行政強制とは?種類や具体例を紹介します!

更新日:2021年6月3日

家と人の絵

ある義務を履行しない国民に対して、行政側は、「行政上の強制手段」を使って義務の履行を強制することが可能です。この「行政上の強制手段」には、主に「行政強制」と「行政罰」の2種類があります。

今回は、このうち「行政強制」について解説していきます。

目次

行政上の強制執行

「行政強制」とは、行政目的を達成するために、国民の身体又は財産に対して実力行使を行い、又は義務者に心理的強制を加えることで、行政上必要な状態を実現することをいいます。

「行政強制」は、さらに「行政上の強制執行」と「即時強制」に分類されます。「即時強制」については後ほど紹介します。

「行政上の強制執行」とは、国民による行政上の義務が履行されない場合に、行政側が強制的に義務を履行させたり、義務の履行があったのと同じ状態を実現する行為のことをいいます。

①代執行、②執行罰、③直接強制、④行政上の強制徴収という4つの種類があります。

行政上の強制執行は、国民の身体又は財産に対して実力行使を行うため、法律の根拠が必要とされています。かつては、一般法として「行政執行法」が存在していたものの、この法律の廃止後、現在では、一般法は「行政代執行法」のみで、執行罰や直接強制等は、個別法の中に具体的に規定されているだけです。「執行罰法」や「直接強制法」等といった一般法は存在しません。

そして、行政上の強制執行ができる場合には、あえて民事上の強制執行をすることはできないとされています(最大判昭和41年2月23日)。

以下に、行政上の強制執行の4種類についてそれぞれ詳しく説明していきます。

代執行

「代執行」とは、「代替的作為義務」が履行されない場合に、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつ、その不履行を放置することが公益に反する場合に、行政庁が自ら義務者が行う行為を行い、又は第三者にこれを行わせてその費用を義務者から徴収することをいいます。

代替的作為義務」とは、他人が代わって行うことができる作為義務のことをいいます。

他人が代わって行うことができない義務である「非代替的作為義務」や特定の作為を行ってはならないという義務である「不作為義務」は、代執行の対象とはなりません。

一般法として行政代執行法があり、個別法として伝染病予防法や土地収用法等があります。具体例としては、違法建築物の強制撤去や収用された土地の強制明渡し等が挙げられます。

行政代執行法第1条には、行政上の義務履行確保手段については、他の法律で定められているものを除いては、行政代執行法に従うということが規定されています。

代執行の要件は、行政代執行法第2条に具体的な規定があります。

【行政代執行法】

第1条 行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる。

第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

ちなみに、行政代執行法第2条が、「法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)」と、「法律」の後に括弧書きがあることに対して、第1条では「法律」の後に括弧書きがないことから、第1条の「法律」には、条令や命令は含まれず、条例や命令によって、代執行等の行政上の義務履行確保手段を定めることはできないと解釈できます。

代執行の手続きの流れとしては、まず、行政庁が相当の履行期限を定めて、その期限までに履行がなされないときは、代執行をする旨を文書にて戒告通知します。

次に、履行期限までに履行がない場合には、①代執行をなすべき時期、②代執行の責任者、③代執行に要する費用の概算による見積額を代執行令書で通知します。

次に、代執行令書の期限までに履行がない場合には、代執行を行い、それに要した費用の納付を文書で命令します。

最後に、それでも費用の納付がなされない場合には、国税滞納処分の手続に従って、強制的に徴収します。

ただし、戒告通知と代執行令書による通知は、緊急の場合には省略可能です。

第3条 前条の規定による処分(代執行)をなすには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、予め文書で戒告しなければならない。

② 義務者が、前項の戒告を受けて、指定の期限までにその義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもつて、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知する。

③ 非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、前二項に規定する手続をとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行をすることができる。

第4条 代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは、何時でもこれを呈示しなければならない。

第5条 代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもつてその納付を命じなければならない。

第6条 代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる。

② 代執行に要した費用については、行政庁は、国税及び地方税に次ぐ順位の先取特権を有する。

③ 代執行に要した費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属に従い、国庫又は地方公共団体の経済の収入となる。

執行罰

「執行罰」とは、非代替的作為義務や不作為義務の不履行に対して、一定の期間を定めて、その期間内に履行しない場合には、一定額の過料を科す旨を通知して、その心理的圧迫により義務の履行を確保する手段のことをいいます。間接強制ともいわれています。

具体例としては、砂防法第36条が挙げられます。

【砂防法】

第36条 私人においてこの法律若しくはこの法律に基づいて発する命令による義務を怠るときは、国土交通大臣若しくは都道府県知事は一定の期限を示し、もし期限内に履行しないとき、若しくは、履行が不十分なときは、500円以内において指定する過料に処することを予告して、履行を命ずることができる。

直接強制

「直接強制」とは、行政上の義務の不履行がある場合に、義務者の身体又は財産に直接実力行使をして、義務が履行されたのと同一の状態を実現するもののうち、代執行を除いたもののことをいいます。

具体例としては、不法入国者の強制退去や、成田新法に基づく工作物の除去、性病予防法に基づく受診命令による強制検診等が挙げられます。

行政上の強制徴収

「行政上の強制徴収」とは、国民が国又は地方公共団体に対して負担する金銭債務の不履行がある場合に、行政庁が強制的に徴収する手段のことをいいます。具体例としては、国税徴収法に基づく国税滞納処分や、地方税法に基づく地方税滞納処分が挙げられます。

国税滞納処分について、国税の納税請求は納税通知から始まり、期限までに納税がなされなければ督促がされます。それでも納税がなされなければ、徴収職員によって、滞納者の財産を差し押さえます。

そして、その差し押さえた財産を換価し、換価代金から配当を受けます。残余金は、滞納者に返還されます。

強制徴収は、租税債権以外の債権も対象にはなるものの、多くの場合、法律に「国税滞納処分の例により」という準用規定が存在しています。

即時強制

「即時強制」とは、国民の義務の履行を強制するためではなく、義務を命じる余裕のない緊急の障害を除く必要がある場合やその性質上、義務を命じることによってその目的を達成することが難しい場合に、行政側が、行政法規の根拠に基づき、直接国民の身体や財産に実力行使を行い、行政目的を達成することをいいます。

行政上の強制執行は、行政によって元々命じられていた義務の不履行が前提となりますが、即時強制は、義務の不履行を前提としません。

即時強制も、直接国民の身体や財産に実力行使を行うため、法律の根拠が必要です。具体例としては、感染症が流行った場合に予防接種や入院を強制する、酔っぱらって路上で寝てしまっている人や迷子の幼児を救助して保護する、交通量が多いために駐車禁止の場所に停めている車をレッカー移動させる等が挙げられます。

行政調査

「行政調査」とは、行政目的達成のために、行政機関が行う様々な調査や情報収集活動のことをいいます。行政調査の具体例としては、警察官による挙動不審者等に対する職務質問や自動車検問等が挙げられます。

行政調査は、かつては即時強制の1つとして分類されていましたが、最近では、即時強制とは別物として考えられています。相手方の意思に反して行う調査や、罰則等が生じる調査については、法律上の根拠が必要ですが、強制を伴わない任意調査の場合には、法律上の根拠は不要と考えられています。

職務質問に関連して、最判昭和53年9月7日の判例では、警察による職務質問に付随して行われる所持品検査がどこまで許容されるか?という点が争点になりました。

判例は、「所持品検査は所持人の承諾のもとで行うことが原則ではあるものの、所持人の承諾がない場合であっても、一切許容されないとするのではなくて、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査の必要性、緊急性、所持品検査によって侵害される個人の法益と保護される公共の利益との権衡等を考慮した上で、具体的状況のもとで相当と認められる限度で許容される場合がある」と判断しました。

行政上の強制執行と即時強制の違い

行政上の強制執行と即時強制の表

行政上の強制執行に関する重要判例

行政上の強制執行に関する重要判例としては、最判昭和41年2月23日と最判平成14年7月9日が挙げられます。以下、それぞれの判例について詳しく解説していきます。

最判昭和41年2月23日

【事案】

農業共済組合連合会であるXは、A市農業共済組合を構成員としており、A市農業共済組合はYらを構成員としていました。

XはAに保険料等の債権を持ち、AはYらに共済掛金等の債権を持っていて、Aの債権には行政上の強制徴収が認められていました。

しかしながら、農業災害補償法という法律によりYらとAの共済関係は、AとXの保険関係を成立させることになっていて、YらがAに対して共済掛金等の延滞があった場合、AはXに対して保険金を支払うことが不可能とされていました。

XはAの債権保全のため、Aに代位して共済掛金等の支払いを請求する民事訴訟を提起しました。

【争点】

行政上の強制執行ができる場合に民事上の強制執行をすることができるか?

【理由および結論】

農業共済組合が組合員に対して有する債権について、法が一般私法上の債権にみられない特別の取り扱いを認めているのは、農業災害に関する共済事業の公共性に鑑み、その事業遂行上必要な財源を確保するためには、農業共済組合が強制加入制のもとで加入する多数の組合員から収納する金円について、租税に準じる簡易迅速な行政上の強制徴収の手段によることが適切かつ妥当であるとしたからである。

農業共済組合が、法律上独自の強制徴収の手段を与えられながら、その手段によらず、一般私法上の債権と同様、訴えを提起し、民事訴訟法上の強制執行の手段によって、債権の実現を図ることは、公共性の強い農業共済組合の権能行使の適正を欠くものとして、許されないものである。

最判平成14年7月9日

【事案】

X市長が、X市パチンコ店、ゲームセンターおよびラブホテルの建設等の規制に関する条例に基づき、X市内にパチンコ店を建築しようとするYに対してその建築工事の中止命令を発しました。

しかしながら、Yが従わなかったため、X市は、Yに対して建築工事の禁止を請求する民事訴訟を提起しました。

【争点】

国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は適法か否か?

【理由および結論】

国又は地方公共団体が提起した訴訟で、財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟をいうべきであるが、国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものとはいえないから、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく、法律に特別の規定がある場合に限り、提起することが許される。

そして、行政代執行法は、同法が行政上の義務履行に関する一般法であることを明らかにした上で、その具体的な方法として、第2条による代執行のみを認めている。

また、行政事件訴訟法その他の法律にも、一般に国又は地方公共団体が国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟を提起することを認める特別の規定は存在しない。

したがって、国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は、裁判所法第3条1項にいう法律上の争訟にあたらず、これを認める特別の規定もないから、不適法というべきである。

まとめ

行政上の強制手段には、「行政強制」と「行政罰」があり、「行政強制」には、さらに、「行政上の強制執行」と「即時強制」に分けられます。「行政上の強制執行」は、相手方の義務の不履行を前提とし、「即時強制」は、相手方の義務の不履行を前提としないという点が大きな違いです。

「行政上の強制執行」の種類には、①代執行、②執行罰、③直接強制、④行政上の強制徴収があります。

行政強制に関する2つの重要判例について、行政上の強制執行ができる場合には、あえて民事上の強制執行をすることはできません。

また、国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務履行を求める訴訟は不適法です。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

分かりやすくて勉強する気になる講義を目指したい!
【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
フォーサイト公式Youtubeチャンネル「行政書士への道」
フォーサイト講師ブログ

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