違憲審査権とは?2つの分類や違憲審査権に関する判例を紹介します。

更新日:2021年5月10日

裁判官

憲法第81条には、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定されています。

また、裁判所法第3条には、「裁判所は、日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と規定されています。

これらが、違憲審査権に関係する条文ですが、違憲審査権とは具体的にどのようなものかを紹介していきます。

目次

違憲審査権について

「違憲審査権」とは、裁判所が有する、法令や処分等が憲法に違反していないかを審査する権限のことをいいます。

基礎法学等で聞いたことがあるかもしれませんが、国のルールの最上位にあるのは憲法です。法令等が、憲法に違反することはできません。その最上位の憲法に法令等が違反していないかどうかをチェックすることが違憲審査ということになります。

違憲審査権は、憲法に違反する法令等による、国民の人権侵害を防止することを目的としています。

違憲審査権の主体

違憲審査権の主体は、まず、最高裁判所です。冒頭で紹介したとおり、憲法第81条に、最高裁判所が違憲審査権を有する旨の明文規定があります。

次に、下級裁判所についてですが、①後に紹介する「付随的審査制」の下では、違憲審査権が司法権に内在するものと位置付けられていること、②憲法第81条の「終審裁判所」という文言は、前審の違憲審査を前提としているものとみられること、③憲法第99条の規定により、裁判官は憲法尊重擁護義務を負っていること等から、下級裁判所も違憲審査権を有すると考えられています(通説)。

【憲法】

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

違憲審査権の対象

違憲審査権の対象は、「一切の法律、命令、規則又は処分」ですが、具体的に何が含まれ、何が含まれないかは以下のとおりです。

 法律

国会が制定する法の一形式のことです。法律は、当然違憲審査権の対象に含まれます。

 命令

国の行政機関が制定する法形式です。法律を実施するため、または法律の委任によって制定されます。

政令、府令、省令等のことをいいます。命令も、当然違憲審査権の対象に含まれます。

 規則

国会、内閣、裁判所それぞれが制定する法形式のことです。議院規則、会計検査院規則、人事院規則、最高裁判所規則等のことをいいます。地方公共団体の長や委員会により制定される規則もあります。規則も、当然違憲審査権の対象に含まれます。

 処分

一般的に、行政機関の行為により、国民の権利や義務に直接具体的な影響を及ぼすことが法律的に認められていること(行政処分)を指しますが、国会による処分や、裁判所による処分もあり、これらが違憲審査権の対象に含まれます。

また、通説および判例では、違憲審査権の対象から、司法権の作用である判決を除外することを認める積極的理由がないことから、裁判所の判決も違憲審査権の対象になると考えられています。

 条例

地方公共団体が、議会の議決に基づいて制定する法形式のことをいいます。

憲法第81条には列挙されていないものの、一般的に違憲審査権の対象に含まれると考えられています。

 判例

個々の裁判において、裁判所が示した法律的判断のことをいいます。大審院の判例および高等裁判所の判例は、最高裁判所小法廷で変更することが可能です。

最高裁判所の判例は、全員の合議体である大法廷で変更しなければなりません。また、裁判所法第10条の規定からも、判例も違憲審査権の対象に含まれると考えられています。

(裁判所法)

第十条 事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。

一 当事者の主張に基いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを判断するとき。(意見が前に大法廷でした、その法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するとの裁判と同じであるときを除く。)

二 前号の場合を除いて、法律、命令、規則又は処分が憲法に適合しないと認めるとき。

三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

 条約

文書で書き記した国家間の合意のことをいいます。条約も憲法第81条には列記されていませんが、まず、憲法と条約との関係については、(1)憲法優位説(2)条約優位説という説が対立しています。

(2)条約優位説では、条約の効力の方が憲法より優位であると考えられるため、当然違憲審査権の対象にはならないと解されます。

(1)憲法優位説では、さらに、①積極説と②消極説があり、①積極説では、条約も法律に準じて扱うべきと考えられ、条約も違憲審査権の対象に含まれると考えられています。

一方で、②消極説では、憲法第81条及び憲法第98条1項に「条約」という文言がないことから、条約は違憲審査権の対象に含まれないと考えられています。

通説はこの立場に立っており、判例も、砂川事件(最判昭和34年12月16日)で「本件安全保障条約は…主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従って、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的判断に委ねられるべきものであると解するを相当とする。」として、②消極説の立場に立っています。

【憲法】

第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

その他、立法の不作為が違憲審査権の対象に含まれるか否かが争われた判例もありますが(在宅投票制度廃止事件 最判昭和60年11月21日)、立法の不作為に対する違憲審査には、否定的な考え方を示しています。詳細は、後ほど紹介します。

違憲審査権の分類

違憲審査権には、①付随的違憲審査制と②抽象的審査制があります。それぞれについて詳しく紹介していきます。

付随的違憲審査制

「付随的違憲審査制」とは、司法裁判所型、アメリカ型の審査制度で、具体的事件を前提として、その事件を解決する上で、必要な限度でのみ違憲審査を付随的に行う制度のことをいいます。

つまり、裁判所は具体的事件と切り離して違憲判断をすることができません。

通常の司法裁判所が違憲審査権を有すると考えられているため、司法裁判所型といわれています。

付随的審査制は、アメリカやイギリス、ラテンアメリカの一部の国等で採用されており、日本においても、判例はこの立場を採用しています(警察予備隊訴訟 最判昭和27年10月8日)。

抽象的違憲審査制

「抽象的違憲審査制」とは、憲法裁判所型、ドイツ型の審査制度で、具体的事件を前提とせず、違憲審査を行う制度のことをいいます。つまり、裁判所は具体的事件と切り離して違憲判断をすることができます。

違憲審査をするために特別に設けられた機関(一般的には憲法裁判所といいます)が、違憲審査を行うとされているため、憲法裁判所型といわれています。抽象的審査制は、ドイツ、イタリア、オーストリア、韓国等で採用されています。

違憲審査権に関する重要判例

次に、違憲審査権に関する重要判例をみていきます。①警察予備隊訴訟②在宅投票制度廃止事件③在外日本人選挙権訴訟の主に3つが挙げられます。

警察予備隊訴訟(最大判昭和27年10月8日)

【事案】

自衛隊の前身となる警察予備隊が設置された際、Xは、警察予備隊の設置及び維持に関して国がした一切の行為の無効確認を求めて訴訟提起をしました。

【争点】

最高裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に、法律命令等の合憲性を判断できるか?

【理由および結論】

裁判所は司法権を有し、司法権を行使するためには具体的な争訟事件が提起される必要がある。そのため、裁判所は、具体的な争訟事件が提起されていないのに憲法及びその他の法律命令等の解釈に対して存在する論争に抽象的な判断を下す権限はない。

また、憲法第81条により、最高裁判所が抽象的な違憲審査権を有し、その排他的裁判権を有するものと推論することはできない。つまり、現行制度においては裁判所が具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解に憲法上や法令上、根拠が存在しない。

結論として、この判例では、Xの請求は却下されました。

在宅投票制度廃止事件(最判昭和60年11月21日)

【事案】

Xは、転落事故による脊髄損傷のため、昭和28年頃から寝たきりになりました。昭和27年公職選挙法の一部改正により、それまで認められていた、疾病や負傷等により歩行が難しい選挙人に在宅投票を認めるとされていた在宅投票制度が廃止され、その後、在宅投票制度を設けるための立法を行いませんでした。

このため、Xは8回の公職選挙で投票できず、身体上の欠缺等が原因で選挙権の行使について差別を受けたとして、国家賠償請求訴訟を提起しました。

【争点】

国家賠償法第1条1項における「違法性」と立法内容の違憲性の関係をどう解釈すべきか?

立法の不作為を含めた立法行為が「違法」となるのはどのような場合か

本件立法不作為は、国家賠償法上違法か?

【理由および結論】

① 国会議員の立法行為が「違法」となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が、個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であり、立法内容の違憲性の問題とは異なる。

② 国会議員は立法について、原則として国民全体に対する政治的責任を負うもので、個別の国民の権利に対する法的義務は負わない。

そのため、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法行為を行うというような容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法上の「違法」とはならない。

③ 憲法には、在外投票制度の設置を命じる明文規定はない。また、憲法第47条「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」という規定は、選挙に関する事項の決定を原則として国会の裁量に任せる趣旨である。

そのため、在宅投票制度を復活させなかったという本件立法不作為は、例外的な場合にはあたらず、「違法」ではない。

結論として、この判例では、Xの主張は認められませんでした。

在外日本人選挙権訴訟(最大判平17年9月14日)

【事案】

平成10年に公職選挙法が改正され、在外日本人も在外選挙人名簿に登録されていれば投票が可能となる在外選挙制が設けられました。しかしながら、対象となる選挙は、衆議院・参議院の「比例代表選出議員」の選挙に限られていました。

そこで、平成8年の衆議院議員の総選挙において投票することができなかったXらは、国を被告として、選挙権の行使の機会を保障しないことは、憲法第14条1項の法の下の平等に違反すると主張し、改正前の公職選挙法の違法確認を、予備的に、Xらが「衆議院小選挙区選出議員および参議院選挙区選出議員の選挙」において選挙権を行使する権利を有することの確認を求めて訴訟提起しました。

【争点】

① 在外日本人が、国政選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にあることの確認を求める訴えは適法か?

② 国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法第1条1項の適用を受けるか?

【理由および結論】

① 選挙権は、行使することができなければ意味がないものであり、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから、その権利の重要性を考えると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合に、これを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきである。

そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、確認の利益を肯定することができる。

そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えは、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。

② 国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法第1条1項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは異なるものであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そこから国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。

しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合等には、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法第1条1項の規定の適用上、違法の評価を受ける。

結論として、この判例では、Xの主張が認められました。

違憲判決とされた事案

法令が憲法に違反するとされた事案は9つありますので、その判例名を紹介します。

  • 尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭和43年4月4日)
  • 薬局開設拒否制限規定違憲判決(最大判昭和50年4月30日)
  • 議員定数不均衡違憲判決(最大判昭和51年4月14日)
  • 森林法共有分割規定違憲判決(最大判昭和62年4月22日)
  • 郵便法違憲判決(最大判平成14年9月11日)
  • 在外邦人の選挙権制限違憲判決(最大判平17年9月14日)
     ※上記紹介した「在外日本人選挙権訴訟」判例のことです。
  • 非嫡出子の国籍取得制限違憲判決(最大判平成20年6月4日)
  • 婚外子法定相続分差別違憲判決(最大決平成25年9月4日)
  • 女性の6ヶ月の再婚禁止期間違憲判決(最大判平27年12月16日)

違憲判決の効力

最後に、最高裁判所の違憲判決の効力については、(1)一般的効力説、(2)個別的効力説、(3)法律委任説が対立しています。

(1) 一般的効力説

法令等の違憲判断は議会の手続きを経なくても一般的に効力を生じ、客観的無効となるとする説です。

しかしながら、この説には、一般的に法令等を無効とすると、消極的な立法作用を認めることとなるため、憲法第41条「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」という規定に反するという問題が指摘されています。

(2) 個別的効力説

法令等の違憲判断は、その事件についてのみ効力が生じ、違憲とされた法令等は、当然に無効となるものではないとする説です。

付随的審査制では、事件の解決に必要な限度でのみ違憲審査を行うため、違憲判決の効力もその事件のみに限られると解するのが妥当と考えられ、通説となっています。

(3) 法律委任説

法令等の違憲判断の効力は、法律に委任されているという説です。しかしながら、現在、最高裁判所の違憲判断の効力について規定する法規は存在しません。

まとめ

「違憲審査権」についてご理解いただけましたでしょうか?

行政書士試験においては、次の事項等をおさえていただければと思います。

  • 違憲審査権の主体は、最高裁判所及び下級裁判所であること、
  • 違憲審査権の対象は、法律、命令、規則、処分、条例、判例であり、条約や立法不作為は対象外と考えられていること
  • 違憲審査権の種類には、主に付随的審査制と抽象的審査制があり、日本は付随的審査制を採用していること
  • 違憲判決・違憲決定が出された判例は9つあること、違憲判決の効力は、個別的効力説が通説であること
この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

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【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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