行政行為の重要な効力!公定力とは?

更新日:2021年6月1日

市役所の絵

行政行為の効力の種類には、

  • 公定力
  • 拘束力
  • 不可争力
  • 不可変更力
  • 自力執行力 

という主に5つが挙げられます。その中でも特に重要な効力が最初に記載した「公定力」です。

目次

公定力とは?

「公定力」とは、行政行為がたとえ違法であったとしても、その違法が重大かつ明白な違法で、当該処分を当然無効とする場合を除いては、権限ある行政機関や裁判所によって適法に取り消されない限り、有効なものとして扱われるという効力のことをいいます。

例えば、行政庁が国民Aに対して営業停止処分を行いましたが、この処分が違法であった場合、公定力によって、この営業停止処分は有効として扱われてしまい、Aには従う義務が生じます。

そうなると、営業ができないことによってAの生活に支障が出てくる可能性があります。そのため、Aは、行政不服審査法に基づく審査請求や行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を提起して、処分を取り消してもらう必要があります。

ただし、行政庁が行った営業停止処分の違法が重大かつ明白な場合には、有効にはなりません。本来、違法な行為は、無効とされます。

また、公定力を明確に規定した条文も存在しません。

しかしながら、行政行為の場合には、円滑な行政の実現が損なわれ、かえって国民生活に混乱を起こしてしまう可能性があると考えられるため、判例によって、たとえ違法な行政行為であっても、有効とされ、当然無効とはならないという公定力が認められました(最判昭和30年12月26日)。

また、学説も公定力を肯定しています。

公定力の法的根拠

公定力の法的根拠として、行政事件訴訟法第3条2項の「取消訴訟の排他的管轄」が挙げられます。

「取消訴訟の排他的管轄」とは、行政行為の効力を争うことができるのは、行政事件訴訟法に規定されている抗告訴訟の中の取消訴訟のみであるということです。

すなわち、違法な行政行為を取り消すためには、原則として取消訴訟を提起しなければなりません。

【行政事件訴訟法】

第3条 この法律において「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいう。

2項 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。

公定力の限界

では、公定力は、行政行為に関する全ての場合に認められる効力なのか、というとそうではありません。最初に述べたとおり、重大かつ明白な瑕疵のある行政行為には、公定力は及びません。

また、刑事訴訟にも、公定力は及びません。ある行政行為に違反したことによって、刑罰を科せられ、刑事訴訟において無罪を主張する場合には、取消訴訟等を提起して処分の取消し判決を得ておく必要はありません。

また、違法な行政行為によって損害を受け、国家賠償請求をする場合、あらかじめ処分の取消訴訟や無効確認訴訟を提起して取消し又は無効の判決を得ておく必要はありません。言い換えると、違法な行政行為によって、国民が損害を受けた場合には、取消訴訟を提起することなく、直接国家賠償請求をすることが可能です。

公定力に関する重要判例

公定力に関する重要判例として、3つの判例が挙げられます。以下、それぞれの判例について詳しく解説していきます。

最判昭和30年12月26日

【事案】

X、Y間で農地の賃借権について争いが生じ、Xの申請を受けた村農地委員会は、農地調整法に基づき、Xの賃借権設定の裁定をしました。この裁定を不服として、Yが村農地委員会の上級行政機関である農地委員会に訴願を提起し、県農地委員会は、棄却しました。

しかしながら、Yの申出により、県農地委員会が裁決について再議して、Yの主張を認め、村農地委員会のXの賃借権設定の処分を取り消しました。Xは、Yを被告として、農地の耕作権確認と耕地の引渡しを求めて訴訟提起しました。

【争点】

訴願裁決を裁決庁が自ら取り消す裁決をした違法と取消裁決の効力との関係はどのようなものか?

【理由および結論】

訴願裁決庁がいったんなした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されない。

したがって、県農地委員会が先になした裁決を取り消してさらに訴願の趣旨を容認する裁決をしたことは違法である。

しかしながら、行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除いては、適法に取り消されない限り、完全にその効力を有する。

最判昭和53年6月16日

【事案】

山形県余目町にある個室付き公衆浴場業を営業する会社Xは、浴場施設から約130m離れた場所に甲児童遊園が存在するにもかかわらず、営業を開始し、風俗営業法第4条の4第1項(現第28条1項)「店舗型性風俗特殊営業は、一団地の官公庁施設、学校、図書館若しくは児童福祉施設又はその他の施設でその周辺における善良の風俗若しくは清浄な風俗環境を害する行為若しくは少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止する必要のあるものとして都道府県の条例で定めるものの敷地(これらの用に供するものと決定した土地を含む。)の周囲二百メートルの区域内においては、これを営んではならない。」の規定に違反するとして、起訴されました。

【争点】

行政機関の処分違反として起訴された刑事被告人は、取消訴訟によって処分を取り消さなくても、その処分が処罰対象とならないということを主張できるか?(刑事訴訟に公定力が及ぶか否か?)

【理由および結論】

Xの浴場営業に先立つ児童遊園認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びている場合には、甲児童遊園の存在をXの浴場営業を規制する根拠とすることは許されない。

そうであるならば、Xの浴場営業の規制を主たる動機、目的とする余目町の甲児童遊園の設置認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、Xの浴場営業を規制できる効力を持たない(刑事訴訟に公定力は及ばない)。

最判昭和36年4月21日

【事案】

自作農特別措置法に基づく買収計画について、無効確認訴訟を提起したところ、買収申請人が申請を取り下げたため、訴訟中に買収計画が取り消されました。

これによって、訴えの利益が失われ、訴訟要件を満たさなくなったため、却下判決がなされましたが、原告Xが、無効確認訴訟は、国家賠償請求訴訟の前提として提起されたものであるから、訴えの利益は失われないと主張しました。

【争点】

行政処分の無効確認訴訟提起後に、その処分が取り消された場合、訴えの利益はどうなるか?

【理由および結論】

行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をする場合には、あらかじめ行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではないから、国家賠償請求の目的に出たものであるということだけでは、買収計画の取消し後においても、なおその無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するとはいえない。

まとめ

「公定力」とは、行政行為の効力の中でも代表的かつ重要な効力であり、行政行為がたとえ違法であったとしても、権限ある行政機関や裁判所によって適法に取り消されない限り、有効なものとして扱われるという効力のことをいいます。ただし、その違法が重大かつ明白な場合には、当然無効となります。

公定力の法的根拠は、取消訴訟の排他的管轄に求められます。

刑事訴訟には公定力は及ばず、国家賠償訴訟を提起するためには、あらかじめ取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して処分の取消し又は無効の判決を得ておく必要はないと考えられています。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
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