社労士が実務上多く取り扱う「1ヵ月単位の変形労働時間制」を総チェック

更新日:2021年4月19日

「1ヵ月単位の変形労働時間制」とは、1ヵ月以内の期間を一単位として法定労働時間に柔軟性をもたせることのできる労働時間制です。

導入にあたっては「対象期間の週平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場※は44時間)以内となるようにすること」、「あらかじめ労働日および労働日ごとの労働時間を設定すること」等の要件を満たす必要があります。

企業において導入が進む「1ヵ月単位の変形労働時間制」は、社労士試験対策として以上に、社労士実務に従事する上でおさえておくべき制度のひとつと言えます。

※「特例措置対象事業場」とは、商業、映画・演劇業、保健衛生業、接客娯楽業を営む常時10人未満の労働者を使用する事業場を指します

目次

「1ヵ月単位の変形労働時間制」は労使協定or就業規則で規定する

1ヵ月単位の変形労働時間制の規定

1ヵ月単位の変形労働時間制の導入にあたって、原則として「労使協定の締結・届出」もしくは「就業規則への規定・届出」が必要です。ただし、従業員数10名未満で労働基準法上就業規則の作成・届出義務のない事業場では、原則通り「労使協定の締結・届出」の他、「就業規則に準ずる書面への規定・周知徹底」によっても対応可能です。

労使協定や就業規則で定めるべき事項

労使協定や就業規則には「1ヵ月単位の変形労働時間制を採用する」旨を明記し、以下の4点に関わる具体的な定めを盛り込みます。

① 対象労働者の範囲

② 対象期間および起算日

③ 労働日および労働日ごとの労働時間

④ 労使協定の有効期間

1ヵ月単位の変形労働時間制の対象とする労働者の範囲に法律上の定めはありませんが、適正な制度運用のため、明確にしておきます。また、変形期間を1ヵ月以内に定める、対象期間における各労働日の労働時間をあらかじめ具体的に定める等、盛り込むべきポイントをおさえて漏れのないように規定します。

労使協定や就業規則の届出義務は?

締結した労使協定や作成・変更した就業規則は、所轄労働基準監督署への届け出が必要です。

ただし前述の通り、従業員9人以下の事業場において、労使協定の締結に依らない方法で1ヵ月単位の変形労働時間制導入を希望する場合、就業規則に準ずる書面への規定・周知という方法での対応も可能です。この場合、作成した書面をどこかに届け出る必要はありません。

「1ヵ月単位の変形労働時間制」の上限時間を正しく理解

上限時間

対象期間を平均して週法定労働時間を超えないように設定するためには、対象期間中の労働時間が「上限時間」を超えない範囲とする必要があります。ここでは、1ヵ月単位の変形労働時間制に係る上限時間の算出方法について解説しましょう。

上限時間の計算式

1ヵ月単位の変形労働時間制に係る上限時間は、以下の計算式より導き出されます。

【週の法定労働時間(40時間または44時間)× 対象期間の暦日数/7】

対象期間を1ヵ月とする場合、週の法定労働時間と暦日数の組み合わせによって以下の上限時間数が算出されます。

上限時間数の算出

出典:厚生労働省「1ヵ月単位の変形労働時間制」

時間外労働の考え方

実際に1ヵ月単位の変形労働時間制を導入している現場では、「前述の上限時間数さえ越えなければ良いのだろう」と誤解されているケースも珍しくありません。しかしながら、時間外労働は原則通り「日ごと」「週ごと」に発生する点に注意する必要があります。あらかじめ定める「日ごと」「週ごと」の労働時間は、対象期間全体を見通して計画的に検討する必要があります。

1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

1週間については、40時間(または44時間)を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間
※ただし、①で時間外労働となる時間を除く

③ 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
※ただし、①または②で時間外労働となる時間を除く

一定の要件を満たす労働者への配慮義務

労働者に対して1ヵ月単位の変形労働時間制等の特殊な労働時間制を適用し、日や週の法定労働時間に柔軟性を持たせた働き方をさせる上で、使用者には労働者への配慮義務が課せられます。具体的には、育児や介護を担う労働者、職業訓練等を受ける労働者等については必要な時間を確保できるよう配慮した労働時間設定を検討しなければなりません。

このような配慮義務は、1ヵ月単位の変形労働時間制の他、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用する使用者にも同様に課せられています。

「1ヵ月単位の変形労働時間制」の社労士試験出題実績

社労士試験出題実績

実務上、社労士が取り扱うことの多い1ヵ月単位の変形労働時間制ですが、社労士試験ではどのように問われるのでしょうか?過去の出題実績から、出題のポイントを確認しましょう。

起算日の要件(令和元年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「1ヵ月単位の変形労働時間制により労働者に労働させる場合にはその期間の起算日を定める必要があるが、その期間を1ヵ月とする場合は、毎月 1 日から月末までの暦月による。」

回答:×

起算日について、「その期間を1ヵ月とする場合は、毎月1日から月末までの暦月」という規定はありません。あくまで、起算日を明らかにするのみで足ります。

変形期間における労働時間の定め(平成18年労基法)

以下の選択肢について、正誤を判別する問題です。

「労働基準法第32条の2に規定するいわゆる1ヵ月単位の変形労働時間制については、当該変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間(44時間)の範囲内である限り、使用者は、当該変形期間の途中において、業務の都合によって任意に労働時間を変更することができる。」

回答:×

あらかじめ定めた変形期間における各日、各週の労働時間について、変形期間の途中で、使用者が業務上の都合等により任意に労働時間を変更することはできません。

まとめ

  • 1ヵ月単位の変形労働時間制は、一定の要件を満たすことを前提に法定労働時間の枠組みに柔軟性を持たせることのできる制度です
  • 1ヵ月単位の変形労働時間制は、労使協定や就業規則に所定の定めを規定することによって導入できます
  • 1ヵ月単位の変形労働時間制には対象期間に係る上限時間の設定がありますが、時間外労働を考える上ではこの上限時間の枠内に収まっていれば良いというわけではなく、日ごと、週ごとに発生する時間外労働にも注意が必要です
  • 社労士試験に登場する1ヵ月単位の変形労働時間制関連の出題は、「導入・運用ルール」についてのものがほとんどです
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

「そうだったのか!」という驚きや嬉しさを積み重ねましょう
【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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