社労士試験頻出!「企画業務型裁量労働制」を分かりやすく解説

労働時間の基準は「一日8時間、週40時間」ですが、法定労働時間の枠組みにとらわれない、柔軟な働き方を実現するために、法律では特殊な労働時間制が認められています。

ここで解説する「企画業務型裁量労働制」は、実労働時間数に関わらず、あらかじめ定めた「みなし労働時間」を労働時間数とする裁量労働制の一種で、社労士試験でもたびたび出題されるキーワードです。

目次

社労士試験で狙われる!企画業務型裁量労働制の適用ポイント3つ

適用ポイント

企画業務型裁量労働制について、社労士試験で狙われるのは「事業場」「対象業務」「労働者の範囲」です。試験頻出の3つのポイントから、企画業務型裁量労働制の適用ルールを理解しましょう。

適用可能な「事業場」は、事業運営上重要な決定を行う本店・支店

企画業務型裁量労働制は、どこの事業場でも導入できるわけではありません。

以下に挙げる通り、その事業場において「事業運営上重要な決定を行う」ことが要件とされ、単に製造やこれに伴う工程管理のみを行う事業場、本社の指示を受けて営業活動を行う事業場等への適用は認められません。

① 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場

② 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場

「対象業務」は、事業運営に関わる企画、立案、調査、分析

企画業務型裁量労働制の導入には、事業場要件の他、さらに「対象業務」「労働者」に関わるルールがあり、適用範囲は極めて限定的です。対象業務については、具体的に「企業等の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の遂行方法等に関し使用者が具体的な指示をしないこととするもの」とされています。

つまり、業務遂行上、労働時間による管理が適切ではなく、労働者の裁量に大幅に委ねられるべき仕事のみが対象業務に指定されています。

「労働者の範囲」は、常態として対象業務に従事する者

企画業務型裁量労働制を適用できる労働者の範囲は、「対象業務に適切に従事するための知識経験を有する者」のうち、「対象業務に常態として従事している者」に限られます。対象労働者の範囲の限定は、会社による裁量労働制悪用の抑止力としての効果が期待できます。

社労士試験対策でおさえるべき、企画業務型裁量労働制の制度設計

制度設計

「事業場」「対象業務」「労働者の範囲」に細かなルールが設けられる企画業務型裁量労働制では、導入・運用についても適正な手順を経る必要があります。使用者は、ここで解説する導入の流れや届出、報告等に対応できなければ、裁量労働制として認められないため注意しなければなりません。

また、社労士試験対策上も、企画業務型裁量労働制等の特殊な労働時間制の導入手続きや届出の要否等を正しく理解しておくことが重要です。

企画業務型裁量労働制の導入の流れ

企画業務型裁量労働制の導入は、以下の3つのステップにより進められます。

① 労使委員会の設置

労使委員会は、労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成します。

各委員の人数について決まりはありませんが、「各委員、複数名であること(一人ずつではダメ)」「労働者を代表する委員が労使委員会の半数を占めていること」が必要です。

② 労使委員会の決議

労使委員会の運営規定に則り、委員会での決議を進めます。

決議事項は「対象業務」「対象労働者の範囲」「みなし労働時間(1日あたり)」「対象労働者の健康・福祉確保措置」「対象労働者の苦情処理措置」「労働者の同意を得る旨とその手続き」「不同意者への不利益取り扱い禁止」等で、労使委員会の委員の4/5以上の多数による決議が必要です。

③ 労働基準監督署長への届け出

労使委員会の決議内容は、「企画業務型裁量労働制に関する決議届」にまとめて所轄労働基準監督署に届け出ます。

その上で、対象労働者各人の同意を得て初めて、適用可能となります。同意のない労働者に対しては、企画業務型裁量労働制を適用することはできません。

労使委員会の決議事項は「届出必須」

前項の「労働基準監督署長への届け出」は、平成17年度試験で出題されたポイントです。以下の点については、社労士試験対策上必ずおさえておきましょう。

決議事項は労使委員会の4/5以上による決議が必要
労働基準監督署長へ届出をしなければ効力が発生しない

企画業務型裁量労働制に関わる定期報告は「6ヵ月ごと」

企画業務型裁量労働制導入後は、対象労働者の労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況について、6ヵ月ごとに労働基準監督署長へ定期報告します。また、決議の有効期間は「3年以内」が目安とされ、その後も制度を継続する場合には、有効期間満了時に再度、労使委員会による必要事項の決議を行います。

企画業務型裁量労働制の残業代ルール

残業代ルール

実労働時間ではなく「みなし労働時間」で勤怠を考える裁量労働制では、「そもそも時間外労働という概念はないのではないか?」と考えられがちですが、必ずしもそうとは言えません。企画業務型裁量労働制でも割増賃金の支払いが必要なケースを検討しましょう。

まずは、あらかじめ設定した「みなし労働時間」が法定労働時間の1日8時間を超える場合は、超える分の残業代を加味して適切な給与額設定を検討しなければなりません。加えて、休日、深夜の労働については、裁量労働制を適用していても正確に該当労働時間を把握し、割増賃金の支給対象とする必要があります。

  • 法定休日に勤務した労働時間数に応じた35%以上の割増賃金
  • 22時~翌朝5時に勤務した労働時間数に応じた25%以上の割増賃金

社労士試験では、「裁量労働制では一切の割増賃金の支払いが不要」とする選択肢は誤りとなるため、注意しましょう。

まとめ

  • 企画業務型裁量労働制は、実労働時間数に関わらず、あらかじめ定めた「みなし労働時間」を労働時間数とする裁量労働制の一種で、ごく限定的な「事業場」「対象業務」「労働者の範囲」に対して適用が認められています
  • 企画業務型裁量労働制の適用範囲は「事業運営上重要な決定を行う本店・支店」で「事業運営に関わる企画、立案、調査、分析」に「知識・経験を以て常態として従事する労働者」であり、社労士試験でもたびたび出題されています
  • 企画業務型裁量労働制は、労使委員会の決議内容を労働基準監督署長に届け出た上で、同意を得ることのできた対象労働者に対して適用できます
  • 企画業務型裁量労働制であっても、「みなし労働時間が1日8時間を超える場合」「休日・深夜労働に従事した場合」には割増賃金の支払いが必要です
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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