社労士試験・労災保険法「業務災害」とは?通勤災害との違いや保険給付の種類

「業務災害」は、社労士試験労災保険法では出題頻度の高いテーマのひとつであるため、特に重点を置いて取り組む必要があります。

ひと口に「業務災害」といっても、業務災害の定義や通勤災害との違い、保険給付の種類等、おさえるべきポイントは多岐に渡ります。

労災保険法を苦手とする社労士受験生は少なくありませんが、複雑な「業務災害」がネックになっていることも珍しくありません。

ここでは、社労士試験頻出の「業務災害」について、その定義と保険給付の概要についてざっくり理解しましょう。

目次

社労士試験労災法のキーワード「業務災害」

業務災害とは、文字通り、「業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡」のことです。

労働者が仕事中にケガをした、業務で扱っていた薬品が原因で病気になってしまった等、総じて「業務を行っているときに」「業務に起因する原因によって」傷病を負うことや死亡することを指します。

労働者が業務災害に遭った場合には、労災保険から保険給付が行われます。

業務災害の判断基準は「業務遂行性」「業務起因性」

前述の通り、業務災害に該当するか否かは、労働者の負傷や疾病、障害、死亡が「業務を行っているときに(業務遂行性)」「業務に起因する原因によって(業務起因性)」生じたものかどうかで判断されます。

社労士試験対策上、業務災害の「業務遂行性」「業務起因性」のキーワードは特に重要ですので、定義も含めておさえておきましょう。

業務遂行性

労働者が労働契約に基づいて事業主の支配管理下にある状態であること。

事業主の支配・管理下で業務に従事している場合の他、事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合や事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合にも業務遂行性が認められる場合があります。

石川労働局のホームページにて分かりやすく解説されているので、参考にしてみてください。

参考:石川労働局「業務災害とは(業務上の負傷について)」

業務起因性

業務と傷病等の間に一定の因果関係が認められること。

仕事中の負傷の場合は業務起因性が明らかですが、疾病について業務との因果関係が曖昧であるケースは少なくありません。

一般的に、労働者に発症した疾病については、次の3要件を満たす場合、「業務起因性あり」として業務との因果関係が認められるのが原則です。

- 労働の場に有害因子が存在していること

- 健康障害を起こしうるほどの有害因子にばく露したこと

- 発症の経過及び病態が、有害因子の物質、ばく露条件等からみて医学的に妥当と認められること

参考:厚生労働省「業務災害とは」

業務災害と通勤災害は何が違う?

社労士試験では「業務災害」と「通勤災害」の違いについてよく出題されるので、試験対策上、正しく区別して覚えておく必要があります。

業務災害も通勤災害も労働災害の一種であり、労災適用の対象となります。

また、業務災害と通勤災害のいずれの場合においても、労災保険から支給される給付内容にほとんど変わりはありません。

ただし、災害に係る事業主の責任、労働者の負担義務等について、業務災害か通勤災害かで異なる点がいくつかあります。

社労士試験対策上覚えておくべきは、以下2つのポイントです。


✓ 通勤災害は業務災害と異なり、「待機期間(3日間)の休業補償義務」「死傷病報告書の提出義務」「解雇制限」の対象外とされます

✓ 療養にあたり「200円の自己負担金」があります(休業給付からの控除)

社労士試験頻出!業務災害の保険給付

業務災害に遭った労働者は、労災保険給付の対象となります。

労災保険給付は社労士試験で頻繁に出題されるテーマですが、それぞれの給付内容を混同しやすいので注意が必要です。

療養補償給付

業務災害が原因で負傷したり病気にかかったりした労働者には、療養補償給付が支給されます。

療養給付は現物給付が原則で、療養した医療機関が労災保険指定医療機関に直接支払われます。

このため、労働者は自己負担額なく、治療を受けたり薬の支給を受けたりできます。

ただし、労災保険指定医療機関以外で受診した場合、労働者が一旦療養費を立て替え、後日労働基準監督署に直接請求することで現金給付を受けます。

なお、療養補償給付は治癒するまで行われますが、ここで言う「治癒」とは必ずしも完治のみを指すのではなく、「症状固定(症状が安定し、これ以上医療行為を行っても効果が期待できない状態)」も含まれます。

療養補償給付は、通勤災害の場合、療養給付といわれます。

通勤災害の場合は療養に際して200円の自己負担額が生じ、これは休業給付から天引きされます。

休業補償給付

休業補償給付は、業務上の負傷・疾病の療養のため、仕事に就くことができなくなった従業員に対して支払われる補償です。

「療養しており労務不能なこと」「賃金支払がないこと」の支給要件に該当する場合、1日あたり「給付基礎日額(平均賃金)の60%」が支給されます。

ただし、一部労務可能と認められて就労し、賃金を受け取った場合には、休業補償給付の満額と賃金額との差額が支払われます。

なお、休業補償給付に加え、「休業特別支給金」として休業1日につき給付基礎日額(平均賃金)の20%相当額が支給されることも、社労士試験対策上おさえておきましょう。

休業補償給付が支給される期間は、休業開始後4日目から休業が終了するまで、もしくは傷病補償年金の受給に切り替わるまでとされています。

休業開始後3日目までは、労災保険法の定めに則り、事業主が休業補償を支払います。

休業補償給付は、通勤災害の場合、休業給付といわれます。

また、休業給付を受ける場合、事業主による休業開始後3日目までの休業補償は支給されません。

その他給付

労災保険給付には、療養補償給付と休業補償給付の他に、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金及び介護補償給付などの保険給付があります。

それぞれの要件や給付内容、支給期間等については、混同しないよう横断学習にも取り組みながら、正しく整理し、理解しておきましょう。

社労士試験では業務災害の「保険給付」が頻出

業務災害は、社労士試験科目の労災保険法上、頻出テーマのひとつです。

しかしながら、すべてを完璧に覚えようとすればかなり膨大な範囲を網羅する必要があることから、ポイントを踏まえた対策が必要になります。

業務災害分野として「保険給付」を中心に、「業務災害の定義」「適用関係」「時効」「通勤災害」の頻出項目をまんべんなくおさえることが肝心です。

まとめ

  • 業務災害は、社労士試験の労災保険法では出題頻度の高いテーマのひとつとされています
  • 業務災害は「業務上の事由による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡」のことで、「業務起因性」「業務遂行性」を満たす場合に認められます
  • 業務災害に被災した労働者は、労災保険給付の対象となります
  • 労災保険給付に、療養補償給付と休業補償給付の他に、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷病補償年金及び介護補償給付など多岐に渡ります
  • 社労士試験対策上、労災保険の各給付について、給付の要件や給付内容、支給期間等を中心に正しく区別して理解しておくことが大切です
この記事の監修者は
小野賢一(おの けんいち)

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【出身】北海道
【経歴】横浜国立大学大学院国際社会科学府修了。社会保険労務士、日商簿記2級等の資格を保有
【趣味】楽器演奏
【受験歴】2022年社労士試験初回受験、合格
【講師歴】2023年よりフォーサイト社労士講座講師スタート
【座右の銘】昨日から学び、今日を生き、明日へ期待しよう
フォーサイト公式講師X 小野賢一@社労士専任講師

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