住民監査請求とは?要件や効果を詳しく解説します。

更新日:2021年7月9日

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目次

住民監査請求とは

「住民監査請求」とは、地方自治法第242条に規定されているものであり、住民が、その所属する普通地方公共団体の財務会計上の行為について、違法又は不当な行為又は必要な行為を怠る事実があると判断した場合に、当該普通地方公共団体の監査委員に対して、行為の防止や是正その他の必要な措置を講じるよう請求することをいいます。

住民監査請求は、地方公共団体の財務運営の適正を確保し、住民の利益を保護することを目的としています。

【地方自治法】

第242条 普通地方公共団体の住民は、当該普通地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該普通地方公共団体の職員について、違法若しくは不当な公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担がある(当該行為がなされることが相当の確実さをもつて予測される場合を含む。)と認めるとき、又は違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下「怠る事実」という。)があると認めるときは、これらを証する書面を添え、監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正し、若しくは当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によつて当該普通地方公共団体の被つた損害を補塡するために必要な措置を講ずべきことを請求することができる。

住民監査請求の要件

住民監査請求の要件として、まず、請求権者は、当該普通地方公共団体の住民に限られます。住民には、個人の他、法人も含まれます。

次に、請求対象となる事項は、財務会計上の行為であり、
① 違法又は不当な公金の支出や財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務その他の義務の負担
② 違法又は不当な公金の賦課徴収や財産管理を怠る事実
です。

①の財務会計上の行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合でも、住民監査請求は可能です。また、これら①、②の事項は、個別的かつ具体的に特定しなければならないとされています。

住民監査請求の対象者は、地方公共団体の長、委員会、委員、職員に限られます。

住民監査請求は、監査委員に対して行います。

具体的には、住民監査請求書に情報公開法に基づく公文書開示請求によって開示を受けた公文書の写し等の事実証明書を添えて提出します。

また、請求権者が監査委員に対して求めることができる内容は、財務会計上の行為の防止や是正をすること、怠る事実を改めること、財務会計上の行為又は怠る事実によって当該普通地方公共団体が被った損害を補填するために必要な措置を講じることです。

最後に、住民監査請求の期間については、災害など正当な理由がある場合を除いては、財務会計上の行為があった日又は終わった日から1年を経過すると、行うことができなくなります。

【地方自治法】

第242条2項 前項の規定による請求は、当該行為のあつた日又は終わつた日から一年を経過したときは、これをすることができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。

住民監査請求の効果

住民監査請求の効果として、住民監査請求がなされたときには、監査委員は、 直ちに請求の要旨を当該普通地方公共団体の議会と長に通知しなければなりません。

住民監査請求があった場合、
① 請求対象となる行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があって、当該行為により普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、
② 当該行為を停止することによって人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるとき

⇒監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して監査が終了するまでの間、当該行為の停止を勧告することが可能です(暫定的停止勧告)。

この場合において、監査委員は、当該勧告の内容を住民監査請求人に通知するとともに、公表しなければなりません。

監査委員が、監査を行った結果、請求に理由がないと判断した場合には、理由を付してその旨を書面で請求人に通知するとともに、公表し、請求に理由があると判断した場合には、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対して期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、公表しなければなりません。

この場合の監査委員の監査や勧告は、住民監査請求が行われた日から60日以内に行わなければなりません。

また、監査委員は、監査を行う際には、請求人に証拠の提出や意見陳述の機会を与えなければなりません。

なお、監査委員は、意見陳述の聴取を行う場合又は関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関、職員の意見陳述の聴取を行う場合に、必要があると認める場合には、関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関、職員、請求人を立ち会わせることが可能です。

監査委員の勧告があったときは、当該勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講じて、その旨を監査委員に通知しなければなりません。

この場合において、監査委員は、当該通知に係る事項を請求人に通知するとともに、公表しなければなりません。

普通地方公共団体の議会は、住民監査請求の後、当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償や不当利得返還請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとする場合には、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければなりません。

暫定的停止勧告、監査、勧告、損害賠償や不当利得返還請求権等に関する議決をする場合の監査委員の意見の決定は、監査委員の合議で行います。

第242条3項 第一項の規定による請求があつたときは、監査委員は、直ちに当該請求の要旨を当該普通地方公共団体の議会及び長に通知しなければならない。

4項 第一項の規定による請求があつた場合において、当該行為が違法であると思料するに足りる相当な理由があり、当該行為により当該普通地方公共団体に生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、当該行為を停止することによつて人の生命又は身体に対する重大な危害の発生の防止その他公共の福祉を著しく阻害するおそれがないと認めるときは、監査委員は、当該普通地方公共団体の長その他の執行機関又は職員に対し、理由を付して次項の手続が終了するまでの間当該行為を停止すべきことを勧告することができる。この場合において、監査委員は、当該勧告の内容を第一項の規定による請求人(以下この条において「請求人」という。)に通知するとともに、これを公表しなければならない。

5項 第一項の規定による請求があつた場合には、監査委員は、監査を行い、当該請求に理由がないと認めるときは、理由を付してその旨を書面により請求人に通知するとともに、これを公表し、当該請求に理由があると認めるときは、当該普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関又は職員に対し期間を示して必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに、当該勧告の内容を請求人に通知し、かつ、これを公表しなければならない。

6項 前項の規定による監査委員の監査及び勧告は、第一項の規定による請求があつた日から六十日以内に行わなければならない。

7項 監査委員は、第五項の規定による監査を行うに当たつては、請求人に証拠の提出及び陳述の機会を与えなければならない。

8項 監査委員は、前項の規定による陳述の聴取を行う場合又は関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員の陳述の聴取を行う場合において、必要があると認めるときは、関係のある当該普通地方公共団体の長その他の執行機関若しくは職員又は請求人を立ち会わせることができる。

9項 第五項の規定による監査委員の勧告があつたときは、当該勧告を受けた議会、長その他の執行機関又は職員は、当該勧告に示された期間内に必要な措置を講ずるとともに、その旨を監査委員に通知しなければならない。この場合において、監査委員は、当該通知に係る事項を請求人に通知するとともに、これを公表しなければならない。

10項 普通地方公共団体の議会は、第一項の規定による請求があつた後に、当該請求に係る行為又は怠る事実に関する損害賠償又は不当利得返還の請求権その他の権利の放棄に関する議決をしようとするときは、あらかじめ監査委員の意見を聴かなければならない。

11項 第四項の規定による勧告、第五項の規定による監査及び勧告並びに前項の規定による意見についての決定は、監査委員の合議によるものとする。

直接請求における監査請求との違い

住民監査請求と似たような制度として、直接請求による事務の監査請求がありますが、住民監査請求の対象は財務会計上の行為のみが対象となり、直接請求による事務監査請求は、事務の執行に関する全ての行為が対象となります。

また、住民監査請求は、違法又は不当な行為を要件としますが、直接請求による事務監査請求は、違法又は不当な行為は要件となっていません。

さらに、住民監査請求は、住民1人からでも提起できますが、直接請求による事務監査請求は、複数人で行う必要があります(選挙権者の50分の1以上の連署)。

住民監査請求に関する重要判例(最判昭和62年2月20日)

【事案】

A町長Yが、甲土地をXに対して随意契約によって3600万円で売却する売買契約を締結しましたが、Xは、売却価格が近傍類地の売買価格と比較して低すぎるとしてその是正を求めて住民監査請求を行った後、随意契約による売買価格が低すぎることは地方自治法の規定に違反すること、Yは、町議会の議決を経ずに甲土地の売却処分を行っており、その行為が地方自治法の規定に違反すること等を理由に、再度の住民監査請求を行いました。

【争点】

同一住民による同一対象に対する再度の住民監査請求は許されるか?

【理由および結論】

同一住民が先に監査請求の対象とした財務会計上の行為又は怠る事実と同一の行為又は怠る事実を対象とする監査請求を重ねて行うことは許されていない。

住民監査請求は、普通地方公共団体の財政の腐敗防止を図り、住民全体の利益を確保する見地から、当該普通地方公共団体の長その他の財務会計上の行為又は怠る事実について、その監査と予防、是正等の措置とを監査委員に請求する権能を住民に与えたものであり、監査委員は、監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき違法、不当事由が存するか否かを監査するに当たり住民が主張する事由以外の点にわたって監査することができないとされているものではなく、住民の主張する違法、不当事由や提出された証拠資料が異なることによって監査請求が別個のものになるものではないからである。

また、住民監査請求は、住民訴訟の前置手続きとしてまず、当該普通地方公共団体の監査委員に住民の請求に係る行為又は怠る事実について監査の機会を与え、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正させることを目的とするものであり、住民訴訟は監査請求の対象とした違法な行為又は怠る事実についてこれを提起すべきものとされているのであって当該行為又は当該怠る事実について監査請求を経た以上、訴訟において監査請求の理由として主張した事由以外の違法事由を主張することは何ら禁止されていないものと解される。

したがって、主張する違法事由が異なるごとに監査請求を別個のものとしてこれを繰り返すことを認める必要も実益もない。

まとめ

住民監査請求は、個人、法人を問わず、住民が、その所属する普通地方公共団体の財務会計上の行為について、違法又は不当な行為又は必要な行為を怠る事実があると判断した場合に、当該普通地方公共団体の監査委員に対して、行為の防止や是正その他の必要な措置を講じるよう請求する制度です。

直接請求における監査請求と違い、①請求できるのは普通地方公共団体の住民であること(請求権者)、②違法又は不当な行為が要件となっていること(請求要件)、③請求の対象が財務会計上の行為に限定されています(請求対象)。

そして、判例によると、同一住民による同一内容の住民監査請求は、認められません。

この記事の監修者は
福澤繁樹(ふくざわ しげき)

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【出身】千葉県
【経歴】明治大学法学部卒。行政書士、宅地建物取引士、マンション管理士。行政書士みなと合同事務所にて開業・日々業務を行っている。千葉県行政書士会所属。
【趣味】料理を作り、美味しいお酒と一緒に食べること
【受験歴】2000年の1回目受験で合格
【講師歴】2001年7月1日からフォーサイトで講師をスタート
【刊行書籍】「行政書士に3ヶ月で合格できる本」(ダイヤモンド社)
【座右の銘】見る前に跳べ
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