の使用が一般公衆に認められることです。自由使用が第三者に妨害された場合には、民事訴訟ができます。

(2)許可使用

法律上一般的には禁止されているものの、申請に基づく許可を得て使用が認められることです。公物管理権に基づいて許可するものと警察権に基づいて許可するものの2種類があります。

(3)特許使用

特定人に独占的に使用が認められることです。例えば、電柱設置のための道路の占有許可等が挙げられます。

公用物

国有財産法第18条1項により、「行政財産は、貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、信託し、若しくは出資の目的とし、又は私権を設定することができない。」とされていますが、第18条2項に、貸し付け又は私権を設定できる例外規定を定めています。

また、第18条6項で、「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において、その使用又は収益を許可することができる。」と規定されています。例えば、庁舎における食堂の使用許可等が挙げられます。

公物の設置又は管理の瑕疵

公物との関係で問題となるのが、国家賠償法第2条1項の規定です。

【国家賠償法】

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

「公物(=公の営造物)の設置又は管理の瑕疵」とは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。これは、客観的な瑕疵が存在すれば足り、損害の発生に管理者や設置者の過失の有無を必要としません(無過失責任)。

ただし、自然災害のような不可抗力から生じた損害については、国家賠償法第2条の対象とはなりません。

公物に関する重要判例

公物に関する判例は多々ありますが、その中でも、特に重要な判例をいくつか紹介します。

最判昭和51年12月24日

【事案】

公図上、水路と表示されていた国有地甲は、昔から水田やあぜに作り替えられており、水路としての外観を失っていました。Xの祖父は、Aから甲を含めた周辺の水田を借り受け、小作していました。

数年後、Xは、国から、自作農特別措置法に基づき、甲を含めた水田について売渡しを受けました。しかしながら、その時の甲の状況はXの祖父が耕作していた時と変わらなかったため、Xは甲を含めた水田全体を売り渡されたものと信じて平穏かつ公然と占有していました。

売渡日より10年以上が経過したため、Xは甲の所有権の時効取得を主張して、所有権確認訴訟を提起しました。

【争点】

黙示的に公用が廃止された場合に、公共用財産について取得時効が成立し得るか?

【理由および結論】

公共用財産が、長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能をまったく喪失し、その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が係属したが、それによって実際上、公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、黙示的に公用が廃止されたといえ、取得時効が成立し得る。

最判昭和45年8月20日

【事案】

国道の山側斜面が、自然風化と、降り続いた雨によって崩れ、岩石が通行中のトラックに落下して事故が発生し、道路管理に瑕疵があったとして、国家賠償訴訟を提起しました。

【争点】

①国家賠償法第2条1項による営造物の設置又は管理の瑕疵に基づく国および公共団体の損害賠償責任については、過失の存在を必要とするか?

②落石による本件事故について、道路管理に瑕疵があるといえるか?

【理由および結論】

①国家賠償法第2条1項により営造物の設置又は管理の瑕疵に基づく国および公共団体の損害賠償責任については、過失の存在を必要としない。

②従来、当該道路付近では、しばしば落石や崩土が起き、通行のための危険があったにもかかわらず、道路管理者は「落石注意」の標識を立てる等して通行車に対して注意を促したにすぎず、道路に防護柵や防護覆を設置したり、危険な山側に金網を張り、常時山地斜面部分を調査して落下しそうな岩石や崩土を除去したり、事前に通行止めにしたりする等の措置をとらなかったときには、通行の安全性の確保において欠け、道路管理に瑕疵があったといえる。

最判昭和50年6月26日

【事案】

道路管理者が設置した、工事標識版、バリケードおよび赤色標柱等が、ある車両によって倒された直後、これらを倒した車両とは別の車両が、右工事中の路面の掘削箇所に転落する事故が発生し、道路管理に瑕疵があったとして、国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

県道上に工事標識板赤色灯標柱などが倒れ、赤色灯が消えたままであった場合、道路管理者の道路管理に瑕疵があるといえるか?

【理由および結論】

本件事故発生当時、道路管理者が設置した工事標識板、バリケード及び赤色灯標柱が道路上に倒れたまま放置されていたのであるから、道路の安全性に欠如があったといわざるをえないが、それは夜間であり、しかも事故発生の直前に先行した他車によって惹起されたものであり、時間的に設置管理者において遅滞なくこれを原状に復し道路を安全良好な状態に保つことは不可能であったといえるため、このような状況においては、道路管理者の道路管理に瑕疵がなかったといえる。

最判昭和50年7月25日

【事案】

原付自転車の運転者が、路上に約87時間放置されていた、故障の大型貨物車に激突する事故が発生し、道路管理に瑕疵があったとして、国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

国道上に駐車中の故障した大型貨物自動車を約87時間放置していたことが道路管理の瑕疵にあたるか?

【理由および結論】

道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、一般交通に支障を及ぼさないように努める義務を負うところ、本件事故現場付近は、幅員7.5メートルの道路中央線付近に故障した大型貨物自動車が87時間に渡って放置され、道路の安全性を著しく欠如する状態であったにもかかわらず、道路を常時巡視して応急の事態に対処しうる看視体制をとっていなかったため、本件事故が発生するまで故障者が道路上に長時間放置されていることすら知らず、まして故障車のあることを知らせるためバリケードを設けたり、道路の片側部分を一時通行止めにしたりする等、道路の安全性を保持するために必要とされる措置を全く講じていなかったことは明らかであるから、道路管理に瑕疵があったといわざるを得ない。

最判昭和59年1月26日

【事案】

昭和47年7月7日に発生した集中豪雨により、大阪府大東市の低湿地帯で床上浸水等の被害が発生しました。この地域では、低湿地帯であったところに急速な市街地化が進み、浸水被害が深刻化していたため、改修工事が行われていました。

しかし、水害当時に未改修部分がありました。そこで、集中豪雨の際に浸水被害を受けたXらは、水路の管理に瑕疵があったとして国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

河川管理の瑕疵をどのように判断すべきか?

②改修計画に基づいて改修中である河川の河川管理の瑕疵をどのように判断すべきか?

【理由および結論】

①河川は、本来自然発生的な公共用物であり、管理者による公用開始のための特別な行為を必要とすることなく自然の状態で公共の用に供される物であるから、もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包している。

河川の管理は、道路の管理等とは異なって、災害発生の危険性をはらむ河川を対象として開始されるため、河川の通常備えるべき安全性の確保は、管理開始後において、予想される洪水等による災害に対処すべく、治水事業を行うことによって達成されていくことが当初から予定されている。

そこで、未改修河川の安全性は、諸制約のもとで一般に施行されてきた治水事業による河川の改修、整備の過程に対応するいわば過渡的な安全性を持って足りる。

よって、河川管理の瑕疵の有無は、過去に発生した水害の規模、発生の頻度、発生原因、被害の性質、降雨状況、流域の地形その他の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を必要とする緊急性の有無やその程度等諸般の事情を総合的に考慮し、諸制約のもとでの同種、同規模の河川の管理の一般水準および社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである。

②改修計画に基づいて改修中である河川は、その計画が全体として、格別不合理なものと認められない場合には、特段の事由が生じない限り、未改修部分があるという一事をもって河川管理に瑕疵があるとはいえない。

最判平成2年12月13日

【事案】

昭和49年8月末の豪雨により、1級河川・多摩川が著しく増水し、東京都狛江市の河道内に設置された取水ダムを越えた洪水により付近の家屋が流出するという水害が発生しました。建設大臣(現国土交通大臣)Aは、昭和41年に多摩川水系工事実施基本計画を策定していましたが、今回の洪水は、この基本計画の予定する水量規模の洪水でした。

また、付近の河川部分は、基本計画による改修工事が終わった区間とされ、本件災害時までの間にも、基本計画に照らして新規の改修、整備の必要性は認められておらず、当面の改修計画もありませんでした。

そこで、被災者Xらは、多摩川の管理者である国に対して、危険な取水ダムを放置し、これに対応する河川管理施設の整備を怠ったとして、国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

改修済み河川における河川管理の瑕疵をどのように判断すべきか?

【理由および結論】

河川管理には、財政的、技術的および社会的諸制約がある。

そのため、改修済み河川は、その改修、整備段階で想定された洪水から、当時の防災技術の水準に照らして通常予測し、かつ、回避し得る水害を未然に防止するに足りる安全性を備えるべきものである。

よって、工事実施基本計画が策定され、この計画に準拠して改修、整備された河川の改修、整備の段階に対応する安全性は、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。

まとめ

公物についてご理解いただけましたでしょうか?

公園や海等、私たちが普段よく見かけたり、利用している場所の多くは、法律用語では「公物」といいます。公物には、様々な種類があり、また、公物として成立する場合、消滅する場合にも細かい要件があります。

公物に関する判例は、行政書士試験の国家賠償法の部分でもよく出題されるので、しっかりとポイントをおさえておきましょう。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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