社労士試験頻出「育児休業給付」とは?基本理解のポイントを解説
更新日:2021年7月13日
育児休業は、近年の働き方改革の柱である女性活躍推進や両立支援の観点から、労務管理上の重要なキーワードの一つとして定着しつつあります。
政府は毎年、育児休業取得率に関わる目標を掲げ、達成に向けた支援策や法改正を打ち出していますね。
こうした背景から、「育児休業給付」の理解については社労士試験対策上はもちろん、社労士の実務上も重視すべきポイントであると考えて良いでしょう。
社労士試験頻出キーワード「育児休業給付」のポイント

育児休業給付とは、文字通り、給付金を受けとりながら育児休業を取得できる制度を指します。
出産する女性労働者のみが取得可能な産前産後休業とは違い、子どもを養育する義務のある労働者が性別を問わず、法律に基づいて育児休業給付金を受けながら育児休業を取得できます。
社労士試験対策として、育児休業給付を受けるための要件を理解しておく必要があります。
育児休業給付の「被保険者要件」と「就労に係る条件」
1歳に満たない子を養育する男女労働者は、会社に申し出ることにより、子が1歳になるまでの間で希望する期間、育児休業を取得できます。
育児休業給付を受けるためには、以下に挙げる「被保険者要件」と「就労に係る条件」の両方を満たさなければなりません。それぞれについてみていきましょう。
<雇用保険被保険者要件>
|
<就労に係る条件>
|
この他、有期契約労働者は、休業の申出時点で以下の2要件を満たす必要があります。
① 1年以上の継続雇用
② 子が1歳半までに労働契約期間が満了・更新をしないことが明らかでないこと
また、労使協定により「申出時点で継続雇用期間が1年未満」「申出から1年以内に雇用関係が終了することが明らか」「週の所定労働日数が2日以下」の労働者を対象外とすることができます。
以上、細々としたポイントが多く複雑ですが、社労士試験対策上、いずれも理解しておく必要があります。
育児休業給付の支給期間は「最大2歳まで」
育児休業給付が支給されるのは、原則「産後8週間後の産休明けから子供が1歳になるまで」です。
ただし、要件を満たすことにより「1歳6か月まで」の延長、さらにその後「2歳まで」の再延長が可能となります。
給付金額は、原則「休業開始時賃金月額×50%(休業開始後6ヵ月は67%)」で、この給付率は社労士試験でよく問われるポイントです。
育児休業給付金の算出で重視すべき「180日」とは?
社労士試験における育児休業給付関連の出題では、「180日」がキモとなることがあります。この「180日」は、前項の育児休業給付の給付率を見極める上でのキーワードです。
育児休業開始から180日は67%、180日を超えると50%となることから、おさえておくべき数字と言えます。
以上、社労士試験対策上重視すべき育児休業給付のポイントをざっくり解説しました。
これらの他にも「申出期限(原則1ヵ月前まで)」や「変更に係る申出期限(1週間前まで)」、「休業開始予定日の繰上げ・休業終了予定日の繰下げ(ともに1回まで)」等の要件が問われることがあります。
まずは大まかな制度概要を把握し、テキスト等で理解を深めましょう。
育児休業給付関連のトレンドキーワード

育児休業給付関連の出題では、原則的な育児休業給付制度の他にも、近年注目される旬の関連制度が狙われることも少なくありません。
ここに挙げる「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス制度」「出生時育児休業」は、いずれも男性の育児休業取得促進を図る制度です。男性の育児休業取得率向上に向けた取り組みは、ここ数年、政府が特に注力している分野ですので、必ずおさえておきましょう。
ここではイメージのみを掴んでいただき、実際の制度詳細はテキスト等で習得してください。
パパ休暇
通常、育児休業の取得は1回までとされ、再取得はできないことになっています。
しかしながら、父親である男性労働者が子の出生後、8週間以内に育児休業を取得した場合、特別な事情がなくても、再度の育児休業取得が可能となる制度が「パパ休暇」です。

パパ・ママ育休プラス制度
両親がともに育児休業をする場合に、以下の要件を満たして「パパ・ママ育休プラス制度」を活用することで、育児休業の対象となる子の年齢が1歳2ヵ月にまで延長されます。
|
パパ・ママ育休プラス制度は、ルールが複雑なため、苦手意識を持つ社労士受験生が少なくありません。この点、制度適用のパターンを図で理解しておくと分かりやすいでしょう。




出生時育児休業
出生時育児休業は、2021年6月に成立、2022年10月施行予定の最新制度。男性版産休として、子の出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得できる、柔軟な育児休業制度です。
本制度については、「休業の申出期限が2週間前までに短縮(通常は1ヵ月前)」「8週間のうちに2回の分割取得が可能」「労使協定を締結している場合に、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中に就業することを可能とする」等の定めも重視すべきポイントです。
以下の図中の赤い四角囲み(「父」についての記載部分)が、出生時育児休業を表します。

出典:厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」
育休中の社会保険料免除
育児休業中は、会社・本人負担分の両方で社会保険料が免除されます。
また、育児休業中の免除期間は社会保険料を支払ったとみなされるため、年金額が減額されることはありません。ただし、2021年6月の改正健康保険法では「育児休業中の保険料の免除要件の見直し」について、以下の通り規定されました。
|
育休取得時の社会保険料免除について、現状では「育児休業等を開始した日の属する月から、その育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間」とされています。
このルールを適用すると、「月末の1日のみ育休取得しただけでその月の社会保険料が免除」、一方で「育休取得日が月末にかからなければその月の保険料は免除されない」ことになり、不公平な取り扱いとなることが問題視されていました。
このあたりの解決策として、2022年10月より、育休中の社会保険料免除に関わる規定が見直されることになったのです。
「育児休業給付」の社労士試験出題実績

育児休業給付に関連して、社労士試験対策上、おさえるべきポイントは多岐に渡り、その制度は複雑です。
しかしながら、まずは基本的な育児休業の仕組みを理解し、その上で知識に枝葉をつけていく方法によって、確実に得点につなげることができます。
最後に、社労士試験の過去問から、育児休業給付に関わる出題を確認しておきましょう。
男性の育児休業(平成29年雇用保険法)
以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。
「育児休業給付金の支給対象となる男性が取得する育児休業は、配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の出産日から8週間を経過した日を起算日とする。」
回答:×
男性が育児休業を取得する場合、起算日は「配偶者の出産日」とされています。
育児休業中の賃金支払(平成29年雇用保険法)
以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。
「育児休業給付金の受給資格者が休業中に事業主から賃金の支払を受けた場合において、当該賃金の額が休業開始時賃金日額に支給日数を乗じて得た額の80%に相当する額以上であるときは、当該賃金が支払われた支給単位期間について、育児休業給付金を受給することができない。」
回答:〇
育児休業期間中に事業主から賃金が支払われたとき、賃金月額(休業開始前に受け取っていた賃金)のうち8割以上の金額が支払われている場合、育児休業給付金は支給されません。
まとめ
- 育児休業給付は、一定の要件を満たす労働者が育児休業期間中に受けられる給付金を指します
- 労働者が育児休業給付を受け取るためには、「雇用保険被保険者要件」と「就労に係る条件」の両方を満たす必要があります
- 育児休業給付の金額は、原則「休業開始時賃金月額×50%(休業開始後6ヵ月は67%)」です
- 社労士試験対策上、「パパ休暇」「パパ・ママ育休プラス制度」「出生時育児休業」等の男性の育児休業取得促進に係る施策について理解を深めておく必要があります
竹田裕一郎(たけだ ゆういちろう)
小さな努力を続けることで道が拓けます
【出身】兵庫県
【経歴】同志社大学大学院法学研究科修了。社会保険労務士、行政書士、宅建士、FP2級等の資格を保有
【趣味】ドライブ、筋トレ
【受験歴】2020年社労士試験初回受検、2023年社労士試験に合格
【講師歴】2024年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】座右の銘 人事を尽くして天命を待つ
●フォーサイト公式講師X 竹田裕一郎@フォーサイト社労士専任講師